募集終了2022.12.01

目の前の人に必要な支援を届ける。“京都のセーフティネット”を担う「総合福祉」の仕事

「福祉」の仕事と聞いて、みなさんはどういったイメージを抱くでしょう?

高齢者や子ども、障害のある人、さまざまな理由で社会的に困難な状況に置かれた人たち……。その傍に寄り添うような仕事は、「資格を持った専門家だけもの」「知識のない自分には就けない職業」と考えている人も、もしかしたら多いかもしれません。

けれど、本当にそうでしょうか。今回お話を伺った『京都府社会福祉事業団』のみなさんは、口を揃えてこう話してくれました。「大事なことは、あくまで相手を“人”として見る視点だと思う」と。

1つの法人内で、京都府社会福祉事業団は種別の異なる「10」の施設を運営しています。そこで働く人は実際、キャリアの途中で「それまで携わったことのない分野」を任される機会もあるそうです。

どんな人が、どのように働いているのか。専門性を育みながらも、“人”を総合的に見られる人材をどう育成しているのか。法人設立の地、城陽市の「心身障害者福祉センター」を訪れました。

そもそもの「福祉」を目指す、京都府社会福祉事業団

京都府社会福祉事業団の誕生は、1977(昭和52)年。府立施設である「心身障害者福祉センター」の建設に伴い、京都府が100%出資する法人として設立されました。

その後、府立の福祉施設の運営を順次任されていき、現在は城陽市のほか、京田辺市に3カ所、さらに京都市左京区、東山区、伏見区にも施設を抱えています。300人を超えるスタッフが働くのは、障害者支援施設、児童養護施設、母子生活支援施設、養護老人ホーム、さらには病院なども含む10拠点。

その特徴は「同種の施設が1つもないこと」と、理事長の中本晴夫さんは話します。

「法人としてバラバラなことをしているように見えますが、それは府の福祉政策の中で『これは府立施設として必要だ』とされた施設を任せられているからです。中には、生活困窮者のための『救護施設』など、京都府で唯一の施設もあります。民間事業者の担い手が少ない地域、あるいは担いづらい領域に生じた隙間を埋める、“最後のセーフティネット”の役割をしていると思っています」

公立施設だからこそ、「私たちがやらなければ誰がやるのか」という気概と責任感を持って運営していると語る中本さん。施設はどれも各々の事情からスタートしたものですが、それらを一手に引き受けていったことが、結果的に他にない特徴的な組織を形づくっていきました。

そんな自らの存在を、中本さんは“総合社会福祉法人”と表現します。細かな分野に分かれていったがゆえに、ともすれば特別視されることもある「福祉」を、本来の意味で総合的に体現できるのでは、との考えからでした。

「そもそも福祉とは『人の幸せ』を意味する言葉。人として、家族なり友人なりを幸せにしたいとは誰もが思うことですし、目の前の人が困りごとを抱えていたら、サポートしようとするのも自然な感情です。ただそれを具体的な仕組みにしていくなかで、『障害者福祉』『児童福祉』『高齢者福祉』『地域福祉』と細分化・専門化されてきただけです。

私たちはもう一度全体を俯瞰して捉えつつ、目の前の“人”に総合的な支援をできるようなサービスをしていきたい。そして、そういう人材が育っていく法人でありたいと考えています」

求めるのは「人に関わりたい」気持ち

京都府社会福祉事業団での仕事を通じて、広い意味で「福祉」を捉えられる人になってほしい、と語る中本さん。それは、目の前の利用者さんに対しても「◯◯の専門家」「◯◯施設のスタッフ」として接するだけではなく、“人対人”の関係性の中で、どういったケアができるかを考えてほしいという意味です。

だからこそ、採用でも人物性を重視。特に今回の募集対象である支援員については、資格や職歴を求めることをしていないといいます。

「福祉の原点ともいえる『人に関わりたい』というマインドがあることを、一番大事にしています。資格や、大学で福祉を勉強された経験はもちろん現場で生きると思いますが、採用時に絶対に必要というわけでもありません。たくさんの施設があるからこそ、むしろ特定の分野だけに偏らず、さまざまな経験を積むことができる。自分の引き出しをできるだけたくさん持ち、成長したいと考える方には、うってつけの職場だと思っています」

主に身体に障害のある方の入所施設「心身障害者福祉センター」。このデイルームで、利用者さんが食事をしたり、スタッフの方々とさまざまなレクリエーションを行ったりします

もちろん福祉人材としてのスキルや専門性を軽視しているわけでは決してありません。

それぞれの施設で専門性を磨きつつも、複数分野を経験することで「総合的な視野」の獲得を目指すのが京都府社会福祉事業団の特徴。それゆえに、個人の特性や希望、施設の状況を踏まえたうえで、全く別分野への「異動」が伴うことも少なくないといいます。

