京都移住計画での募集は終了いたしました
京阪七条駅から鴨川沿いに北へ向かうと、東西に走る正面通りがあります。川の上空をかもめが飛び、川沿いはジョギングしている人がいて、のんびりした空気が漂っています。
正面通りの由来は方広寺大仏の正面の道だったことから。確かに通りを歩くと仏教関係の専門店があり、正面橋のそばには大きな鐘が置かれていました。
正面橋の西側は生活感のある住宅街が点在し、近くの高瀬川沿いにはホテルや旅館もあるため外国人の姿も多く見られます。昭和モダンな建物に目をやると、任天堂発祥の地とわかるプレートが施されていて、とても興味深いエリアとなっています。
今回の募集主である株式会社実業広告社(以下、実業広告社)はその旧任天堂の向かいにあり、昭和23年に創業した老舗の広告代理店です。
京都市内の交通広告を中心に、テレビやラジオ、新聞、雑誌といったメディアを通じて、70年にわたり、クライアントのニーズに幅広く応えてきました。
普段当たり前に目にする広告をメインに扱う仕事なので、自社で制作する広告は「人々を躍動、ワクワク、魅了するようなものでなければならない」と馬場俊光社長は考えているそうです。
交通広告を土台にBtoC向けの新しい事業へ
昨年で70周年を迎えた実業広告社。三代目の馬場社長の目標である100周年を迎えるためには、従来の広告型のビジネスモデルだけに依存しないことが大事だと考えているようです。
いま、交通広告の扱いは6割近いですが、従来のBtoBの仕事だけでなく、今まで培った広告会社としてのノウハウをもとに、BtoCに向けた事業をやっていきたいと考えています
その考えのもと、6年前の社長就任後には創造部(現在の制作部事業開発課)を立ち上げました。声をかけてもらってうれしかったというのは、制作と事業開発を兼任する森田さんです。
これまで広告だけでやってきたんですが、クリエイティブの使っていない筋肉がありました。それを使えるのは、まだ見ぬ自分に会えるようでチャンスだと思いました。
既存の事業にしがみつくことでクリエイティブな筋肉が固定化しがちなところ、新しい風を送り込むことで、使っていなかった筋肉が活用されるといった循環が起きつつあるようです。
馬場社長は先ほどのBtoCについて、あるエピソードを話してくれました。
近所に酒屋があり、角打ちスペースに外国人の方が缶ビールを飲みにきているのですが、とても楽しそうで、コミュニティやインバウンドがキーワードだと考えています。
コミュニティの話を受けて、森田さんが続けます。
女性のほうが消費力があるので、世の中がわりとなんでも女性中心になってきています。最近シニア向けのフリーペーパーに取り組んでみて思ったのは、問題なのは男性だなと気がつきました。
例えば映画鑑賞会を募集すると申し込みの80パーセントは女性です。女性のほうが外に出て行くのがあまり抵抗がないわけですが、20パーセントの男性をどうするかは社会的な課題だと思っています。
森田さんが例に出したのは東京都荒川区の、あるデイサービスです。もともと利用者の70パーセントが女性だったところを、男性利用者を増やすためにカジノのようなスペースを設けたところ、男女比が逆転したと言います。「すべてが女性市場になってしまったがために、男性が生きづらい世の中になってしまった。そこにデイサービスのカジノ企画が一石を投じた」とテレビ番組で語られていたそうです。
おじさん市場がこれからは面白い!
