募集終了2016.08.13

食と暮らしをつなぐ。カフェまちの未来をつくる仕事(前編)

京都市内から車で約1時間半。京都府北部に位置する舞鶴市中心部で、今、何やら楽しげなプロジェクトが始まろうとしています。

その名も「kan,ma(カンマ)上安プロジェクト」。約1200坪の住宅跡地に、木造の住宅や宿泊棟、カフェなどををつくり、地域の人々が集う新しい場を生み出そうという計画です。今回の求人は、そんなkan,ma構想の核となる一軒家カフェでの「おもてなし」のお仕事。2017年夏に本格オープンを予定しているカフェには、どんな人が求められているのでしょうか。

今回は2回にわたり、kan,maの構想や舞鶴の魅力に迫ります。前半では、kan,maプロジェクトを立ち上げたお二人に、後半では舞鶴での暮らしを楽しむ皆さんに聞きました。

工務店が手掛ける“暮らし”づくり

日本には、鳶(とび)や大工、左官などの職人とともに、住宅建設を担う「工務店」という職場があります。「kan,ma(カンマ)上安プロジェクト」の発起人、大滝雄介さんは、昭和27年から続く京都・舞鶴の老舗企業「大滝工務店」の三代目社長。「これからの工務店が目指すべき姿は“暮らしづくり業”を担う存在」と、工事の請負業にとどまることなく、まちの新しい楽しみ方を自らつくり出そうとしています。

_DSC2428@0,75x舞鶴で生まれ育った大滝さんは、舞鶴の高校を卒業した後、千葉の大学に進学。卒業後は東京の大手企業でエンジニアとして働いていました。「地元のことなんて全然興味なかったし、好きではなかった」という大滝さんでしたが、25歳のときに、転機が訪れます。

「家業を継ぐ気は全くなかったのに、父親が倒れ、母親から『帰ってきてくれ』と何度も電話がかかってきました。東京での暮らしを捨てる気にはなれませんでしたが、自分にしかできない役割があるのならと、帰ることを決意しました」

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“社長の息子”として、久しぶりに舞鶴へ戻った大滝さんを待っていたのは、数億の借金。会社の存続が危ぶまれる中、社長不在の大滝工務店は、規律が乱れ、社員の心もすさんでいました。「業務をシステム化しよう」「もっと戦略的にやらないと」。東京で培った知見を生かそうと、目についたことをすぐに改善しようとするも、年上の社員たちからはまともに相手にしてもらえません。

「今思えば、“若造の遠吠え”。すごく孤独でした。でも創業者である亡きじっちゃんのことを知る従業員の思いや地域の中での工務店の役割を聞くうちに、うまくいかない原因は自分にあると気づいたのです。相手をしっかり理解せず、理屈ばかり振り回していたのは自分のほうでした。当たり前のことですが、それからは相手の気持ちを理解しながら発言するようになりました」

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悪戦苦闘の日々の中で、経営を学び、取締役に就任してから5年で借金をほぼ返済。社員たちとの信頼関係も築き、利益を生み出せるようになっていったと言います。

「ようやくやりたいことができるような状況になってきた」。そう思えるようになった頃、大滝さんは地元の飲み会で知り合った隣町の友人たちから絶大な影響を受けます。地元の食材をおもしろおかしく取り上げて祭をつくったり、廃校を利用してお化け屋敷のイベントを開くなど、内外の人を巻き込みながら老若男女が楽しそうに集っているのを見たからです。

「舞鶴にこんな楽しい暮らしがあるなんて!」  驚くと同時に「どんな街でも気持ち次第でいくらでも楽しくできる」と確信できたと言います。奇しくも、当時、工務店の仕事に精通し始めた大滝さんの中に、“家ありき”の暮らしではなく、地域の自然を取り入れながらもっと自由な発想で住まいやまちをつくれないかという気持ちが湧いていました。

