みなさんは「多能工」という言葉をご存知でしょうか。多能工とは、複数の技能や技術を持つ職人のこと。
今回ご紹介する「タナカテック」では、多能工である職人が1から10まで手作業で製缶加工や板金加工を行い、丁寧に製品を作りあげています。そしてその技術は、企業の製品を作る上で必要な装置や、スマートフォンの液晶など流通する商品の一部となり、見えないところで私たちの生活を支えてくれています。
創業から81年。長きにわたり、積み重ねてきた確かな技術。そして、その技術を生みだす職人の働く環境をより良いものにしようと挑み続けるタナカテックの取り組みをぜひ、みなさんにも知ってもらいたいと思います。
オーダーメイドの製缶・板金加工
京都市南区に本社・工場を構え、製缶・板金加工業を営むタナカテック。代表取締役の田中良明さん、取締役副社長の田中真輝さんの祖父が創業し、現在は約40名、20~70代の幅広い年齢層の方が働いています。
タナカテックでは、鉄やステンレスなどの金属を用いた製品を設計・加工・組み立て・納品まですべて自社で行います。そのため、依頼のほとんどがオーダーメイド。1つの工場の中で多種多様な製品を作るため、ロボットで大量生産することはできません。
「医療、車、電子機器などさまざまな会社の、多種多様な製品をオーダーメイドで作るため、金属の微妙な曲げ具合や力の入れ方など、職人さんの精巧な技術しかできない行程ばかりです。物は技術を覚えれば誰でも作れますが、さじ加減は職人さんにしかわからないんですよ」(良明さん)
さらに職人ほぼ全員が、スマートフォンの液晶のような小さなものから、40mになる大きなものまで、一人で製作できる高い技術を習得しています。こうした高い技術力を持つ職人が多くいることで、多種多様な製品を生みだしつづけることができるのです。
3Sの取り組み
それらがなぜ実現可能なのか。それは、タナカテックが職人が長く務めることができる環境づくりを大切にしているからです。その代表的な取り組みの一つが「3S」の実施です。
3Sとは、整理・整頓・清掃のこと。始業前と就業前に5分間、各自の持ち場を清掃。週末は15分間、普段ではできないところを徹底的に清掃します。33年前に始まって以来、全社員が行う重要な取り組みです。
私たちも工場を訪れた時、とても驚きました。従来の工場のイメージとは違い、工場内は明るくて見通しがよく、隅々まで整理整頓されていることが一目でわかります。そのため、京都府中小企業モデル工場に3期連続で指定された実績も。
「先代は、きつい・くさい・きたないという工場の環境を変えたいという想いがありました。3Sだけでなく工場の壁にイラストを設置したり、冷暖房を完備するなど、職人の働きやすい環境づくりに力を入れていました。3Sも最初は職人からの反発も大きかったようですが、次第に理解を示してくれたようです」(真輝さん)
3Sを徹底するためにチームが組まれ、チームリーダーは、20~30代の若手が中心に担います。リーダーは立場や年齢関係なく、3Sが滞りなく行われるため発言、行動することができます。「僕もリーダーから怒られることもありますよ」と苦笑いの真輝さん。
「仕事の上で、若手が年上の社員にものをいうのは難しい。でも3Sのチームリーダーとして発言することで、世代間を越えたコミュニケーションが生まれ、会社に活気が生まれてくるんですよ。また、次のタナカテックを担う次世代がリーダーになることで、会社の未来がつくられていくんだと思います」(真輝さん)
社会に貢献できる企業を目指して
良明さんと真輝さんは、先代・田中稔さんの息子であり、ご兄弟。先に入社したのは弟の真輝さんでした。
「最初は嫌々だったんですが、元々プラモデルなどものづくりは好きだったので、だんだんと面白くなってきて。ええやないかと思い出したのが、入社4年目の時ですね。僕が7年目を過ぎたところで、兄が入社してきました」
兄の良明さんは体調を崩し、前職を離職した折に、先代から声をかけられて入社を決めました。それまではものづくりに興味はなく、会社を継ごうという気持ちもなかったそうです。しかし、働きやすい環境づくりに取組む先代の姿を見て、他にない誇れる部分がここにはあると気づいたそう。
