募集終了2016.08.22

持続可能な農業へ。農業の未来をつくっていく企業

「未来からの前借り、やめましょう」

心に残るメッセージの発信元は、京都市南区に拠点を置く野菜提案企業「坂ノ途中」。農薬や化学肥料への依存度を下げ、「未来からの借り物」である農地を次の世代へしっかりと残す。そのためには、環境負荷の小さい農業に取り組む農家の暮らしを支える仕組みが必要となる。坂ノ途中は、有機野菜のネット通販や実店舗での直売、レストラン向け卸など販売チャネルを独自に開拓し、未来に誇れる持続可能な農業の基盤づくりを行っている。

2009年の創業から今年で6年目。「そろそろアクセルを踏み込まないと」。そう語るのは、代表取締役の小野邦彦さん。より影響力のある企業として成長するべく、スタッフの増員等、体制強化の意思を示す小野さんに、会社の成り立ちとこれからについてうかがうとともに、実際の働き心地と住み心地について、京都移住を果たしたスタッフにお話をうかがった。

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チベットで見つけた「カッコイイ生き方」

「もともと特に農業に関心があったというわけじゃないんですよ。むしろ環境問題に興味を持っていました」

そんな小野さんが農業を意識しはじめたきっかけは、大学時代、1年間休学してアジア各地をめぐった旅のなかにあるという。

「上海を出発してトルコのイスタンブールまで西へ西へと進みました。道中には、人であふれかえる大都市もあれば、観光地化した古代遺跡もあるんですけど、それを続けざまに見ていると、つくっては壊しを繰り返してきた人類の歴史を考えるようになって。賑やかな町にいても、この都市もいつか終わるんだろうなと思わずにはいられませんでした」

ある種の無常観をもった小野さんが、希望を見出すことのできた場所がある。それは、標高4000mを超えるチベット高原での暮らし。森林限界を超えた厳しい自然環境のもと、人々が乏しい資源を使い回しながら、持続可能な暮らしを営んでいる様子に胸を打たれたという。

「ヤクという家畜の糞を燃料に使ったりして、本当にムダのない暮らし。自然との共生、持続可能な暮らしとはこういうことなんだと痛感しました。それと同時に、人間の生き方としてカッコイイと思ったんですよ。あらゆるものを消費し尽くして、終焉に向かわせるだけの都会人の生き方よりも、ずっと」

小野@チベット

そんな旅の過程で、小野さんが着目したのが、チベットで「自然と人の結び目」であると再認識させられた農業だった。一方で今、主流となっている農業は、持続可能とは言えない側面が多い。つまり、収穫量を上げたり、手間を省いて楽をするために、農薬や化学肥料に依存したり気候に合わない作物を栽培し、その結果、痩せた農地を作り出し水質を汚染し、農産物もまた弱体化させるという悪循環を生み出す農業だ。

もっとも、環境や食への意識の高まりを受けて、無農薬・有機栽培の裾野も広がってはいる。だが、安定的かつ大量に生産するのが難しく、販路の確保もままならない。売れなければ、当然生活は立ち行かないので、志半ばでやめてしまう農家があとを絶たないというのが現実だ。

「新規就農者が農業を諦めずに済むようなビジネスモデルを作らなきゃダメだと思いました。じつは、学生時代に友人たちと着物を販売していたことがあって、そのときに知ったんですよ。ビジネスって自分の思いを社会に伝える有効な手段なんだと。だから、自分がめざす、環境負荷の小さい農業を広げるということをビジネスを通じて実現しようと考えたんです」

そんな決意のもと、小野さんはビジネスの基本を学ぶため、東京にある外資系金融機関に就職。リーマンショックにともなう“荒行”も耐え抜き、2年後、学生生活を送った京都に舞い戻り、高校の同級生と坂ノ途中を設立した。

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失敗を経験し、定まった方向性

「地方都市で、農業者の近くにいるからこそ成立するビジネスモデル。これを念頭に置いていたので、東京みたいな大都市で起業するつもりはもともとなかったんです。出身地の奈良はちょっと閉鎖的な面があるし、よそ者に優しい京都にしようと(笑)」

早速、京都近郊で3軒の提携農家を見つけ出し、おもに飲食店向けに販売することからスタート。市場には出回らないような珍しい有機野菜も提供できること、肉や魚よりも安くメニューに付加価値を付けられることなど、店主にとってのメリットを全面に打ち出して営業活動を展開した。ところが、その戦術が裏目に……。

「普段使いの野菜は従来通り市場の八百屋さんから買うから、紫ニンジンみたいな珍しい野菜を少しだけ持って来てと言われるわけです。そうすると納品量が少なくって、利益が上がらない。ビジネスとしても厳しいし、そもそも僕たちが扱う野菜の意味が、『ちょっとした便利アイテム』というように矮小化されていくようで、それが苦痛になっていきました。相手のベネフィットだけを伝えていたのではだめなんだと気づきました」

