2023.02.17

彩りある暮らしと出会う。IT業界出身の2人が営む「うつわと雑貨のお店 minamo」

CHECK IN

京都のおもしろい場所を訪ねる「場を巡る」シリーズ。人が集いハブとなるような場や京都移住計画メンバーがよく立ち寄る場をご紹介する連載コラム記事です。一つの場から生まれるさまざまな物語をお届けします。

京都の東西に、800mに渡って連なる三条会商店街。そこから南に下り、歩くこと70m。武信稲荷神社へと続く細い路地の途中に、染色工場をリノベーションした建物が見えてきます。ここは「三条未来ファクトリー」。デザイン事務所などが入居するシェアアトリエです。

このRoom4に、2022年8月に新しくオープンしたのが、今回訪れた「うつわと雑貨のお店 minamo」。全国からセレクトされた作品が、5.6坪の店内に賑やかに並びます。運営するのは、菊池映美(きくちえみ)さんと林皓太(はやしこうた)さん。カラフルなお店の背景には、2人の想いと努力が隠れていました。

東京のITベンチャーから、京都へ

店主を務めるのは、菊池さん。接客や商品の発送、作家さんへの連絡から経理まで、お店のオペレーション面を担っています。一方代表の林さんは、見せ方と戦略の担当。SNS用の写真を撮影したりマーケティング施策を考えたりと、分担しつつも協力して仕事をしています。

「お店のコンセプトは、『あそびゴコロのある日々を、暮らしの道具から』。内装の参考にしたのは、フランスのお店です。器を重ねて置いてみたり、作品とは関係のないレコードを置いてみたり。あえてごちゃごちゃさせることで、それぞれを手にとって見てもらいやすくなればと思っているんです」と菊池さん。

「なぜ海外のお店を参考に?」と聞いてみると、実はかつてアメリカの大学に通い、陶芸を学んでいたとのこと。東京で生まれ、芸術系の仕事をするご両親のもとで育つうちに興味が湧いていったのだそうです。

「器をつくる土は、もともと人間が暮らしている地面から取ったもの。作家さんの作品はもちろん大切なものですが、手で触ってもらえるような身近なものであってほしいし、その温かさを感じてもらいたいと思っています」

「そういった想いはお互い共有できているので、作品を選ぶときは暮らしに馴染んで楽しんでもらえるもの、という観点を大切にしています。でも、正直かなり直感ですね(笑)」と、続けたのは林さん。

京都・宇治出身の林さんは、就職で上京し、IT系の会社で働いていました。毎日必死で働くうちに芽生えてきたのが「これで良いんだろうか」という一つの疑問でした。

「それまでは目の前のことで一生懸命だったんですけれど、一度立ち止まってゆっくり考えることができる環境がほしくって。京都はそれができる場所なのかなと、帰ってくることにしました」

ちょうどその頃、同じように東京のITベンチャーで働き、転職を考えていた菊池さん。2020年2月に京都にUターンした林さんから「京都、めっちゃ良いよ」と連絡を受け、「じゃあ私も!」と続いたのだそうです。林さんの移住から、わずか2、3ヶ月のことでした。

複業・未経験でのお店づくり

京都で流れる時間の中で、それぞれの暮らしと向き合うことができた2人。浮かんできたのは、「いつか、お店をやってみたいね」という、かつて交わした会話でした。

「2人ともIT業界出身なので、仕事として作家さんと関わったことなんてありませんでした。でも、お互い器も雑貨も大好きなんですよ。洋服とかメガネとか……。そういった自分たちの『好き』と接点を持ちたくって、お店というワードが出てきたんです」

菊池さんは、当時をそう振り返ります。

お店をやるなんて、初めてのこと。しかも、お互い本業を持つ身。まずはどうしたら良いんだろうと悩むことからのスタートだったといいます。

自分の力だけではどうしようもないと、実際にお店をやっている方に『相談に乗っていただけませんか』と駄目もとでアタック。すると返ってきたのは、優しく温かい返事の数々でした。

