募集終了2021.09.09

今日の仕事の先に、1000年後の未来がある。面白いチームで、日本のものづくりを世界へ

大原の地で産声をあげたものづくり

特殊なフィルムを機械にはさんで、転写したいデザイン型に機械で圧をかける。すると熱が加えられ、あっという間にデザインが紙の上に映し出される。映し出されたデザインは、触れても擦っても取れない。これが「箔押し」と呼ばれる技術。あまり馴染みがないようにも思えますが、化粧品ブランドの容器やパッケージ、自動車のエンブレム、食品包装のラベルなど、実は私たちの身近な場面で見ることができます。

今回ご紹介するのは、この箔押しの原料「顔料箔」と呼ばれるフィルム状のインクを製造している「関西巻取箔工業株式会社(以下、KANMAKI )」。創業は1952年。西陣織に使われる金糸をつくるための製箔技術をルーツに、 顔料箔の製造をはじめました。 

創業者の久保竹夫さんは、金糸加工の材料を応用し日本初の転写箔(フィルム)を開発。現在の技術の基礎をつくりました。それまで手で一枚一枚、金箔を紙に貼っていたものを、金属粉と顔料を混ぜたインクをシート状にして機械で印刷できるようにした、と言うとわかりやすいでしょうか。この画期的な方法は、本の表紙への箔押しやテキスタイル生地のロゴなどに利用されるようになります。

京都・大原の地に創業して半世紀にわたり、日本の印刷業界を支えてきたKANMAKI 。これまで培ったものづくりのノウハウ、細かな調色技術などをもって、国内だけでなく、海外へも市場を伸ばしています。また、現在は地球環境への負荷が少ない商品開発、働きやすい環境づくりなどに注力しています。

「みんなのアイデアや技術力を上げていけば、もっと市場も広げていける。こんなに可能性があるものづくりって、実はそんなに多くないんじゃないでしょうか」

そう話すのは、取締役の久保昇平(くぼしょうへい)さん。2012年に家業であるKANMAKIの取締役に就任し、多様な価値観をもった人が集うチームづくりを目指しています。独自の視点でヒト・コトを見る久保さんの「面白いチーム」とは、一体どんなものなのでしょうか。

箔をつけるシゴト

まずは、KANMAKIの仕事を詳しく知るため、社長の久保武久(くぼたけひさ)さんにお話を伺います。武久さんが先代の跡を継いだのは、30年前。日本の高度成長を経て、KANMAKIの技術や取引先にも大きな変化があったと言います。

「時代の移り変わりとともに、紙よりプラスチックの需要が増えていきました。当時は繊維メーカーの表示マーク、食品関係の製造年月日の印字などによく使われていましたね」

KANMAKIで製造するのは、顔料や接着剤が塗られたフィルム状のインク(顔料箔)。そこに約120度の熱が触れると、フィルム状になっているインクが溶ける。転写したいデザイン型に機械で圧をかけ、そのときに外気温で急激に冷やされたことでインクは固形に戻る。そのようにして転写されるという原理なのだそう。

赤いフィルムが、顔料や接着剤が塗られたフィルム状のインク(顔料箔)。
転写する機械にセットし、上からプレス。約120度の熱と圧を同時にかける。
外気温によって、インクが瞬時に冷やされ、転写が完成する。

「一般的に工業製品などに使われる油性インクとは違い、フィルムに色が着色されているので、色を調合する手間も、乾かす時間もいりません。摩擦や熱に耐性があるので、食品の製造年月日等の印字などに重宝されました」

しかし、大量生産・大量消費の時代は終わりを告げ、顔料箔は「業界内の知る人ぞ知る存在」となってしまいます。製造環境に関する規制強化や後継者不足により国内に多くあったメーカーも数多くが廃業。KANMAKIも時代に変化を迫られます。そこで起死回生を目指し、顔料箔の製造工程や働き方を見直すことに。その中心に立ったのが、取締役の昇平さんでした。

現場と距離を近づける

9年前までは、舞台演出家や雑貨を扱う仕事などをしていた昇平さん。家業を立て直したいという思いでKANMAKIに入社しますが、古参のスタッフからの風当たりは厳しいものでした。

「まだ会社のことが何もわかっていなかったので、自分ができることからはじめようと工場の掃除に取りかかりました。すると『ホコリがまうから出てけ』、営業に行ったら『遊びに行ってる』。周囲からの理解を得るために、どうしたら本気やと思ってもらえるのかを考えました」