「先代は、社内環境を良くしようとするだけでなく、社会全体で働きやすい環境をつくろうと取組んでいました。そのうちの一つが、引きこもりなどで社会と接点が持てなくなった若者の就労支援です。体調や心の状態によって週に数回しか出社できないため、はじめは職人さんたちも受け入れに反発もあったようですが、今では教え方を工夫するなど、若者が成長する姿を応援してくれています。そういう多様な人を受け入れる土壌が、タナカテックにはあるんです」(良明さん)
さらに3Sの取り組みから派生して、「日本を美しくする会」にも所属。タナカテックは、京都支部の事務局を担っています。主に京都市内の提携する小中学校、老人ホーム、寺社仏閣などを回って清掃し、町の美化に勤めています。これらも先代からはじまった活動でしたが、今では真輝さんが引き継ぎ、活動を続けています。
「どんな人もタナカテックで働いてよかったなと思ってもらえるような環境を作りたいんです」と良明さん。会社の理念として掲げているのは、「社会に役立つ人づくり」。先代から引き継いだ、社会に対してどんな貢献ができるかということを軸にし、タナカテックは日々歩み続けています。
信頼関係のうえに成り立つ仕事
つづいてお話を伺ったのは、営業の藤枝耕司さん。藤枝さんの父が先代と知り合いだったため、24歳の時に入社。現在、16年目となります。入社時は営業を希望しましたが、最初に配属されたのは製造業務でした。
「はじめは自分は大学まで出て工場で勤務するのかと、仕事に抵抗があったんですよ。でも入ってみたら職人さんたちの技術力に驚き、勝手な思い込みがなくなりました。そのうちに道具も自前でそろえるぐらい、この仕事にはまっていったんですが、結局は営業に配属になってしまいました(笑)」
営業として新たなスタートをきることになった藤枝さん。タナカテックの営業は、お客様から製品のオーダーをいただき、納品までを管理することが仕事。金額の交渉、材料発注、現場への情報共有、スケジュール管理など、お客様と現場との間に立って製品の納品までを一括して管理する、いわゆるプロジェクトマネージャー的な役割を果たしています。
「基本的に仕事は、人と人の付き合いなんだと思っています。うまくいかないことが起こった時に、この人のためだから頑張ろう、この人なら何とかしてくれる、その信頼関係で仕事がうまくいくかどうかって決まると思うんですね。お客様、職人さんに対しても報告、連絡、相談を徹底して、信頼関係を築き上げていく。その信頼関係があるからこそ、困った時にみんなが助けてくれるんですよ」
職人へのリスペクト、自社製品への深い愛情がお客様へ伝わるからこそ、タナカテックは多くの人に頼りにされる企業でありつづけているのだと感じます。その証拠に国内外問わず、年間800人以上の工場見学の依頼を受けています。
設計に必要なのは現場との対話
タナカテックには営業、製造のほかに設計部門があります。その設計部門でCADオペレーターとして働いているのが、高尾里美さんです。福岡県北九州市の出身ですが、修学旅行の際に訪れた京都にずっと憧れをもっており、京都に移住しました。
「7年ほど前に、やっぱり京都に住みたいと移住を決めました。ちょうどその時、京都移住計画も見ていたんですよ。京都に来てからは、工場で製造の仕事や販売職、美術館の仕事など色々な仕事に就いていましたが、30歳になって、ちゃんとしないとなぁと思いはじめて。兄が設計の仕事をしてるので、その影響を受けて設計の仕事に就きたいなと考えるようになりました」
職業訓練校にてCADや製図の知識を学び、設計士としての道を歩み出した高尾さん。途中、技術の習得の難しさに、勉強を辞めて九州へ戻ろうかと迷ったこともありましたが、「やっぱり京都に住みたい」と踏みとどまりました。そんな時にタナカテックの求人を見つけ、今まで自分が培った知識を活かせるCADオペレーターという仕事に出会います。
