2026.03.31

まち全体が実証実験フィールド。最先端技術が飛び交うサイエンスパーク・KRPの可能性

約59,000㎡の敷地に18棟が建ち並ぶ、一大ビジネス拠点「京都リサーチパーク地区(通称:KRP)」。510組織6,000人が集うこの場所は、いわば一つの「まち」です。今、この「まち」をフィールドに、新しい技術やサービスの開発に向けた実証実験が次々と行われています。

今回は、実証実験のサポートを担当する京都リサーチパーク株式会社事業推進部の日笠はる菜さんと、KRPで実証実験を行っているスズキ株式会社(以下、スズキ)の杉村嘉秋さん、京都大学農学研究科助教の坂部綾香先生の3人に、実証実験フィールドとしてのKRPの魅力や可能性、今後の展望についてお話を伺います。

幅広いニーズに応える、地区内の多彩な環境

KRPでは、企業・団体に対する実証実験フィールドの提供を、2025年1月から本格的にスタートしました。実際にはその数年前から、実証実験の事例が増えつつあったと、事業推進部の日笠さんは説明します。

日笠

2021年頃から、「KRPで実証実験を行いたい」というお声をいただく機会が少しずつ増えていて。KRPは、オフィスやラボ、店舗、緑豊かな屋外共用スペースなど、多彩な環境を備えているため、実証実験との親和性が高いんです。そこで、多様なニーズに応えられる受け入れ体制を整えたら、もっとたくさんの方に喜んでいただけるのではないかと、2025年から本格始動しました。

日笠はる菜

京都リサーチパーク株式会社事業推進部
2020年に京都リサーチパーク株式会社に入社。ブランド企画部と経営企画部で広報や経営数値管理等を約5年間担当。現在は事業推進部のCS推進チームにて、入居企業の日々のサポートのほか、企業や研究機関等の実証実験の支援を担当。KRP地区内における実験環境の整備や関係者調整等、実証実験の円滑な推進に取り組むとともに、各実証実験のPRに注力している。

実証実験フィールドの提供は、「京都からの新ビジネス・新産業の創出に貢献する」というKRPのミッションの達成につながると話す日笠さん。さらに、KRPの「サイエンスパークとしての魅力」も高まるのではないかと期待を込めます。

日笠

KRPは全国初の民間運営によるサイエンスパークとして1989年に開設されました。でも現在のKRPを外から見ると、ビジネス拠点としての印象が強いかもしれません。たくさんのモビリティやロボットが動いているなど、実証実験で最先端の技術が飛び交っている景色が実現できれば、KRPの「サイエンスパークらしさ」もより訴求できるのではないかと思っています。

2025年に株式会社写真化学が地下駐車場で行った、ARマーカーによる屋内位置測位システムの実証実験の様子

KRPは、地区内の多彩な環境を実証フィールドとして無償提供するほか、情報発信やパートナー探索といったサポートも積極的に行います。例えば、KRPが保有する広報媒体で実証実験のPR支援をしたり、地区内の510組織6,000人の中から、実証実験のモニター募集やビジネスマッチングの支援をしたりすることも可能です。また、Daigasグループである京都リサーチパーク株式会社が地区全体を管理・運営しているため、柔軟かつ迅速な対応ができる点も強みです。こうしたサポート体制のもと、2025年1月の本格始動から現在までに、すでに10件以上の事例が生まれています。

日笠

特にモビリティやインフラシステムに関する事例が多く、未来の私たちの生活を変えるかもしれない技術の始まりに携わることができるのは、すごく光栄ですね。例えば、地区内に入居している株式会社ピューズさまは、インターンシッププログラムの一環として、1人乗り小型モビリティの社会実装に向けた実証実験を実施されました。「6,000人が集うKRPだからこそ、年齢・性別・体型などが異なるさまざまな属性の方に試乗してもらえた」と喜んでいただき、入居企業さまをサポートできたことをうれしく感じました。

株式会社ピューズの実証実験の様子。計42名が試乗し、アンケートやインタビューに協力しました(写真提供:京都リサーチパーク株式会社)
京都市とウォ-タースタンド株式会社による給水器設置の実証実験について説明する日笠さん

いずれはKRPを「シン・スマートシティ」に

ここからは、KRPを実証実験フィールドとして活用している方たちにもお話を伺います。1人目は、スズキ株式会社の杉村嘉秋さんです。次世代モビリティサービス本部、モビリティ連携基盤開発部の部長を務める杉村さんは、KRP地区内でインフラ管制型自動走行システムの実証実験を行っています。

杉村

近年、SDV(Software Defined Vehicle、ソフトウェア定義車両)が次世代自動車として注目を集めています。SDVは「車が主役」ですが、私たちは「街や空間が主役」となる新しいモビリティサービスを提供できないかと、2024年にプロジェクトを立ち上げました。これまでは非公開で開発や実証実験を行ってきましたが、2025年12月の「国際ロボット展」でついに初披露することができました。

