帽子店からの、想いをつないで。 夫婦で営む、温かなまちの鍼灸院「にこ鍼灸治療室」

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京都のおもしろい場所を訪ねる「場を巡る」シリーズ。人が集いハブとなるような場や京都移住計画メンバーがよく立ち寄る場をご紹介する連載コラム記事です。一つの場から生まれるさまざまな物語をお届けします。

京都市役所から、北に向かって歩くこと5分。一歩一歩進むたびに、大通りのざわめきが少しずつ背中から離れていきます。

この寺町二条の町並みの中に建つのが、今回訪れた「にこ鍼灸治療室」。2013年10月の開院以来、老若男女、たくさんの方々の健康を守ってきました。

実は筆者も、ここに通う患者のひとり。普段とは違う時間・目的で訪問することに少し緊張していると、「ようこそ、いらっしゃいました」という、いつも通りの和やかな声。

出迎えてくださったのは、鍼灸室を営む岩出佳隆(よしたか)さん・友子(ともこ)さんご夫婦。施術台に腰掛け、改めて姿勢を正して、お話を伺いました。

もともとは、100年続いた帽子店

「ここは昔、帽子店だったんですよ」と、話しはじめたのは佳隆さん。岩出帽子店として、佳隆さんのお祖父さまから続いた歴史は100年以上。木の温もりが優しい現在の施術室は、かつて帽子のショーケースが並んでいた場所。土間に置かれた2脚の椅子には、店主のお父さまとお客さんとが座り、笑い合っていたそうです。

「父が真剣にミシンに向かったり、お客さんに楽しそうに帽子を見せたりしている姿を、今でもよく覚えていますよ。ただ私は、ネクタイを締めて働く仕事に憧れて、家業は継ぎませんでした」

神戸の大学を卒業後、医薬品の卸会社で働き始めた佳隆さん。忙しく仕事を続けるうちに「『自分の商品』を売っていない」という感覚が強くなり、転職を決意。そんな中で、患者さんと時間をかけて向き合い、施術ができる鍼灸に興味を持ち、その道へと踏み出しました。

勉強のために通い始めたのは、熱海にある鍼灸学校。そこでクラスメイトになったのが、友子さんでした。

「静岡出身の私は、一般企業で働いていました。仕事の疲れをとるリラックス方法のひとつとして、興味を持ったのがアロマのマッサージ。学んでいくうちに、もう少し医療的な面からも勉強をしたくて、鍼灸学校に入ったんです」と友子さん。

学校を卒業した後、佳隆さんは鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師として、友子さんは鍼灸学校の教員養成課程に進み教員として、それぞれ働き始めた二人。経験と実績を積み重ねる中で、大きな転機が訪れました。

それは佳隆さんのもとに届いた、お父さまの訃報。100年以上続いた岩出帽子店としての歴史にも、幕が降ろされることになりました。

京都に戻ろう、そして一緒に鍼灸院を開こう。夫婦二人で、決心を固めたそうです。

10月21日、「あかりの日」にスタート

「鍼灸院を開くなら、生まれ育った寺町二条の、この建物が良いと思っていました。小学生のときに帰ってくると、毎日のように笑い声が響いている、明るい場所だったんです。100年以上の歴史と思い出があるお店を改装することに、ためらいもありました。ですが、祖父や父の想いが詰まったこの場所で、私たちも想いを込めて一生懸命仕事をするのが、一番の親孝行になるかなと思ったんです」

かつての帽子店の鏡が、今も玄関で患者さんを出迎える

近所の方に「いつ始まるんや?」と声をかけられながら改装を進め、2013年10月21日に開院。「やわらぐ」「なごむ」「おだやかに笑うさま」の意味を持つ「和」という漢字の読み方から、「にこ」と名付けました。

また開院日の10月21日は、偶然にも「あかりの日(※エジソンが、世界で初めて実用的な白熱電球を完成させたことにちなんだ記念日)」だったそう。光に包まれるような、温かいお店にしたいと願うお二人にとって、晴れやかな門出になりました。

