募集終了2024.01.31

歴史と暮らしに寄り添いながら、まちの「これから」をリードする。

京都の長い歴史のなかで受け継がれてきた京町家。風情あるたたずまいが京都らしさを象徴する一方で、老朽化や後継者の不在などは喫緊の課題となっています。
近年では、年間およそ800件の京町家が取り壊されているという現状。このような、京都のまちの課題解決のために活動しているのが『京都市景観・まちづくりセンター(以下、センター)』です。

京都の暮らしに寄り添い、課題解決を推進する「まちづくりコーディネーター」

まずは、専務理事を務める北川洋一(きたがわ・よういち)さんに、センターの取組についてお聞きします。

「まあ、コーヒーでも飲みよし」と、こだわりのドリップコーヒーを淹れてくださった北川さん。京都のまちで活動する多様な方との交流を目的とし、毎月1回、オフィスのある「ひと・まち交流館 京都」にてカフェ「The Base Mental Café」を主催されているのだそうです。

「センターは、1997年(平成9年)に設立され、以来一貫して地域住民主体のまちづくり活動の支援や、京町家の保全・再生に取り組んでいます。特徴的なのは立ち位置です。私たちは、行政と市民との架け橋になり、課題に応じた企業やNPO・大学・専門家たちを繋ぎあわせる役割を果たします。京都市とは異なる組織だからこその機動力が発揮できるのです」

今回募集するのは、「まちづくりコーディネーター」。京町家や景観の保全などに関する地域住民のお困りごとや要望に耳を傾け、問題の背景をしっかりと理解したうえで、行政が提供している制度の紹介や、企業や専門家などのパートナーに繋ぐことで、解決のお手伝いをする仕事です。

センターだからこそできる問題解決の方法について、北川さんはこう話します。

「例えば、Aさんが住まいに関する困りごとを抱えていたとします。センターとしては、その問題に詳しそうな人としてBさんやCさんが浮かびます。しかし、この二人には利害関係がある場合もあります。そんな時、間に入ってAさんの想いを伝え、問題に合わせた適切な関わり方を提案することで、本来だったら繋がらないような人たちが繋がり、各所が協力しながら、問題を解決に導くことができます。あらゆる人の間に立つ、通訳のような役割ですね」

これまで保全に関わった町家(提供:景観まちづくりセンター)

「まちづくりコーディネーター」は、京町家保全だけではなく、地域の景観や防災など京都の暮らしに関するさまざまな領域で活躍します。観光と絡めて語られることの多い京都の「景観」ですが、まちづくりを進める上での重要な視点でもあります。

「『景観』は本来、『観光のために形成していくもの』ではなく、『人々の暮らしの結果として生まれるもの』なんです」

ただ「古いもの」を守るだけでなく、時代とともに変化する環境や、人々の感覚、そこで暮らす住民の想いを汲み取って最善の選択を探ります。その時代を反映する人々の暮らし方が何重にも塗り重ねられたことで、京都の歴史的な景観が形成されてきました。そこに最前線でアプローチできることが、「まちづくりコーディネーター」の醍醐味なのだそう。

そんな「まちづくりコーディネーター」の仕事は、1年ごとに契約を更新する最大5年間の有期雇用。その後、一般職員(無期雇用)になるルートもありますが、ここの実務経験をいかしてあらゆる社会課題に取り組むことができる有能な人材を育成し、社会へ輩出することも、センターの役割の一つです。

「センターの強みは現場で住民・事業者・行政職員とコミュニケーションを重ねていくことで、実践的に仕事を身に着けていけることです。もちろん経験豊富な先輩スタッフがしっかりフォローします。今後のキャリアパスのための経験を積むこともできるし、入職時点ではビジョンがなくても、業務を通じて次に繋がる大きなステップを踏める場所だと思います」

実際に、センターの出身者は、京都市のまちづくりアドバイザー、NPO法人職員、行政職員、建築業界、大学教員、などに転職し、コーディネートのスキルや専門的な見識を活かして幅広く活躍しています。

北川さんは、特にどんな方と一緒に働きたいという思いを持っているのでしょうか?