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そうした反省に基づき、冒頭の「未来からの前借り、やめましょう」をはじめとして事業の理念をオープンにし、それに共感してくれる新たな顧客の創出に力を入れた。すると、同じ飲食店でも以前とは違い、信頼関係を構築できる取引先が増えていった。やがて小売店からも注文が入るようになり、そののちに個人向けのネット通販事業もスタートさせた。

ところで、野菜のネット通販といえば、定期宅配の固定客をいかに多くつなぎとめるかが最重要課題。お試し利用のあと、継続する人の割合は1割程度にとどまるのが業界の常識だそうだが、坂ノ途中では3割もの人が継続利用を希望するという。さらに、定期宅配の開始後、1年以上継続する割合は通常1割にも満たないのに対し、坂ノ途中は約7割という驚異的な継続率となっている。

「やっぱり農家さんの力が大きいと思います。彼らが手間を惜しまず真摯に励んでいるからこそ、野菜の品質が高くなり、それがお客さんにちゃんと伝わる。農業が好きで農家になった人ばかりなので、新しい野菜づくりにも積極的です。一般的に野菜の定期宅配は、同じものばかりが届いて飽きてしまうんですが、ウチの場合、毎回何かしら変わった野菜が入っていて、楽しみにして続けてくれるお客さんが多いんです」

3軒でスタートした提携農家の数も、今や60軒以上。そのほとんどが、新たに農業を始めた若手の専業農家であるという。坂ノ途中では、顧客のニーズや生産者の特徴を踏まえつつ、「いつ、何を、どのくらいつくるか」を彼らと直接相談し、地域ごとに時期をずらして作付けしたり、顧客に彼らの個性や野菜の特徴を伝えるなどして、新規就農者の暮らし、ひいては持続可能な農業を支えるネットワークを広げている。

また、京都と東京に直営店を構え、坂ノ途中の野菜のおいしさに気づいてもらう接点を増やしている。さらには、京都府亀岡市で自社農場を運営し、新規就農を検討している人たちに、リアルな新規就農の実際を体験する機会をつくりだしている。

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そればかりではない。2013年には東アフリカ・ウガンダに現地法人を設立し、現地の気候に適したバニラビーンズやゴマ、シアバターなどの有機栽培の支援にも乗り出した。

「ウガンダのような発展途上国でも『未来からの前借り』は進んでいます。そしてそれは、多くのものを輸入している日本の暮らしとも密接に関係しています。

日本で地域内での資源循環をつくっていくとはもちろん大切なんですが、合わせて、それぞれの地域で、気候や土質に会った作物を栽培して、それを交換していく。そんな地域間の連携を組み合わせていくことで、持続可能な社会は実現すると考えています」

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求めるのは、「仕事=自分ごと」にできる人

これらのプロジェクトが本格化するにつれて、スタッフも徐々に増えつつある。昨年1年間でアルバイトスタッフを含め十数名が加入して総勢32名となったが、「まだ足りない」のが実状。もちろん、誰でもいいというわけでもなさそうだ。

「農家さんや顧客との窓口業務、農産物の出荷業務、店舗での販売業務など、仕事は数え切れないほどあるんですけど、何につけても、その仕事を自分ごとと捉えて、会社と一緒に成長してくれる人がいいですね。まさしく“坂ノ途中”にある会社なので、今後の変化を楽しめるかどうかも重要なポイントかもしれません」

ちなみに、坂ノ途中ならではのオイシイ特典も。本拠地・八条オフィスでの勤務なら、毎日野菜たっぷりのまかないランチがいただけるのだ。調理担当の専属スタッフがおり、「味もボリュームも申し分なし!」とのこと。仕事のアイデアや相談ごとを気軽に話せる、コミュニケーションの場にもなっている。

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「ご覧の通り、雰囲気はわりとユルいです。そういう意味で居心地がいいのかな。人の入れ替わりは少ないと思います。一緒にこの会社を成長させるぞ!という意識の人も歓迎しますし、将来の就農や農業分野での企業のためにここで数年働きたい、という人も受け入れています」

ユニークな経歴を持つ新メンバーたち

小野さんが望む「新しい風」といえる存在が、昨年度入社したばかりの狩野綾乃さんと片山大さんの二人。

狩野さんは東京農業大学出身だが、在学中はもっぱら北海道・網走にあるキャンパスでホタテの研究に勤しんでいたそう。卒業後、農業研修先のハワイでたまたま坂ノ途中の情報に触れ、「安心・安全を掲げていないところがいいな」と感じて門を叩いたという。京都の直営店「坂ノ途中soil」での販売業務を経て、現在は八条オフィスで生産者とのコミュニケーションや、経理会計を主に担当している。

