日本文化が身近な京都だからこそできることを コンピュータと岩絵具、違うからおもしろいふたりの制作

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京都のおもしろい人を訪ねる「人を巡る」シリーズ。京都に移住した人の体験談や京都の企業で働く人をご紹介する連載コラム記事です。移住するに至った苦労や決め手、京都の企業ならではの魅力など、ひとりの「人」が語る物語をお届けします。

第24弾にご登場いただくのは、2011年に東京から移住した上野あきのりさんと美樹さんご夫妻。あきのりさんはCG・映像などの企画、制作を行う「チドリグラフ」を京都で立ち上げ、美樹さんはチドリグラフを支えつつ画家として活動されています。

お二人の仕事場である京都市役所近くの町家で、移住のきっかけや街がつなぐご縁、京都ならではのお仕事のお話などを伺いました。

――京都に移住したきっかけを教えてください。

美樹:きっかけは東日本大震災でした。当時東京に住んでいたのですが、震災が人生を考え直す契機になって、もっと自分たちがやりたいことを自由にやっていきたいと思うようになったんです。それで、住む場所も東京に縛られず考えてみようということになりました。

あきのり:僕の仕事はパソコンがあればどこでもできるので、東京以外でも独立してやれるんじゃないかと。移住先は神戸も検討しましたが、僕の実家が大阪、彼女は石川なので、京都なら実家からの距離もちょうどいいのではないかということで京都になりました。

美樹:ちょうどその頃私が日本画材を使って制作をはじめていたこともあり、古くからつづく画材屋さんがあることも京都を選ぶポイントになりました。

あきのり:京都は日本特有の文化が生活の中に入り込んでいる場所ですよね。独立するにあたって、そういう場所でCGという現代のツールを使って仕事をするのはおもしろそうだと思いました。

美樹:夫の当時の上司が独立に向けて背中を押してくれたり、探しに来た時にちょうどいい物件が見つかったりと、とんとん拍子で話が進み、移住を決めてから半年くらいで引っ越してきました。それが2011年の11月なので、今ちょうど10年。

あきのり:もうそんなに経つのか、早いなぁ。

町家の2階の美樹さんのアトリエスペース。
美樹さんが絵画制作に使っている岩絵具。京都の老舗の画材屋さんで量り売りされている。細かく砕かれたものほど色が薄くなるのだそう。

――お住まいはどちらなんですか?

美樹:左京区の岡崎のあたりです。自転車で通うのにちょうどいい距離で、すごく気に入っています。私は自然のインスピレーションを受けて制作することが多いので、自然が豊かなのもいいですね。

あきのり:最初は自宅兼事務所でやっていたのですが手狭になったタイミングで、今の仕事場が見つかって。事務所はずっとここで、自宅は今は左京区の方です。僕は歩いて通勤することも多いんですが、鴨川を渡って来るのは気持ちいいですね。春は疏水の桜も見られるし。

――地域の方との関わりは東京にいた時と比べてどうですか?

美樹:そんなに密な関わりではありませんが、オフィスの向いに住んでいらっしゃる大家さんとはよくご挨拶したり、路地のところをお掃除したりします。東京にいた時はご近所付き合いも全くなかったので、全然違いますね。入居した時は大家さんと一緒に町内会長さんのお宅にご挨拶に行って、ちょっとドキドキしました。

――お仕事や作品制作の内容で、京都に来て変わったことはありますか?

あきのり:京都に住んでいるからなのかはわかりませんが、日本を感じる提案をしてほしいという依頼が増えてきています。そういう時に、資料になるものがここにもあそこにもという感じで町中に溢れている。お寺や美術品も近くにあるので、写真ではなく実物を見られるのがいいですね。

美樹:日本的なものの表現をする時に手書きの素材も必要だったりするので、そういう時に私が描いて、彼が取り込んで動かすということもあります。

八坂神社に咲くムクゲの花を美樹さんが描き、あきのりさんがそれを取り込んでオープニングのCGを制作した「現代の洛中洛外図屏風」。京都・祇園にある漢字ミュージアム内祇園祭ぎゃらりぃで上映されている。京都デザイン賞2021大賞受賞。

あきのり:あと、一緒に仕事をする人の幅が広くなった気がします。もともとはBtoBばかりだったのですが、企業以外とも関わるようになってきました。京都は人が近い感じがしますね。

美樹:私は数年前に、染め屋さんとコラボレーションして風呂敷のデザインをしました。それも不思議な縁で、夫が余ったインクの譲り先を探していることをSNSに投稿したら、それに反応して取りに来てくださった方がその染め屋さんの風呂敷をデザインされている方で。私の絵を見て、「よかったらやってみませんか」と紹介してくださったんです。そうやって街の中でつながりができていくのはおもしろいですね。

1階のあきのりさんの仕事場。縁側から覗く緑が素敵。

――お仕事や作品制作に向かう姿勢も変わりしましたか?

あきのり:一つ一つの仕事にじっくり取り組めるようになった気がします。東京はいろんなものの流れが良くも悪くもすごく速い。こっちに来て、ゆっくり集中できるようになりました。自分の中での時間の流れ方が変わったというか。

美樹:私は作品の題材がぐっと自然に寄るようになりました。東京に住んでいた頃の作品にはビルも出てきたりとか、もっと具象的で都会的なイメージを描いていました。こっちに来てから植物の生命力に刺激を受けることが多くなって、作品がやさしい感じになったとよく言われます。

美樹さんの作品。ほっと心がほぐれるようなやさしい色使いが印象的。

――京都移住を考えている方に、なにかアドバイスはありますか?

美樹:物件の数が少ないので、じっくり探す覚悟をした方がいいかなと思います。最初の家はたまたますぐ決まったのですが、その後の引っ越しではピンと来る物件がなかなか見つからず、前のところから今のところに引っ越す時には2年くらい探しましたね。

あきのり:あと、町家の理想と現実もありますね。路地の佇まいと中の雰囲気にグッと心を掴まれて事務所をこの町家に決めて、もちろんすごく気に入っているんですが、冬はすごく寒いし、何か生き物がいる気配がします(笑)。

――憧れの町家にはそんな問題もあるんですね……。最後に、京都に住んでいるからこそ、今後挑戦してみたいことを教えてください。

あきのり:伝統工芸とコラボレーションして一緒に何かつくってみたいなと思っています。京都のテックの分野の方とはお会いすることもあるんですが、伝統工芸の方とはなかなか出会う機会がなくて。一緒に話をしながら、お互いの知識を合わせてものをつくるということをやってみたいです。

美樹:日本画の岩絵具を使った作品はつくりつづけたいなと思います。岩絵具だと落ち着いた色合いになりがちですが、なるべく落ち着きすぎずに、見た人が色から「気持ちいいな」「楽しいな」と感じられるような作品を作っていきたい。日本画っぽい余白を活かした表現にもすごく興味があるので、そういったところも研究しながら制作をつづけたいですね。

▼株式会社チドリグラフWebサイト
https://www.chidorigraph.com/
▼美樹さんWebサイト
https://www.mikiueno.com/

記事の作成に関わってくれたクリエイター

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