2022.04.25

一人ひとりの力が集結して“未来”を創る。京都リサーチパークからネットワークが広がる理由

京都駅から2駅の丹波口駅から約5分歩いたところ、「京都リサーチパーク(通称:KRP)」には、全国各地からイノベーションプレイヤーが集まります。京都移住計画は、そんなKRPの取り組みを連載でお伝えしてきました。

4記事目となる今回は、それぞれ創業時からKRP地区を運営する京都リサーチパーク株式会社(以下KRP)と関わり、事業を成長させてきた3名、株式会社めい・株式会社ゆい共同創業者の扇沢友樹さん、元はてな創業メンバー/Voice4u株式会社取締役の近藤令子さん、株式会社taliki代表取締役の中村多伽さんに取材しました。

取材のなかで、3名が揃って口にしたのは「サービスも実績もなかった頃にKRPが支えてくれたから、今がある」という言葉。京都で事業を成長させる中で、3名が感じたKRPの存在とは?KRPが京都でどのようにネットワークを広げ、事業創発を支援しているか、お話を伺いました。

右:近藤令子さん(元はてな創業メンバー・Voice4u株式会社)
はてなブログ、はてなブックマークなどを運営する株式会社はてな創業メンバー。2018年春、Voice4u株式会社を設立し、コミュニケーション支援アプリ「Voice4u」の開発・販売、デジタルマーケティングコンサルティング事業を展開。また、若者の起業や女性の自立をサポートするメンタリング活動にも尽力している。KRPが主催する企業と学生の共創プログラム「MOVE ON」のファシリテーターを務める。

中央:中村多伽さん(株式会社taliki代表取締役)
「命を落とす人、死ぬより辛い人の絶対数を減らす仕組みをつくる」をビジョンとし、社会課題を解決する人を支援する。インキュベーション事業・オープンイノベーション事業・投資事業・メディア事業の4つを軸に事業を運営する。2020年9月には、社会起業家支援プログラム「COM-PJ」をKRPと共同で運営。

左:扇沢友樹さん(株式会社めい・株式会社ゆい共同創業者)
不動産脚本家。若手現代アーティストの住むコミュニティ型アートホテル&アートホステル「KAGANHOTEL-河岸ホテル-」をプロデュース。若手漫画家のためのシェアハウス「京都版トキワ荘事業」やものづくりに携わる人の職住一体型のクリエイティブセンター「REDIY」を運営。KRPや地域企業と共に梅小路エリアのまちづくりに尽力しながら、クリエイター支援をしている。

「実績もサービスもない創業1期目に、KRPに支えられた」

今回お話を伺ったのは、創業時期も事業内容も全く異なる3名です。そんな3名が、どんなきっかけでKRPと出会い、事業を成長させてきたのでしょうか。

元はてな創業メンバーの近藤令子さんは、2001年にはてなを創業しました。当時は、学生起業する人が今よりずっと少なく、近藤さんも「手探りな状態でのスタートだった」と言います。

近藤

創業のきっかけは、京大院生のパートナーからの「インターネットで世界を変えるため、起業したい」という一言でした。でも、2人とも起業なんて未知の世界で、何からはじめるべきかすらわからない状態でした。

まずは、京大企業支援の担当者に相談すると「KRPに行ってみなさい」と紹介されたそうです。そこで初めてKRPを訪れ、営業開発部ソリューションチームに所属していた梅田和哉さん(現 執行役員 人材開発・IT支援部長)に出会ったと言います。

近藤

当時、社会人経験もスキルもない私たちに「インターネットの事業、応援してます!」と背中を押してくれました。それがきっかけで、4号館3階のインキュベーション施設「ITEC」に入居を決めました。

しかし、サービスも制作中で、実績もない創業1期目は、あっという間に十数万まで資金がなくなったそうです。当時を振り返って、近藤さんは「何とかしなければと思うが、どうすればいいかわからなかった」と言います。

近藤

藁にもすがる気持ちでKRPに相談すると「BtoBの受託をしてみない?絶対切り抜けられるから、大丈夫!」と言ってくれました。しかも、受託内容を書いたチラシを持って、KRPの入居企業一つひとつを一緒に回ってくれたんです。

そのチラシがきっかけで、専門学校や企業のシステム開発の仕事を受託できました。なんとか首の皮がつながり、ホッとしたのを覚えていますね。

その後、はてなは順調に事業を成長させ、メディアへの露出を増やすために東京に拠点を移転しました。その際にも、「東京に移転するのに、わざわざKRPの担当者が移転先を探してくれた」と言います。

株式会社めい・株式会社ゆいの共同創業者の扇沢友樹さんは、2011年に起業。KRPとの出会いは、事業内容を模索している際にKRPに取材したことがきっかけだったと言います。

