2025.03.14

理想の暮らし、奥京都で始めました。サポート体制が充実の福知山市地域おこし協力隊

地方移住の選択肢の1つとして、収入がある状態で移住ができる地域おこし協力隊に興味を持つ人は少なくありません。2009年度から始まった地域おこし協力隊制度は、全国で7,200人以上の隊員を生み出してきました。

着任した隊員は都市部から地方へと移住し、町おこし・村おこしのための活動を行います。その活動の範囲は受け入れる自治体によってさまざま。隊員としての活動が、任期終了後の起業につながるケースもあります。

隊員が思う存分活動し、地域を活気づけていくためには、受け入れ側との相互理解が欠かせません。また、任期終了後の定住に向けた支援も必要です。京都府北部に位置する福知山市は、こういった面でのミスマッチを防ぐための取り組みを導入し、サポート体制を整えています。

地域おこし協力隊員へのサポートとして行われている取り組みとは?現役隊員はどのようなミッションを持って地域の活性化に取り組んでいるのか?福知山市で地域おこし協力隊員として働く魅力に迫ります。

移住先として注目が集まる福知山市

人口約7万5千人の福知山市は、16世紀には明智光秀が福智山城(後の福知山城)を築き城下町として栄えた、北近畿の中核都市です。「ほどよく街で、ほどよく田舎」というキャッチコピーの通り、市の中心部には生活に必要な施設が集まる一方で、少し車を走らせると自然豊かな環境が広がります。

コロナ禍でテレワークが一般的になり、人々の暮らし方に対する価値観も多様化する昨今、地方に移住して自己実現したいと考える人が全国的に増えてきました。福知山市も、京都市や大阪・神戸まで約1時間半で行けるアクセスの良さから、移住先や二拠点生活の拠点として注目が集まっています。

そんな福知山市では、2024年度、5年ぶりに隊員の募集を再開しました。募集再開に至ったのは、人口減少や高齢化が課題となりつつある中で、移住者の力を借りて地域に新しい風を吹かせ、持続可能な地域づくりにつなげたいという想いからでした。

福知山市では2015年から2021年までに6人の隊員が活動し、万願寺甘とうの活用や丹波漆の振興などに取り組んできました。しかし、コロナ禍では十分に活動ができないため、新たな隊員の募集をストップしていたのです。

地域おこし協力隊制度は、地方移住を検討する人々の間で人気が高まっています。その一方で、隊員と受入団体や地域住民とのミスマッチや、行政からのサポート不足が全国的な問題となっているのも事実です。

福知山市では、こうした問題が起こるのを防ぎ、隊員が活動しやすい環境をつくるため、他の自治体へのヒアリングや総務省の地域おこし協力隊アドバイザーを招いての勉強会をもとに隊員へのサポート体制を強化。その上で、2024年4月に募集を再開しました。

そこで着任した隊員が、岩尾美咲(いわお・みさき)さん、髙橋恭子(たかはし・きょうこ)さん、飯室幸世(いいむろ・こうせい)さんの3名です。福知山市では、地域活動を行う受入団体の活動のステップアップのために隊員を採用しており、3人はそれぞれの受入団体とともに活動を行っています。

左から岩尾美咲さん、髙橋恭子さん、飯室幸世さん

ミスマッチを防ぐため、コミュニケーションの機会を増やす

過去の隊員6人のうち、現在も定住しているのは1人。その定着率の低さについて、福知山市役所の担当者である田倉(たくら)さんは「受入団体と隊員とのミスマッチやコミュニケーション不足が一番大きな課題だった」と振り返ります。

田倉さん

隊員のやりたいことや思っていることと、地域が求めていることがちゃんと噛み合っていないと、その先の定着率にもつながりません。行政としても、着任後の進捗管理やフォロー、定住に向けた支援が不十分だったのではないかと感じています。

地域振興部 まちづくり推進課 移住定住促進係に所属する田倉さん

田倉さん

そういった課題を解消し、受入団体と隊員とのミスマッチを防ぐために2024年から始めたのが、隊員希望者向けの「地域おこし協力隊体験会」です。岩尾さんは体験会にも来てくださっていましたよね。

岩尾さん

移住や地域おこし協力隊の情報を集めるために行ったイベントで、福知山市の担当者から「体験会をやるんですよ」と聞いて参加しました。体験会は1泊2日で、今年度募集を行った3つの受入団体の活動場所を訪問して受入団体の方々とお話し、募集企画書の文面だけでは分からない団体の雰囲気や、人の熱量を間近で感じられたので、参加して良かったです。

