2020.05.01

歴史や技法を継ぎ、伝える。設計事務所の”小さなまちづくり”

京都移住計画での募集は終了いたしました

自宅、ビル、お店、お寺…まちを歩くと目に入る建築物は、すべて誰かが設計・建築したもの。携わった人の思いが表現されています。

今回ご紹介するのは、設計事務所「株式会社アートジャパンナガヤ設計(以下、AJN)」。岐阜に本社を置き、愛知・東京そして中国にも事務所を構える会社が、2020年11月、京都に事務所をオープンします。それに伴い、立ち上げメンバーとなる建築設計・監理の方を募集しています。

一番手前の黒い町家が、アートジャパンナガヤ設計の京都事務所。
二棟が連なった町家に一目惚れして、購入。中庭では野菜の栽培もしています。
町家に暮らすように働ける空間です。

日本の美や技法を継ぎ、伝える

1986年、代表取締役社長の長屋榮一さんは個人の設計事務所を設立。一人親方として、住宅や喫茶店の設計を手がけてきました。

創業当時から長屋さんの設計した建物は、数々の専門誌に紹介され、大きな注目を浴びてきたそうです。そうした実績がクライアントの信頼を得て、法人化。今では、医療や福祉業界から引っ張りだこの設計事務所に成長しました。

町家をリノベーションした京都事務所にて。

「今では物珍しさはなくなりましたが、私が医療業界の設計をはじめた頃は、硬いデザインの病院がほとんどでした。しかし、病院も人が集まるところですから、人を惹きつける装飾性があってもいいのではないかと考えたんです。そこで店舗の設計経験をいかして、カフェのような雰囲気の病院を創ったら大当たりして。一気に仕事が増えていきました」

順調に仕事が進む中、長屋さんは建築士としての可能性を感じる一方で、限界に気づいたと振り返ります。

「良くも悪くも金太郎飴なんです。建物を見たら、どこの誰が設計したかわかるんですね。一人親方としてやっていこうとすると、仕方ない面もありますが、多様性が失われてしまうと危機感を覚えました」

金太郎飴になるということは、裏を返せば、自分の表現したいことや作風が定まっているとも言えます。長屋さんは、なぜ多様性を追求することにこだわったのでしょうか。

「僕は日本建築の美しさを、多方面から残していきたいんです。だから自分が認められた建築物だけを、日本の建築美だと主張するつもりは全くなくて。むしろ多様性のある建築が残って欲しいと願いっています。そう思うと、自分一人ではできないんですね。自分とは違う建築スタイルも認めざるを得ないし、建築士を育てていかないといけないと考えていました」

こうしてAJNは現在、岐阜と愛知に13名の設計士が在籍。それぞれが一人親方のように動きながら、切磋琢磨しながら働いています。

設計事務所が構想する、”小さなまちづくり”

敷地の一番奥には、こんな素敵なお庭もあります。

長屋さんは、建築士の役割をこのように考えています。

「僕たちの役割は、街並みを創ること。時代に照らし合わせた建物を創りながら、建築の技法や歴史を伝承していけるのは建築士しかいません」

その上で、AJNが目指しているのは、”小さなまちづくり”であるとつづけます。

「一棟一棟創り上げていく僕たちがまちづくりをするんだ、という意識を持っているところが、AJNで働くスタッフの根幹に共通してあります。”小さなまちづくり”構想があるから、今では福祉・飲食・エステ・ペットサロン事業も展開しているんです」

自社で設計から運営まで手がける女性専用賃貸マンション。1階に飲食店、ヨガスタジオ、ペットサロン、6階にはエステも併設・運営を行う。

「多角化経営の乗り出すきっかけとなったのは、設計事務所の経営基盤の脆弱さを懸念してのことでした。もともと設計で関わり、業界事情に精通していたことから、まずは福祉施設の運営をはじめたのです。すると、福祉施設で働くスタッフが、休憩所が欲しいと言い出して、同じ敷地内にカフェを創りました。何も知らずにカフェに来た人が、福祉施設に興味を持ってくれ、見学を希望する流れも生まれて。これこそ、街の中に福祉施設が自然に存在するやり方だと思いました」

福祉施設のスタッフが「腰が痛い」と言えば整骨院を創り、「肌がボロボロ」と言えばエステを創る。エステに来る人から「エステ中にペットを預ける場所がない」と聞けば、ペットサロンをオープンする。こうして、期待やニーズに応える形で、事業を広げてきました。

ゆくゆくは建築系の学生が立ち寄ったり、地域の方向けにイベントを開催し、気軽に集まれるスペースにしていきたいと想像を膨らませています。

一見、嘘のようにも聞こえるほどトントン拍子で進んだ多角化経営。しかし、そこに居る人の求める機能が満たされるからこそ人が集まり街になると考えると、AJNが自社の敷地内ではじめた動きは、”小さなまちづくり”に欠かせないものだとわかります。

「僕たちは、”小さなまちづくり”を掲げて、全国に街に必要な機能を創っていきたいと考えています。そのためには各地に拠点があること、そして志を同じくする仲間が必要です。そのためにも、AJNグループとして共通の意思を持ちながら、一人親方としてグループ内での自立を目指してほしいと考えています。京都事務所では、京都の街並みを受け継いでいくためにも、町家再生を手がけたいですね」