扇沢

2012年、共同創業者日下部の影響で「同志社大学 社会起業家養成塾」に所属していました。そこで、私たちが考えている事業に近い企業に取材するロールモデル研究の一環で、KRPに取材しました。

もともと私たちはインキュベーションシェアハウスを運営していたので「場所を貸している」「インキュベーション事業をしている」の2点に当てはまる企業を探していました。そこで引っかかったのが、シェアオフィスをしていて、事業創発をしているKRPでした。

取材をきっかけにKRPと関わり始めた扇沢さん。さらに、深くKRPと付き合いはじめたのは、起業家、開発者、デザイナーらが54時間でプロダクトやサービスを生み出す「Startup Weekend Kyoto」の参加がきっかけだと言います。

扇沢

とても濃厚な3日間だったのを覚えています。チームメンバーでアイデアを形にする過程も学びになりましたが、イベントのメンターだった梅田和哉さんと澤村功夫さん(当時 成長企業支援部所属)に出会えたのも大きかったですね。

イベント後も、お二人にはとてもお世話になりました。事あるごとに面白そうなイベントに呼んでくれたり、事業の悩みを聞いてくれたり。起業家には上司がいませんが、もし私に上司がいたらお二人のような存在なのかなと思います。

株式会社taliki代表取締役の中村多伽さんは、2017年に起業。社会課題をテーマにしたハッカソン「ソーシャルハッカソン京都」で協力を依頼できないかと思い、KRPを訪れたのがきっかけだと言います。

中村

新事業創発を目的とするKRPと社会起業家の支援をするtaliki、領域が重なる部分があります。そのため、最初は何を言われるか不安でした。でも、「応援しています!私たちに何かできることが言ってください!」と井上雅登さん(現 イノベーションデザイン部所属)に言われてホッとしたのを覚えています。

そこから、社会課題の解決に取り組む変革者や社会事業に興味ある人たちを集めたイベント「BEYOND3.0」の協賛や会場の提供をしてもらったと言います。

中村

なんで、こんなにも手を差し伸べてくれるんだろうって(笑)。まだ創業1〜2年目で実績もないのに、真摯に話を聞いて手伝ってくれる。talikiの事業に対する評価もしてくれますが、それよりも「未来を見据えて、一緒に作っていこう」というKRPの姿勢にいつも助けられています。

時期は違えど、創業して間もない頃にKRPと出会っている3名。お話を聞く中で、若者だろうが、実績がなかろうが、志ある人たちを全力で支援するKRPの姿勢が垣間見られました。

人と人を繋ぎ、プレイヤーの想いを支えていく

それぞれ時代は違えど、KRPと深い繋がりがあり、事業を成長させてきた3名ですが、よりビジョンに近づけるため、どのようにKRPとコラボレーションしているのでしょうか。

京都にある若手現代アーティストと世界を繋ぐ滞在型複合施設「KAGANHOTEL-河岸ホテル-」やものづくりに携わる人の職住一体型のクリエイティブセンター「REDIY」を扇沢さんは運営しています。

扇沢さんは「アーティストには、街の人たちとの交流が欠かせない」と梅小路エリアのまちづくりにかかわる理由を語りました。

扇沢:アートは1人で完成させるには限界があります。そこで大事になるのは、さまざまな人たちとの交流で、思想を交わし、アイデアを作品に落とし込んでいくことです。「REDIY」や「KAGANHOTEL-河岸ホテル-」は、アーティストや事業家、街の人たちが交流する場を目的に運営されています。

また、小川信也さん(当時 代表取締役社長)の紹介で、私たちの拠点でもあり、KRPもある梅小路の街づくりにかかわることになりました。街全体でアーティストとの交流促進が加速するよう尽力しています。

2020年12月に「株式会社梅小路まちづくりラボ」が立ち上がり、同12月に「梅小路京都西駅エリアにおけるクリエイティブタウン化の推進」に関する連携協定締結も果たしました。

また2020年9月、社会起業家支援プログラム「COM-PJ(コンプロジェクト)」をtalikiとKRPで提供をはじめました。talikiとKRPでワンチームで運営したこのプロジェクト、中村さんは「心配になるほど、参加者に寄り添ってくれた」と語ります。

中村

talikiはまだ小さな会社なので、かけられる人員や時間など限りがあります。そんな中、私たちができない部分をKRPさんが補ってくれました。たとえば、KRPのネットワークを使って、良いメンターや専門家を紹介してくれたり。他にも、事業づくりに苦戦している参加者の悩みを真摯に聞いてくださったりしました。それはそれは、「KRPの人、働きすぎなのでは……?」と思ってしまうほどでした(笑)。

また、参加者の気持ちに寄り添ったり、機会提供などの「ギブ」だけでなく、「今後どのようにしてCOM-PJをよりよくしていくか」とtalikiとの未来を見据えた議論も行われました。

