助け合いが循環するからこそ、イノベーションは生まれる 京都リサーチパーク イノベーションデザイン部が起業家に寄り添う理由

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京都市の南西にある一大ビジネス拠点、京都リサーチパーク(通称:KRP)。ここでは、家具付きの少人数オフィスから1,000㎡を超える賃貸オフィス、実験・研究スペースなどが提供されています。また、イベントや交流会・ワークショップも活発的に実施し、500の企業・団体、6,400人のプレイヤーが集まる場になっています。

第1回目の記事では、「イノベーション創発」をテーマとして掲げ、施設などの“ハード”とイベントや交流などの“ソフト”の2つを起点に、KRPの全貌を伺いました。

イノベーション創発は、ここから生まれる。
人が集い、交わる場をつくりつづける京都リサーチパーク

第2回目となる今回の記事では、京都リサーチパーク株式会社の「イノベーションデザイン部」についてです。同部署は、オープンイノベーション推進やアクセラレータ支援、ピッチコンテストなど、年間で100件を超えるイベント運営をしています。

同部署が現在の形になって約3年。事業創発により近い場所で支援している人たちが、イノベーションをどう捉え、何を見据えて活動しているのでしょうか。部署に所属する​​井上 雅登さん、杉山 智織さん、柴田 寛子さんにお話を伺いました。

左:​​杉山 智織さん 中央:井上 雅登さん 右:柴田 寛子さん

イノベーションデザイン部の誕生、より人が集まる場へ

2019年に、現在の形のイノベーションデザイン部は誕生しました。誕生前からの変遷を経験した井上さんから、現在のイノベーションデザイン部が生まれた経緯を伺いました。

井上:イノベーションデザイン部の前身は、ハンズオンでスタートアップの成長を促す「成長企業支援部」と、再生医療など時代に合わせたテーマを産業界や大学、行政と連携して、新ビジネス創出に取り組むプラットフォーム活動を企画運営する「産学公連携部」の2つの部署でした。

しかし2010年代に入り成長企業支援部では、スタートアップにおけるテクノロジーなどの専門性が増し、個別企業の成長支援・サポートをするのが困難に。また産学公連携部でも、再生医療やモノづくりのプラットフォーム活動の企画運営をしていましたが、世の中は多様な企業が交流するオープンイノベーションの流れに変わりつつあり、新しい活動を模索していました。

その中で、改めて私たちがやるべきことを議論する取り組みがはじまり、立ち返ったのが社是となる「集・交・創」でした。

井上:議論を重ねた結果、人が集まり、交わりつづけることで、結果的に「創」が生まれる。「創」にあたるイノベーションは狙って生み出すのではなく、その狙いを超えたところで「創」が生み出されるのではないかと考えました。

そう考えた時に、業界業種を超えて多種多様な人たちが集まり、交流する場を提供しないといけない、私たちが今まで培ってきた業界業種を超えたネットワークを活かして、自分たちで、積極的に人が集う場を創る必要がある、と考えました。

2018年に産学公連携部がイノベーションデザイン部に名称を変更し、2019年、成長企業支援部とイノベーションデザイン部(旧産学公連携部)が統合して現在のイノベーションデザイン部が誕生。さらに、イノベーションの種を持っている人ならば、気軽にKRPに集まれるよう、誰でも無料で使えるオープンスペース「たまり場」も同じ時期に開設しました。

しかし当時、たまり場を利用してもらうために企業・個人に話しても、「よくわからない」「KRPは遠いから」と断られることも多かったと言います。

井上:スペースを創っただけでは、何も生まれないことをその時に痛感しました。まずは、1人でも多くKRPに集まってもらうために、一社一社、一人一人足を運んで対話を重ねました。「私たちがどういう想いで活動しているか」を伝え、疑問があれば解消する。とても地道ですが、1つ1つ対話の積み重ねで、いろんなバックグラウンドを持つ人たちが集まる場になりました。

現在のイノベーションデザイン部が発足して約3年。たまり場開設前は年間20件程度だったイベント数が、100件にまで増加しました。そして、スタートアップや大企業、学生、研究者など、幅広い人たちが集まる場へと移り変わっています。

多種多様な人が集まるから、仲介する人がいる

イノベーションデザイン部では、本気で起業をしたい人のためのコミュニティ「miyako起業部」、各分野で活躍している人を招いて社会の動きを学ぶイベント「KRPナイト」など様々な取り組みを実施しています。

そのなかでも、​​複数の企業と学生、ビジネス経験豊富なファシリテーターと共に未来のビジネスアイデア構築を目指す「MOVE ON」を杉山さんは運営しています。

杉山:現在、社会が急激に変化していて、生活者のニーズも目まぐるしく変わっています。そんな中、一社だけでその荒波に順応し、生き抜くことは難しいです。そこで、私たちはオープンイノベーションを推進するために、「MOVE ON」というプログラムを実施しています。

MOVE ONでは、普段ならあまり関わることがない業種の異なる複数企業のリソースと学生の柔軟なアイデア・価値観を取り入れることで、新しい事業アイデアの創出や協業を生み出そうというねらいがあります。

2019年9月に開催したMOVE ONをきっかけに、定額住み放題の多拠点生活プラットフォーム「ADDress」を運営する株式会社アドレスと大阪ガス都市開発株式会社が提携。2020年7月に、ADDressの全国多拠点居住サービスを分譲マンション購入者が無償で体験できる特典の提供がはじまりました

杉山:もともと株式会社アドレスさまは、MOVE ONの参画企業ではなかったんです。ファシリテーターを担当していただいているVoice4u株式会社の近藤 令子さまの紹介で、急遽、起業家の江島 健太郎さまが見学に来られることになりました。そこで、せっかくならスタートアップ企業としてお話してもらおうということで、セッション時間を設けました。この回のテーマが「2025年 社会課題を解決する生活空間を考える」だったのですが、生活空間の事例のひとつとして江島さまが関わっておられた「ADDress」についてご紹介いただいたんですね。

