人を支えるのは人しかいない いつでも誰もが安心して利用できる福祉サービスを
知的障害者に向けた小さな入所更生施設としてスタートし、2015年に創立50周年を迎えた南山城学園。様々な助けを必要とする人に「いつでも寄り添える存在でありたい」との思いで、障害のある方や高齢者のサポート、子育て支援など多方面にわたる事業を展開し続け、現在約600人の職員が1000人以上の利用者を支えています。
京都府城陽市・京都市を拠点に30ある事業所の一つ、障害者支援施設「魁(さきがけ)」施設長の日置貞義さんと、生活支援員のお二人に、仕事に対する思いや福祉の現場で求められる人物像について聞きました。
京都での出会いが人生の転機に
「もともと福祉の仕事をするつもりはありませんでした」。入社13年目、障害者支援施設「魁」の施設長を務める日置貞義さんは、南山城学園に入る前、愛知・名古屋の駅ビルで服を販売していました。
「23歳のとき、以前から憧れていた京都に移住しました。伝統織物を学ぶためですが、就職活動の一環でたまたま受けた南山城学園の面接で、福祉の経験がなくても活躍できると説得されました。それまでの福祉施設のイメージを覆すかっこいい施設の雰囲気や、障害のある利用者の方が画家になった話を聞き、大きな可能性を感じて入社を決めたのです」。
日置さんが入った2000年代は、南山城学園が介護事業に参入したころ。創立以来、障害のある方の様々なニーズに応え続け、介護事業のスタートにより、知的障害のあるなしに関わらず、幅広い年齢層に対応できる施設が整った時期でした。
そんななか、日置さんはデイサービスの現場で経験を積みます。2004年からは、京都府と厚生労働省の委託を受けて開設された障害者就業・生活支援センター「はぴねす」で、8年間、相談員を務めました。「職業安定所などと連携しながら障害者の就業や職業訓練のあっせんなどの相談に乗るなか、多くを学びました」と振り返ります。
高齢化社会に社会福祉法人が果たす役割
食事や入浴など生活全般を365日ケアする「居住支援」、デイサービスや通所リハビリテーションなど日中をサポートする「通所支援」、在宅の方の相談に対応する「相談支援」、2015年からは「子育て支援」として保育事業にも乗り出しました。
地域社会の多様なニーズに応え続け、現在は「ネクストビジョン2025」という経営方針のもとで事業を展開しています。ネクストビジョン2025とは、創立50周年を機に実施した調査などを踏まえて策定され、長期ビジョン2025と中期経営計画2020で構成されています。
理事長の磯彰格(いそ あきただ)さんは、全国社会福祉法人経営者協議会の会長を務め、国会の参考人として福祉関連の法律関する助言をしました。同時に、今後ますます深刻化する少子高齢時代に、重要となる福祉職を担う人材育成と確保のため、社会福祉法人自らがコミュニティの活性化や福祉教育を推進していく方針を掲げています。「いつの時代も人を支えるのは人」。それが南山城学園のモットーなのです。
そんな南山城学園には、20代後半~30代の若手職員が現場の主力として働く一方、50代、60代のパート職員も活躍しています。現場で求められる人物像について、日置さんは「まずチームワークを大切にできる人」と言います。
「南山城学園の事業は多岐にわたり、職種も多様。専門性は入ってからでも身に付けられますが、それ以上にみんなで楽しく働きたいと思う気持ちが必要です。現場ではチームで動くことが多いため、困ったことがあったらすぐに先輩や上司に相談したり、積極的にコミュニケーションをとってほしいですね」
明るい雰囲気にひかれて
現在、職員の中には、福祉分野の経験や知識がない人もたくさん働いています。
障害者支援施設「魁」の生活支援員として働く、入社2年目の万殿文香さんは、静岡県出身。母親の故郷でなじみのあった京都の大学で哲学を学びました。卒業後の就職先を南山城学園に決めたのは、「明るく親しみやすい雰囲気にひかれたから」と万殿さん。「初めて訪れた時、障害のある利用者の方から、どこから来たの!?と元気に声をかけられたのが印象的だった」と言います。
万殿さんが、今一番やりがいを感じる仕事は、利用者の皆さんとの“作業”の時間。地元企業などと雇用契約を結び、障害のある方に就労支援の場を提供する「魁」では、他法人の老人ホームの洗濯業務や縫い合わせ、ネジの組み立てなどが日課です。「すでに何年も働く利用者さんの仕事は職人の域。就労スキルを身に付け地域で自立していくためにがんばっています」と、万殿さんも毎日作業場に立ち、彼らをサポートしています。
作業場での事故や服薬支援など「人の命を預かっている」と感じる場面に遭遇し、緊張することもあるそうですが、利用者からの「ありがとう」の言葉にパワーをもらっています。
会社のためではなく人のために
万殿さんの職場から車で約40分、伏見区にある障害者支援施設「輝(かがやき)」には、入社1年目の生活支援員、藤林大地さんが働いています。
京都で生まれ育ち、大学では歴史を学びましたが、卒業後の進路に福祉の道を選んだのは、家族の影響が大きいようです。「母は保育士、父は障害者支援施設の生活支援員として働き、幼い頃から障害のある方と接する機会が身近にありました。企業の営業職の内定ももらいましたが、会社のためではなく、人のために働きたくてここに来ました」。
「輝」は、高齢期を迎えた人や介護を必要とする人の日中活動を含めた生活全般をサポートする施設です。現在藤林さんは、主に3人の男性を担当しています。食事や入浴のほか、牛乳パックのリサイクルなど、利用する方それぞれの能力・得意分野に応じた「日中活動」をサポートしています。
「目が悪くて視野が狭くなってしまう人、自傷行為を繰り返す人など、心配は絶えませんが、外出する機会を増やすなど一人一人に合ったケアを見つけていくことで、笑顔が増えることがあります。南山城学園への入所が精神的な安定につながり、家族から喜びの声を聞いたときは、何より嬉しかった」と、藤林さんは言います。
若手職員を中心に構成される「GAKUEN魅力発信チーム」の活動にも参加し、動画の撮影や広報誌の作成にも携わっています。「福祉の現場について発信することで職場の魅力を客観的に捉えられるようになった」と、通常業務以外の役割も積極的に担っています。スタッフ向け研修の企画や実施などにも力を入れ、内外の多様な人とかかわれる環境が日々の支援にも活かされています。
求めるのは「チームワークを大切にできる人」
「障害があっても誰もが末長く自分らしく生きられるようサポートしたい」。このような思いを持つ万殿さんや藤林さんのようなスタッフが、日々成長し続けられるよう、南山城学園では人材育成に力を入れています。2013年には京都府初の「きょうと福祉人材育成認証制度」の認証事業者に選ばれ、勤務年数に応じた研修プログラムを実施。介護福祉士受験対策講座などの資格取得を応援する講座も開催し、職員のキャリアアップを応援しています。
また、おしゃれな建物や広々とした空間が特徴の南山城学園は、福祉のマイナスイメージを払拭し、「良い人材を多方面から掘り起こしたい」との強い信念があります。日置さんは「既存の福祉の枠にとらわれず、音楽や芸術、ITなどそれぞれの知識や経験、得意分野を生かし、各自の“いいもの”をどんどん出してほしい。そして、多様性のある職場を一緒につくっていきましょう」と語ります。