「一人ひとりが幅広い経験を積むことで、目の前の人に対して『この人はどういう課題を抱えているのか』『どういうサポートがあれば幸せになれるだろうか』と全人的に考えられることにつながっていきます。特定の領域だけを突き詰めたいと考える方には合わないかもしれませんが、逆に当法人で数カ所を経験した職員であれば、福祉人材としてどこの施設でも務まる。それぐらいの力が持てる職場だと感じています」

一方で、京都府社会福祉事業団はこれまで、各施設の運営サポートや、ヒヤリハットを含むリスク管理、職員のケアなどを法人本部が行い、情報を共有していたものの、現場間で直接何かをコラボレーションするには至っていませんでした。そこで現在、施設同士の「横の連携」を強めていく方針を新たに掲げています。

これにより、「こども発達支援センター」と「リハビリテーション病院」の同じ専門領域を受け持つ職員同士が子どもと大人それぞれのスキルを交換する勉強会を行ったり、児童養護施設の子どもを障害者支援施設につないでいったりする取組みが、現場レベルで少しずつ生まれるようになりました。

「施設で働いていると、どうしても目の前の人のサポートで手いっぱいになるため、なかなか『他所ではどうしているか』というところまでは考えが及ばない現状があります。しかしながら法人の中には本来、たくさんの知見があるはず。利用者さんのニーズも複雑多様化していて、1つの施設で解決できないケースも増えているので、そこを横断的に解決できるような取り組みが求められています」

テーマ毎にプロジェクトチームを立ち上げることも想定している、と話す中本さん。そうした意味でも、「福祉」を総合的に考えることのできる人材がより重要になっており、新しいテーマに果敢にチャレンジしてくれる人にぜひ来ていただきたい、と想いを語りました。

個人の成長を支える「エルダー制度」「2本立てのキャリアパス」

専門性のある支援員であるとともに、広い視点で課題を捉えることができる総合性ある福祉人材の育成に取り組む事業団。そうした人材育成を支える制度や風土として、では具体的にどんなものがあるのか、次に本部事務局の久保田真実さんに話を伺いました。

久保田さんは、新卒で京都府社会福祉事業団に入職。配属になった「母子生活支援施設」に15年在籍した後、法人本部への異動となりました。福祉系の大学を出ているそうですが、実際の現場では身につけた知識だけで通用しないことも多く、「資格や経験よりも想いが大事だと痛感した」といいます。

「人に関わりたい、人の幸せを支えていきたいという想いがまずあって、その上で自分がどういう知識やスキルを身につけたいかが重要になってくると思います。当法人はそれを支える制度もキャリアパスも設定していますし、未経験の方が福祉を一から学ぶこともできるようになっています。

また、いろんな施設があるのも、やはり大きなメリットだと思いますね。異動には葛藤が伴うこともありますが、現場で学んだことは、必ず次の場所でも生きる部分がありますから」

充実していると語る人材育成のサポートの1つが、入職後でのスタートを支える「エルダー制度」です。先輩職員が半年間に渡って丁寧にサポートをしてくれます。

実際の仕事を通じた指導はもちろん、「思っていたイメージとズレがあって戸惑っている」などメンタル面のサポートも重視しているそう。半年経てば即終わりではなく、その後も職場全体でサポートを続けておられるとのことです。

「普段から職場全体でスタッフを支えているという風土づくりもすごく大切にしています。新任層の研修でも『先輩が声をかけてくれるのがありがたい』といった声をよく聞きますね。

さらに、人事考課制度として上司と年に3回面談を行い目標や課題の整理をしたり、また、異動希望などを聞いてもらえる機会も用意されています」

そんな京都府社会福祉事業団の中で、未経験者からマネジメントクラスまでの個人のキャリアビジョンを支えているのが、通称「2本立てのキャリアパス」。

新任層、中堅層、熟達層、施設長層など、求められる能力を全部で8階層に分けて記した「法人共通キャリアパス」と、施設ごとに必要な知識やスキルを主に5つのステップで定めた「施設別キャリアパス」を連動させ、さまざまな研修体系も整備しています。

「全職員に共通する研修、階層別研修は本部で行い、専門分野は施設内で実施したり外部研修に参加してもらったりしながら、個人のスキルアップをサポートしています。また、資格の取得に関して、施設の中で行われる勉強会などもあります。資格があると仕事の幅が広がり自身のスキルアップにつながりますし、手当もつくので、入職後に取られる方もたくさんいますね。資格取得のサポートは、今後更に充実を図っていきたいと考えています」