「まちづくりの分野は初めてという方でも、社会課題の解決や、誰かの夢の実現に貢献することに高いモチベーションがある人はこの仕事に向いていると思います。それから、さまざまな立場の人の間で、解決の糸口を探していく仕事なので、聞く・考える・整理する・伝えるといったスキルを磨くことに前向きな人ですね」

センターとしては、住民の声を対面で引き出すことをとても大切にしていますが、この数年はオンラインツールも取り入れるなど、コミュニケーションの方法も変化させてきたそうです。

また、コーディネーターとして、さまざまな人の声を引き出し、人と人とを繋ぎ合わせるためには、客観的な視点が欠かせません。むしろ京都に縁が深くない、移住者のほうが外からの視点を活かしやすい場合もあります。

「京都には、町内会をはじめとした自治の文化が比較的残っていますが、世代交代が進む中で、地域づくりについても人々の関わり方が変わってきています。過去のやり方に囚われることなく、情報感度の高さや時代の変化に対応できる柔軟性も活かして、まちづくりに挑んでいただきたいです」

「京町家」に携わることで見えてきた、センターならではの価値

続いては、2022年からまちづくりコーディネーターとして京町家に関する業務を担当している、池村充代(いけむら・みつよ)さんにお話を伺います。池村さんは、京都移住計画で掲載した求人記事を見たのが、入職のきっかけだったそうです。

「京都の大学で建築について学んでいた時から、京町家に興味を持っていました。前職は工務店に勤務していたのですが、仕事で京町家に関わるのは初めてです。求人を見たとき、まちづくりコーディネーターは、京町家の専門家と一般の人を取り持つ面白そうな仕事だと感じたことを覚えています」

最大5年間と定められた有期雇用についても、池村さんはポジティブに捉えていたそうです。

「むしろ一年ごとの更新の有期雇用に惹かれて入りました。今後ずっと京町家のことだけを勉強したかったわけではないものの、現場で見てみたいという好奇心が大きく、まずは数年働いてみたいなという気持ちだったんです」

現在は、京町家の維持・継承に関する相談窓口「京町家なんでも相談」の主担当者として、窓口や電話で地域住民の京町家や住まいに関するお困りごとをヒアリングし、適切な専門家に繋いでいます。また、京町家の改修費⽤の助成事業「京町家まちづくりファンド」に関する寄附の促進や見学会の開催、「京町家等継承ネット」の事務局業務なども任されています。

見学会の様子(提供:景観まちづくりセンター)

相談を受けるなかで、嬉しい場面に巡り合うこともしばしば。

「『補修が必要な古い家で、取り壊すことも考えている』と相談があった方から、『古いだけの家だと思っていたので、まさかその古い家を求めている人がいるとは思わなかった!』と喜んでもらえたのが印象的でしたね」

また、学生時代に建築を学び、京町家への関心も大きかった池村さんにとって、京町家を含むさまざまな歴史的な建物・貴重な建築物を現場で見られることも、センターならではの嬉しいポイントだと話します。

一方、業務に携わるうちに、「個人の持ち物なので、周りがどれだけ残してほしいと思っていても、持ち主の経済的な余裕や継いでいく意志がないと、継承することは難しい」と、京都が直面する厳しい現実も、身をもって感じたと言います。

仕事のやりがいや喜びを感じながら、京町家を取り巻く課題も痛感してきた池村さんは、「センターは今が転換期だ」と考えているそうです。

「設立当初は、他に京町家や景観についての困りごとをヒアリングし、解決方法を提案できる場所がなかったため、場があること自体が価値だったと思います。今は良い意味で評価されているからこそ、新たな『センターならではの価値』が求められていると感じます。自分自身もその価値について考えていきたいと思いますし、新しく入られるかたも、ぜひ一緒に挑戦してもらいたいですね」

景観や防災の視点から「地域のまちづくり」に関わる

続いては、2015年からセンターに勤務し、現在は景観や防災など「地域のまちづくり」に関する業務を担当している池谷憲彦(いけや・のりひこ)さんにお話を聞きました。池谷さんは、京都で大学時代を過ごしたのち、人に喜ばれる仕事をしたいという想いからエンターテイメント業界に就職。その後プロの三味線奏者に転向し、舞台で10年以上活動していたという経歴の持ち主。舞台活動を引退後に地元浜松の観光まちづくりに関わった後で、京都のまちづくりセンターで働き始めました。

「観光まちづくりは来訪者を増やすことに重点が置かれがちだったので、もっと地域に密着したまちづくりに携わりたいと思い、まちづくりコーディネーターに応募しました。京都のまちづくりは、地域ごとに特色や関係者が異なります。私の担当する景観や防災については、学区や町内ごとの取組がメイン。地域の人が、自分のまちを良くしたい思いで取り組んでいる様子を見ると、刺激を受けますね」

景観・まちづくりでは、京町家の保全・継承だけにとどまらず、京都らしい景観を守りながら災害に強いまちにする防災の視点も重要だと言います。まちづくりコーディネーターは、それぞれの地域のまちづくり委員会や自主防災会等の会合に参加しながら、まちづくりの機運を継続して高められるよう、客観的な視点で提案を行います。