横浜市出身の岩尾美咲さん。服の型紙を作るパタンナーとして仕事をしてきた

田倉さん

応募前に受入団体や福知山市のことを知りたいと思っても、1人で現地に飛び込むのは難しいもの。体験会を通して、どういった団体がどんな想いで隊員を必要とされているのか、といった生の声を直接聞いていただければ、ミスマッチを防ぐことにもつながるのではないかと思います。

その他にも福知山市では、近隣で隊員の支援をされている団体の方を講師として、隊員としてのマインドセットを身につけたり、隊員・受入団体・行政とのコミュニケーション方法を学んだりする研修を行っています。着任後も定期的に隊員・受入団体・市で3者ミーティングを実施するなど、ミスマッチや隊員の孤立を防ぐためのさまざまな取り組みを取り入れてきました。

以前の受け入れ時には行われていなかったこれらの取り組みは、他市の事例も参考にしつつ、再募集に向けてより良い制度運用に向けて庁内でもアイデアを出し合い、導入を決めたのだそう。任期終了後の仕事や住居に関する支援にも今後取り組んでいきたいとのことで、隊員への期待度の高さがうかがえます。

それぞれの視点で感じた福知山の魅力

現役隊員の3名は、どのようにして福知山市のことを知り、地域おこし協力隊員への応募を決めたのでしょうか。

髙橋さん

子どもが大学に入って手が離れるのをきっかけに、自分の第2の人生について本格的に考え出したときに偶然知ったのが、福知山市の地域おこし協力隊員の募集でした。「飼っている猫と一緒に自給自足の生活がしたい」と考えていて、福知山市の環境ならその生活ができると思ったんです。福知山市内には知り合いがいますし、子どもがいる向日市には1時間くらいで行き来できるので安心です。これはやるしかないだろう、と応募を決めました。

大阪市出身の髙橋さん。理想の生活ができる地域を探す中で出会ったのが福知山だった

岩尾さん

私は両親が福知山市出身で、小さい時からよく来ていました。当時からなんとなく「私は都会よりも田舎の方が向いている」と感じていて、いつかは福知山市へ移住したいと思っていたんです。ただ、おばあちゃんの家があるとはいえ、知らない土地に飛び込むのは勇気が必要です。だからこそ、地域おこし協力隊制度を使って移住できないかなと考えていました。
新卒のタイミングはコロナ禍で募集がストップしていたので、他の地域の募集情報も見ていました。でも、やっぱり福知山市がいいなとモヤモヤしていて……。前の仕事を辞めるタイミングで福知山市が募集を再開することを知り、やるなら今だと思って応募しました。

飯室さん

2年前から旧川合小学校の校舎に絵を描くプロジェクトに参加していて、現在の活動エリアである三和町には何度か来ていました。隊員に応募しようと思ったのは、ちょうど大学を卒業・就職するタイミングで、関わってきた地域での募集があると知ったからです。

横浜市出身の飯室さんは、今春、京都市内の大学を卒業予定

地域に溶け込み、ミッションを持って活動する

各々の視点から福知山市に魅力を感じて隊員となった3名は、異なるミッションを持って活動しています。

岩尾さんは、大江町河守上地域で“半農半X”の新しいライフスタイルづくりと、地域コミュニティの維持活動を行う地域活動の仲間づくり。髙橋さんは、中六人部地域でのファーマーズマルシェの運営。飯室さんは、三和町川合地域の旧川合小学校を拠点とした廃校活用プロジェクトを通して、都市部と農村の交流を広げる仕掛けづくりが、それぞれの主なミッションです。

こうしたミッションのもとでの働き方や福知山市での暮らしについて、3名はどう感じているのでしょうか。

岩尾さん

私のいる大江町河守上地域では、いくつかの集落が集まって「みすずの村」として活動しています。観光資源もたくさんありますし、盛り上がっていく可能性を秘めた地域だと思うのですが、若い人がおらず元気がないのが大きな課題です。その中で、高齢化の進む地域同士をつなぎ直して、みんなで頑張ろうよ、と盛り上げていくのが私の役目なのかなと感じています。

「チームみすず」のみなさんと活動の相談をする岩尾さん(写真提供:福知山市)

