2024.04.30

文化を守り、未来へつなぐために。京都の寺社仏閣を支える電気工事士

観光や修学旅行などで誰もが一度は訪れたことがあるような、京都の名だたる寺社仏閣のインフラ設備に携わっている会社が、京都市南区にあります。

足立電気工業株式会社は、京都市内の寺社の電気設備や防災・防犯設備の施工を軸に、自動火災報知設備や消火器具の点検・改修工事も行う会社です。今回取材に訪れた建仁寺の塔頭・西来院(せいらいいん)では、電気設備や電気通信設備の施工、照明のデザイン・施工に携わっています。

西来院は、2024年3月に大規模改修工事を終えて一般公開が始まったばかりです。取材に訪れたのは3月某日。公開を直前に控えて工事が着々と進む現場で、足立電気工業の皆さんにお話を伺いました。

建仁寺の塔頭・西来院

寺社のインフラを担い、信頼と実績を積み重ねる

足立電気工業は、初代社長・足立敏明(あだち・としあき)さんが1970年に創業。1973年に有限会社を設立し、1982年には株式会社に変更しました。「株式会社になった年に、僕は生まれているんですよ」と話す二代目社長の徳丸正憲(とくまる・まさのり)さんは、会社の成り立ちについてこう説明します。

徳丸さん

創業時は主に電気工事や防災工事を行っていましたが、お客さまの要望に沿ってライトアップや防犯設備にも事業が広がっていきました。寺社の仕事を多く手がけるようになったのは、清水寺の釈迦堂がきっかけです。1972年に豪雨による土砂崩れがあり、自動火災報知設備が鳴り止まなくなったときに、先代が駆けつけて対応したことから、清水寺さんとのお付き合いが始まりました。

そこから寺社仏閣の仕事が増えていき、今では全体の9割以上に。数々の寺社の電気設備や防災・防犯設備、ライトアップ照明などに携わっています。

徳丸さん

電気をはじめ、自動火災報知設備や防犯カメラなど、トータルで対応できるのが足立電気工業の強みです。これまでに清水寺や金閣寺、上賀茂神社といった寺社の仕事を積み重ねてきたことも、お客さまからの信頼につながっているのかもしれません。

「お寺の人間なら足立電気工業の名前を知っていますよ。信頼してお任せしました」と話す、西来院の雲林院宗碩(うんりんいん・そうせき)住職

徳丸さんが足立電気工業に入社したのは、10年ほど前。お寺や神社の建造物に彩色(さいしき)を施す仕事をしていた経験があり、昔から寺社仏閣が好きだったと言います。

徳丸さん

寺社に携わる仕事がしたかったのと、電気工事はこの先もなくならない仕事だと思ったのが、入社を決めた理由です。未経験でしたが、先代社長や先輩に現場で教わりながら仕事を覚えていきました。

2022年には先代から事業を引き継ぎ、代表取締役に就任。最初に話を聞いたときは「自分が社長になるなんて」と戸惑ったと笑う徳丸さんですが、どうやって事業承継を決意したのでしょうか。

徳丸さん

入社以来、先代に勧められて色々な資格を取るうちに、いつの間にか先輩方よりも規模の大きい仕事も任されるようになっていたんです。金閣寺の売店の新築工事を数年担当して、自信もついてきた頃だったので「何とかなるかな」と(笑)。

しかし、代替わりしてしばらくすると、人員不足に悩むように。コロナ禍は仕事量が少なかったため少人数でも対応できていたものの、徐々に仕事が増えてくると手が足りなくなったと言います。

徳丸さん

求人を出しても、なかなか応募がなくて。周りに話を聞いてみると、業界全体が同じような状況でした。京都府下の電気工事屋は高齢化が進み、事業者の数も年々減っています。跡継ぎがいなくて廃業するところが多いんですよ。だから、若い人がたくさん入る会社になれば事業を拡大していけるはずだと思い、どうすれば人が来るのか考えはじめました。

若い世代に興味を持ってもらえるように、まずは会社の「見せ方」を変えていこうと考えた徳丸さんは、京都を拠点に活動するデザイナーの三重野龍さんに依頼し、会社のロゴデザインを一新。また、情報発信にも力を入れるべく、Webサイトのリニューアルにも着手しています。さらに、労働時間や休暇、給与といった条件を整えて、働きやすい環境をつくっていこうと、デジタル化による業務の合理化・効率化を進めています。

こうした試行錯誤をするうちに、20~30代の社員も入社し、足立電気工業は平均年齢が約34歳という若い会社に生まれ変わりつつあります。

創建時の姿を守りながら、次の世代へ

少しずつ若手を増やし、体制を整えていくなかで始まったのが、今回取材に訪れた西来院の現場でした。

徳丸さん

最初は「エアコンの取り外しに来てほしい」と呼ばれて行っただけなんですけどね(笑)。大規模改修工事に携わることになり、1階の電気配線はほとんど新しくやり直して、照明もすべて付け替えました。