昇平さんは、朝早くから夜遅くまで会社で働きながら、職人の動きを観察していました。すると、いい製品を作る人といい加減な製品を作る人の違いが見えてきました。

「当時『アンフェア』というドラマが流行ったんですが、刑事である主人公が死因を探るために、死体と同じところに寝転がっていたんです。それにヒントを得て、僕も職人と同じ場所から機械を見上げてみました。すると機械のどの部分を見て、商品の出来栄えを判断しているのかがわかるようになってきたんです」

毎朝玄関の掃除をしていると、安定した仕事をしている人は定刻に出勤しているなど、行動の特性も見えてきました。集中して商品と向き合える人、仕事の準備を前もって行える人。昇平さんは、自分の目で見た判断軸をもとに、共に仕事をできる人を選び、その人たちを中心とした新しい案件や開発に取り組みはじめます。

「職人たちはそれまで言われるまま、自分の作った製品が何に使われるのかも知らずに働いていたので、出口が見えなかったと思うんです。僕も幼い頃は、父の仕事が何かなんて興味をもっていなかったですし。だからスタッフには、自分の子どもに誇れる仕事をしてもらいたいと思いました」

そこで昇平さんは、自動車の仕事を取ることに力を注ぎます。自分たちの仕事の先が、世の中につながっていることを感じるために。自分の子どもに誇れる仕事をするために。新しく仕事をとるためには、これまでやってこなかったデータ管理や分析が必要でした。

そのため、職人一人ひとりに「自分たちのものづくりがどんな役割を果たすのか」を説明し、日報に毎日データをつけて欲しいと、協力を呼びかけました。その甲斐あって、大手自動車メーカーだけでなく、さらに細かなデータが必要とされる医療機器、ハイブランドの化粧品箱などの案件が決まり、多くの製品に採用されることが決まりました。

材料をオーダーに合わせて調合・調色します。

「今まで以上の精度を求めるために、現場の透明性を高めることを徹底しました。これまでの現場は、勘で物事を勧めたり、妙な仲間意識から失敗をかばい合う風潮があって。だから現場で失敗が起きても、絶対に責めないことを重要視したんです。一つ嘘が混じるだけで、真実はわかならなくなる。現場も同じ意識でいてくれないと、お客様に対して誠意のある対応を取れなくなってしまいます」

工場の掃除からはじまった、現場改革。昇平さんに苦言を呈していた人達は、定年で会社を去り、会社は新たな一歩を踏み出します。次第に、製造技術の精度や品質管理レベルが向上。「ISO9001」という商品やサービスの向上を目的とした国際規格の取得にもつながり、現在のKANMAKIのものづくりの基礎となっています。

未来のために環境問題に取り組む

さらにKANMAKIでは、印刷業界で問題になっている「VOC問題」にも取り組んでいます。VOCとは、塗料やインクに含まれる シンナーやアルコールなどの有機溶剤のこと。発ガン性物質として人体に影響を与える恐れがあるだけでなく、大気汚染、さらには引火すると爆発が起こる危険性があります。2015年には、中国・天津でずさんな管理下に置かれたインクに火が引火し爆発。街は大火災に見舞われました。

「事故が起きた中国をはじめ、世界的にもVOCの使用を制限する国が増えています。僕たちのつくる顔料箔は、有害なVOCを含む油性インクや接着剤を使わない着色方法。地球環境にやさしく、生産現場の安全性にも貢献できるため、これからもっと注目が集まると思います」

顔料箔専用のコーティング機械で、必要条件に合わせて調整し、塗工します。

こういった環境に配慮するのは、印刷業界の未来を明るくするため、そして世の中を作る大人として当然の義務だと昇平さんは捉えています。

「VOCだけでなく、今は脱プラスチックの時代。けれど僕らは石油由来のインクを使い、プラスチックのフィルムを使っています。リサイクルなど環境に最大限配慮していても、『プラスチックを扱う悪い仕事』というレッテルを貼られるかもしれない。でも、自分やスタッフの子どもたちに『親が環境に悪い仕事に携わっている』なんて思って欲しくないんです」

そういった小さな誤解を生まないように、顔料箔のワークショップや廃材を用いたアート作品展などを開催し、多くの人に顔料箔への正しい知識を広める機会を設けています。

「全部は急に変えられなくても、こういう取り組みによって人の理解は変わる。頑張って仕事しているのに、家族から仕事を理解されない状況をつくりたくない。努力が報われないのが、いやなんですよ」

子どもに背中を見せられる仕事を

昇平さんがこれまで行なってきた改革のポイントは、常に相手の立場に立つということにあるようです。職人の目線、働くスタッフの家族の目線、子どもたちの目線……と常に相手の目の高さに立ち物事に捉えています。