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そして、大滝さん自身もまちづくりを担うようになり、2012年にまちづくりチーム「KOKIN」を設立。20代から50代の10人ほどのメンバーで立ち上げたこのプロジェクトは、「まちを楽しみ、発信する」をテーマに、西舞鶴にある町家を改修してワークショップや展示会を開くなど、昔ながらのまちの魅力を発信しています。

他方、舞鶴で結婚した奥さんとの間に子どもができ、2014年に一児の父となった大滝さん。「何もないと思っていた舞鶴には、海があって山があっておいしい食べ物がある」。子育てを通じて舞鶴の魅力に改めて気づき、それがkan,maのプロジェクトを生み出すきっかけになりました。

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kan,maは、大滝さんがこれまで続けてきたまちづくりの活動の延長上にあります。プロジェクトの舞台となる土地は、バブルの頃に大滝工務店が購入していた宅地、約1200坪。敷地内に10軒ほどの住宅を建て、各家から見える緑豊かな広場では、みんなでバーベキューをしたりお茶会を開いたり、住人が自分たちでつくりあげていく構想です。すでに数世帯の入居希望者がいるそうです。

住宅の隣に設置予定のオフィスには、“暮らしのコンシェルジュ”と呼ばれる大滝工務店の相談員が常駐し、住宅や暮らしに関する相談が気軽にできます。来訪者が舞鶴の暮らしを体験できる体感宿泊棟も建てる予定です。

そして今回、舞鶴内外から募るのが、そのオフィスに併設するカフェの店長です。

大滝さんは、「kan,maは、大滝工務店が家づくりだけでなく地域づくりを担う新しいステージに入るための一歩となるプロジェクト。出身や年齢、性別は問いませんが、カフェを運営しながら、地域の人が集う新しい場を生み出そうと自ら動いてくれる人を求めています。いつか『この町にkan,maがあって良かった』と言ってもらえるよう、プロジェクトを一緒に担ってくれる仲間を増やしたいのです」と語ります。

人の成長を支援する“世の中編集”

kan,maプロジェクトには、大滝さんのほかにもう一人、重要な人物がいます。団遊(だん・あそぶ)さん。京都生まれ、神奈川在住。kan,ma(カンマ)上安のカフェを運営する「株式会社小さな広場」の代表者で、落語家のようにユニークかつ的確な語り口で、目の前の相手を元気にするパワーにあふれています。

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団さんは現在、東京を拠点に4つの会社を運営しています。手がけてきた事業は、幼稚園教諭や保育士を目指す人のための就職支援フォーラムの開催、シェアオフィスや公民館の運営、はちみつや酒の企画販売、東北の復興支援プロジェクトのサポートなど、ジャンルや関わり方は多岐にわたります。

「でも軸にあるのは、人の成長を応援すること。物事の成功はまず人ありき。その姿勢はどのプロジェクトでも変わりません」

こう話す団さんには、実は苦い経験があります。大学を卒業後、東京でフリーランスのライターなど雑誌制作の仕事をしていましたが、27歳のときに起業。クリエイター集団「アソブロック株式会社」を設立し、上場を目指して、広告代理店の請負業などあらゆる仕事を手がけ、売り上げはぐんぐん伸びました。

他方、会社の成長とともに、団さんが次々に持ち帰る仕事を不満気にこなす社員が目立つようになります。

「社内の雰囲気がとても悪い時期があり、電話を切った後で電話の向こうにいたクライアントの悪口を言ったりする。サイテーだと思いましたが、その責任は私にあって、メンバーの成長を応援する志に欠けていたのです。そこから、一人一人の成長を後押ししてそれぞれが自立できる体制に変え、自分も居心地がよくなりました」

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そうした中、出版不況の波が押し寄せ、団さんは雑誌や媒体にこだわることなく、今まで培ってきた編集の能力を生かそうと、「世の中の編集」という仕事を開拓していきます。「人を応援する」を軸に、日本全国で地域活性化や場づくり、組織運営などあらゆるプロジェクトを手がけ、成長機会を生み出す仕組みをつくり出しました。