経営コンサルティングもできる設計事務所

長屋さんから絶大な信頼を受け、多角化経営を支えるのが、執行役員であり店舗事業本部長の近藤裕美さんです。現在は、飲食店4店舗、エステ、ペットサロン、ヨガスタジオの7店舗を統括しています。

左:近藤さん

「実はですね、もともとケアマネージャー兼看護師として、福祉施設に入社したんです。しかし、福祉の現場がわかる人にマネージャーをしてほしいという長屋の希望から、畑違いの仕事をしています(笑)」

設計事務所として産声をあげたAJNですが、今では福祉施設や店舗の安定した収益基盤の上に成り立っています。設計事務所が多角化経営をするメリットを、近藤さんはどのように感じているのでしょうか。

「店舗マネージャーのほか、福祉のアドバイザーとして経営に携わっていることもあり、医療や福祉の設計を担当するチームが、コンサルティング先として紹介してくれることがあります。建物を創るだけではなく、運営もサポートできるのは大きな強みです」

また、福祉現場を経験してきた近藤さんだからこそ、設計チームに的確なフィードバックもできているのだとか。

「設計チームは、建物ができると見学に誘ってくれます。その場では、良いところも悪いところも、ハッキリと言いますよ。次の建物にいかしたいと現場の声を求めてくれるのはすごくありがたいですね」

作品性ある建物を創りたくて

最後に、今回募集する設計職に就いている、岐阜事務所・設計部係長の難波田真さんにも話を聞いていきます。難波田さんは、ハウスメーカーやゼネコン設計部で働いたのち、AJNにキャリアアップを求めて入社しました。転職したのは、より作品性のある建物を創りたかったからだそう。

左:難波田さん

「前職のゼネコンでは大きな仕事に携われる喜びはありましたが、工場の物件が多く、あまり意匠性を求められないことが多かったため、自分の創りたいものを創りたいという思いが募り、転職を考えるようになりました」

入社してから、その願いは叶えられたのでしょうか。

「はい!計画から現場の整理まで、基本的に一人で担当しますので、一棟一棟に自分の思いを表現できています。特に、弊社が得意とする医療・福祉系のご依頼は、住宅よりも予算に余裕があることもあり、クライアントの希望に自分の表現したいことを掛け合わせながら作品を創ることができます」

一人親方として働くやりがいを感じる一方で、難しさもあるようです。

「全部一人で担当するので、想像以上に人との関わりが多いです。机に向かって設計する時間と、現場に行く時間と半々くらい。相手の考えを汲み取る力や、自分の思いを正確に伝える提案力も必要になるので、人付き合いが苦手だと大変かもしれませんね」

難波田が設計した歯科医院。コンセプトは「皆に愛される町の美術館の様な歯科医院」で、美術館の様な落ちつたデザインとする事で「地域と環境」に溶け込んむ建築を目指しました。

「医療・福祉業界の仕事が多いですが、そのことをネガティブには捉えていません。相手がドクターであれ喫茶店の店主であれ、相手の思いや実現したいことを汲み取り、形にしていく建築士としての役割に変わりはありませんから。例えば、クリニックを創るにしても、人が集まる場を創るために必要な機能や装飾を追求すると、店舗設計に負けない装飾提案も可能なんです。僕は普段から、店舗設計や住宅設計の本も目を通して、担当する物件にいかしています」

長屋さんが話をしていた”小さなまちづくり”については、どう受け取っているのでしょうか。

「AJN自体がまさに小さなまちですよ。かっこよく言うと、いろいろな柄のパーツがあり、重なって一つの作品になるモザイクタイル画のようです。同じ会社だけどみんなライバルで、切磋琢磨していく先により良いものを創ろうとする弊社らしさが、現れている気がします」

作品性を求めAJNに転職してから、自分らしい設計を追求してきた難波田さん。最終的には独立を目指して経験を積んでいきたいと話します。

「長屋も、全国各地で”小さなまちづくり”を実現するため、AJNに属しながら自分の看板を掲げて独立することを推奨しています。将来的にどういう形になるかはわかりませんが、まずは先輩建築士のように、会社ではなく僕個人に指名で仕事が入るようになりたいです」

AJNの建築士は、5年、10年と長く働く人が多いそう。その背景には、「”小さいまちづくり”を担う建築士を増やしたい」と願う長屋さんの思いによって、独立や会社に属しながら個人名で仕事の依頼がくることが、オープンに認められる環境があるからかもしれません。

”学生の街”とも言われる京都には、建築を学びに地方から出てきている学生もたくさんいます。そうした人たちの仕事の受け皿を創り、ゆくゆくは地元や自分がチャレンジした地域で、AJNらしく”小さなまちづくり”を進めていく。そんな広がりを描く拠点にもしたいと考えています。

京都事務所オープンのタイミングで参画し、京都にしかない街並みや歴史を受け継ぎ、次世代に伝えていく立ち上げメンバーになりませんか。

執筆:北川 由依
撮影:岡安 いつ美

京都移住計画での募集は終了いたしました

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