髙橋さん

以前、広島で10年ほど農業のお手伝いをしていたことがあるので、ファーマーズマルシェや農業を通した地域活性化は、一番しっくりくるというかやってみたいなと思えることでした。まずはそこでしっかりと成果を出しつつ、地域の方々からいただく「あれも、これもやってほしい!」という声を実現させていく必要があると思っています。

活動地域への愛を語る髙橋さん(写真提供:福知山市)

「もともとは星が綺麗に見える場所で暮らしたかった」と話す髙橋さん。お住まいの近くにある旧上六人部小学校まで行くと、とても綺麗な星空が見えるのだそうです。

髙橋さん

六人部は魅力がたくさん詰まった地域です。星も見えるし、中六人部には「THE 610 BASE(ムトベース)」という廃校活用施設があって若い人が集まります。下六人部には福知山温泉まであるんです。まだ暮らし始めて数か月ですが、ここに骨をうずめようかなという気持ちになってきました(笑)。

飯室さん

僕はまだ大学を卒業していないので、それほどしっかり福知山で活動できていないのですが、三和はやっぱり自然が豊かで空気も綺麗だし、とても良いところです。受入団体の方も歓迎してくださって、こちらの意見も柔軟に聞いてくださるので、とても活動しやすいですね。

旧川合小学校の校舎。飯室さんもプロジェクトに参加し、絵を描いた(写真提供:福知山市)

定期的な3者ミーティングで方向性を確かめ合う

現役隊員の3名は、時にはめざすべきゴールを見つめ直しながら、地域に溶け込んで各々のミッションに取り組んでいます。「こうしてスムーズに活動が進んでいるのは、受入団体と隊員の間でしっかりコミュニケーションを取ってくださっている証」と田倉さんは話します。

福知山市では、任期中のフォローをしっかり行うため、隊員一人一人に市の担当者が付きます。着任後には月1回のミーティングを実施し、受入団体・隊員・市担当者の3者で話し合いをしています。ミッションの進捗状況確認だけでなく、ミッションに関係のない話も含めて困りごとや不安がないかをたずねるするなど、何でも話せる場をつくっているのだそうです。

この3者ミーティングは、以前は行われていなかった取り組みの1つ。隊員の皆さんに感想を伺うと、「市の担当者も含めて3者で話せるのが良い」という声が上がりました。

飯室さん

団体と隊員だけだと言いづらいことも、行政の方がいることで伝えやすくなります。自分の想いやできることと、団体側がやってほしいと考えていることを明確にして、めざすゴールを共有できるので、良い場だなと思います。

高橋さん

行政の方がいる前で話すことによって「これは行政として認められない」「これはどんどんやってください」と意見をもらえるので、間違った方向に行かなくなるのもありがたいですね。

チームみすず発足準備委員会で活動する岩尾さんは、ミーティングの場で団体側の考えを改めて聞くことができて嬉しかった、と振り返ります。

岩尾さん

チームみすずの皆さんは、やりたいことがありすぎて何から手を付けていいか分からない状態なのだと思います。その中で、私はまず組織作りをやるべきなんだろうなと考えるようになりました。こうやって私の立ち位置が見えてきたのは、ミーティングの場でお互いに意見を出し合えたからだと思います。

経験とアイデアをもとに、地域を盛り上げていく

地域おこし協力隊の任期は、最長3年。現役隊員の3名は、任期中にどのような活動を行うのでしょうか。皆さんが思い描く未来について伺うと、具体的なアイデアを語ってくださいました。

飯室さん

福知山市への移住者が増えてきているといっても、市内全体で見れば人口が減っているのも事実です。それを踏まえて、僕の3年後のゴールは「人が集まる状態を作り出すこと」なのかなと思っています。外の人に参加してもらうのはもちろん、地元の人たちも置き去りにせずに、一緒に学校を中心とした輪を広げていけたらと考えています。

「大学で服飾デザインを学んで木工や樹脂、皮革を扱ってきた経験を活かして、レザークラフトなどのワークショップを開きたい」と話す飯室さん。市内で皮革加工を行っている方と話し合ったり、受入団体にも企画について話したりして、思い浮かんだアイデアを形にするために行動を始めているのだとか。

ファーマーズマルシェの運営を行う髙橋さんも、ワークショップを通して人を集めたいという想いがあるのだそう。

髙橋さん

マルシェで販売できる野菜が少なくなってしまう冬場に、手芸やモノづくりが得意な方が商品を出してくださっているんです。その方々とワークショップをして、そこにも人が集まるようになったらいいなと考えています。

