2021.09.14

限りある山の恵を大切にいただく。獣害被害の現場から持続可能なジビエ事業を考える2日間【満員御礼】

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本記事でご紹介する「京都ローカルプロジェクト旅(以下、プロ旅)」は、UIターン後、京都府内でさまざまなプロジェクトやビジネスを立ち上げている地域プレイヤーの元を訪ね、取り組みの内容やUIターンの背景・今後の展望などをお伺いし、地域との新たな関わり方を見つけていくためのプログラムです。京都府・京都府農業会議とともに京都移住計画(株式会社ツナグム)が企画・運営しています。

獣害被害の現場から循環する社会を目指す「やまとある工房」とは

(写真提供:RE-SOCIAL)

京都府相楽郡笠置町に拠点を構え、鹿肉の精肉・販売を行っている「やまとある工房」。安心安全の鹿肉を提供できるよう鹿の捕獲から解体・販売までを一貫して手がけているジビエブランドです。

ブランド名の「やまとある」には、古来より自然の営みとともにあった私たちの生活を見直し、食を通じて山の恵に感謝するという意味が込められています。

取材の際にステーキを試食をさせていただいたのですが、柔らかくて臭みがなくとてもおいしかったです。

「やまとある」の特徴は、鹿を生け捕りにして一時飼育をしていること。その間も良質なエサを与え、肉質の改善を試みています。ステーキや焼肉用スライス、ミンチ肉を使ったハンバーグやつみれ、ソーセージなどさまざまな商品が並ぶなかで、捌いた翌日に発送する「生ジビエ」が人気商品。通常は冷凍での発送が多いジビエですが、新鮮な鹿肉が冷蔵状態でお客さまのもとに届きます。

新型コロナウイルスの感染が広がる前は、都市部の飲食店やホテルなどBtoBの取り引きが6〜7割を占めていたそうですが、この間にBtoCの取り引きにも力を入れ、自宅で楽しく「おうち時間」を過ごしたい方の需要にも応えられるよう、個人客へ向けた商品開発・販路開拓を行っています。

現在は、ハラール認証を取得した鹿肉の販売を主軸に、“いただいた命を余すことなく大切にしたい”と、鹿革の製品化や、骨を使ったドッグフードの販売なども手がけています。

工房を運営するのは、2019年11月に、当時龍谷大学政策学部へ通っていた笠井大輝(かさい だいき)さん、江口和(えぐち あかり)さん、山本海都(やまもと かいと)さんの3人で設立した「株式会社RE-SOCIAL」。RE=繰り返す、SOCIAL=社会という意味合いから、“循環する理想の社会をつくりたい”と学生のうちに起業を選択しました。

もともと地域の課題解決を研究するゼミに所属していた3人が、なぜジビエブランドを立ち上げるに至ったのか、その背景について代表取締役の笠井さん、創業メンバーの山本さんにお話を伺いました。

現場での違和感といただいた命を大切に持続可能なビジネスをつくりたい

RE-SOCIAL代表取締役の笠井大輝さん。

3人はもともと、獣害やジビエとは異なるテーマでゼミ活動に取り組んでいたそう。

「僕たちが所属していた深尾ゼミは、地域の課題を見つけて解決方法を考え、1年ほど地域に通いながらグループごとにプロジェクトを進めていくという、フィールドでの実践を重視したゼミ活動を行っていました。僕は和歌山県有田市でワインの醸造を行い、江口は京都市内でごみゼロマーケットを開催、山本は滋賀県東近江市で地域の祭りを題材にした映画の制作と、テーマも活動内容もそれぞれでした」(笠井さん)

ゼミ活動のテーマではなかったものの、授業を通して各地で地域の課題をヒアリングしていくと、どこの地域においても「鹿や猪による農作物の被害」が深刻化していることを知ったそう。被害の実態や課題の原因を調べていくうちに、解決のアプローチを考えるようになります。

「鳥獣による農作物被害について調べていくうちに、農林水産省では被害額を削減するために獣の数を3分の1に減らすことを目標にしていると知りました。データ上では、年々捕まえられる鹿や猪の頭数は増えているのですが、9割はそのまま山に埋められたり焼却されたりしている現状を知り、違和感を感じました。もともと食品ロスへの関心が高かったことに加え、SDGs(持続可能な開発目標)などでうたっている“限りある資源”とは何かを考えると、とても複雑な気持ちになったのを覚えています」(笠井さん)

