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京都の日常を彩る食を訪ねる「食を巡る」シリーズ。京都らしい食べ物や飲み物、京都移住計画メンバーのお気に入りの一品をご紹介する連載コラム記事です。食べることは生きること、京都での暮らしに彩りを与える物語をお届けします。
食を巡る第18弾は、四条大宮に店を構える「インディアンレストラン・ティラガ」。
南インド出身のシェフが腕を振るうミールスやビリヤニは、現地の人がうなるほどおいしいと評判。また、映画上映会やミニコンサートなどを定期的に開催するなど、文化の発信地としても異彩を放つ飲食店です。多様な取り組みについて、オーナーの伊勢司さんにお伺いしました。
本場の南インド料理が楽しめる
阪急大宮駅から歩いてすぐのところに位置する「インディアンレストラン・ティラガ」。
スタッフが大事に育てている草花とインドの国旗が目印のお店は、まるでインドを訪れたかのようなたたずまいです。現在、南インド出身のシェフのみが在籍しており、日本に来る前は、インドの5つ星ホテルやリゾートホテル、世界各地のレストランに勤めていた経験もあります。
そんなシェフたちが腕を振るうティラガでは、お米が中心の南インド料理と、小麦が中心の北インド料理の両方を楽しむことができます。
豊富なメニューの中でも、初めて訪れた方に食べてほしいのは、南インドの定食であるミールス(お米を中心に、豆や野菜などのおかずがたくさん並んだ料理)やドーサ(米と豆を発酵させた生地で作るクレープのような料理)だそう。
またシェフのプラシャントさんは、料理をしていて嬉しく思う瞬間について、「お客さんが自分たちの料理を美味しいと言って、幸せな気持ちになってくれるとき」だと言います。
シェフたちの思いのこもったインド料理を食べることができるのが、ここ「インディアンレストラン・ティラガ」です。
2022年春開講!インドから学び~舎とは
本場の味やサービスを提供するティラガでは、お客さんにさらに楽しんでもらうために、食事の提供にとどまらず、インドの文化を伝える取り組みもしています。
その一つとして開催しているのが、2022年春から、毎月第4日曜日に「インドから学び〜舎」というイベント。「美味しくて!心躍る!びっくりインドツアーにご招待」をキャッチコピーに、7か国語を操るコミュニケーションの達人、現代の民族服の作り手、インド辺境の地を旅する編集者といった多種多様なゲストを迎える贅沢な体験型イベントです。
トークショーの後には、イベントのテーマに合わせてシェフが腕を振るうオリジナルミールスも味わえます。
「インドから学び〜舎」には、学生なら毎回無料で参加できる「まなびや学生制度」という制度があります。
「とにかく新しいものに触れる機会を、こちらから歩み寄って提供してみようと考えて作った制度です。飲食業って、毎日料理を作ってお客さんに食べてもらい、その日その日の最高を出していくという、サイクルの輪が小さいイメージですが、この制度はもっと大きなサイクルで捉えています。イベントに参加しているときは何も思わなくても、ここでの体験がいつか人生のどこかで繋がって、何かを感じてくれたらいいなと」
シェフ一人ひとりにフォーカスするイベントも開催
「インドから学び〜舎」は「人」に焦点を当てることを大切にしてきました。そんな中で、もっとシェフ一人ひとりにもフォーカスしていきたいという思いから、シェフの思い出の味を再現する「シェフの思い出の味を巡る」という月ごとのイベントも2022年7月から開催しています。
シェフたちは普段は分業で料理をしていますが、このイベントでは担当のシェフがワンプレートを一人ですべて手がけます。その料理をみんなに「おいしい」と言ってもらうことは「シェフたちのやりがいにも繋がる」と伊勢さんは言います。
「シェフたちはみんな奥さんや子供たちをインドに残して出稼ぎに来ているんです。当たり前ですけど、日本に来たことが間違いだったとは思ってほしくないですし、稼ぎだけでなく自己実現や楽しみのために日本に来てもらえるようにしていきたいと思っています」
また近い将来、インドの経済が発展して、日本のお給料と変わらなくなる日が来ることを見据え、日本のインド料理屋の未来を、伊勢さんはこのように語ります。
「今後日本に来て、働くことを選択するインド人は減っていくと思う。日本のインド料理屋がプロフェッショナルなサービスを提供し続けるために欠かせないインド人のシェフには、対価としてのお給料をきちんとあげていく必要があります。ティラガでは、プロフェッショナルなサービスや料理にさらに磨きをかけて提供し、シェフの働きがいの向上やお給料のアップにつなげていきたいです」
