京都市と福井県小浜市の中間のあたりに位置する美山町。その名の通り、美しい山々に囲まれたこの地には、江戸時代に建てられた茅葺き屋根の家屋が多く残されています。
この地で美山牛乳などの特産品の製造や観光宿泊業などを通し、まちづくりを担うのが美山ふるさと株式会社。今回はその中の一事業である「総合観光施設美山町自然文化村(以下、美山町自然文化村)」で働く人を募集します。
美山町自然文化村には、宿泊施設「河鹿荘」やレストラン、オートキャンプ場などの施設があり、美山の自然、食、レジャーなどを存分に楽しむことができます。
募集するのは、宿泊や施設を利用されるお客さま対応を行う「フロントスタッフ」、主にレストランで活躍する「サービススタッフ」。どちらも特別なスキルは必要ありませんが、決められた仕事をこなすというより、自分で考えて臨機応変に対応することが求められます。
そして何より、美山の人やまちに関心を持って働けることが大切。伝統と自然を味わえる美山のまちで暮らし、働く。きっとここでしか体験できないことが待っているはずです。
地域発展のために自分のアイデアを活かせる仕事
「河鹿荘は、鹿の鳴き声に似ているカジカガエルが名前の由来なんですよ」。そう教えてくれたのは、河鹿荘の責任者である大野琢馬(たくま)さん。夏には、土色の見た目からは想像できないほどのきれいな鳴き声が、すぐそばの川から聞こえてくるのだそう。
もともと美山町の出身である大野さん。前職は、大阪でイベントの企画・制作に関わる企業で働いており、2009年に美山へUターンし美山ふるさとに入社しました。
「春先には田植えの風景があり、夏は川のせせらぎが聴こえ、秋になったら稲刈りの香りが風に乗って漂ってくる。冬は雪の積もる音まで聞こえる暮らしが、大人になってみると、改めて魅力的に感じました。四季を大切にする美山の暮らしや文化を、もっと多くの人に伝えられる仕事ができたらと」
美山の魅力を伝え、多くの人に足を運んでもらうこと。しかしどんなに魅力的な場所であったとしても、ただ来てもらうだけでは、地域の発展には繋がりません。
「コロナ前は、年間70万人ほどの方が美山に訪れていましたが、ほとんどが京都市内に宿泊します。さらに消費単価も1000円以下です。せっかく多くの方に来ていただいても、お金が使える仕組みがないと地域の経済は回りません」
こうした課題解消のために、美山町自然文化村は美山の文化や自然を体験できるオプショナルツアーなどを実施。国内の学生や海外からの団体客向けに、里山の自然を滞在しながら学ぶ宿泊体験も提供しています。今後は既存のツアーも運営しながら、新しい体験を考えていきたいとのこと。
「例えば、地域のお祭りに参加する、農家さんと一緒に田植えをするなど、美山の文化や暮らしを感じてもらえる体験を提供したいと考えています。田舎の古き良き暮らしには、サステナブルに暮らすためのヒントがたくさん詰まっています。こうした体験から、まだ知られていない美山の魅力を多くの人に知っていただきたいですね」
さらに提供する食事やお酒なども地元企業の商品を採用し、地域内に経済循環を生み出しています。目指すのは、地域活性を目的にしたエコツーリズムです。
「例えば地域の催事や祭りも年々人口が減り、担い手が不足して継続するのが難しくなってきています。そこに観光で来たお客さまやうちのスタッフが一緒に参加する。そういったことから、地域文化を継続できる可能性を広げていきたいんです」
今回募集するフロントスタッフには、大野さんと共にこうしたエコツーリズムの企画や広報なども担ってもらいたいとのこと。
「これから必要なのは、広報活動です。まだ美山のことを知らない人にどうやってアプローチするのか、訪れたことがある人にまた足を運んでいただくために何をすべきかを一緒に考えて、どんどんアイデアを出してほしいですね」
春は桜、夏は川遊び、秋は紅葉に松茸、ライトアップされた雪を愛でる冬……と、美山の資源を活かしながら、客層やニーズに合わせて提供するサービス内容を変化させる必要があります。
「日々のお客さま対応を行いながら、『どんな体験があれば価値を感じていただけるだろうか』とアンテナを張ること。そこからきっと良いアイデアが生まれてくるはずです。依頼する業務だけではなく、自分から率先して学ぼうとする方であれば、この仕事はどんどん面白くなると思います」
そういった意欲はサービススタッフにも持っていてほしい、と大野さんは言います。
「例えば、サーブをしているときに『これは残している人が多いな』『食べにくそうだな』と気づきがあると思うんです。そういった気づきをもとに、新たなサービスや改善策を思いつくこともできるのではないでしょうか」