「私たちの特徴は、一人の患者さんにも、夫婦で一緒に施術をすること」というお二人。施術中の役割は、明確に決めておらず、臨機応変に。患者さんや症状に合わせて、自然な立ち位置になるようにしているそうです。

「『〇〇専門の鍼灸院です』とは謳っていません。部分をみるのではなく体全体をみるのが東洋医学の長所だと思っています。『こんな症状も相談したい』『ここも気になっている』。何でも相談してほしいからこそ、あえて決めすぎることなく、患者さんに寄り添うようにしています。せっかくご縁があった方なのですから」と、声を揃えます。

最初はしんどくて顔を強張らせている方も、ある瞬間から、前の表情を忘れてしまうくらい、ふっと穏やかな顔つきになる。そんな患者さんの変化に立ち会えることが、二人の何よりの喜びなのだそうです。

毎月25日は、にこの日。気軽に相談できる、まちの鍼灸院へ

また、毎月25日を「にこの日」と定め、子どもたち向けに小児はりの体験会をしています。

大人と違って鍼を刺すのではなく、肌を撫でるような感じで施術を行うため、まったく痛みがないそう。子どもは回復力が高く、小さな刺激で快方に向かうので、驚くことも多いようです。

こういった子どもたちへの取り組みは、2人の体験と、想いから生まれたものでした。

「鍼灸師になりたての頃、甥っ子の施術をしたことがありました。中耳炎で泣いていたのがすっとおさまり、小児はりの効果を実感したんです。子どもが笑顔になったら、お母さんも明るくなるし、子育ての助けにもなりますよね。私は鍼灸を通して女性の応援をしたいという思いがあるので、小児はりがもっと広まってほしいなと思います。妊娠前から始まり産前産後、子育て期、更年期など、年齢に応じた鍼灸に力をいれていきたいですね」

友子さんの発言に、佳隆さんもこうつづけます。

「子どもの頃、近所のおじさん、おばさんに支えられて大きくなりました。この町に帰ってきたとき、私たちも今の子どもたちに向けて、何か力になれたら良いなと思ったんです」

佳隆さん自身も、幼い頃に鍼灸の施術で楽になったという、原体験があったそう。視界が明るくなったり、呼吸が深くなったり。大きくなって心や身体がしんどくなったときも、そのときの感覚が味方になってくれていると言います。

「回復するための治療法やきっかけは、何でも良いと思います。山や川に行って元気になる方もいますからね。私たちや鍼灸は、その手段のひとつ。まだ自分では気づいていないことが、回復へのヒントになることもあります。そんな気づきを、施術や対話を通して受け取ってもらえたら嬉しいなと思うんです」

岩出さんご夫婦が朝、お店の前で水撒きをしていると、出勤中の方に相談されることがあると言います。身体のことや、鍼灸のこと。きっと、気になったときが「そのとき」。症状がひどくなった後の最後の砦ではなく、もっと手前の段階から気軽に相談してほしい。「美容院に行くみたいに、気軽にね」と、二人は優しい笑顔で語りました。

マンションが建ったり、飲食店が増えたり、開院してからもどんどん変わっていく寺町二条の町並み。少しずつ賑わいを増す路地の途中で、にこ鍼灸治療室からは、今日も和やかな光が溢れています。「早くまた二人にお会いしたいな」と、次の施術が楽しみになった帰り道でした。

僕は、気圧の変動に弱い体質です。ときには仕事が手につかなくなるくらい、ひどい頭痛に悩まされていた時期がありました。
そんな中で友人に紹介してもらったのが、「にこ鍼灸治療室」さん。体調が安定した今でも、身体のメンテナンスのため、そして二人の優しい空気に癒してもらうため、通い続けています。
一度行けば、その温かさがきっと伝わるはず。身体の不調でお困りの方は、ぜひ!

『にこ鍼灸治療室』
住所:京都府京都市中京区二条通寺町西入山本町442
TEL:075-231-3524
営業時間:8:30〜12:30 / 15:00〜19:00(最終受付 18:30)
定休日:日曜日
ホームページ:https://nico-hari.blogspot.com/

記事の作成に関わってくれたクリエイター

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