男性が充実した余生を送れるような場所をつくりたいです。そこは意外と新しく、金銭的に消費される市場なのかどうかはわからないけれど、消費だけが大事なのかとも思っています。
あえて決めてかかるのであれば男性。おじさん市場がこれからは面白いんじゃないのか。それに何かするためのフリーペーパーがプラットフォームになればと思っています。
森田さんはシニア層に向けた広告ビジネスの模索を続ける中で、読者向けの映画鑑賞会でひとつの発見があったと言います。
朝起きて新聞で目についた講演会やイベントのほとんどに応募・参加していると、いきいきと話す65歳ぐらいの女性に出会いました。そういう生活の中の楽しみに、自分たちのつくったものが組み込まれているうれしさがあったんですよ。
物販するなど、最終アウトプットにだけ目を向けるのではなく、その人たちの生活の中で、ちょっとしたうれしいものになれたらと森田さんは楽しそうに語ります。
どれだけのお金になるかわからないけれど、これからは時間とお金がほとんど等価値なんじゃないかな。等価値なら時間もお金を生むと思います。だからこそ時間をどういうふうにして、楽しい時間にかえていけるかということを考えています。
森田さんが編集長を務めるフリーペーパー「リトルノ」は、昨年12月に日本タウン誌フリーペーパー大賞のライフスタイル部門にノミネートされ、優秀賞を受賞されました。最優秀賞を逃した理由は他のメディアと比べ、誌面に血液が回っているかどうかの差だったと森田さんは分析します。
広告収入に依存しているフリーペーパーが多いのは確か。しかし、受賞作は広告でも、ちゃんと自分たちのテイストに変換して掲載していました。
シニアという観点では合っていますが、リトルノのテイストに編集できているか、デザインできているか、そのあたりのチューニングが必要で、ワントーンで整っていないのは決定的な差でしたね。
リトルノのブランド価値を高めるために必要なのは、クライアントの関係強化や、デザイン、ライティングなどスタッフにテイストを伝えて編成していく必要があると森田さんは言います。
森田さんが現在積極的に開催しているのはイベント開催で、ひとつは読者を対象にした映画鑑賞会です。100名の募集に対して、延べ人数で600名の方の応募がありました。もうひとつはビアレストランでの食事会です。30名の定員のところ、75名の応募があったそうです。
参加された読者全員に声をかけて話を聞くことに取り組み、そこから見出していきたいと森田さんは言います。
生の声が聞けるのがめちゃくちゃ楽しいです。60代70代の方が見ている映画や本は、私とものすごく価値観が似ていて、自分はシニアに近いと改めて思いました。
読者の中には僕のことを息子のように思っている方もおられて、そういう読者に支えられています。その人たちが何を思いながら人生を歩んでおられるのかということに興味があります。
シニアの方の話を聞いていると、自分たちが生きた時代の延長線上で昔のことだけをやるのではなく、スマホやSNSなどといった今の時代とリンクしながらやっておられると森田さんは表現します。
例えば古い映画の好きなシーンをInstagramにアップして、感想を書くなどしている様子を見たときに、森田さん自身が共感できるシーンだったことで楽しくおしゃべりしたそうです。
映画だけでなく、ビートルズが好きな人など、音楽好きは世代を超えるので、若い人をも巻き込めるコミュニティがつくりたい。われわれがつくる、というよりも読者といっしょにコミュニケーションの場をつくりたいと森田さんは考えています。
日本を代表する企業と仕事ができる喜び
既存の広告会社のままではいけないという思いが根底にあり、実業広告社は変換期にきているようです。ただし、新しい事業に取り組むことだけに価値を置いているわけではないと森田さんは強調します。
現場を見ていて思うのは、時代が変わっていることについていけていないお客様もいるけれどそれは必然で、古い会社だからこそその要望に応えられている部分もあります。
その部分で需要のある仕事もあり、例えばなぜ訂正がこんなにあるのだろうというような広告でも、訂正をしながらコミュニケーションを図るという部分もあります。新しいことと古いやり方をばっさり切り替えるのではなくて、少しずつ変えていきたいと考えています。
ではここで、制作部でともに働く仲間にも話を聞きたいと思います。
制作部のディレクター兼デザイナーの山口圭一さんは、もともと愛知県のご出身。奥様の出身が京都であり、近辺でデザインの仕事を探したところ、実業広告社に出会います。
山口さん:会社が交通広告など手がけているため、自分のつくったものが街中にいっぱいあれば壮観だなと思って入社を決めました。真面目で嘘をつかない社風と、クリエイティブな仕事なのに残業が少ないところが気に入っています
同じく制作部で働く鳴海仁士さんは東京都出身。百貨店の販促部などでデザインの仕事をしていましたが、奥様から実家のある滋賀で暮らしたいというリクエストがあり、滋賀から通える会社を探したと言います。
