募集終了2022.12.26

歴史と伝統の町並みを守る。京都のまちづくりを支えるまちづくりコーディネーター

(2021/01/22公開、2022/12/26最終更新)

皆さんは“京都”と聞いてどんなイメージを持ちますか? 

京都のまちには今もなお歴史的な建物が数多く残っていますが、寺社仏閣だけでなく、普通の路地に建つ京町家が古き良き町並みを形成していて、京都が京都らしさを保つ重要な役割を果たしています。

そんな風情ある町並みが残る京都ですが、残念ながら年を追うごとに京町家が取り壊されている現実があります。市のデータによると2016年までの7年間に5602軒もの京町家が取り壊されたといい、1日に約2軒の町家が姿を消している計算になります。

そこには老朽化や修繕費の問題、後継者の不在、相続税の負担など、さまざまな原因があることも事実で、「京町家を残そう」とひと言では片付けられない問題があるようです。

また、時代の変化とともに地域の住民同士の関わりや繋がりも薄れつつあり、住民が主体となってまちづくりをすることも難しい状況にあります。

こうした中、京都らしい町並みと景観を後世に残し、地域の住民が主体となってまちづくりを行える、京都だからこそできるまちづくりを行おうと尽力しているのが『京都市景観・まちづくりセンター(以下、まちづくりセンター)』です。

京都らしい町並み・景観を守るために

まちづくりセンターは1997年(平成9年)に、京都市が100%出資する外郭団体として設立されました。

当時は今ほど行政と市民との距離が近くなく、地域住民が気軽に相談に行けるような体制が整っていなかったそうです。特に行政はどちらかといえば受け身の体制なので、積極的に地域へ出向いて住民の方と協議したり、行政のサポートを受けながら住民が主体となってまちづくりができるような場も今ほどありませんでした。まちづくりには企業の支援、民間の活力、市民の協力など多様なプレーヤーの力が必要です。

そうした状況の中で、行政でもなく民間でもない、市民と企業、大学、NPO、行政を繋ぐパイプ役を担う形で『まちづくりセンター』が誕生しました。

まちづくりセンターには2つの大きな取り組みがあると、センターの統括として勤務される事務局次長の梶山真樹(かじやままさき)さんは言います。

それは『京町家の保全・継承』と『地域まちづくり活動の支援』です。

「当センターの役割は、これまで行政では担えなかった地域住民の生の声、リアルな悩みに対応することです。相談内容に応じてこの相談には行政のあの制度を使うといい、この相談にはあの専門家の助言を受けるといいなど、一つひとつの相談に臨機応変に対応し、それぞれが繋がるハブになることです」

例えば、『京町家の保全・継承』では、不動産の活用を望まれる方には宅地建物取引士に、老朽化しているという相談であれば建築士や大工の方など、相談員の皆さんにご協力頂き、実際に一緒に相談に出向くこともあります。

一方で、『地域まちづくり活動の支援』では、相談の内容に応じた専門家を紹介し、専門家も交えて地域の会合などへ参加しています。

こうした『京町家の保全・継承』や『地域まちづくり活動の支援』を行う業務こそが、今回の求人で募集している“まちづくりコーディネーター”というお仕事です。

採用後は、『京町家の保全・継承』か『地域のまちづくり活動の支援』のどちらかを主に担当することになります。

ひと言で“まちづくり”といっても幅広いのですが、実際にはどのような相談が多いのでしょうか?

「京町家に関する相談では、行政へは“補助金制度の利用”など問い合わせ内容が決まっているものが多いのですが、当センターへは「京町家を受け継いだがどう活用していいのか分からない」とか「老朽化しているけれど修繕した方がいいのか分からない」というような、まず何をすれば良いかが決まっていないものが多いです。

また地域まちづくりの相談では、「通りを石畳にできないか」といったものや「地域内での民泊に一定のルールを設けたい」といったものまで、さまざまな相談が寄せられます。」

まちづくりセンターでは地域の方が気軽に相談できる「まちづくり相談」や「京町家なんでも相談」という窓口を設けていて、例えば、京町家に関する相談は年間を通して500件にも上るそうです。