そしてMOVE ONから半年、大阪ガス都市開発株式会社さまから『多拠点居住など新たなサービスを考えている』ということで、改めてアドレスさまに相談され、提携に至りました。

江島さまのMOVE ON見学は全く意図していなかったこと。偶然の出会いがきっかけになり、新たな価値が生まれる可能性を実感しました。

MOVE ONを運営するなかで杉山さんは、「交流が促進される仕組みと媒介することが大事」と語ります。

杉山:プロジェクトやイベントなど“箱”をつくるだけでは、何も起こりません。そのためイノベーションデザイン部が大事にしていることは2つあります。

1つは、さまざまな人が交流できるような仕組みをつくること。例えば、MOVE ONでは2社もしくは3社の参画企業が一緒に考えた1つの共通テーマを設定することで、立場が違う3者(企業×学生×企業)が同じ課題について思考し、意見交換ができます。また、学生のチームには必ず参画企業のメンターが加わります。これは学生と企業が自然に混ざりあう仕組みにすることで、交流を促進するためです。

もう1つは、媒介すること。スタートアップや大企業という規模感だけでなく、業界や職種などによって、話す言葉や当たり前だと思っていることが違います。そこをすり合わせることが「共創」の第一歩。私たちが媒介し、時にはお互いの想いが伝わるように言葉を翻訳し、共通言語を見つけることも、場を創る大切な役割だと思っています。

イノベーターの孤独に寄り添い、支援する

数多くの取り組みをするイノベーションデザイン部ですが、部署として大きな学びを得たプロジェクトがあったと言います。それが、社会課題を解決するベンチャーを支援・投資する株式会社talikiとの協働で運営している「COM-PJ(コンプロジェクト)」でした。

COM-PJは、社会課題の解決を目指す25歳以下が参加者。毎週の進捗報告会や、経営者やVCなどからの直接フィードバック、講演会など、事業立案のサポートが受けられる3ヶ月のインキュベーションプログラムです。

井上:私たちは起業後や、ある程度成長した段階のスタートアップ支援は経験があるものの、創業前の事業支援は経験がありませんでした。創業前の支援で感じたことは、新しい価値を提供することは、並大抵の努力ではできないことです。なかなか評価されなかったり、お金にならなかったり、さらに社会課題解決領域だとまた別のハードルがあります。

しかし、だからこそ、私たち支援者が1番の味方になれたらと感じました。社会起業家をエンパワーし続けているtalikiさんは、参加者ファーストで動いていたため、その姿勢はとても学びになりました。

COM-PJは事業立案を支援するプロジェクトです。なので、参加者全員がすぐに起業を果たすとは限りません。就職という道を選んだり、年月が経ってから起業する可能性も多いにあります。イノベーション創発というテーマがすぐには達成できない可能性があるなか、支援する理由はどこにあるのでしょうか。

柴田:COM-PJには起業を目指す方が参加されますが、最終的に他の道を選ぶこともあります。もちろん、起業していつかKRPの入居者になっていただけることもとても嬉しいことです。ですが、COM-PJに参加して、社会起業家というキャリアが自分に合っているか確かめられたり、事業を立案するスキルが上がったり、仲間ができたり、そうしたお金に還元できない価値も大事だと考えています。

いま、私たちの活動に関わってくださっている方の中には「昔、KRPにお世話になったから協力するよ」と言ってくださる方がたくさんいます。しかも、関わりがあったのはずいぶん前なのに。そうやって関係性がつづいていくことは非常に嬉しいことですし、いろんな人に支えられてプロジェクトやイベント運営ができています。なので、すぐに収益にならないかもしれませんが、私たちは人とのつながりなど、目に見えない価値も大事にしています。

助け合いが循環するからこそ、イノベーションが生まれる

目先の利益だけでなく、信頼などのお金にならない価値さえも大事にする――。

その方針を正しいと思い、行動できるのは、KRPが約30年継続できているからだと言います。

井上:特に京都は、人の縁で回っている地域だと思います。そもそもKRPが生まれたのも大阪ガスだけでなく、行政などいろんな人のサポートがあったからです。事業を生み出したい人とそれを支える人たち。互いに支え合う関係ができているから、イノベーションが生まれている。それが京都の特徴だと思います。

柴田:私は京都に来てまだ1年も経ちませんが、京都の人の優しさに助けられてきました。外から来た私にも、ずっと前から知り合いだったかのように温かく接してくださる。その優しさに感動したので、私もそういう姿勢でKRPに来てくださる方を出迎え、支援できればと思っています。

さまざまなプレイヤーと関わり、支援し、そして助けられる。今後は、その関係の輪をより外へと開いていきたいと井上さんは語ります。

井上:今まではKRPの発展を考えてきましたが、それでは起こせるイノベーションには限界があります。京都全体、そして関西全体の発展を目指すために、梅小路のエリア開発や摂津市にシェアラボを開設するプロジェクトが進んでいます。

自分たちだけでできないことは助けてもらいながら、地区内外のコラボレーションを強化していきたいです。

この人の役に立ちたい、信頼できる人だから協力したい――。その想いが巡り巡って、イノベーションやコラボレーションへと昇華されていくのかもしれません。そして、支援者だからこそ、プレイヤーの想いを理解し、寄り添っているのがイノベーションデザイン部なのだと感じました。

次回の記事では、実際にKRPに入居していたり、事業やイベントで関係ある企業の方々に、KRPや京都の魅力を伺います。公開まで、どうぞ楽しみにお待ちくださいませ。

記事の作成に関わってくれたクリエイター

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