生け捕り用の檻。「何度経験しても、命をいただく瞬間に慣れることはない」と山本さん。(写真提供:RE-SOCIAL)

「そのような現状を目の当たりにし、知った側にも責任が伴うのではないかと思いました。もともと、農業従事者以外の立場から獣害の解決策を考える人は少ないと思うのですが、目の前で起きている地域の課題について『知っているのに何もやらない』という選択をすることに後ろめたさを感じて。それだったら、自分でやるしかないと覚悟を決めました」(笠井さん)

創業メンバーの山本海都さん。

「大学3年生になり就職活動が本格化したときに、笠井が起業を考えていることを知りました。もちろん、どのような選択をするかは人それぞれですが、授業やゼミ活動を通してこれだけ地域の課題を見ておきながら、このまま何もせずにはいられなかったというか。江口も同じ想いだったので、それだったら3人で起業しようと。当時は、まさか自分が猟師になるとは思っていなかったですけどね(笑)」(山本さん)

(写真提供:RE-SOCIAL)

ジビエが食肉として流通しない理由を調べていくと、「①肉が硬くて臭みがあるイメージが強い ②野生生物なので安定供給が難しい ③解体のコストに比べて一頭から精肉できる部分が少ない」という3つの課題にたどり着きます。3人は、起業へ向けて準備を進めるなかで、徳島でジビエの販売を行っている事業者の元で修行をすることにしました。

「師匠の元にたくさんの注文が入っていることを知り、何度か徳島を訪れ、計3ヶ月ほど修行をさせていただきました。臭みや硬さについては血抜き次第で肉質が格段に変わることを知り、素直に驚きましたね。生け捕りと一時飼育のアイデアは斬新でしたが、安定供給の課題がクリアでき、新鮮で上質なジビエを提供できることを知りました。3つ目の課題については、生け捕りにすることでハラール認証を受けられ、骨や内臓を料理に使うイスラム圏の方にジビエを販売することで解決の兆しが見えています」(笠井さん)

「ジビエをおいしく食べていただくために選んだ生け捕りの方法と、食べものや調理に制限があるイスラム教の戒律が一致することを知った瞬間は嬉しかったですね。日本でハラール認証を受けているジビエ事業者は師匠だけなので、僕たちが2件目の登録になります。解体の仕方は師匠の動きを見て覚えました」(山本さん)

(写真提供:RE-SOCIAL)

徳島での修行を終えた3人は創業の地を探すため、京都府内の被害状況について調べながら、各地を訪問。京都府が公表しているデータでは京丹後市や亀岡市の被害額が大きいものの、実際に地域に足を運ぶと、データからは読み取ることができなかった課題があることに気づきます。

「初めて笠置町を訪れたのは、2019年7月でした。当時、創業の相談をしていた京都信用金庫の方が連れて行ってくれたのがきっかけです。各市町村の被害状況は調べていたので、6㎡しか被害が出ていない笠置町は選択肢に入っていなくて。ですが、訪れた際に地域の方から『鹿や猪に畑を荒らされて困っている』と聞き、データと実態に差があると感じました。行政の方に話を聞くと、地域に専業農家がいないと被害額として計上されないことがわかったんです」(笠井さん)

「年間1,500頭もの鹿が獲れる京丹後市の方が、安心して事業をはじめられたと思います。ですが、専業農家がいるエリアでの獣害対策には国や府の補助が出ている一方で、笠置町でのケースは理論上被害が認められず、誰も手助けができない。民間事業者が果たせる役割が大きいと感じました。年間10〜15頭しか鹿が獲られていない笠置町では、月あたりに捕獲できる頭数の目安もわからず、事業計画が立てられないのでギリギリまで悩みましたけどね」(山本さん)

笠置町の総人口はおおよそ1,200人。キャンプやボルダリングなどのレジャーアクティビティが盛んです。(写真提供:RE-SOCIAL)