本堂に天井画を飾るため、もともと天井にあった照明はすべて取り外し、壁に間接照明を設置。「徳丸さんに任すわ」と住職から一任され、照明デザインから提案したそうです。

取材時は、他社の職人さんたちも作業を進めていました。本堂は中国人アーティスト・陳漫(チェンマン)さんによる「白龍図」の設置工事の真っ最中

施工は建物の中だけにはとどまりません。敷地内にブルーボトルコーヒーの移動式カフェが出店するため、庭園の景観を損なわないよう、土を掘って配線を埋め込んでいます。

徳丸さん

土木工事もあるので結構大変ですよ。穴を掘るのはしんどいですし、体中がバキバキになります。でも景観を保つためには一番大切な仕事なので。創建当時には存在しなかった現代的な電気設備を、寺社の景観といかに共存させるか、常に意識していますね。お庭のライトアップの仕事でも、できる限り人工物が見えないように施工します。

春・秋の期間限定で西来院に出店する「ブルーボトル コーヒートラック」

寺社の電気工事に携わる上で、もう一つ大切にしているのは、次の世代につなぐことだと徳丸さんはつづけます。

徳丸さん

「日本の文化を守り、未来へつなぐ」。これは先代から受け継いだ言葉です。電気設備の寿命より、寺社の寿命のほうがずっと長い。だから、いつかは取り換えの時期が来ます。僕たちが死んだ後も寺社は残りますから、次の世代が工事しやすいようにしておかないといけないですよね。

「外から見てもわからないけど、次に工事をする人は『ちゃんとやってるな』ってわかると思いますよ」とほほえむ表情から、文化を大切に継承していこうとする強い意思が感じられます。

信頼関係を築き、ニーズに応えていく

ここからは、若手社員の方たちにもお話を伺います。1人目は、2023年4月に入社した田中祐気(たなか・ゆうき)さん。前職の舞台俳優を辞め、30歳で電気工事の業界に飛び込みました。

田中さん

子どもが生まれて生活スタイルが変化し、仕事を変えようかと考えはじめて。前職では照明機材など電気を扱う場面も多かったので、転職に向けて、まずは電気に関する資格を取ろうと思いました。

電気工事士や無線・有線通信、消防設備の資格を独学で取得し、転職活動を始めた田中さん。足立電気工業が寺社仏閣に特化していると知り、「面白そうだな」と関心を持って入社を決めました。

いくつもの資格を取得していたとはいえ、全くの未経験。どうやって仕事に慣れていったのでしょうか。

田中さん

初めは社長や先輩に同行してもらいましたが、徐々に一人で作業をしてチェックをしてもらう機会も多くなってきました。今はある程度、裁量を持って働かせてもらっています。でも、知識はあっても経験は圧倒的に足りないのは自明の理なので、とにかく「焦らない」ことを意識していますね。文化財など貴重なものを扱うわけですから、お客さまとのコミュニケーションを頻繁に行い、しっかりと確認を取りながら進めています。

密なコミュニケーションを通して信頼関係を築くことを大切にしている田中さん。設備の保守・点検で出入りするうちに、お客さまから困りごとを相談されて、他の仕事につながるケースも多いと言います。

田中さん

足立電気工業は、電気だけでなく防災・防犯など業務の幅が広いので、やっていて面白いですね。ただ、業務範囲が広いがゆえに、引き出しの多さが求められるという大変さもあります。お客さまの悩みを聞いて、原因や解決策を導いていかないといけないですから。でも、最初から引き出しの多い人なんていないですし、日々の業務の中で少しずつ蓄積していけたらと思いますね。

入社して1年足らずの田中さんですが、会社や業界全体の未来もしっかりと見据えています。

田中さん

最近は、寺社仏閣でもDX化が進みつつあります。防犯や通信の設備を境内一円でネットワークを組むような事例も増えていますので、足立電気工業がこれまで培ってきたノウハウを生かしつつ、そういった提案もできるような体制を作っていきたいですね。あとは、寺社に出入りしている業者さんがどこも高齢化している現状がありますので、僕たちの会社だけでなく業界全体に若い人が増えていくような流れを作っていけたらと考えています。

責任ある仕事だからこそ、やりがいも大きい

つづいて、2023年8月に入社した竹内聡良(たけうち・そら)さんにもお話を伺います。高校卒業後、4年ほど宮大工として働いていた竹内さんは、当時から同じ現場に入る機会があったため、足立電気工業を知っていたそうです。

竹内さん

転職を考えていた頃に、徳丸さんが代表を引き継いだことを聞いて。徳丸さんは現場をしっかり見てくれて、自分の頑張りや成果が報酬にもちゃんと反映される環境だと感じていたので、ここで働きたいと思ったんです。