河鹿荘のスタッフは入社すると、「美山観光コンシェルジュ」の資格を取得します。これは、お客さまとのコミュニケーションにこうした情報を役立てて欲しいという想いから。
「美山の食材や歴史、見どころなどをしっかりとお伝えできたら、お客さまもより美山での滞在を楽しんでいただけるはずです。また来たいと思っていただける時間を提供するために、スタッフにはぜひ美山のことを学んで欲しいですね」
コロナが収束に向かい、美山も以前のような活気が戻りつつある今。河鹿荘も改革のタイミングを迎えています。
「自分のアイデアを活かして、河鹿荘を、美山のまちをステップアップさせる事業がいくつも始まろうとしています。そこに関わりたいと思う人は、ぜひ応募していただきたいです」
できることをやるのではなく、やりながらできるようになっていく
続いてお話を伺ったのは、フロントスタッフの岡本祐司さん。岡本さんは、美山町に隣接する京北町の出身。前職は奈良県の医療機関で事務職をしていましたが、昨年、故郷に戻ってきました。
小さい頃から何度かキャンプやトレッキングツアーで河鹿荘を利用したこともあり、身近な存在だったそう。就職にあたり、改めてWebサイトを見たり面接で大野さんから話を聞いたりするうちに、「まちをより良くしようとする企業としての姿勢に惹かれた」と言います。
「美山町自然文化村は、行政の指定管理施設でもあります。公共的な立場で地域に役立つことを実施しながら、観光施設として美山の魅力を外に伝えている。第3セクターだからこそ、できることもあるのだと感じました」
宿泊・公共施設・レストランの利用者対応が、岡本さんの主な仕事です。
「地域の方が法事や会議などで施設やレストランを利用されることも多くあります。『〇〇なんだけど、来週空いてる?』と常連の方から電話がかかってくることもあり、入ったばかりの頃は誰だか分からなくて困りましたね(笑)。あとは海外からの団体のお客さまからの予約も多くて。英語を勉強しながら頑張って対応しています」
取材当日も、岡本さんは団体客の対応に追われて、大忙し。手が足りないときは、レストランに駆けつけてヘルプにまわることも。さらに、チラシやメニュー表などの作成も担当しています。
「明日、新メニューの写真撮影があるんですよ。入り口の看板も、自分たちで作りました。みんなデザインの経験があるわけじゃないんですが、先輩たちに教えてもらいながら覚えていきます」
できることをやるのではなく、やりながらできるようになっていく。一番学びになったのが、2月に行った恵方巻きのキャンペーンです。受注から販売までを取り仕切ることになりました。
「チラシの作成から料理長との打ち合わせ、予約の受付から配達の手配等、一連の流れを主担当として行いました。節分の日がお渡しの日だったのですが、地域の方と直接顔を合わせる機会にもなり、僕の顔を覚えていただけたように思います」
先輩たちからアドバイスをもらいながら、無事当日を迎えられたのだそう。入社する前は、「チラシのデザインをつくったり、英語を話したり機会があるとは思っていなかったそうですが、「『何でもやってみよう!』という気持ちで乗り越えられた」と岡本さんは言います。
「河鹿荘ではすべてにおいてマニュアルがあるわけではありません。だから、分からないことは自分で質問したり調べたりして、積極的に先輩から情報をダウンロードするようにしています。臨機応変に対応しなければいけない場面も多いので、自分で判断できる引き出しを増やしていきたいです」
心地よさを大切にしながら、美山に暮らし働く
取材に訪れたとき、フロントで宿泊予定のご年配のご夫婦にやさしく丁寧に対応していたのは後藤亜由美さんです。
全国旅行支援のクーポンは電子化されているものも多いため、ご年配の方は迷われる方も多いそうです。
「分からないことをきちんとお聞きして、相手に寄り添うように心掛けています」
新卒で美山ふるさとに入社した後藤さんは、大学進学と共に東京から京都へ。食べることが大好きで、「食にまつわる仕事につきたい」と就職先を探していたところ、知り合いから河鹿荘で仕事を募集していることを教えてもらいました。大学の近所にあるお店で美山の食材のおいしさに感動したこともあり、以前から美山に興味を持っていたそう。
「出身は神戸なんですけど、親の仕事の都合でいろいろな土地で暮らして、大学に行く前に住んでいたのが東京だったんです。小学生の時に山村留学をしたこともあったし、兵庫県に住んでたときも畑に触れる機会もあって。もともと自然の中で過ごすことは好きな方だったこともあり、美山で働くのもいいかもと思いました」