杉村嘉秋

スズキ株式会社
大学院修了後、自動車部品メーカーにて車載エレクトロニクス製品の開発に従事。 2020年にスズキ株式会社に入社し、四輪電子プラットフォーム開発部長を務めた後、現在は次世代モビリティサービス本部 モビリティ連携基盤開発部長として、次世代モビリティインフラの事業開発を推進している。

スズキ モビリティ連携基盤開発部は「人がモビリティをコントロールする時代から、空間が最適にモビリティ群をコントロールする時代へ」をテーマに、リーズナブルに提供できる自動走行モビリティの実現を目指して、インフラ管制型の自動走行システムを開発しています。

2025年には、KRP西地区にあるガスビルの地下駐車場で、インフラ管制型の自動走行システムのデモンストレーション評価を実施。また、10号館2階にはLiDAR(ライダー)と呼ばれるセンサーを設置し、今後の技術開発のためにデータを収集しています。

KRPに設置されているLiDAR。レーザー光の反射光を観測し、対象物の距離や性質を計測しています

杉村

現在は10号館横の駐車場のデータを収集していますが、いずれはもっと範囲を広げて地区全体のデータを集め、そのデータをもとに自動走行だけでなくさまざまな機能を提供できるシステムを開発していきたいと考えています。私たちのシステムは、空間データ基盤であるので、自動走行だけでなく適用施設の改善や運営、サービス向上に活用できます。例えば、人流や交通量の把握や予測、物流の効率化、域内警備など、多くの可能性を秘めているんです。

新たな機能を開発・実装し、「いずれはKRPを『シン・スマートシティ』にしたい」と意気込む杉村さん。スズキの本社は静岡県浜松市ですが、京都にあるKRPとはどのようにして出会ったのでしょうか。

杉村

きっかけは、私たちとモビリティ連携基盤の技術開発を共同で実施している芝浦工業大学の新熊亮一教授です。新熊先生は2022年頃からKRPで自律走行型ロボットの実証実験を行っておられて、私たちにKRPを紹介してくださったんです。自動車であれば、スズキのテストコースで性能評価を行えるのですが、インフラ管制型自動走行システムはインフラ側に認知・判断機能があるので、評価を行う場所は実際の「まち」である方が良い。だから評価場所探しにはずっと苦労していました。

オフィスや店舗、屋内外のスペースなど多様な環境があり、多くの人たちが集うKRPは、実証実験を行う「まち」として最適だと杉村さんは笑顔で語ります。さらに、KRPの実証実験フィールドとしての魅力について、このように話してくれました。

杉村

KRPは、場所を使用させていただく上での条件や制約が少ない。ご相談をすると前向きに検討し、いろいろな提案をしてくださるので、とてもありがたいですね。また、京都という土地も魅力的です。京都には多くの大学があり、学生や研究者がたくさんいるので、産学連携もさらに推進していきたいと考えています。

温室効果ガスを測定し、温暖化対策に活用

KRPは企業だけでなく大学の実証実験フィールドとしても活用されています。ここからは、KRPで2024年から実証実験を実施している京都大学農学研究科助教の坂部綾香先生にもお話を伺います。

坂部

私が専門とする森林水文学(しんりんすいもんがく)は、森林の水循環や物質循環を研究する学問です。森林には、温暖化抑止・大気浄化・気候緩和・水質浄化といったさまざまな機能が期待されていますが、温暖化抑止には人為起源の排出量の削減が必要です。そこで、近年は森林だけでなく、温室効果ガスの放出源である都市に着目して研究を進めています。

坂部綾香

京都大学農学研究科助教
2015年、京都大学農学研究科博士課程修了。博士(農学)。京都大学生存圏研究所ミッション専攻研究員、日本学術振興会特別研究員(PD)、京都大学白眉センター特定助教を経て、2023年より現職。森林における水や炭素の循環を調べる野外観測を基に、森林の諸機能が発揮されるメカニズムを解明する研究に取り組んでいる。近年は、水圏や都市といった多様な生態系を対象に物質循環の研究に取り組んでいる。

ヨーロッパでは、都市部で温室効果ガス排出量が測定され、そのデータが温暖化対策に活用されています。一方、日本はまだデータ測定自体があまり進んでいないため、坂部先生が観測場所を探していたところ、KRPに出会ったそうです。

坂部

私たちは測定する機器やノウハウは持っているのですが、なかなか設置許可が下りなくて。だから、杉村さんが実証実験の場所探しに苦労されたというお話に、思わず頷いてしまいました。私がKRPと出会ったのは、「生化学実験や細胞培養実験等の実験を行うウェット系のレンタルラボを新設する」というリリースを見たのがきっかけでした。「こんな施設があるんだ」と知って調べてみたところ、私たちが求めている環境にぴったりだったんです。