入社前に資格を取得していた田中さんとは違い、「未経験で知識もゼロだった」と話す竹内さん。現場で仕事を覚えながら、並行して資格のための勉強も進めていったそうです。今年1月には第二種電気工事士に合格し、最近は消防設備士も受験したと話す竹内さんに、「働きながら勉強するのは大変では?」と尋ねると、笑顔でこう答えてくれました。

竹内さん

電気工事士の試験は、普段から担当している業務内容と近かったので、そこまで苦労はしなかったです。消防設備士は、業務外のことも勉強しないといけなくて、ちょっと大変でした(笑)。

西来院の縁側で話をする竹内さんと田中さん。資格については「これから入社する人も、焦らず一つずつ取っていってもらえたら大丈夫ですよ」と田中さん

資格の勉強以外に、仕事で大変さや難しさを感じることはあるのでしょうか。

竹内さん

電気を扱うのはやっぱり怖いですよ。例えばショートさせたら、バチッと火花が出ますし、命に関わる場合もあります。現場は貴重な建物ばかりなので、絶対に火事を起こすわけにいかないですしね。

正しい知識や技術を持っておかないと危険のある現場。そんな緊張感の中で仕事をしているからこそ、うまくいったときの安堵感ややりがいは大きいと言います。

竹内さん

施工を終えて、最後に電灯がパチッと点いたときには、「あー良かった」とホッとしますね。仕事をしていて一番面白い瞬間だと思います。あと、大工のときは現場の途中段階までしか見られなかったので、電気工事だと建物の最終形を見届けられるのがうれしいですね。

現場では、宮大工の頃の知識や経験も生かせていると話す竹内さん。田中さんも前職で培った照明の知識をライトアップに生かすなど、それぞれが個性や得意を仕事につなげていける環境だと言います。最後に今後の目標について聞くと、こんな頼もしい答えが返ってきました。

竹内さん

今は主に社長から仕事を教えてもらっているので、まずは社長と同じくらい仕事ができるようになるのが目標です。いつかは追い抜きたいですね。

着々と若手が育ち、一人ひとりが持ち味を生かしながら活躍している足立電気工業。電気設備、防災・防犯設備という2つの事業をベースに、これからは3つ目の軸として、照明による空間デザインにもさらに力を入れていく予定です。

「寺社仏閣が好き」「伝統的建造物に関心がある」という人なら、きっと楽しみながら成長していける環境ではないでしょうか。文化を未来につなごうとする足立電気工業の皆さんの思いに共感した人は、ぜひ一緒にチャレンジしてみませんか。

執筆:藤原 朋
撮影:中田 絢子
編集:北川 由依

求人募集要項

企業名・団体名足立電気工業株式会社
募集職種電気工事スタッフ
雇用形態正社員(試用期間3ヶ月、試用期間前後の勤務条件の変更はなし)
仕事内容神社・寺院、その他事業所等の電気工事、消防設備工事、イベント設営等

【具体的には】
主に京都市内の神社仏閣の電気工事や消防設備の工事を担当します。
文化財の仕事も多く、次の世代も維持管理を行えるよう、丁寧な仕事が求められます。
最近は境内でイベントを行う寺社仏閣が増えており、電源の設営や照明の設置などの工事も担当します。
入社後は、簡単な作業から始めていただき、スキルに合わせてお仕事をお任せしていきます。
給与月給・基本給:
240,000円〜450,000円

・賞与:年2回、基本給2〜3ヶ月分支給(2023年度実績)
・残業手当:残業代に応じて支給
・資格手当:月3,000円〜
・皆勤手当:月20,000円〜
・家族手当:月3,000円〜
・交通費:実費支給、上限月7,100円
福利厚生退職金制度あり(勤続1年以上)
各種保険加入
勤務地本社 (京都府京都市南区東九条西明田町34-21)

・地下鉄九条駅から徒歩5分
・JR京都駅から徒歩10分
・市バス「九条車庫バス停」から徒歩2分
・バイク、自転車通勤可能
勤務時間8:30〜17:30(休憩時間60分)
残業:月10時間程度
休日・休暇年間休日114日(会社カレンダーによる)、週休2日制(土、日曜日、祝日)、入社6ヶ月経過後の年次有給休暇日数10日
応募資格必須:
普通自動車免許(AT可)をお持ちの方
手に職をつけたい方
幅広い知識を身につけたい方
寺社仏閣が好きな方

歓迎:
電気工事士の資格をお持ちの方
甲種4類消防設備士の資格をお持ちの方
選考プロセス京都移住計画の応募フォームより応募
↓   
書類選考(履歴書・職務経歴書)

面接
※基本的には対面での面接ですが、遠方の場合など、オンライン面接を希望される場合は相談可能です。

採用
面談場所本社( 〒601-8045 京都府京都市南区東九条西明田町34−21)
参考リンク会社サイト

求人への応募・お問い合わせ

募集要項を見る

オススメの記事

記事一覧へ