そういった昇平さん視野の広さに惹かれ、入社したのが船山朋子(ふなやまともこ)さんです。入社のきっかけは、ママ再就職フェアでKANMAKIに出会ったことから。

「夫の転勤で京都に来たばかりで、子どもも1歳。この先のキャリアを考えると、あまり間をあけずに仕事をスタートしたいなと思っていました。けれど母となってからは初めての転職活動。これまでのようにはいかないだろうなと不安を感じていました」

そこで船山さんは、ママ再就職フェアに参加。当日はベビーカーに子供を乗せて、参加したそうです。ブースにいたのは、昇平さん。熱意のこもった話にぐんぐん引き込まれ、結果的に他社は一切見ることなく、KANMAKIに応募することを決めました。

「最初は京都のものづくりということころに惹かれて。取締役から『新しい企画を一緒にしませんか?』と言われて、より一層興味がわきました。前職は飲食業界で企画や販促、広報をやっていたので、自分の経験を少しでも活かせたらなと思ったんです」

入社してからは、主に事務の仕事を担当。お客様からの受注の入力や伝票処理、お客様からきた加工指示を適切に職人へ伝えています。また、仕上がってきた商品を梱包して発送し、納品書を作成。製造以外の仕事を船山さんをはじめとする事務方が担っているのです。さらに船山さんは、前職で採用担当をしていた経験もあるため、昇平さんと一緒に採用活動も行っています。

「入社したばかりの頃は、職人も事務も世代交代で人がガラリと入れ替わるときでした。これを機に会社の体制を整えて行こうとしていたので、自分なりのやり方を模索して取り組めましたね。そういった業務の傍ら、ワークショップの企画や箔を使った商品のアイデア出しなどにも取り組んでます。発送業務をしながら事務方で、『このアイデアはどうかな?』と相談してるんですよ」

子育てをしながら、多岐にわたる仕事をこなすのは大変では?とお聞きすると、「とても働きやすいんですよ」と船山さん。KANMAKIでは個人の状況に合わせて産休・育休制度が取得できるなど、手厚いサポートが受けられるからだそうです。

「取締役にも2人のお子さんがいらっしゃるので、子どもの事情をよくわかってくださっているんです。急に子供が熱がでて休むことがあるけど、皆さんすごく理解してサポートしてくれるので、本当にみんなには感謝しかないです」

実は船山さんは入社してから第二子を出産。2020年6月まで育休に入っていました。コロナの影響で保育園に預けられないなどアクシデントがあったものの、育休期間を延長するなど周囲の理解も大きく、手厚いサポートが受けられたそう。

復帰後にも、時短での勤務体制に変更、有給を時間単位で取得できるなど、船山さんが働きやすい形を取締役が自らが提案してくれたのだとか。また、船山さん以外にも、男性社員が育休を取得したこともあるそうです。

子どもを持つ親にとって働きやすい環境づくりは、本来目指すべき形ではあるのですが、実行するのはなかなか難しい。ましてや少数精鋭の企業ではなおのこと。しかし昇平さんは「時代はじきにこうなるんですよ」と言います。

「うちが取り入れている週休3日制度も、産休・育休も、将来的には当たり前になると思います。それを否応なしにやるんじゃなくて、みんなより先に取り組むことでニュースになり、他社との差別化につながります。これを僕は広告宣伝費と捉えているんです。導入コストはかかりますが、そのためにみんなのアイデアと行動で利益を増やすことを考えてほしいと伝えています。頑張っているのに、家族や子どもに認められないという状況を生み出したくないんですよ」

自分のアイデアや行動が、未来と直結する

つづいてお話を伺ったのは、海外営業を担う武川弘樹(たけがわひろき)さん。昨年入社して以来、フルリモートで働いています。取材当日もリモートで参加。社長も昇平さんも新しい働き方の導入には意欲的なため、武川さんの状況と仕事内容をふまえたうえで、フルリモートで働くことが決まったのだそう。

取材も、京都市内にあるコワーキングスペースからzoomをつないで実施しました。

昨年までは静岡の大手物流会社で働いていた武川さん。国内で輸出の実務に携わったあと、東南アジアに駐在し、日系企業の輸出入をサポートする業務に携わっていました。帰国後は経営企画室に勤務し、会社のリブランディングを統括する仕事に。そのプロジェクトはメディアに掲載されるほど注目を集めました。

「たまたまそのメディアを取締役が見ていたそうで、連絡を頂きました。取締役は僕が学生時代に所属していたNPOのアドバイザーで、当時は就活について相談にのっていただくこともあって。初めは久しぶりに会いたいねという話だったのですが、僕はその頃、京都に戻って転職したいと考えていたんです。そこで取締役から、語学力、貿易の経験を活かしてKANMAKIの海外展開に取り組んでほしいというオファーをいただきました」