実際に久保田さんも、仕事をしながら社会福祉士の国家資格を取った一人です。多様なキャリア・経験を持つ先輩職員が身近にたくさんいるのは、異動が多い京都府社会福祉事業団ならではの魅力になっています。

自分がどんな道を進みたいか、そのためにどんなスキルや資格を新しく身につけたらいいかは、誰もが悩むこと。だからこそ、そうしたキャリアに関する相談を日常的にできる風土があるのも、この法人の大切な側面になっています。

関わりたかった子どもの未来を、先に見せてもらっている

続いてお話を伺ったのは、入職3年目の濱村洋さんです。新卒で「心身障害者福祉センター」に配属されて以来、障害のある方をサポートしてきた若手職員として、率直な声を聞かせてもらいました。

すると、「もともと保育の専門学校に通っていたんです」と話しはじめる濱村さん。在学中に京都府社会福祉事業団の「こども発達支援センター」で2週間実習を受けたことをきっかけに、一般的な保育園や幼稚園よりも、障害のある子どもたちに関わる「療育」の世界に興味を持ったのだといいます。

しかし、実際に配属された「心身障害者福祉センター」の利用者さんは大人ばかり。戸惑いはなかったのでしょうか。

「めちゃくちゃありました(笑)。というのも私、勝手に『子どもの施設に行ける』と思い込んで応募してたんです。他の施設があることも聞いていましたけど、保育士の資格もあるし、大丈夫やろうって。だから、配属を聞いて最初はショックを受けましたし、『知識もないのにどうしよう』ってすごく焦りました」

こちらの施設では、多くの方が車椅子を利用しながら暮らしています。朝起きてごはんを食べることに始まり、お風呂、日中のさまざまな活動やレクリエーションを経て、就寝中もスタッフが支援。夜勤を含む5つのシフトで、24時間のケアを行っています。

それは、濱村さんの想定とは大きく違う社会人1年目でした。子どもに関わりたかった気持ちも引きずるなか、必死でくらいつく濱村さんを支えたのは、配属先を伝えた専門学校時代の先生に「もしかしたらラッキーかもしれない」と言われたことだったといいます。

「考えてみると、障害のある子どもたちは、大きくなってからもずっと生きていくわけです。その中で、最終的にこの障害者施設に入所することもあるかもしれない。逆にここで今生活されている方も、小さい頃は療育などの施設で育ってきた過去があるんですよね。

働くなかでだんだん、そういったつながりを考えるようになって、『私が関わりたかった子どもたちの未来を、先に見せてもらってるんだ』に発想もシフトしていきました」

先輩職員の支えも、濱村さんの成長を大きく助けてくれました。「療育に行きたかった」という思いを受け止めてくれたことはもちろん、エルダー期間中にたくさんのことを教えてくれたり、あえて早めにいろんなチャレンジをさせてくれたりしたことも、今の自分につながっているといいます。

「スキルのない自分にとって、最初はエルダー期間も『半年じゃ絶対に短すぎる』と思ったんです。でもその期間に、見守られながらも自分一人でやる状況をつくってもらったことが、今思えばすごくよかったなって。たとえば大人の方のオムツ交換も、見てるだけでは実際に全然できない。自分の手で繰り返していくうちに、だんだんコツがわかるようになってきました」

笑顔でそう話す濱村さんは、「今は、子どもの施設に早く行きたいとは思っていない」と話します。それは、大きな葛藤を乗り越えたあの1年目が、自分にとっての自信になっていたからでした。

「逆にどんな施設に行っても何とかなるはず……という感覚があります。今後入ってくる方も、人と関わることを楽しめるのであれば大丈夫じゃないかなと。もし私と同じように、希望と配属先が違って戸惑う人がいたら、何かフォローができればいいなと思っています」

異動を経て見えてきた、“つながっている”の感覚

最後に、異動を経験した中堅層スタッフとして、上村真弘さんにもお話を聞きました。同じく「心身障害者福祉センター」で働く上村さんは、大学卒業後に入職。もともとご自身が児童養護施設の出身だったこともあり、法人内の「桃山学園」児童養護施設を希望して入職されましたが、配属は同「桃山学園」の障害児入所施設でした。

「子どもたちを学校に送り出したり、宿題を一緒にしたり、悩みを聞いたり。発達障害のある子、知的障害のある子、強度行動障害のある子どもなども受け入れている施設の中で、みんなと生活を共にしながら過ごしました。今振り返ると、とにかく熱量で突っ走っていた自分を、先輩がうまくフォローしてくれていました」