「この1年間はナイフとロープを持って山に入り、嵐の日も鹿の解体をしました。工房のキャパシティは年間400頭を目標にしているのですが、昨年度は120頭ほど。師匠の教えに倣い、生け捕りにはこだわりたいので、国が提示している獣害対策とうまくかみ合わない部分があるんです。既存の制度にも匙を投げながら、笠置町からおいしいジビエを提供していきたいと思います」(山本さん)

「山からいただいた命を余すことなく、一頭丸ごと価値のある状態に変えていけたらと思っています。まずは、鹿革を製品化したりドッグフードへ展開したりしながら、その方法を探っているところですね。鹿革がブランド化できれば、地域の高齢者の生きがいや雇用づくりにもつなげていきたいと考えています。『自然との共存』をテーマに、各地の農村で起こっている獣害への対策について、『やまとある』の取り組みがロールモデルになればと思っています」(笠井さん)

「自然との共存」をテーマに商品企画を考える2日間

「今回のプログラムでは、私たちがどのような背景や関わりのなかから『やまとある』の事業を立ち上げたのか、2日間を通して体験していただく予定です。山からいただく大切な命を、消費者へどのように価値のあるものとして伝えていけるのか、参加者のみなさんと考えていけたら嬉しいです」(笠井さん)

\こんなプログラムを予定しています/
1日目
・オリエンテーション
・森に仕掛けた罠の見回り
・工房で鹿の解体・精肉
・鹿革などのプロダクト展開を紹介
2日目
・地域の獣害被害についてお話を聞く
・一頭丸ごと命をいただく商品企画を考える
・振り返り

開催日程2021年11月2日(火)- 3日(水・祝)
参加費一般の方:5000円
学生の方:3000円
※現地での食費・宿泊費等は別途自己負担となります。
定員5名
申込フォームhttps://localprojecttabi2021-resocial.peatix.com/
申込〆切2021年10月23日(土)23:59
その他〈注意事項〉
・申込多数など状況によっては抽選とさせていただく場合があります。
・募集定員も限られているため、参加確定後のキャンセルはご遠慮ください。
・手洗い・消毒・マスクの着用など新型コロナウイルス感染拡大防止対策にご協力下さい。
(当日、体調不良などの場合は参加をお控えいただく場合がございます。)
・新型コロナウイルスの状況などにて、開催の可否を判断させていただく場合があります。

株式会社RE-SOCIAL HP:https://www.resocial-kasagi.com/

本プログラムで訪れる「笠置町」について

日本で2番目に人口が少ない京都府南部のまち「笠置町」。ボルダリングやカヌー、キャンプなどのアウトドア体験や天然温泉で心身ともにリラックス。京阪神からの交通アクセスも良く、都会に近い田舎暮らしを体験できる。人と自然が調和する町に、是非一度お越しください。

ローカルプロジェクトを学ぶ旅〈オンライン説明会〉

《開催概要》
北は丹後、南は相楽まで、京都府各地に目的を持ち移住され活動されている方々と供に、各地の活動テーマのプロジェクトを2日間体感し、地域との関わりを学ぶプログラムを開催します。受入いただく4名それぞれの多様な活動や想いを知ってもらい、このプログラムでどんな体験や関わりがつくれるのか知って頂くべく、交流と説明を行うオンラインでのPRイベントを、2回に分けて開催します。

\こんな方にオススメです!/
・地域と関わりやつながりをつくりたい
・自分に合う働き方やライフスタイルを考えたい
・ゲストの活動や地域プロジェクトに興味がある方
・京都の地域が好きな方、ゆかりがある方
・ゆくゆくは移住やUターンを考えられている方

■日時
9月28日(火)19:15~21:00
※途中入室・退出も可能です。事前申し込みの際にご連絡ください。
■会場
オンラインZoom(事前申込制)
■イベント詳細&参加申込み
京都移住計画Peatixよりお申込みください。
https://kyotolocal-event0928.peatix.com/
■ゲスト紹介
・鈴木 健太郎さん 移動八百屋369商店店主/京都オーガニックアクション代表
・笠井 大輝さん 株式会社RE-SOCIAL/やまとある工房
■企画・運営
株式会社ツナグム(京都移住計画)
担当:藤本・並河 info@tunagum.com

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