「京都ならではかはわかりませんが、隣接する学区がお互いに競いあって高めあう文化がありますね。まちづくりコーディネーターは多くの地域を横断して担当するので、私たちが他の地域の話を共有することで、『あっちがこんな取組をしてるんやったら、こっちはこんな工夫をしよう!』と切磋琢磨するようなきっかけになっているのを感じます」

最近は、自分たちの住む学区を舞台に、防災をテーマにしたボードゲームをつくった地域もあったのだそうです。

「楽しく遊びながら自分ごと化を促す防災やまちづくりの企画を子育て世代と一緒に取り組むことで、これからの京都をつくっていく子どもたちに、今暮らしているまちについて考えてもらう機会になれば嬉しいです」

有期雇用で入職ののちに一般職員となり、センターで8年間働いてきた池谷さんから見て、この仕事はどういった人におすすめでしょうか。

「まちはいろんな人や文化、歴史の背景や制度で成り立っているので、専門的なことはもちろん、いろんなことに目を配って興味を持てる勉強熱心な人におすすめしたいです。業務にあわせて、宅建などの資格にチャレンジすることもできます。謙虚で素直で、だけど自分の考えを伝えられるバランスも大事かなと思います。自分の主張ばかりで地域の声を受け入れられないと、よい進め方にはならないですもんね。そういった意味で、プロデュース能力を磨きたい人にもおすすめです」

まちづくりコーディネーターから広がる、さまざまなキャリア

最後は、まちづくりコーディネーターの経験を活かしながら京都内外でさまざまな「まちづくり」のあり方に携わった後、現在は京都美術工芸大学の教授として活躍する、生川慶一郎(なるかわ・けいいちろう)さんにお話を聞きます。

まずは、有期雇用という制限のなかで、どのようなキャリア形成を意識されていたのでしょうか。

「もともと、大学の先生になりたいという夢がありました。まちづくりコーディネーターの肩書きでいられるのは限られた期間だけだと危機感があったからこそ、得られたものが大きかったと思います。卒業後も色々な経験をしてきましたが、根底にはここで得た学びがあります」

地域住民の声を引き出すことや、さまざまな専門性を持つ人々とのネットワーク形成を行うこと、幅広い関係者との調整や支援の実践を通じて、あらゆるビジネスの場で活かせるスキルや経験が身につく、まちづくりコーディネーターの仕事。

生川さんは、三重県で政治家として立候補した友人の選挙活動サポートなどを経験されたのち、現場で動くことができる研究者という点が評価され、京都市住宅供給公社などで職を得られました。その後、現京都大学大学院特定研究員として築70年近くになる堀川団地を地域まちづくりの視点で再生させる研究に従事し、現在はかねてからの夢であった大学教授として働いています。

「現場での経験を通じて、『自分の意見を出すことではなく、公平なファシリテーターであること』を大切にすることを学びました」

まちづくりコーディネーターとしての経験から、大学でも「教える」より、学生が自分たちで体感しながら学べるような「場を提供する」ということを重視しているのだそう。

「まちづくりコーディネーターの仕事は、 研究者や大学教授を目指す方にとっても、私の実体験からおすすめできます。京都市との協働事業が多いため、市のデータなどから学べることもありますし、実地で経験を積める貴重な機会だと思います。今は、学生さんもまちづくりに興味を持つ人が多いです。これからの潮流を考えると、家づくりだけの建築士ではなく、不動産の知識を得ながら、まちづくりまで考えた建築に興味があるという人にもおすすめしたいです。すでに京都で暮らしている方も、移住を考えている方も、ワクワクして面白そうと感じるのであればぜひ飛び込んでみてください!」

まちづくりコーディネーターの仕事は、京都の「コミュニティ」を形づくってきた京町家を守りながら、地域と共にこれからのまちについて考え、実行していくものです。そのため、京都で暮らすあらゆる人との意見交換で求められる「話す力」と「傾聴する力」、それからニュースレターや成果報告、多様な関係者への情報共有といった場面も多いため、「文章を書くのが好きな人、苦でない人に向いている」とみなさんが口を揃えておっしゃっていたことも印象的でした。

まちづくりコーディネーターは、人と人とをコミュニケーションで繋ぎ、共に解決策を模索し、リードしていく、まちのファシリテーターであり旗振り役。未来の京都のまちを最前線で切り開く、唯一無二の仕事に挑戦してみませんか?

編集:北川 由依
執筆:弓削 智恵美
撮影:岡安 いつ美

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