武川さんへのオファーは、KANMAKIがもっと海外展開に力を注いでいくため。つまり、KANMAKIの技術はもっと世界中の企業に必要とされる技術なんだと昇平さんは確信を持っています。

「顔料箔の市場は、日本はまだまだ小さいですが、世界では200億以上にもなっています。今、その9割をドイツの会社が持っている。けれど、彼らが対応していないニッチな要望に答えられるポジションとして、うちに開発案件がたくさんくるようになりました。新規案件では、一騎討ちの状態です」

現在では、自動車、医療、化粧品、家電、文具など、世界規模で展開するメーカーからも依頼がくるようになりました。

語学に長け、貿易の実務経験もある武川さんの入社により、さらに海外展開を加速したいと考えています。現在は東南アジアや中華圏、ヨーロッパなどのエリアを中心に、製品のパッケージを扱う商社や代理店へセールスメールを送り、アプローチを行っている真っ最中です。

大企業からの転職、仕事の仕方も働き方も違う中で、人によっては不安や戸惑いを感じる人もいるかもしれません。しかし、「カルチャーショックは大きかったけれど、楽しいことの方が多い」と武川さんは言います。

「大企業は大勢で仕事をするため、システム化されているし、上司への忖度もある。けれど今は、ゼロベースからの開拓を自分の采配で進めていけるので、非常にやりがいを感じていますね。自分が成果を出さなきゃ未来につながらないというプレッシャーもありますが」

「大きな会社は、ルールや上下関係が足かせになって、そこからはみ出ると、認めてもらえなということが多々ありました。でもKANMAKIでは、基本的に相談ベースで物事が進みます。意思決定のスピードが速く、大きなチャレンジにも取り組める。意思疎通ができる関係性があるので、とても働きやすいんです」

いつかは、「海外へ移住して仕事をしてみたい」と武川さんは話します。コロナが落ち着いたら、やはり現地の人と直接話して製品の良さを伝えたいという理由からです。京都のものづくりを世界に広めるために。そして自分らしく働くために。きっと、KANMAKIはそれを叶えられる企業なのではないでしょうか。

面白いチームをつくりたい

KANMAKIには、船山さんや武川さんのように多様なバックグラウンドを持ったユニークな人材が集っています。それは社長や昇平さんが口を揃えて言う、「面白いチームをつくりたい」という思いから。

「社長は面白いことが好きやし、僕は人と同じがいやなんです。時代との距離は見ながら、人と違うことをちょっと早くやること。リスクは大きいけど、それが楽しくて。技術を高めていい製品を作るのは当たり前だとして、どんな企業が面白いのかということを常に考えています」

京都市により「これからの1000年を紡ぐ企業」として認定された。

柔軟な考えを持つ経営者や、働きやすい制度。KAMAKIには多くの魅力がありますが、「誰でも合う」会社ではないと昇平さんは言います。KANMAKIが考える「面白いチーム」に必要なのはどんな人なのでしょう。

「一貫してブレていない人が、面白い人だと思います。世間的なものさしより、自分のやりたいことに没頭できるところに強みがあると思うんです。毎朝同じ時間に起きているとか、小さな頃からずっと集めているものがあるとか。どんな小さなことでもいいので、自分で決めて継続できること。その人の好きなことや習慣と、KANMAKIの仕事との接点を見つけてほしいですね」

昇平さんは、面白いチームづくりを進めるとともに、工場の仕事のAI化など、ものづくりの未来を進化させていきたいと考えています。

出来上がった顔料箔を、お客様の要望に合わせて裁断。

「就業時にデータ入力して、朝になったら商品ができているのが理想。これを僕らの会社の未来の姿にしようと、話し合っています。その手が空いたすきに、僕らはもっとクリエイティブなことに取り組んだり、海外とコミュニケーションをとる時間にしたい。デジタルを優位にしたいわけではなく、限られたリソースの中で効率がいい方を選びたい。ものを見た時に正しく判断し、問題解決できるのは人間の能力です。それを培うために、もっとものづくりの可能性を広げたいと思うんです。」

持続可能な社会の構築に貢献している企業として、京都市から「1000年を紡ぐ企業」に認定されたKANMAKI。そのことに触れると、昇平さんは「明日があって1000年後につながっているんですよ」と話してくれました。環境のこと、スタッフの未来のこと、この先を生きる子どもたちのこと。多くの価値観を許容しながら、未来へ向かって進んでいく。常にアップデートし続けるKANMAKIの活躍に、今後も目が離せません。

※本記事はBeyond Career事業にて受注・掲載した求人記事となります。Beyond Careerについてはこちら

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執筆:ミカミ ユカリ
撮影:清水 泰人

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