これまで深夜まで働く職場が多かったので、本当に山口さんの言うように残業が少ないことに最初びっくりしました。また、イラストの仕事も多くさせてもらえていて、子どもの頃の夢が叶ってうれしいです。
おふたりともこれまでの職場で残業が少ないのはありえなかったというエピソードを話されていました。
残業が少ない社風の背景には、実業広告社が創業当時から交通広告に携わり、長い期間、良い立地に優良な広告枠を持っていることが強みであり、直接広告主から仕事を受けていることがゆったりと仕事ができている理由なのではないかと森田さんは分析します。
主な仕事の流れは営業部が受注した広告の仕事を、営業担当者からヒアリングして制作するか、あるいは直接営業担当者といっしょにクライアントと打合せをして、デザインを制作します。
また交通広告だけでなく、催事などのイベントにも関わっているそうです。山口さんは10年間、京都のショッピングモールの年間販促を担当していたと言います。
最初はデザインだけで関わっていましたが、少しずつディレクターの仕事もさせてもらえるようになりました。今は後輩に仕事を譲っている途中で、デザイナーとディレクターの仕事の配分を少しディレクターのほうに傾けていこうとしています。
京都は老舗のクライアントが多く、「日本を代表する企業と仕事ができるのは本当にうれしい」とふたりは語ります。
京都は東京よりも大阪よりも、地方と都会がうまい具合に存在する地域で、仕事の幅も広いし、これからも成長していくまち。 東京人は妙にプライドが高い部分もありますが、 関西の人は面白いので僕は居心地がいいです
と鳴海さんは実感されているそうです。
ほかにも「都をどり」など、京都の伝統伎芸の仕事に携わることができるのが実業広告社の強みだとか。
ご自身が今取り組んでいることで楽しいことを聞くと、山口さんから「チョコレートの開発」という意外な答えが返ってきました。
チョコレートメーカーの周年事業で、実現しなかったもののスイーツを提案した過去があります。それが縁で、バレンタイン商戦の時期に相談いただきました。弊社の野田というデザイナーといっしょに提案して、今度の3月後半に発売されます。
森田さんは、容器から味にも関与できるデザインを施していると太鼓判を押します。
先ほど山口さんの話にあった野田さんとは、森田さんと同世代のアートディレクターであり、リトルノの表紙デザインをされている方です。吹き出しのコピーは森田さんが書き、イラストは鳴海さんが担当しています。
また、すべて社内だけで広告を制作するだけでなく、営業と予算の打合せをしながら外部のデザイナーなども活用して、仕事を回していると言います。
今回の求人募集のきっかけとして、「次につながるマインドを残したい」という山口さんの思いがありました。
制作部も営業部も自分よりも上の世代が多く、10年後に彼らが抜けたときに経験を引き継いでおかないともったいないことになってしまうと感じています。
枠にとらわれずに働く仲間がほしい
最後に森田さんに制作部全体としての動きを聞いてみると、「底上げプロジェクト」という営業部をサポートするような動きも行っているそうです。
これまでのクライアントの中から優良クライアントを再調査し、クライアントのうまく事業が回っていない部分を分析して、制作部としてできることを提案するというものです。
分析のためのヒアリングシートを準備して、営業担当者がヒアリングしてくるという方法をとった結果、昨年とあるクライアントで成功事例をつくることができたと言います。
制作部として非常に満足感がある仕事だったと思いますね。これまでは目の前に予算は見えているけれど具体策が見えていなかった。そこに営業が動きやすい道筋をつくるということができたのが良かったです。
森田さんは、いわゆる広告制作という言葉のイメージで語られる制作の仕事だけでなく、会社のビジネスモデルをどううまく回すか、というマネジメントの部分でもクリエイティブ脳を使っていくという姿勢に共感してくれる人にきてほしいと考えているそうです。
コピーライターやデザイナーでも問題なく、編集者や広報経験のある人、さまざまな人と接する経験をしてきた人、チームがつくれる人などが向いているのではないかと森田さんは語ってくれました。
過去の交通広告実績やクライアントとの信頼を担保に、新しい挑戦をしたいという馬場社長。それに対して、シニアの生き甲斐やコミュニティづくりで新しい市場を開拓し、読者との交流を楽しそうに語る森田さん。
従来の広告制作から逸脱した広がりを感じさせる山口さん、鳴海さんの話を聞いて、京都に根づく小さな広告会社の変化の兆しを感じることができました。
100年企業を目指したいという実業広告社。次の30年を歩んでいく為に、小さくも確かにあるその兆しを信じて、変化を共に重ねていける人をお待ちしています。
京都移住計画での募集は終了いたしました