2023.04.21

“今を表現する人”が行き交う場で、新たな宿泊体験を届ける「河岸ホテル」

photo by Atsushi Shiotani

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京都のおもしろい場所を訪ねる「場を巡る」シリーズ。人が集いハブとなるような場や京都移住計画メンバーがよく立ち寄る場をご紹介する連載コラム記事です。一つの場から生まれるさまざまな物語をお届けします。

「今日の気分に合うのは、この絵かな?」
「こっちの絵の方が好きだなぁ」。

京都中央卸売市場市場からほど近くにある河岸ホテルでは、宿泊者が「アートを選ぶ」宿泊プランがある。エントランスに飾られた5つの絵の中から好みの絵を選び、滞在する部屋に飾ることができる。

photo by Hanako Kimura

「お子さんに自由に絵を選ばせてあげたり、カップルでどの絵が好きか話してみたり。そんな体験をしていただけるプランです。そもそも私たちは普段、絵を選ぶという体験をすることがありませんよね。正解を探そうとせず、自分の感性を優先して自分の感性で選んでみてください。それがアートへの入り口になると思うので」

そう話すのは、河岸ホテルの代表を務める扇沢友樹さん。かつては青果卸業の社員寮として使われていた建物では、宿泊施設だけでなく、アーティストの作品が展示されているギャラリーや作家活動を行うアートスペースを併設しています。

アートホテルというと、アートに関心が高い人が好んで足を運ぶ場所だと、敬遠する人がいるかもしれません。これまで興味を持ったことがない、触れたことがない人にこそ、足を運んで欲しい場所です。このホテルには、アートに初めて触れるワクワク感、そして自分の思考や視点が変わる面白さがたくさん詰まっているから。

目指すのは「アーティストと暮らすまち」

ホテルに飾られている作品のほとんどは、河岸ホテルに住んでいる、もしくは住んでいた若手アーティスト(作家)が制作したもの。ここは宿泊施設でありながら、作家が定住しながら制作を行う「アーティストインレジデンス」を実施している場でもあるのです。

「熱量が高い優秀な人が集まっても、誰かが上京したり結婚したりするなどとライフステージが変わるとコミュニティが続かないんですよね。めちゃくちゃ勿体なくて。その熱量を10年、20年……と続けていったら、その子たちの活動がストックされて、また新たな才能が入ってくる。そういう場所をつくりたいと思ってできたのが、この河岸ホテルなんです」

photo by Hanako Kimura

ホテルの各部屋に置かれたアーカイブブックには、これまで入居した作家の名前や作家のWebページが記載されています。一過性ではなく、永続的に関係性を続けていくために。

「退去した後も制作した作品を展示したり、彼らがいた形跡をアーカイブブックや作品をコレクションして残しています。駆け出しだった作家が巣立っていくのは嬉しいことですが、関係性が切れてしまっては意味がありません。ここに関わってくれた作家たちの歴史が積み重なることがホテルの魅力となると考えているので、この場所は最低でも40年借りる契約にしています」

40年という長期契約にしたのも、「アーティストと暮らすまち」をつくりたいという想いから。

「単に制作活動の拠点というだけでなく、まちと作家をつなぐハブでありたいんです。例えば若手作家が、近くにあるコーヒースタンドで働いていたり、行きつけの飲み屋ができたり。作家がまちや住民と関わることで、何らかの変化がもたらされることを期待しています。そうしたことで、体験したことや感じたことが作品に反映されるかもしれないし、まちに面白いことが巻き起こるかもしれない。互いの関わりの蓄積で、京都はより面白いまちになると思うんですよね」

「今を表現する人」が行き交う場へ拡張する

アーティストと宿泊者をつなぎ、アートの新たな楽しみ方を提案してきた河岸ホテル。2023年度からは、「レジデンスlite」という新たな取り組みをスタートしました。3ヶ月分の家賃で2年間、平日に限りですが、ホテルの4階の部屋を利用することができるプランです。新たに作られた防音室や3つのアトリエも利用できるため、気兼ねなく制作に打ち込むことができます。

これらの取り組みは、ニューヨークの「ホテルチェルシー」をモデルにしているのだそう。

「ホテルチェルシーの支配人は、若手の作家に地下の一室をあてがい、作品を家賃代わりに収めてもらっていました。そのおかげでホテルのラウンジが若手作家の作品だらけなんですよ。すると、アンディ・ウォーホルやジミ・ヘンドリックス、ボブ・マーリーなど著名なアーティストが面白がって、泊まりに来るようになった。河岸ホテルはアートへの熱量がある人たちと、偶発的な出会いが起きるような場所にしたいんですよね」

そのためレジデンスliteでは、絵や作品をつくる作家だけではなく、音楽、ファッション、演劇などさまざまなクリエイティブに関わる人たちが利用できる仕組みにしました。

「絵を描く人、音楽を制作する人、執筆する人がいてもいい。なんなら書類を処理するとかでもいいんです。

さまざまな背景の人が免許合宿のような感じで、集中できる場所をつくりたいと、このプランを考えました。一番面白いのは、クリエイターじゃない人だと思うんです。今まで関わりのなかったクリエイターと共に過ごすことで刺激になるんじゃないかな。クリエイターにとっても違うタイプの人たちとの触発が提供できる。職業を問わず、『今しかできないもの、今じゃないと表現できないもの』を追求してる人に来てほしいですね」

photo by Misa Shinshi

これからはじまる「今を表現する人」たちのあつまるコミュニティでは、一体どんなおもしろいことがおきるのでしょうか。

アートに関心の高い人はもちろんのこと、そうではない人もぜひ足を運んでみてください。固定概念やこれまで積み重ねた価値観を外し、この場を体感すること。それがきっとアートの入り口に立つ、きっかけになるのではないでしょうか。

河岸ホテル
https://kaganhotel.com/

編集:北川由依
執筆:ミカミユカリ

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