あなたのファッションにボタンで彩りをそえて。 京都の洋装の歴史を支えてきた、ボタンの店・エクラン

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京都のおもしろい場所を訪ねる「場を巡る」シリーズ。人が集いハブとなるような場や京都移住計画メンバーがよく立ち寄る場をご紹介する連載コラム記事です。一つの場から生まれるさまざまな物語をお届けします。

レトロな色使いや柄のボタンがずらり。ここには、約100万個以上のボタンがあるそう。今ではなかなか目にすることのない、細かな装飾が施されたアンティークボタンもあり、見ているだけでウキウキしてしまいます。何に使うのかも決まっていないのに「どれにしょうか」と悩み、今日もついつい長居してしまうのです。

お店の名前は「ボタンの店エクラン」。京都寺町二条に店を構えて、70年以上。20年前にボタンの専門店となりましたが、以前は洋裁材料全般を扱う小売店だったそう。店主の本間邦亮(くにすけ)さんに、これまでのエクランの歩みをお聞きしました。

本物に触れて身につけた目利き

エクランが創業した頃の日本は「洋裁ブーム」がおきていました。戦後で物資が不足する中、着物や生地を仕立て直した洋服を作って着用するようになり、身軽に動ける洋服は、瞬く間に普及しました。

「戦争で多くの男性が亡くなり、残された女性たちが稼ぎ手とならざるを得ない状況が生まれました。そこで栄えたのが、洋裁業界です。当時は京都にも洋裁学校がたくさんできて、うち以外にも洋裁材料屋は何百店もありましたよ」

本間さんはもともとこの店の従業員として、ボタン部門の担当者をしていました。1、2年おきにパリやイタリア、ドイツなどヨーロッパの各国へ足を運び、買い付けを行っていたそう。

「まだココ・シャネルが生きていた時代からパリに行っていましたよ。ボタンの展示会やファッションショーの見学、ボタン工場へ買い付けに出向きました。昔のボタンはイタリー製が多かったんですよ。ボタンを作る機械のほとんどがイタリー製でしたからね」

ガラス製はドイツ、木製はフランスというように、異なる個性のボタンを求めて、ヨーロッパ中を飛び回っていた本間さん。自らの目利きで買い付けたものだからこそ、エクランにある100万個のボタンも、どのメーカーでどんな材質なのかなど、すべて把握しています。

「ファッション流行りや日本人の好みとかを考慮して、サイズや色をセレクトしていたからね。ボタンは同じデザインでもたいてい4サイズぐらいあるんです。国によって好む色も違うから、どのサイズ、色がよく売れるか考えてバランスよく買わないと。日本では黄色やグリーンはあまり売れませんでしたね」

思い出の服をもう一度

2000年ごろに、前店主の方から店を引継ぎ、エクランはボタンの専門店となりました。しかし、時代の流れと共に大量生産された既製品が出回るようになり、年々需要は少なくなっています。

「衰退期に入っているのに、お店をやるのはしんどい。でも、それがわかっていたから良かった方かな。社員はほとんど入れずに、今は家内と娘と3人でやっています。それでもここが何で残っているかというと、資金が潤沢にあったときにみんなが買わないようなものを買っていたんです。もう全部が全部、今は手に入らないようなものばっかり。それを昔のままの値段で販売してるんです」

プラスチック製の300円程のボタンもあれば、10000円以上する豪華な物も

職人の高齢化、需要の減少などにより、今エクランにあるようなボタンは、手に入りづらくなっています。ボタンを専門に扱う店も、ここと東京にあるお店ぐらいなのだそう。私がここで手に取ったボタンが、最後の一つということもありうるのです。

本間さんと共に店を営む、娘の智里(ちさと)さんに話を伺うと、貴重なボタンを求めて、エクランには遠方から訪れるお客様もいると教えてくれました。

「Instagramでボタンを紹介しているのですが、それを見ていただいたのか、ボタンを使ってアクセサリーを作られる作家さんや古着を好む若い女性の方も来ていただいています。コロナ前は海外の方が、旅の途中で立ち寄ってくださることもありましたね」(智里さん)

ボタン以外にも、レースやバックルなども扱っている

若い頃に着ていた洋服をもう一度来たいから、と洋服を持って来店される方も。

「30年前に愛用していた洋服を着たいけど、ボタンが派手で取り替えたいの、とご来店されました。昔の洋服は質がいいのですが、金ボタンなど派手なボタンが多いんです。ボタンを変えるだけで、今のご年齢や雰囲気に合った洋服に変えることができる。また着ることができると、喜んでいただけたようです」(智里さん)

智里さん自身も手持ちの服のボタンをつけかえるなどして、ボタンを使ったファッションを楽しんでいる

ボタンが外れて着れなくなったお気に入りの洋服がある方は、新たなボタンを見つけにエクランに足を運んでみてください。ただし、ボタンホールの大きさに合わなかったり、ボタンに厚みがあって入らないこともあるので、できれば洋服を持参してほしいとのこと。どんなものがいいのか困ったら、本間さんや智里さんに相談してみましょう。

カッコよく、楽しく、気分良くいられるファッションを

本間さんは「ボタン」は洋服の価値をあげるパーツ、あくまで洋服とトータルでコーディネートされたときにその真価が発揮されるものであると言います。けれど、ボタンを1つ変えるだけで、その人のオリジナルが発揮され、自分だけのファッションが演出できる役割を持つのだとも。

「無地の服に、無地のボタンをつけたってあんまり効果がない。そういう服こそ、ゴールドをあしらったデザインやガラス製のボタンをつけたりね。逆に柄ものの服には無地がよく合うはず。同化しすぎたらボタンの値打ちがないですよ」

手頃な服でもボタンを変えるだけでイメージが変わり、ファッションが楽しくなる

本間さんは多くは語られませんでしたが、言葉の端々にはファションに70年ちかく携わってきた人ならでは熱い思いを感じました。

「今も昔もファッションというものを楽しんで、みんな気分よく過ごせるような生活をしてほしいという思いがあるんです。何もお金かけずになんぼでも、ボタン1つ変えるだけでも格好よくなる。僕らボタン屋としたら、そんなことしかできんのですけどね。自分の少しの手間と努力をすればうまく、気分よく生活できるんとちゃうかな」

本間さんは気分良くいられるために、クラシック音楽を聴きながら過ごす時間を大切にしている

「その人が気分良くなるようなお手伝いを」。そんな気持ちから、本間さんは海外まで足を運び、多種多様なボタンを買い付けていました。そんな本間さんの目利きによって選ばれたボタンがずらりとならぶエクラン。さぁ、今日はどのボタンをお迎えしようかな。ここで出会えたことに感謝して、大切に選ぼう。

『ボタンの店エクラン』
住所:京都市中京区寺町二条下ル榎木町98
TEL:075-254-5208
定休日:火曜、祝日、臨時休業あり
営業時間:10:00〜18:00
ホームページ:http://ecrin.cocolog-nifty.com/
Instagram:https://www.instagram.com/ecrin_kyoto/?hl=ja
※通信販売は原則行っていません

記事の作成に関わってくれたクリエイター

  • written by
    ミカミ ユカリ

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