「また行政の制度は複雑で一般の市民の方には分かりにくいところがあるので、相談によって利用できる制度を分かりやすくご案内することも当センターが担う役割ですね」

京町家の保全・継承を通したまちづくり

2017年に“まちづくりコーディネーター”としてまちづくりセンターに転職された永田敦さんにお話をお伺いしました。現在は『京町家の保全・継承』事業を担当し、“京町家カルテ”の作成などを担当されています。

「“京町家カルテ”とは言わば京町家の履歴書のようなものです。地域の歴史や建物の由緒とか概略を、文章や写真を交えて分かりやすくまとめています。こうした資料を作ることで建物への愛着がより深まりやすくなり、保全や継承に繋がることも多いんです」

京町家カルテの作成では“町家の調査”自体を永田さんが行うわけではありません。永田さんは専門家への依頼や家屋調査の日程調整などの段取りを行いながら、カルテの完成まで進行をサポートしていきます。。

「私たちが関わることによって心強かったとか、おかげさまで町家を大切にしてくれる借り手にめぐり会えたとか、町家を取り壊さなくて済んだとか、そういった形で喜んでいただけることが一番うれしいですね」

京町家カルテを作るだけでなく、相談事業などでは、不動産業者や建築士、ときには税理士など、さまざまな職種の方と協力をしてひとつの目的のために仕事を進めていけるのもコーディネーターという仕事の魅力のひとつだと永田さんは言います。

また、まちづくりセンターは一般の企業とは違い公益財団法人なので、必ずしも利益を追求することが最終目的ではありません。そのため、利益を気にすることなく京町家の存続のために所有者の方を全力でサポートしたり、京都の景観を守るために純粋に仕事に打ち込んだりできる点も、通常の仕事とは大きく異なる点と言えるでしょう。

「まちづくりセンターには枠に縛られず自由にいろいろなことができる環境があります。仕事に正解というものがなく、売上のように形で見えるものもありません。だからこそ、今いったいまちには何が必要なのか、まちの人は何に困っているのか、そういったことを自ら見つけて実行に移していける人なら、楽しんで仕事をしてもらえると思います。僕自身は全然できていないんですけど(笑)、だからこそ、新しい方にはそれを期待したいです」

「地域まちづくり」が人生を見直すきっかけに

つづいてお話をお伺いしたのは、『地域まちづくり活動の支援』事業を担当されている田中京子(たなかきょうこ)さん。建築関係の経験は一切なく、もともとは朝日新聞に勤務されていたという異色の経歴の持ち主です。

“まちづくり”というと都市開発のような大規模なものをイメージしがちですが、まちづくりセンターが行うのはもっと小規模な“地域ごと”のまちづくり。その地域の住民がみんなで知恵を出し合いながら、自分たちの住むまちの環境を良くしていこうとする住民主体の活動を、彼らが十分に力を出せるようにサポートしています。

「私の仕事は、『景観まちづくり』と『防災まちづくり』の支援のほか、セミナーの企画・運営、また新聞社にいたということもあって広報誌を作ったりもしています。例えば『防災まちづくり』の支援では、3年かけてそのまちの防災計画を作るんですね。自分たちのまちを実際に歩いてみて、ここに空き家があって危ないなとか、ここは路地が狭くて地震があったときに家が崩れると出口が塞がってしまうねとか、そういうことを点検して歩くんです」

このように地域を実際に回り、必要に応じて行政で利用できる制度を紹介したり、また必要な修繕や整備ができないかということを、住民の方が主体になって進められるように、京都市の担当者の方や専門家を交えて話し合える場づくりをしています。

3年という長い期間に渡りひとつの地域の方と関わる『まちづくり活動の支援』では、他の仕事では得られない信頼関係が築けるのも魅力だと田中さんは語ります。

「朝日新聞の記者だった時は、肩書と名刺の力で大抵の人と会うことができました。でも、そうして築いた人間関係に、どこか嘘臭さを感じてもいました。その点、時間をかけて作り上げていく人間関係は、大変な思いもしますが、深みもあります。

自分が住んでいるまちのために何かを頑張ろうと思っている人って基本的にいい人が多いんですよね。見ているとこちらの方が励まされるし、勇気づけられることも非常に多いんです。人を信じる気持ちがまた生まれてくると言うか、人間捨てたもんじゃないなと思えるんですね。私にとってはそれがとても大きかったです」