広範囲の温室効果ガス排出量を測るには、測定高度が必要になるため、京都市中心部で高いビルを探していた坂部先生。京都駅から近く、かつ交通量の多い五条通に面した建物を有するKRPは、実証実験の場として最適だとにこやかに話します。

10号館屋上に設置中の「風速計一体型ガス分析計測器」(写真提供:京都リサーチパーク株式会社)

坂部

「ウェット系ラボではないんですけど」とメールで問い合わせをしたら、KRPの事業推進部の方たちが話を聞いてくださり、地区内への設置を許可してくれました。「周りに風を阻害するものがない」など、測定のための条件をお伝えすると、「じゃあ10号館の屋上はどうですか」と提案してくれて、設置にも立ち会ってくださって。研究に対する理解があり、理想的な測定環境で、しかも電源がある。奇跡的にいい場所に出会えたなと思います。


この言葉を聞いて、「電源がなくてバッテリーだけだと、連続したデータが取れないんですよね」と頷く杉村さん。すると、「おかげさまで欠測なく安定したデータが取れています」と坂部先生が笑顔で応じます。共感し合う2人の姿から、実証実験に適した場所を見つけるのがいかに難しいかが伝わってきます。

坂部先生がKRPで行う実証実験は2024年10月にスタートし、最初の1年間は二酸化炭素の排出量をメインに測定。今後はメタンなど、他の物質の測定も計画しています。

坂部

ヨーロッパで測定データが温暖化対策に活用されているように、やはり「量にするとアクションにつながる」と考えています。大阪公立大学にも都市からの温室効果ガス排出量を測定している先生がいらっしゃるので、そうやって各都市でデータ収集・分析が進んでいけば、環境への配慮を示す一つの指標として、都市計画・デザインやスマートシティの推進にも活用していけるのではないでしょうか。

新しい技術やサービスが生まれ続ける場所

坂部先生のお話を聞いた杉村さんは、「実は自分たちのプロジェクトでも、何らかの環境指標を活用できないかと考えていた」と話します。

杉村

我々のシステムは、必ず環境負荷の低減につながると思っていて。例えば、本システムを使って物流効率化を図り、トラックの待機時間を減らすことができれば、温室効果ガスやエネルギー使用量の削減になりますよね。だから、施策前と施策後のデータを比較できるような指標があればと思っていたんです。ぜひ一度ご相談させてください。

スズキと京都大学のそれぞれの事例について伺っているうちに、いつの間にかコラボレーションの可能性が見えてきました。KRPという実証実験フィールドがあることによって、こうして企業や大学がつながり、新たな連携が生まれていく兆しを感じ、期待が膨らみます。

杉村さんと坂部先生は、KRPでの実証実験を踏まえて、その先にどのような展望を描いているのでしょうか。

杉村

私たちのモビリティ連携基盤システムには、まだ見ぬ可能性が眠っています。KRPという「まち」で新たなニーズを発掘し、開発・実装、検証、フィードバックを繰り返して、価値を高めていきたいですね。KRPを、本システムに関心を持つ人たちに実際に見ていただくための「ショールーム」、かつ「未来の価値を掘り起こす場所」にしていけたらと思っています。

坂部

KRPで取得したデータをもとに、温室効果ガス排出量を効果的に削減する手段を考え、温暖化対策に向けた具体的な提言を行うことを目指しています。京都にはたくさんの大学があるので、みんなの知恵を結集して、研究成果を社会に還元していきたいですね。

目を輝かせて2人の言葉を聞いていた日笠さんは、実証実験フィールドとしてのKRPのこれからについて、こう話します。

日笠

企業や大学の方々から、夢のあるお話を日々たくさん伺って、とてもワクワクした気持ちです。実証実験の結果を踏まえて次のフェーズへと進んでいく様子も目の当たりにし、技術の発展をサポートできる喜びを実感しています。これからも受入件数をどんどん増やして、最先端の技術が飛び交うKRPの姿を描いていきたいと思います。

さらに、「規模や領域を問わず、実施企業・団体を広く募集しています。KRPでの実証実験に興味のある方は、まだ内容が固まっていなくても構いませんので、気軽にご相談ください」と付け加える日笠さん。実証実験フィールドとしての間口の広さや対応の柔軟さが、改めて感じられました。

現在もKRPでは、いくつもの実証実験を実施中。KRPのWebサイトでは、実証実験の事例がひと目でわかるエリアマップも公開しています。まだ世に出る前の新技術と出会えるサイエンスパーク・KRPに足を運び、ぜひその魅力を体感してみてください。

執筆:藤原 朋
撮影:中田 絢子
編集:北川 由依

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