髙橋さん

ファーマーズマルシェの「なかろくマルシェ」という名前を広めていって、「〇〇さんの野菜がおいしいから、なかろくマルシェに買いに行こう」と言ってくださるファンを増やしていく必要があると思っています。

着任からまだ数か月しか経っていないとは思えないほど、すっかり地域の一員として馴染んで活動されている髙橋さん。中六人部で活動する中で困ったことはありますかと尋ねると、「ありません!」と即答でした。「受入団体の方々がいつも気にかけてくださるので、毎日楽しく仕事をさせていただいていますよ」と笑顔で話します。

「地域の方々がやりたいと思っていることが、今やっとつかめるようになってきた」と話す岩尾さんは、こう続けます。

岩尾さん

今年度はフリーマーケットを実施して、来年度はコミュニティスペースカフェを開きたいと思っています。地元の住民や、お祭りやイベントの手伝いに来てくれる関係住民くらいの人たちが気軽に集まれるような場所が、今のチームみすずには必要だと感じるんです。

お話を伺っていると、アイデアがどんどん湧いてくる岩尾さん。「高齢化で解散した婦人会や、20代~30代の若者が集まるアンダー35の会を開きたい。ミニシアターでの映画上映もやりたい」とたくさんのアイデアを話してくださいました。

岩尾さん

本音を言えば、チームみすずにもう1人隊員が来てくれたら嬉しいですね。やりたいことも、やらなければならないこともたくさんあって、とにかく手が足りないんです。それでも小さなことから始めていって、地域のやる気や元気を掘り起こしていけたらと思っています。

隊員の個性が福知山市の新しい風になる

最後に、地域おこし協力隊にご興味をお持ちの方に向けて、メッセージをいただきました。

飯室さん

福知山市の人は、人口が減って活気がなくなってきている現状をどうにかしよう、と行動されている方が多い印象です。そのおかげで隊員としての活動も行いやすいです。アクティブに活動して地域活性化に貢献したいという想いがある方なら、福知山はとてもおすすめできる場所だと思います。

髙橋さん

地域の文化に興味がある方や、地域の方々と一致団結して活動していきたいという気持ちがあれば、福知山市の協力隊はとてもやりがいを感じられる仕事になると思います。福知山の人は皆さん本当に温かくて、ちょっとした悩みも自分事のように捉えてくださる方ばかり。私たちのように他の地域から来た人でも、温かく受け入れてくれます。今後入られる隊員さんも一緒に、みんなで福知山を盛り上げていきたいですね。

岩尾さん

私たち隊員の個性と、受入団体や地域の個性が掛け合わさることで、それぞれの良さや特色が際立っているような感覚があるんです。なので、次の隊員さんもまた違う個性や特色のある人が来てくださったら、一段と楽しくなりそうだなと思っています。

田倉さん

隊員の皆さんは、地域に新しい風を吹かせてくださるような方だと思っています。そんな隊員さんの姿を見てまちの魅力を知ってもらえたり、福知山に関わる方が1人でも多く増えたりしたら、私たち行政としても嬉しいですね。

岩尾さん・髙橋さん・飯室さんの挑戦はまだまだ始まったばかり。それでも、地域のことやこれからの活動について話す3名の真剣な眼差しは、地域の未来を明るく見つめているように感じました。

福知山市で行われている隊員支援の取り組みの中心にあるのは、「隊員さんに気持ちよく活動してほしい」という温かい想い。受入団体と隊員のミスマッチや、行政からのサポート不足が全国的な問題として挙げられる中、現役隊員の皆さんが笑顔で地域の未来を語ってくださるのは、その想いが実を結んだ証なのではないでしょうか。

今後も福知山市では隊員の採用を続けていく予定です。次回募集があった際には、あなたの個性とエネルギーを地域に注ぎ込んで、福知山市の未来に新しい風を吹かせてみませんか?

お知らせ

京都府福知山市の公式note「noteふくちやま」と移住促進ウェブサイト「FUKUFUKU LIFE」で、福知山の活動や移住者インタビューをご紹介しています。今後、地域おこし協力隊の募集情報も移住促進ウェブサイト「FUKUFUKU LIFE」に掲載予定ですので、合わせてご覧ください。

noteふくちやま
移住促進ウェブサイト「FUKUFUKU LIFE」

執筆:鶴留 彩花
撮影:小黒 恵太朗
編集:北川 由依

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