現在、はてなを卒業し、コミュニケーション支援アプリ「Voice4u」を提供している近藤さんは、企業と学生の共創プログラム「MOVE ON」のファシリテーターを務めています。KRPを離れた今でも、なぜKRPの活動に関わるのか理由をきくと、「はてな創業時にお世話になったので、KRPに恩返ししたい」と語りました。

近藤

約20年前、起業について何もわからなかった私をサポートしてくれたKRPのように、次は私が若い人たちにギブできればなと思っています。

MOVE ONでは、企業と学生がいかに価値創造できるかが大切です。私のように起業経験があり、かつ企業でも学生でもない外部の人間がファシリテーターで入ることで、「もっとよくするにはこうしたらどうだろう?」「こうするとアイデアが広がるよね」と参加者の背中を押せたらなと思っています。

一つひとつのストーリーはKRPから広がっている

それぞれの目指すビジョンを踏まえて、KRPとコラボレーションしている3名にとって、KRPとはどのような存在なのでしょうか。

京都の不動産に詳しい扇沢さんは、「KRPからこの“まち”の物語がはじまっているようだ」と語ります。

扇沢

丹波口・梅小路エリアを振り返ると、33年前にKRPがここで研究所つきオフィスをつくった頃からこの“まち”がスタートしたなと感じます。

「京都からの新ビジネス・新産業の創出に貢献する」というKRPのミッションが、このエリアの至る場所で引き継がれているなと。私が運営するアトリエ付きホテル「KAGANHOTEL-河岸ホテル-」もこの街で育まれたKRPのストーリーを継承しているから、さまざまな企業やアーティストを巻き込み、新しい仕事や文化を生み出せています。

私の会社も含め、多種多様な企業があり、そして媒介者となるKRPがいる。そんな物語がつづく街でイノベーションを起こすのは本当に楽しいと感じています。

中村

「新ビジネス・新産業の創出」という物語を紡ぐには、「こんな未来を創りたい」とビジョンを掲げる人が欠かせません。なので、10年後、20年後を見据えて、サービスや実績がなくとも志をもつ人をKRPは全力で支援しているのだなと。

近藤さんがKRPに入居した20年前から現在まで、KRPの支援の姿勢が一貫しているのは、納得感がありますね。

また、さまざまな領域の起業家を支援する「横のネットワーク」だけでなく、学生など「若い世代」から事業を一定成長させた「熟練世代」をつなぐ「縦のネットワーク」がKRPから広がっていると言います。

中村

KRPに関わる中で感じるのは、みんなKRPのことが大好き。それほど、いろんな人がKRPにお世話になっているんだなと。だからこそ、事業を成長させるために京都を離れても、また京都に戻ってくる人が多いのかなと感じます。

ビジネスでよく「ギブしたものが巡り巡って返ってくる」という話を聞くのですが、実感をもてたのはKRPの存在が大きいです。それこそ近藤さんのように創業時にKRPからさまざまな機会を受け取り、成長したら与えられたものを返しにくる。長い時間を経て、その循環が回っているなと思います。

まだまだtalikiは成長途中ですが、私もKRPに何か返せるように頑張りたいなと思います。

最後に、3名にこれから京都にくる方、京都で事業を起こしたい人たちへのアドバイスを伺いました。

扇沢

KRPのイベントに参加するのが一番だと思います。イベントに参加すると、そこでさまざまな人たちに出会うことができますから。

中村

「京都で何かやりたい」「スタートアップを立ち上げたい」と本気で考えている人をKRPは絶対に断らないです。事業案や経歴で選り好みすることは絶対ないので、みなさん安心してKRPに相談にきてほしいですね。

近藤

KRPはいざとなったら集合する場所のように感じています。リサーチパークといったら、30年経つとどんどん古くなっていくように思えますが、KRPはアップデートしつづけている。だから、私たちは府外の人たちに自信をもって「KRPがいいよ!」と言えるし、府外に出た人も戻ってこようと思う。今後も、さまざまな人を巻き込む場でいてほしいです。

KRPにお世話になった人が、京都に戻り、恩を返しにくる────。

そして、現在KRPに関わっている人たちからの「成長したら何かを返しにきたい」という言葉が印象的でした。

4回の連載を通して、「京都からの新ビジネス・新産業の創出に貢献する」と掲げるKRPが、なぜここまで丁寧に人との関係を育んでいるか腑に落ちた気がします。さまざまな課題が社会に点在するなか、異なる経験やスキルをもった人が手を取り、協力しないと前には進めない。そして、前へ進むためには「人」が中心になっていくのだと。

ごくごく当たり前のことですが、情報が錯乱する世の中では忘れがちなのかもしれません。そんな当たり前のことに、この連載は気づかせてくれました。より多くの人がKRPと関わり、どんな発展が見られるのか今後が楽しみです。

執筆:つじのゆい
撮影:中田 絢子
編集:北川 由依

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