転機が訪れたのは、3年目。ここ「心身障害者福祉センター」に異動となり、環境がガラリと変わりました。「まだまだ桃山学園でやりたかったのに……」という気持ちもしばらくは抜けないまま、身体に障害のある方の移動・移乗(ベッドから車椅子へ、あるいは車椅子から浴槽へと体を移すこと)や排泄の介助など、これまでに経験のないことを一から学ぶ日々が訪れます。

特に戸惑ったのが、子どもと大人の関わり方の違いでした。やりたいことがどんどん出てくる子どもたちには、それを引き出していくような接し方が必要。でも、ここには高齢の方が多く在籍していて、「やりたい気持ちはあっても体力がついてこない」という場合もあるので、言葉かけ一つをとっても、変える必要がありました。

「以前と同じように関わった結果、途中でぐったりさせてしまう……みたいなことも実際に起きて、『これじゃあかん』と思い直して。時間はかかりましたが、ちょっとずつ寄り添い方を修正していきました。今の施設での仕事が自分の中でしっくりくるようになったのは、異動して丸2年くらい経ったころかなと思います」

異動して3年目、入職5年目に入るころには、職場で少しずつ新しい提案もできるようになっていったと話す上村さん。仕事に抜けがないようにするためのフローの見直しや、チェックリストの書式変更、痛んだ施設の壁塗りなど、「一つひとつはちっちゃいことばかりです」といいますが、先輩職員や利用者さんが温かく見守ってくれていることは常に感じるらしく、安心してチャレンジできたそうです。

現在、上村さんは入職8年目。そもそもの「福祉」という視点では、子どもの施設も大人の施設も、職員として関わる上では“つながっている”という実感を、ようやく持てるようになってきたと語ります。

「1つの施設の中にいると、なかなかその感覚は得られないと思うんです。でもここで仕事をするなかで、『前の施設にいたような子どもたちが、将来ここに来るんだ』と考えられるようになってきて。

言葉のかけ方も変わってきました。障害児入所施設にいたときは子どもたちに方向性を示すためにも『こうしたほうがいいよ』と言ったりもしましたけど、それは押し付けに感じられてしまう支援になりかねない。障害者支援施設の場合は、こちらが示すというよりは、目の前のご利用者様自身がどう過ごしたいのかある程度意向をお持ちなので、それを尊重しながら支援する感じになります。『これがこの人のためになるはず』と決めつけないことを、何より意識するようになりました」

“総合社会福祉法人”とも呼べる京都府社会福祉事業団。キャリアの中で、未経験の領域に一から携わっていくこともありますが、上村さんは「サポートの仕組みはかなり充実している法人だと思う」と率直に話します。では今後、どういう人に実際入ってきてほしいと感じているのでしょうか。

「何らかのサポートが必要な方に対して、子ども、障害者、高齢者といったカテゴリーで考えようとする人は、ゴールを見失いやすいかもしれません。やはり“人”として関わろうとするスタンスのある方が、合いやすいんじゃないかなと思います。もう1つ、これは自分も全然できていないのですが、社会の中での役割を俯瞰して捉えられる人がいたら。『京都南部という地域で、こういう事業を行う施設なんだから、こういったところとも連携できるはず』『その一人として、自分はこんなことがしたい』……そんな広い視点で考えようとする人がいたら、ぜひうちに来てほしいなと思います」

京都を、安心して暮らせる場所にするために

京都という土地で、10の福祉施設などを営む京都府社会福祉事業団。京都らしい田園風景、あるいは歴史ある町並みも傍にあり、それぞれの場所で「京都らしさ」を楽しめる職場には、実は府外からの移住者も多く働いているといいます。

取材の中では、実際に濱村さんも上村さんも、それぞれプライベートをどう大事にしているか打ち明けてくれるシーンもありました。「人の幸せ」を実現しようとする法人だからこそ、そもそも職員が幸せであることを重視しているのは、4人の言葉の端々からも感じ取れます。

もちろん、“最後のセーフティネット”としての公立施設の運営は、府民への責任も伴う大変な仕事です。その意義とやりがいについて、最後に中本さんが改めて話してくれました。

「利用者様が地域に移行され、私たちの施設からおられなくなる状態が、実は社会として一番いいのかもしれません。ただ仮にそうなっても、こういう施設がきちんと存在していることで、『何かあっても大丈夫だ』と安心して暮らし続けられる社会になると思うんです。

だからこそ、実際に利用される方はもちろん、広く京都府民の方に信頼をしてもらえるような場所にしていきたい。『あの法人の施設は安心できるよね』『なかなかおもしろい取り組みをやっているね』。そんな認識をしてもらえるよう、広い視野とチャレンジ精神を抱いて、今後も事業を続けていきたいです」

編集:北川由依
執筆:佐々木将史
撮影:清水泰人

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