CADオペレーターは、お客様から預かった図面をもとに、AutoCADで展開図を描く仕事。板金加工は一枚の板から組み立てて作られるため、職人はその展開図をもとに製品をつくります。お客様から預かる図面は二次元の線だけの図面なので、最初は製品の完成形がイメージできず、とても困ったそうです。
「図面を見てもどんな製品なのか、どんな形なのかわからず、展開図を描くのにひと苦労でした。だから図面の見方や溶接の方法など、分からないことは先輩や職人さんに聞いて少しずつコツを掴んでいきました。これは私の考えですが、図面を描くためには、人とのコミュニケーションが重要だと思うんです。コミュニケーションをとるから、記憶することができる。だからなるべく現場へ足を運び、職人さんと何度も話をしながら理解していくことを大切にしています」
次第に惹かれたものづくりの魅力
最後にお話を伺ったのは、水嶋博教さんです。水嶋さんは製造業務を担当する職人。しかし、入社した当初はCADオペレーターとして働いていました。
「僕は設計士になりたかったんですよ。最初はCADオペレーターとして就職したのですが、現場で勉強した方が後々設計にも役に立つということで、入社2年目から製造業務を担当することになりました。気づけば、そのまま13年。もう、設計に戻ることはないかな」
そう笑いながら話してくれた水嶋さんですが、最初はものづくりがあまり好きではなかったそう。しかし、営業の藤枝さん同様に技術を習得し、製品を制作できるようになった達成感やよろこびを感じるうちに、どんどんとものづくりの魅力に引き込まれていきました。
今回この記事で募集するのは、水嶋さんと一緒に現場でものづくりに携わる製造スタッフ。製造現場ではどのように技術を習得するのでしょうか。
「まずは道具の名前や片付け方からですね。その後、機械の使い方や技術をベテランの職人さんのもとについて教わります。僕らは多能工なんで、1つの技術を覚えたら終わりではありません。いくつもの機械を使い、鉄やステンレスを切断、加工するなどいくつもの作業工程を覚えるのに、早くて3年ぐらいかかります。ほとんどがオーダーメイドなので、毎回違う技法を用いるんです。経験を積んでも、積んでも、勉強することがたくさんあるんですよ。僕もまだまだですね」
職人といえば「背中を見て覚える」という印象がまだまだ強い世界ですが、タナカテックではベテランの技術をしっかりと継承していく土壌ができているそうです。
「うちには先々代から勤める70代の職人さんもいます。その方たちも自分たちの技術を継承したいと思ってくれているので、分からないことや迷ったことはどんどん先輩に聞いて、技術の幅を増やしてほしいですね」
ものづくりへの関心が薄かった水嶋さんも、いつしかその魅力にとりつかれ、職人としての道を歩む毎日を送っています。だからこそ、ものづくりをやりたいという気持ちがなかったとしても、少しでも興味をもった人には、この世界に足を踏み込んでもらえたらと願っています。
「できなかったことができるようになったとか、自分が関わった商品がきれいにできたとか、褒められたとか、単純にそういうことの連続でちょっとずつものづくりが好きになっていく。1から10まで自分が関わった製品に対して自然と思いがこもり、仕事に対する責任感も生まれてきます」
好きかどうか、向いているかどうかは関係ない。ただひたすらに技術を覚えようと前を向いていれば、きっとこの仕事は好きになれる、そう水嶋さんは教えてくれました。
ものづくりの確かな技術をもつタナカテック。過去の経歴も年齢も性別も関係なく、お客様により良い製品を届けたいという同じ思いのもと、日々技術を磨いています。先輩職人の技術に触れ、働く人を大切にする会社の風土の中で働くうちに、仕事も、働く人たちのこともどんどんと好きになって、気づけば勤続十数年。それはタナカテックだからこそ、なんだと思います。
この記事を読んで、少しでも興味を持ったならぜひ応募してみてください。今まで隠れていたあなたのものづくりの才能が、開花するかもしれません。
本記事はBeyond Career事業にて受注・掲載した求人記事となります。Beyond Careerについてはこちら
執筆:ミカミ ユカリ
撮影:岡安 いつ美