そして、成長の機会をより長く持続させるために、プロジェクトを事業へ、事業を会社へとステップアップさせるサポートをしてきました。

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舞鶴でまちづくりに挑む大滝さんとタッグを組んだのも、まさに「この人を応援したい」と強く感じたことが出発点になっています。

「過疎化が進む舞鶴には美しい海や山があって、自然とともにある暮らしを楽しむ人たちがいます。町を盛り上げようと奮闘する大滝さんのような若者を応援することで、地域に新たな価値を生み出したいのです」

団さんにとって、kan,maのような、人が集まる拠点づくりに携わるのは、実は初めてではありません。例えば、2010年に愛知県安城市で手がけたプロジェクトでは、建築会社が提案する新しいカタチの公民館「暮らしのお店」をプロデュース。

パン屋やレストラン、雑貨屋などが集まって一つの店をつくるライフスタイル提案型の複合店舗を完成させ、地域の人が集う場をつくりあげました。経営側の視点や人が集まることよりもシンボリックな建物の建設を主張する業者との間でぶつかったこともあったそうですが、作り手優先の建物ではなく、利用者の視点に立った施設の建設こそ団さんが目指すものでした。

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こうした団さんの経験を生かしつつ、kan,maのプロジェクトを長期的な成功につなげるためのイメージが固まりつつあります。平家カフェは面積20坪程度で、15〜20ほどの席数。キッチンと客席に加え、風呂や洗面、寝室の部屋を併設して貸切利用や宿泊もできるようにする。平日夜や休日はワークショップなどのイベントを実施して人が集まりやすい空間を演出。おもてなしのメニューは、舞鶴の新鮮な食材を使った定食中心のメニューで、営業はランチとカフェタイムのみ…。

建物の外観やカフェ内部の設計が決まる一方、大切なのは店頭に立つ人がどう店をつくり上げていくか。団さんは「カフェを運営するには、まず主体性と好奇心が必要。ただ“やりたい”という気持ちだけでは不十分で、“この店のことは任せて”と主張してきてくれるくらいの気概があると嬉しい」と言います。

他方、料理のメニューは愛知県名古屋市にあるカフェのオーナーが監修する予定。客人を喜ばせ、リピーターを増やす絶品料理を一から考える必要はなく、料理のスキルは、入社後に名古屋でしっかり教わることができます。

「それから、まず大滝が考えていることを“心根”で理解し、共有してほしいですね。カフェの運営や料理は未経験でもかまいませんが、オープンが迫るころには、カフェの中だけでなく、地産地消の食材を探し農家さんにあいさつまわりもできるくらい、地域との接点を持ってほしいです」

そして、何よりカフェでの仕事を軸に、舞鶴での生活を楽しむことが必須条件。住まいに関する選択肢は、アパートや空き家、シェアハウスなど複数あるそうで、地域の魅力を知り、人とかかわりながら、舞鶴での暮らしを謳歌できる人にこそ向いている仕事かもしれません。

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舞鶴の未来にむけて尽力する大滝さんと、それを全力で支える団さんのお話はいかがでしたか?

こんなユニークなメンバーたちと一緒に働く機会はまたとないチャンスかもしれません。まちをつくるのは人。人が面白ければまちもおもしろくなるはずです。そんな人や仕事に興味を持ってもらえたなら、是非一歩踏み出してみてください。

さて、後編では、そんな一歩踏み出す先にある舞鶴で暮らしを訪ねます。カフェ併設のオフィスで働く“暮らしのコンシェルジュ”や、大滝さんに舞鶴を楽しむきっかけを与えたまちづくりチーム「KOKIN」のメンバー、そしてパリから舞鶴に移り住んだファッションデザイナーなどの声をお届けします。もしかすると、舞鶴での暮らしや未来の新しい働き方・生き方が見えてくるかもしれません。

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