「京都は個人でやっているお店がすごく多いですよね。経営のことや、続けることへの不安……。とても親身になって答えていただきました。また、この『三条未来ファクトリー』は、菊池が見つけてきてくれました。家賃もすごく良心的で、驚きましたね」

周りのサポートも、物件も。京都に住んでいなかったら、きっと夢のままで終わっていたかもと、林さんは言います。自分たちで壁を塗ったり、棚を取り付けたり。少しずつ理想のお店を目指していきました。

お店に並ぶ作品は、そのほとんどをInstagramやTwitterなどのSNSから見つけ、作家さんにアプローチしてきたそう。

「オープン前は、お店の影も形もありませんので、自分たちの想いを丁寧に伝えることを心がけました。林がまとめた資料と一緒に連絡してみたら、9割くらいの方から『ぜひ、お店で扱ってください』とお返事をいただいたんです。反応がなくて当たり前と思っていたので、ここでも人の温かさに触れることができました」と菊池さん。

現在お店に並ぶ作品の約7割は、関西の作家。これまでどこにも出品したことがないという若手の方も多く、「自分たちもスタートしたばかりだから、一緒に頑張りましょう」と会話もしやすいのだとか。世に出る最初の一歩の後押しができればと、2人は声を揃えます。

手触り感と温かみのある暮らしを、三条から

初めてだらけの、お店での日々。1日1日を過ごす中で、お店をやっていて良かったなと思える出来事が積み重なってきたと2人は言います。

「ECサイトで商品を買ってくださったお客様に、メッセージカードを同封したことがあります。そしたら、『届きました、ありがとう』って感謝のメールを送ってくださった方がいたんです。その時は、思わず泣いてしまって……。大変なこともあったけれど、むくわれたような瞬間でした」と林さん。

「私も日々連絡をいただけるのが嬉しいです。例えそれが、作家さんからの出品お断りのメールだったとしても。まったく知らなかった人同士なのに、そこにコミュニケーションが起きて、商いにつながるのってすごいことだなと感じています」。菊池さんも続けました。

三条会商店街の方々も、時々お店に遊びにきてくれるのだそう。手触り感と、温かみのあるお店。2人が目指している姿が、日々の営業の様子の中にもうかがえます。

最後に2人から、今後の抱負を聞きました。

「これから色んな知識や暮らしのことを吸収していって、もっとできることを増やしていきたいなと思います。例えば海外に行きたい作家さんがいたら、『私は英語できるし、一緒に挑戦しようよ!』ってお手伝いができますし。お客さんにも作家さんにも、お店を通して、楽しい生き方の提案ができたら嬉しいです」(菊地さん)

「それぞれがありたい姿でいることができて、それを楽しいと思える暮らしを、お店を通して実現していきたいです。今は器と雑貨を扱う店ですが、それだけをやり続けようとは思っていません。まだ全然イメージはできていないんですが、自分たちのテーマを広く捉えて、新しいことにも挑戦していきます」(林さん)

まだまだ余白だらけ、というminamoのお店。考え出すと沼にハマってしまうので、まずは行動してみることが大切だと2人は言います。考えるだけじゃなくて、具体的にかたちにしてみること。「それこそ、こんな風に取材してもらえるなんて思っていませんでしたからね」と、笑顔を見せてくれました。

東京にいた頃は、想像もしていなかった京都での日々。忙しくも心地よい日常の波に、ゆっくり揺られながら。ここ三条の一角から、カラフルな未来がかたちづくられています。

うつわと雑貨のお店 minamo
営業日:毎週金、土、日、月曜13:00〜18:00(不定休・変動あり)
Instagram:https://www.instagram.com/minamo_kyoto/
オンラインストア:https://minamo-kyoto.stores.jp/

編集:藤原朋
執筆:小黒恵太朗

CHECK OUT

お二人に初めて会ったのは、オープンを間近に控えた初夏のころ。「きっと素敵なお店になるんだろうな」と、オープン初日を楽しみにしていたことをよく覚えています。minamoさんで、これまでに器とブローチを買いました。器は、ちょっとしたおやつを食べるときに。ブローチは、妻へのプレゼントに。僕の暮らしも、おかげで少し楽しくなりました。

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