美山に暮らし始めてからは、同じ集落内のご夫婦から畑の一部を借りて、自分で野菜をつくることにも挑戦してみたのだとか。
「3年ほど、趣味として楽しんでやっていましたが、今はしんどくてやめちゃいました(笑)。実はあまり人付き合いが得意な方ではないんですが、美山はご近所の方たちがいい距離感で接してくれるので暮らしやすいですよ。集落の定例会やお祭りなどは参加してもいいし、しなくてもいい。そんな距離感が私にとってはちょうどいいのかもしれません」
住み始めて8年目。顔見知りの人も増え、美山での暮らしを楽しみながら過ごすことができているそうです。
「『鍋するけど来る?』って、集まりに誘ってくれる人がいるんです。みんなで畑で野菜の苗を植えたり、収穫を手伝ったり。集まるメンバーは美山に住んでる同世代が多いですけど、京北の方とか、そこにいる人の繋がりで参加する人もいたり。ゆるく人とつながりつつ、孤立せずに楽しく暮らせていますね」
美山での暮らしを楽しめているという後藤さん。しかし仕事では、苦労することもたくさんありました。
「これまで、幾度かお客さまに怒られる場面もありました。でもお客さまに関われるからこそ、『ありがとう』という言葉をもらえたり、喜ぶ表情が見られたり。自分の行動した成果が目の前で見れるのはやりがいだし、自分の性格にはあってるんかな」
コロナ禍には、朝食サービスとして「モーニングBOX」を提案しました。
当時はレストランの工事中だったこともあり、レストランの席数が限られていて、部屋に空きはあるのに予約を断らなければならない状況でした。そこで思いついたのが、モーニングBOXのアイデア。
「それまで朝食は和食のみだったんですけど、洋食も作ってほしいと料理長に提案したんです。仕切りのある場所での食事ばかりでは窮屈だろうと思い、オムレツや自家製のパンをカゴに入れて提供するスタイルに。部屋で食べてもいいし、景色を見ながら外で食べてもいい。コロナ禍でも楽しみながら朝食を召し上がってもらえたらいいなと思ったんです」
モーニングBOXはお客さまに日々丁寧に接する後藤さんだからこそ、生まれたアイデア。こうしたスタッフの提案が、河鹿荘のサービスを高め、お客さまはより良い時間を過ごせるのでしょう。
お客さま目線でより良いサービスを考える
続いてお話を伺ったのは、レストランでサービススタッフとして働く竹林真弥(まや)さん。美しい景色に魅せられて、美山で働いてみたいと思ったそうです。
「数年前にここに食事に来て、景色に癒されて。私が住んでいるところも田舎なんですけど、美山はもっと自然が綺麗だと感じます。最近、めちゃくちゃ夕陽がきれいな場所を見つけたんですよ」
前職は、10年ほど製造業で働いていた竹林さん。30歳を機に、これまでと違う仕事にチャレンジしてみようとこの仕事を選びました。河鹿荘は宿泊客や、地元の行事に伴う団体客の利用も多いのが特徴。配膳、接客が主な仕事ですが、予約時間に合わせて席のセッティングも行います。
「サービススタッフは基本的に動くことが多いので、体力が大事ですね(笑)。団体客のお客さまを迎える時は、チームワークが必要です。だからこそ、普段から『ここはこうした方がいいんじゃない?』と意見を出し合いながら、働く環境をみんなで改善するようにしています。自分たちも楽しんでやることが、いい接客に繋がるんじゃないかな」
手が空いている時は、お客さまの様子を伺いながら自らお声がけに行くことも。
「例えば1人でお食事している方に『どちらからお見えですか』と声をかけることで会話が生まれて、そこから美山のおすすめをお伝えすることもあります。入社したときから知ってくれてる常連のお客さんは『頑張ってるね!』っていつも声をかけてくださるんです。スタッフとのコミュニケーションを楽しんでくださる方も多いんですよ」
こうしたお客さまからの言葉も仕事のやりがいのひとつ。この仕事に大事なことは何かをお聞きすると、「自分がお客さまだったら……と想像して動くこと」と竹林さん。
「前の職場でもどうすれば改善するかという意見を求められる場面が多かったので、それが役立っているのかも。お客さまの立場に立って物事を考えると、おのずとどうすればいいかが分かるんですよね。今はお客さまがもっとゆったり過ごせるように、個室の席をつくれないかなと考えています」
河鹿荘の仕事は多岐に渡り、裁量権も大きいために、大変そうだと思う方もいるかもしれません。しかし、日々の仕事の中で気づいたことを意見として伝え、それをみんなの協力を得て実行していく。それが河鹿荘のスタンダードな働き方なのだと感じました。
あなたなりのアイデアで、河鹿荘を、そして美山を一緒に盛り上げていきませんか。
編集:北川由依
執筆:ミカミユカリ
撮影:清水泰人