日本とインドから平和を実現する
2005年に開店したティラガ。伊勢さんがお店を引き継いだ2016年には、経営が悪化している状態だったと言います。
「引き継いだ当初は、もうボロボロ。でもシェフの腕前は確かだったので、料理のレベルは高かった。だから、場さえちゃんと整えば人は来るようになるだろうと思って、とにかくお店を整えていきました」
伊勢さんが目指すのは、日本人のお客さんから観光に来たインド人、働くシェフたちまで、すべての人が幸せになれるような場づくりです。
「めちゃめちゃ大それた話ですけど、平和っていうものを実現したいと思い、今のレストランの形になりました。人と人が出会って理解し合うしか、平和は実現できないと思う」
そのように考えるようになった経緯は、インドの大学院での経験が関係していました。
「留学して同じ世代の子たちと勉強するなかで、宗教的なカーストの問題もあるけれど、そんなことは気にしていない部分もたくさんあって。『恋愛して振られた』とか『就活が上手くいかなかった』という話をしてくれたり、一緒にバカ騒ぎしたり。違う部分もあるけど、同じところもいっぱいあって、結局は同じ人間同士なんだなって感じています」
「人同士って、面と向かって、会って、理解しようとすれば、国も人種も関係なく、わかり合えるんだって思いました」
平和を実現するための三要素とは?
伊勢さんは平和を実現するためには「相互理解」が大切だと考えます。そしてその相互理解のために3つのことを意識しています。
それは、「本物を体験する、異文化を理解する、共生する」ということ。
本物を体験してもらうために、ときには伊勢さん自らインドに赴き現地のシェフをスカウトしてくることもあります。また、インドから日本へ観光に訪れた方は、宗教上の理由で特定の料理しか食べないということも多いため、それぞれに対応した現地の味をそのまま提供できるようにもしています。
また異文化を理解し合うために、インド映画の上映会や、三味線の演奏会、京文化のマナー講習など、日本やインドの文化にまつわるイベントを開催しています。
「インド料理は知っているけど、三味線などの日本文化は知らないという人に新しいことを知ってもらう。逆に、インド料理を食べたことがない人にとっては、イベントがインドへの入り口になるかもしれません。インド料理屋で日本文化にふれて、そしてインド料理を食べる。この場所で相互理解を表現したいんです」
伊勢さんは、相互理解が生まれることによって「共生すること」に繋がると考えています。「インドから学び〜舎」や「シェフ思い出の味を巡る」もそのことを念頭に置いたイベントなのですね。
食とは日々のこと。特別なことをしたいとは思わない
文化の発信を行うティラガですが、伊勢さんは「特別なことをしたいとは考えていない」と言います。
「子供たちや次の世代の人たちに、インドの文化を伝えていけたらいいなと思います。ティラガは本物のインドを体験できる場所。日本にいながらインドに一番近いという異文化理解の入り口となればいいですね」
未来に向けて語る伊勢さん。
食とは日々のことであり、当たり前のように、美味しく、楽しく受け取れば、それでいいものなのだと思います。そんななかで開催されるイベントは、ちょっとしたスパイスのようなものなのでしょう。その刺激をどう受け取り、未来につなげるかはあなた次第。
「本物を体験し、異文化を理解し、共生」できれば平和に繋がると信じ、インディアンレストランティラガは今日も元気に営業しています。
執筆:山際 聡一郎
編集:藤原 朋
CHECK OUT
今回取材させていただいた「インディアンレストラン・ティラガ」は私がアルバイト勤務している場所でもあります。
おすすめポイントはなんといってもインド本場の味を楽しめるところ。南インド出身のシェフが作るミールスはほんとうに絶品です。あまり知られていませんが、シェフにお願いすれば辛さの調整なんかもできますよ。ぜひ足を運んでみてください。
『インディアンレストラン・ティラガ』
住所:京都府京都市中京区壬生坊城町56−1 浪花ビル 1F
TEL:075-821-1250
facebook:https://ja-jp.facebook.com/thilagakyoto/
『インドから学び~舎』
美味しくて!心躍る!びっくりインドツアーに招待します。旅行になかなか行けない今だからこそ、この学び舎でプチ異世界体験をしてみてはいかがですか。
開催日:毎月第4日曜日
場所:インディアンレストラン・ティラガ
詳細:インドから学び~舎 Instagram公式アカウント