どちらかというと器用ではなく、人と打ち解けるのにすごく時間がかかるという田中さんですが、それならばできるだけ顔を出して、顔を出すことで少しずつ距離を縮めていこうと努力されているそうです。

「地域の方とどのように距離を詰めていくかというのは10人コーディネーターがいれば10通りのやり方があるんですね。人のやり方を真似てもうまくいかないんです。不思議と鏡のような関係で、口先だけで関わろうとする人は口先だけの関係しか作れないし、濃い付き合いをする人は濃い付き合いが返ってきます。どのように人と関わり、どのように生きるのかということを試されている気がするんです。

どんな会社人間の人でも、いつかは会社を辞める日が来る。本当に年老いる前に、地域と向き合うことで、人間関係を見つめなおすことができて良かったです。」

大袈裟に言うと“自分の人生観が変わった”とまで田中さんは言います。地域の方の反応を見ることで自分が地域の方たちとどのように関わっているのかが見えてくる、そんな奥深さを感じられる点も “まちづくりコーディネーター”という仕事の魅力なのですね。

「相手に信用してもらわないと仕事がうまくいかないので、信頼関係を築いていける“人好き”の方が向いていると思います。グイグイ行く人もいますし、一歩引くような人もいますし、どんな性格だからいいというわけではなく、その人なりのやり方で信頼を勝ち取っていただけたらいいと思います」

まちづくりコーディネーターの一番大切な業務は、地域の方の困りごとに耳を傾け、困った時に気軽に相談に乗れることだと言います。

「地域まちづくりは時間のかかる作業です。パッと見てすぐに分かるような結果は出ませんが、1年2年経つとちゃんと仕事が進んでいる。そういったおもしろみもあります。地域に暮らす方の取り繕わない自然な姿が見られるし、京都ぐらしの魅力を存分に味わえる仕事です。観光の京都ではない、生活に根ざした京都に関心のある方はぜひお気軽にご応募ください!」

代々受け継いできた町家をなんとか存続したい

最後に、町家の持ち主としてまちづくりセンターへ相談をされたのち、実際に改修をされた、俵秀史(たわらひでし)・妙子(たえこ)さんご夫妻に相談をした際のお話をお伺いしました。

「この町家は4代に渡り受け継いできたものですが、祖父の代で一度、他人の手に渡ってしまったことがあるんです。それを父がやっとのことで買い戻した経緯もあり、絶対に手放したくなかったんですね」

どんな形で町家を残すのかが決まらず、まちづくりセンターが主催するセミナーに足繁く通われるなかで相談するに至ったそうです。

「まずは京町家カルテを作ってもらいました。そうすると家への愛着は強まるし、町家特有の機能美や建築技法などの魅力もたくさん知ることができたんですね。現代の一般的な家には残っていない伝統工法がそこかしこに見て取れるわけです。そうするとますます町家は残さないといけないという使命感みたいなものも生まれてきましたね」

改修が始まっても町家の活用方法がなかなか決まらなかったそうですが、最終的には布バッグなどの小物作りをされていた奥様がその経験を生かして『カフェと布バックtawaraya』をオープンしました。改修の際にはまちづくりセンターが運営する「京町家まちづくりファンド」の改修助成も活用されました。

「まちづくりセンターには建築に詳しい職員さんもおられるし、建築に関する専門家にこと細かに相談に乗ってもらえたことも非常に心強かったです。相談を始めてから決断に至るまで3年ほどかかりましたが、その間もさまざまな相談に乗ってもらえて本当に助かりました」

今後は、改修した町家をレンタルスペースや1日オーナー制のレンタルカフェとして運営したり、裁縫ワークショップや何かの教室として貸し出したりと様々な活用を考えられているそうです。

俵さんのお話を聞く中で、まちづくりコーディネーターの仕事は、京町家を再生することで“建物”や“景観”を守るのはもちろん、京町家とともに歩んできた誰かの“人生”をも支えている、そんな一面も感じることができました。

“まちづくりコーディネーター”が行う仕事には決まったやり方も正解もありません。だからこそ自分で考えて答えを見つけていくというおもしろさがあります。地域の人との関わりを深めていくことが、未来のまちづくりになる。小さな小さな一歩がやがて京都というまちを形成していく。地域の人との関わりを大切にしながら、あなただからこそできる、あなたならではの「京都のまちづくり」をしてみませんか?

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