「食」を通じて季節のうつろいを感じる 歴史や文化が育んだ、このまちの味を伝え続けたい。

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京都のおもしろい人を訪ねる「人を巡る」シリーズ。京都に移住した人の体験談や京都の企業で働く人をご紹介する連載コラム記事です。移住するに至った苦労や決め手、京都の企業ならではの魅力など、ひとりの「人」が語る物語をお届けします。

第8弾にご登場いただくのは小宮理美(こみやりみ)さんです。小宮さんは、京都生まれ京都育ち。夫の転勤で一時、東京で暮らしたこともありましたが、現在は京都に戻り、料理研究家として活躍されています。おせち料理や五節供、日本に伝わる行事食を専門とし、京都の食文化を伝えつづける小宮さん。今回は小宮さんの思い出の場所でもある「京都御所」のベンチに座り、お手製のお茶をいただきながらお話をお伺いしました。

幼いころに学んだ食の大切さ

ー料理の道に進まれたきっかけを教えてください

夫が仕事で東京に行くことが決まって、知り合いの方が「東京に行くんやったら、小宮さんにぴったりのアルバイトあるよ」と声をかけてくださって。それではじめたのが、食のスタイリングの仕事でした。当時からホームパーティなどで人をもてなす料理を作ることが好きだったので、推薦してくださったんです。

ー料理は独学で学ばれたんですか?

実家がお商売をしていたので、家族以外の人も家で食事をされることが多かったんです。食卓にたくさんの献立が並ぶのが日常で、小さい頃から食事の手伝いは当たり前でした。特におせちは子供のころから絶対的に手伝わないといけない、我が家の年中行事だったんですよ。お重の中でいかに、華やかにおいしそうに盛り付けるか。それを小学校の時からずっとやっていただけなんですよ。だから仕事になるなんて露にも思っていませんでした。

ーお手伝いが嫌にはならなかったんですか

朝起きた時から、「今日の晩何食べる?」って(笑)。食べ物の話をすることが多い家庭でした。自分の体調とか、食べたいものを言い合って献立が決まっていくんです。商売が忙しかったから、一日の終わりの食事をみんな楽しみに働いていたんだと思います。今思うと、それが我が家の家族団らんだったのかもしれません。食を通じて何でもない毎日の、日常の豊かさに触れられてたから、食を大切にする気持ちが育まれたのかもしれません。

本物志向の京都だから

ー料理研究家となられたのはいつ頃ですか

東京での仕事は、たった1年だったんです。盛り付けや食器選びから始まり、レシピ考案…と、あれもこれもとオーダーをいただくうちに「料理研究家という形で名乗って、仕事にしたら」と言っていただけたんですが、さぁこれからというときに京都に戻ることになりました。けれど、せっかくいただいたチャンスを終わらせたくない。自分を奮い立たせるために、料理教室を始めることにしました。

その翌年、2008年に担当したのが、百貨店の商品開発の仕事です。女性向けの惣菜のレシピを提案してほしいと要望があって、打ち合わせに行ったんですが、その時に見せた料理の写真の中で、バイヤーさんが目に留めたのがおせちの写真でした。「こんなおせちが作れるなら、うちからおせちを出しなさい」って言ってくださって。けれど、ここからが苦しみとよろこびを味わう入り口でしたね。

ー料理研究家としてのターニングポイントだったんですね

業者さんや調理担当の職人さんに「あんたに何ができんねん」と、檄をを飛ばされながらしがみついて。家のおせちの味しか知らなかったので、流通の味を覚えるために、税理士さんから怒られるぐらいよそのお店の味を食べにいきました。私の場合、どこかの料理学校を出たわけではなかったので、やろうって決めた時に人の何倍も努力しないと自分が目指すポジションにはいけないなと思ったんです。しかもここは京都。本物しか許してくれない場所だからこそ、本物に触れることを惜しむわけにはいかなかったんです。「あぁ、ようやくわかったな」と思ったら、10年経っていました(笑)

10年の月日がくれた私の使命

ー小宮さんが感じる、京都の良さを教えてください

東京からこっちに帰ってきたときに、流れる風がゆるやかで、ほっとしたんですね。都会に憧れる気持ちはあったけど、何か犠牲を払ったうえで成り立たないものがあるという感覚を肌で感じていて。京都って日本で唯一、季節感が手に取るように感じられる地域だと思うんです。近所を自転車で走れば、お茶屋さんには「新茶が入荷しました」、和菓子屋さんには「水無月あります」。季節ごとの行事や、神様仏様を敬って過ごすこと、自然に耳を傾けること。京都での当たり前が、いかに大切かを気づくことができました。

ー京都を出たからこそ、気づいた良さなんですね

京都の良さに気づいたからこそ、きちんと京都を伝えられる人になりたいなと思っています。他県の人におすすめのお店を聞かれるんですけど、私が一番素敵を感じられる場所は、京都御所か鴨川なんですよ。私もよく御所のベンチに座って、家族や友人とお茶をします。小さい頃はよく御所内にある食堂に、きつねうどんを食べに来ていましたね。家族にばれないように200円握りしめて(笑)有名なお店もいいけど、こうやって京都が感じられる場所で、ご飯をいただくのもいいんじゃないでしょうか。

ー今後はどのようなことに取り組んでいきますか

京都以外の人にも、食を通じて季節や行事を知る機会を提供していけたらと思っています。料理は作れるけど、背景を話せる人は少ない。だからこそ京都の風土や文化に紐づく食の歴史も合わせて、お伝えできればと思っています。来年は日本だけでなく、アメリカでも料理を教える機会があります。おせち文化についてお教えするなど、文化をシェアできる機会を増やしていきたいですね。料理研究家の道を歩んで10年以上経ちますが、「食を通じて京都の良さを伝えること」が私の使命だと、やっと胸を張って言えるような気がしています。

京都に生まれ育った小宮さんだからこそ知る、ほんまもんの京都。その高い壁を乗り越えてきた小宮さんだからこそ、できる仕事があり、話せる言葉があるのだと思いました。その壁と私たちの間に立って、小宮さんは「京都の食と暮らし」を伝えようとしてくれています。ぜひ、小宮さんの本を手に取ってみてください。京都での暮らしがまた一段と楽しいものとなるはずです。

▼小宮理美さんHP
小宮さんが提案するおいしい春夏秋冬のお料理のレシピや、主宰する料理教室「ふくちどり」のスケジュールなどチェックすることができます。小宮さんの料理を学んでみたいという方はぜひHPをご覧くださいね。
https://komiyarimi.com/

福を呼ぶ 京都 食と暮らし暦
小宮さんの初めての著書。12ヵ月の季節に合わせた京都のおばんざいや、おせち料理のレシピだけでなく、小宮さんが日々の暮らしの中で大切にしている想いや暮らしの中で育んだ知恵などを知ることができる本です。第二弾「京のおばんざい四季の味」も11月15日に発売されました。ぜひ手に取って、京都の食に触れてみてくださいね。

記事の作成に関わってくれたクリエイター

  • written &photo by
    ミカミ ユカリ

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