2020.11.07

記憶に残る佇まい。明治から100年、東洞院六角の顔でありつづける「辻森自転車商会」

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京都のおもしろい場所を訪ねる「場を巡る」シリーズ。人が集いハブとなるような場や京都移住計画メンバーがよく立ち寄る場をご紹介する連載コラム記事です。一つの場から生まれるさまざまな物語をお届けします。

東洞院六角の北東角にある京町家、ここは明治時代から100年続く自転車屋さん『辻森自転車商会』です。2020年6月に約6年がかりの建物改修を終え、新たな100年を“Cycle Hub”として挑む、代表、宮本大輔さんにお話を伺いました。

きっかけは幼い頃の思い出

宮本:もともとここは母方の祖母の実家で、ちっちゃい時からよく遊びにも来てて、たくさん思い出のある場所でした。
先々代の曾おじいさんが自転車店をはじめて、僕の祖母の弟が先代。その先代が病気をして、やむなく店を閉めようかって時に「もったいないな」と思ったのがきっかけでした。今みたいに自転車がすごく流行っていたわけではなく、ただ、もったいないなっていうのと、僕がすごくおばあちゃん子やったんで、悲しむ顔が見たくなくて。僕がやれば残るんかな、そしたらおばあちゃん喜ぶかな、ってただただ思ったんです。

お客さんの世代はさまざま。本格的なロードバイクから電動自転車、キッズバイクまで様々な車種の修理・販売を行なっています。

辻森自転車商会を継ぐ以前、宮本さんは会社勤めで小売業に携わっていました。もともとものづくりが好きで、ご自身の自転車、バイク、車も全部自分で直していたそうですが、いざ仕事として人の自転車を修理するのは責任も伴います。戸惑いや不安はなかったのでしょうか。 

宮本:はじめは自転車の専門的な知識はなかったし、先代は病気であり教われませんでした。だから部品をもって外に習いに行ったり、本も隅から隅まで調べたりして、後はもう触らんとわからへんと思って、来る仕事は全部受けてました。

とはいえ、宮本さんが辻森自転車商会にきてからのすぐの頃、お客さんは1日に2~3人。近所の方と世間話をしているうちに閉店時間が来てしまった…なんてこともあったそうです。

けれども毎日、前の通りを行き交う人と挨拶を交わすのが日常茶飯事となり、その内に自転車も乗っていないけれど顔なじみという人も増えていきました。そこからお客さんになり、そのお客さんから紹介があり…とつながることも。

宮本:これ、後日談なんですけど、 先代からは“そんなに続かへん。絶対すぐやめるわって思ってた”って言われました(笑)

それから少しずつ馴染みのお客さんも増え、エコ重視の世の中になり自転車が注目される中、辻森自転車商会はかつての賑わいを取り戻して行きました。

継承と再生

先代の頃から辻森自転車商会のシンボルとして、屋根の上には当時の自転車が設置されており、今も健在です。観光でここを通る人々は各々に見上げ写真を撮り、時には絵を描きに来る人もいるそう。

写真右側が西→東に流れる六角通り、写真左側が北→南に流れる東洞院通
創業時からお店に飾られた自転車は戦後を境目に二代目に替え、今も辻森自転車商会のシンボルとして六角通り側に健在です。

古いものを維持するのは大変なこと。築100年を超える町家の耐震面を工務店さんに確認してもらうと、諸処の柱や、六角通側にあったガラスのショーウィンドー部分は致命的に弱いことが判明したそうです。

宮本:何度か大工さんに来てもらって補修してきたけど、もう柱自体があかんってわかって。ショーウィンドーのところとかは、万が一おっきい地震がきたら、六角通り向きにガシャっと倒れると。もし道が塞がったら周りへの影響考えたら大変なことやから。ほんま今までよう頑張ってくれたなっていう感じで。だから2014年くらいから本格的に工事しだしたんです。

Cycle Hubへと進み出す

2014年、建物の耐震工事とともに2階を全面自転車のショールームにしようと、宮本さんは1階のお店の真ん中に階段を設置する大掛かりな工事をしたそうです。

宮本:2014年に始めた耐震工事が終わって階段もついたし、「さあショールームにしよう」と大量の自転車の在庫を置いた矢先に、せっかくなら「自転車屋」だけじゃなく、自転車を通じて人と人が心地よく交われるような施設=Cycle Hubにしないかという話がでてきたんです(笑)仕入れた山盛りの在庫どうしようかと思いつつ、もうここまで来たらしゃあないわって思って。

そう明け透けなく笑いながら当時の様子を語る宮本さん。

明治末からこの地で自転車屋さんとして生きて来た辻森自転車商会。次の100年を見据え、「大切なものを残し」「新しい文化を育む場所」となるようにと宮本さんはヨーロッパに出向き、街中の自転車屋さんを調べたそうです。すると、「カフェと自転車屋さん」といったつくりが多いことを知ります。

宮本さん自身もコーヒー好きであることも受け、すでにテナント入りが決まっていた自転車部品メーカーさんと一緒にブルーボトルコーヒージャパンさんにアタックしてみたそうです。

宮本:ここを盛り上げたいって思いで、僕たちがブルーボトルさんに声かけたらすぐに「1度見に行きたい」って言ってくださって今の社長さんが来てくれました。話をしてみると、なんと以前ここを通ったことがあり、その時に「こんな古い自転車やさんがあるんだ」って覚えてくれてたみたいで。「まさかここやと思わなかった!」って言ってくれたんです。この建物が記憶に残る佇まいやったから、ブルーボトルさんとつながることができたんやなって、建物に感謝しています。

古き良き町の自転車やさんのこれから

宮本:昔って、修理はその場スタイルやったんですよ。「預かりますね、何分後に来てください」じゃなくて、「今やりますしここ掛けといてください」って。だから僕も修理しながらお客さんと喋ってってスタイルで。女性のお客さんの恋愛話もあったり、お悩み相談もありました(笑)

ここで20年やってると、昔は「おにいちゃーん」って走って寄ってきた男の子が、中学になったら思春期で全然目も合わしてくれへん。でも高校生になったら部活で礼儀作法覚えたのか「こんにちは」ってまたちゃんと挨拶するようなって。そんな人たちを見てると、僕、自転車屋やけど、地域の人の人生にほんのちょっと入って一緒にここで生活できているのかな、って思います。僕の仕事の楽しさの1つかもしれません。こんな風になるとはおばあちゃんも思ってへんやろなぁ。

そんな風に明るく話す宮本さんの人柄と腕に惹かれ、今日も辻森自転車商会にはたくさんのお客さんが訪ねて来られます。

個性ある店舗とともにCycle Hubへと生まれ変わった辻森自転車商会。宮本さんは、この場所が地元の方々をはじめ新しく訪れる人々にとっても、新しい価値観や刺激を得る場となるよう自転車を通して発信していきたいと言います。その姿もやはり東洞院六角の顔と言えるのかもしれません。

京都市内は自転車が1台あれば通勤やリフレッシュにとても便利ですが、自転車は単に便利な乗り物ではなく、相棒とも呼べます。そんな相棒を丁寧にみてくれる町の自転車屋さんがここ東洞院六角にあります。

京都の中心部に”顔なじみ”ができたら、ますます「京都人」になれた気になりませんか?

辻森自転車商会
・ホームページ:http://tsujimori.com
・住所:京都市中京区東洞院六角上る三文字町(東洞院六角北東角)
・TEL:075-221-5732
・営業時間:9:00~18:00
・定休日:日曜日・祝日

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