2025.08.12

本をきっかけに生まれる、ゆるやかな縁。シェア型書店「こもれび書店」

CHECK IN

京都のおもしろい場所を訪ねる「場を巡る」シリーズ。人が集いハブとなるような場や京都移住計画メンバーがよく立ち寄る場をご紹介する連載コラム記事です。一つの場から生まれるさまざまな物語をお届けします。

誰もが本棚を借りて、小さな本屋の店主になれる。そんなシェア型書店は全国に広がりつつあります。今回ご紹介するのは、御所西にある「こもれび書店」。貸棚を中心に、独自の新刊・古書・雑貨などを扱うほか、喫茶スペースやギャラリー・イベントスペースも備えています。 

酒井陽香(さかい・はるか)さんは、夫の西岡圭司(にしおか・けいじ)さんとともに出版・編集の仕事をする傍ら、この書店を立ち上げました。2023年のオープンから2年が経ち、多くの本好きが集う場となっている「こもれび書店」。その魅力を知りたくて、お話を伺いました。

家族とも職場とも違う、本をきっかけに生まれる縁

もともとは、夫と共に民族学雑誌の編集の仕事をしていた酒井さん。2017年に夫婦で特定非営利活動法人「Knit-K(ニッケ)」を立ち上げ、出版・編集の業務を請け負いながら、2020年に自らの雑誌「K」を創刊します。

立場や分野を超えた、多様な情報を発信する雑誌「K」。現在は5号まで発行されている

「K」をより多くの人に知ってもらうため、奈良のシェア型書店に棚を借りたことで、貸棚の魅力を知ったといいます。

「家族や職場とはまた違った、本を介したつながりが生まれるのがいいなと思ったんです。こういう関係性を、社会学では“趣味縁(しゅみえん)”と呼ぶそうです」

ただ本を売り買いするだけではなく、本と人とのつながりが生まれる場をつくりたい。そんな思いから、2023年5月に自らシェア型書店をオープン。当初は、知り合いやクラウドファンディングの支援者が主な棚主でしたが、今では20代から90代まで、幅広い世代の本好きが集う場所になり、棚数も45棚から63棚へと増えました。

「最近、東京では出版社や作家さんが、サテライト的にシェア型書店へ出店するケースが増えていますが、ここは一般の方が多いですね。家族や友人と一緒に棚を借りる方もいれば、『定期的に京都へ通うから』と出店する東京在住の棚主さんもいます。これだけ棚の数があるのに、置いてある本がほとんど被らないのが面白いです」

自ら制作した冊子を販売する人も増えている

ゆるやかに広がる輪

さまざまな本好きが集まるこの場所では、どのようにしてつながりが生まれているのでしょうか。

「イベントがきっかけになることが多いですね。今、店内で『あそぼ楽器コレクション展』という展示を棚主さんが開催していて、その方はヴァイオリニストなんです。先日、展示の関連イベントとしてライブをやって盛り上がりましたよ」

そう話す酒井さんの後ろにはたくさんの民族楽器が。店内はイベントスペースとして使われることもあり、毎月イベントが開催されています。

2025年6月27日~7月8日に開催された『あそぼ楽器コレクション展』の様子

「あとは棚の整理をしているときに、棚主さん同士が偶然出会ったり、SNSを通じて自然につながったり。直接顔を合わせていなくても、ゆるやかに輪が広がっているのを感じます」

棚主や常連がエッセイや詩を寄稿してつくる雑誌「あすなろ」も発行している

ただし、常連だけが集う場にはしたくないと酒井さんは話します。

「就職をきっかけに京都に来て、まったく知り合いがいなかったけれども、ここでつながりができたという方もいらっしゃるんです。そんなふうに、はじめましての人も常連さんも、本をきっかけにゆるやかにつながれる場所になればいいなと思っています」

喫茶スペースではドリンクやスイーツを楽しめるほか、読書会を開くこともできる

本とコーヒーを持って、御所へでかけてみて

兵庫県出身の酒井さんは、京都でお店を営む中で、このまちの魅力についてどのように感じているのでしょうか。

「京都はまちの規模がちょうどいいんです。全体がコンパクトで、自転車があればどこへでも行けるし、誰かと知り合うとその間に共通の知り合いがいて。コミュニティの密度が高いなと感じます」

「特に御所西は落ち着いた雰囲気で、気に入っています。店を出すとき、店名の“こもれび”にちなんで、緑のそばにある場所を探していたんですが、ここは御所のすぐ近くだからぴったりだと思って」

お店周辺のおすすめスポットとして、酒井さんは京都府庁旧本館と京都御所を挙げてくれました。

「実は昔、府庁内で働いていたことがあって。旧本館の中庭に円山公園の孫桜があるんですが、それを眺めながらよくランチをしていました。あとはやはり御所ですよね。子どもが小さい頃はよく遊びに行きました。よかったら本とコーヒーを持って、御所までおでかけしてみてください」

休憩所であり、乗り換え地点のような場として

今年で2周年を迎えたこもれび書店。これからの展望についても、酒井さんに伺いました。

「もともと出版の仕事からスタートしているので、本をつくる人のお手伝いができたらいいなと思っています。企画や編集などつくる段階から、売るところまで一緒にできたらうれしいですね」

「あとはここが訪れる人にとって、大きな木の下のような、ひと休みできる場になれたらと思っています。本との出会いが、新しい体験や行動のきっかけになるといいなと思いますし、ちょっと疲れたなと思ったら戻ってきて、ここで本を読んで、ふたたび出かけていけるような……。そんな休憩所であり、乗り換え地点のような場所になれたらうれしいです」

「こもれび書店」
京都市上京区椹木町通烏丸西入養安町242-1 ROOST御所西2階
営業時間:月・火・金 11:00〜19:00
土・日・祝日 10:00〜18:00
定休日 水・木
※営業日時の変更はSNSにてご確認ください
HP:https://komorebibook.theshop.jp
X:https://x.com/knitk_edit
Instagram:https://www.instagram.com/komorebi_hon_hidamarido/

CHECK OUT

「数学の先生が棚を借りていたんですけど、並んでいたのは数学と関係のない本ばかりで」「この棚主さんは百人一首が好きで、60歳を過ぎて京都に移住されたんですよ」にこやかに棚主のことを話す酒井さん。その表情からは本棚の向こうにいる人の姿を、丁寧に見つめている姿勢がにじみでていました。
「本棚から人柄が見えてくるのが面白いし、逆にまったく見えてこないのも、それはそれで面白いんです」
そんな酒井さんのまなざしがあるからこそ、こもれび書店には人が集まり、自然に会話が生まれるのかもしれません。
ぜひ一つひとつ表情の異なる本棚を覗きに行ってみてください。きっとあなたにとっての休憩所になるはずです。

執筆:伊賀 朝代
編集:藤原 朋

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