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片山さんはというと、京都大学の大学院を卒業後、「巨大な社会インフラの構築にかかわる仕事がしたい」と東京の大手通信サービス企業に就職。何十億ものお金が動く国家的プロジェクトに関わることはできたものの、巨大さゆえの断片的かつ非効率な業務のあり方にある種の虚しさを感じていたという。

そんな矢先に、坂ノ途中に勤める学生時代の友人から「ウチに来ない?」と誘われ、思い切って飛び込んでみることに。それまでの経験とスキルを生かし、多岐にわたる業務をより円滑化するためのシステム開発に取り組んでいる。

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入社から半年〜1年が経過した今、それぞれの仕事のやり甲斐を聞いてみた。

「数字を管理していると、農家さん別の仕入額がダイレクトにわかります。なかには伸び悩む農家さんもあるんですけど、こちらからの働きかけやご本人の頑張りが実って、農家さんへの支払い額が伸びたりするとすごく嬉しいです。経理の仕事は未経験で至らないところも多々ありますが、自分も頑張らなきゃって励まされています」(狩野さん)

「以前の職場と違って、ユーザとの距離が近いのがいいですね。社内向けのシステムでも『こういう風になると仕事が捗るかも』といった要望を聞いて、すぐに機能をつくって『じゃあこんなのはどう?』と、作ったシステムをすぐに使ってもらえてフィードバックを受けられる。より早く、より良いものを追求できることにエンジニアとしてのやり甲斐を感じます。たまに地方の農家さんのところに行く機会もあって、農業という大きなフィールドに触れることができるのもおもしろいです」(片山さん)

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いま必要なのは、「正論クソ野郎」!?

おっとりした雰囲気の狩野さんとクールな印象の片山さんだが、二人とも見かけによらず熱いハートの持ち主だ。それがわかったのは、坂ノ途中という会社で今後どういう人材が必要か?という問いを投げかけたとき。とくに片山さんの発言は強烈だった。

正論クソ野郎、棚上げ仙人ですね。つまり、周囲に遠慮して現状を良しとするんじゃなくて、正論をブツけたり、自分のことは棚上げしてでも問題を指摘したり、言いたい放題言えちゃう人。多少軋轢を生んだとしても、大きく成長しようとする会社には、そういう人間が必要だと思うから。できれば自分がそうなりたいと思っています

また、狩野さんは「自分の仕事にちゃんと責任を持てる人」ときっぱり。加えて、「現状、煩雑化している事務作業をもっとわかりやすく、効率的にできるように片山さんらと連携していきたい」と、自らの責任を果たす考えも明かしてくれた。表現の仕方は違うものの、両者とも「仕事を自分ごととして捉えて欲しい」「会社と一緒に成長して欲しい」という小野さんの想いを受け止め、自ら体現しようとしている。

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京都に暮らして、思うこと

仕事はさておき、京都生活の満足度はいかばかりか。第一声は二人とも「夏、暑過ぎますね」だったが、それを除けば、それぞれのスタイルで京都の暮らしをエンジョイしている模様。

たとえば、休日の過ごし方。狩野さんは「カフェでまったり過ごしたり、近くの図書館に出かけたりします」、片山さんは「ぼくも図書館に行くことが多いですね。あと、川とか山に行ったりもします」との答え。ときには、会社の同僚と一緒に祭り見物に繰り出したり、貸農園を借りて野菜作りにも挑戦しているそうだ。

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ちなみに、狩野さんは知人の物件の1フロアを間借り生活。片山さんは元乾物屋を改装したシェアハウス住まいで、通勤手段はともに自転車である。「京都って自転車があれば、どこでも行けちゃうのがいいですよね〜」と、街のサイズ感も暮らしやすさのポイントに挙がった。とくに片山さんは東京からの移住とあって、京都の自然の多さ、身近さを感じるという。

「基本インドア派なんですけど、こっちに来てからよく外に出るようになったように思います。まかないのおかげもあって野菜もよく食べるようになったし、生活の質が全体的に上がったんじゃないですかね」そうしたプライベートの充実感が、彼らの仕事の活力になっているのかもしれない。

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創業以来、未来に誇れる農業のあり方を模索し、ときにつまずきながらも、着実に前進を遂げてきた坂ノ途中。その道は、誰かの手で舗装されたものではなく、これからも自分たちで切り開いていかなければならない。また、知る人ぞ知る細い道であってもいけない。多くの生産者や消費者が気づき、後ろに続いて来られるような大きな道が望ましいからだ。そんな道づくりに加わってくれる人を、必要としている。京都で、坂ノ途中で、自分自身の生きる道をも切り開いてみてはどうだろうか。

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