2024.04.11

京都で暮らす人たちの健康を支えるために。地域のかかりつけ薬局が行う多彩な活動

京都府に101店舗、滋賀県に4店舗を構え、京都最大の店舗数を誇る「ゆう薬局」グループ。京都で暮らしている人や、京都をよく訪れる人なら、まちで見かけたことがあるかもしれません。

超高齢社会のピークを迎える2025年を目前に、地域医療における薬局の役割はますます大きくなっています。そんな中、ゆう薬局は地域のかかりつけ薬局として、調剤や在宅訪問を行うだけでなく、地域活動にもいち早く取り組んできました。

今回の記事では、京都市中京区での活動を中心に、薬剤師・一般職・管理栄養士の方たちにお話を伺います。

楽しみながら取り組む、多岐にわたる地域活動

ゆう薬局で働く人たちは、地域に対してどんな思いを持ち、どのような活動を行っているのでしょうか。まずお話を伺うのは、中京エリアのブロック長を務める片岡礼奈(かたおか・れな)さんです。

調剤薬局やドラッグストア、病院などで、薬剤師として20年以上のキャリアを積んできた片岡さん。出産後にパートとしてゆう薬局に就職し、お子さんが小学校に上がる頃には正社員に。現在は中京東ブロック・中京西ブロックにある8店舗をまとめる立場です。

片岡さん

ドラッグストアで働いていた頃も、地域の方たちから薬や生活に関する相談を受ける機会が多く、薬局に対するニーズの大きさを感じていました。でも、地域に出て活動したいと思っても、会社の方針や人員不足などいろいろな問題があって難しくて。ゆう薬局の場合は「地域にどんどん関わってください」と会社が後押ししてくれるので、すごくありがたいですね。

ゆう薬局では、各エリアで活発に地域活動を行っています。片岡さんが担当している中京区で2021年から開催している健康講座「寺子屋ゆう」は、熱中症やアレルギーなど、季節ごとにテーマを設定し、オンラインと対面のハイブリッドで実施しています。

御所南ゆう薬局で行われた「寺子屋ゆう」の様子(写真提供:ゆう薬局)

他にも、2022年、2023年には、小学校5~6年生を対象に「こども薬剤師体験」を開催。薬剤師の仕事や薬について講義をした後、子どもたちが薬剤師業務を体験しました。2022年の体験は、処方せんをもとに薬(お菓子で代用)をピッキングして、患者さん役の保護者に説明して渡すといった内容でした。

2022年に烏丸御池ゆう薬局で開催された「こども薬剤師体験」(写真提供:ゆう薬局)

2023年はさらに本格的になり、疑義照会と呼ばれる業務を体験テーマに。処方せんに疑問や不明点がある場合、医師に問い合わせて確認するという、薬剤師の大切な役割を疑似体験してもらったそうです。

「こども薬剤師体験」は好評につき2023年も開催されました(写真提供:ゆう薬局)

他にも、祇園祭の時期には店舗の前で外売りを行い、経口補水液といった熱中症対策商品を販売するなど、地域のイベントと連動した取り組みも行っています。

ろっかくゆう薬局では、手軽に塩分補給ができるタブレットを貼り付けたうちわを配布し、熱中症対策を呼びかけました

こういった地域活動は、ブロック内の「地域班」に所属する薬剤師や一般職のスタッフが中心となって行っています。

片岡さん

地域班をはじめ、いくつかの活動班を作り、ブロック内で働くスタッフは全員2つ以上の班に所属してもらっています。初めは私から各班にアドバイスしていましたが、今はメンバーが自主的に動いて企画・運営してくれるので、私はサポートに回ることが多いです。

サンクスカード(38名で420枚交換されたもの)

現場の皆さんが主体的に関わっていると聞いて思わず感心していると、「本人の希望を聞いて所属する班を決めているので、楽しんで活動してくれています」と片岡さんはにっこり微笑みます。

片岡さん

料理教室をやりたいとか、動画を作りたいとか、私が思いつかないようなアイデアがどんどん出てきてびっくりしますね。何をするにしても、楽しいのが一番。楽しくないと絶対続かないですから。

ご縁を大切に紡ぎながら、住みよいまちづくりに尽力

中京薬剤師会の理事を務める片岡さんは、中京区の医療・介護・福祉に関わる人たちや行政の各部門の担当者など、他職種との連携にも取り組んでいます。その一環として、「中京区認知症連携の会」にも地域の薬剤師の代表として参加し、認知症に関わる職種の人たちだけでなく、家族の会やオレンジカフェ(認知症カフェ)を運営する団体とも連携しています。

片岡さん

小学校で認知症サポーター養成講座を実施したいと、何年も前から働きかけていて、昨年やっと高倉小学校で実現しました。今年度も高倉小学校での開催が決まっているほか、堀川音楽高等学校でも開催予定です。西京高等学校附属中学校でも以前から行っているので、小中高で実施できるようになってうれしいです。

認知症の人が自分のまちで最後まで暮らせるようにしたい。みんなが住みよいまち、みんなが助け合えるまちにしていきたい。そう力強く語る片岡さんに、精力的に活動する原動力はどこから来るのか尋ねると、「大きいことを言っていますけど、私が楽しく暮らしたいんですよ」と朗らかに笑います。

片岡さん

私は中京区の生まれではないですが、私の子どもたちは中京区で生まれ育ちましたし、私はこの先、中京区で老いていく。その時に住みやすいまちであってほしいという思いがすごくあります。じゃあ誰がやるの?誰かがやらないとって思うんです。

認知症連携の会の活動を通じてできたつながりがきっかけで、中京区の保健師が中心となって開催する三条会商店街のウォークラリーイベントに薬剤師会がブース出展するなど、コラボレーションもたくさん生まれています。

片岡さん

一度つながったご縁は大事にしていきたいですね。とにかく1人では何もできないので、巻き込める人は全員巻き込んで、つまずくことがあってもトライ&エラーで前に進んでいきたいです。

コミュニケーションを積み重ね、薬剤師業務に生かす

ここからは、地域活動に携わっている現場の方たちにもお話を伺います。1人目は、中京区で2022年11月に新規オープンした河原町丸太町ゆう薬局で管理薬剤師を務める小今井恵里(こいまい・えり)さんです。小今井さんは大学卒業後、全国展開の調剤薬局で3年ほど勤務した後、ゆう薬局に入社しました。

小今井さん

地域に根差した薬局で働きたいという思いがあり、ゆう薬局への入社を決めました。地元は岡山ですが、前職の配属がきっかけで京都に引っ越して、とても住みやすいなと感じたので、京都で転職先を探していたんです。選考を通じてゆう薬局のアットホームな雰囲気に触れて、自分に合いそうだなと思いました。

店舗で勤務しながら、在宅訪問も担当している小今井さん。前職でも在宅の経験はありましたが、同じ在宅と言っても大きな違いを感じているそうです。

小今井さん

前職の訪問先は介護施設で、限られた時間内に数人の患者さんを担当していたので、一人ひとりに関わる時間が短くて。今は、個人宅とサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)を訪問していますが、私が抜ける時は他の店舗からスタッフが来てくれる体制ができているため、患者さんとじっくりお話できます。

例えば高齢の方が、薬の管理がうまくできなくなってきたと感じたら、飲み忘れを防止できるような管理法を提案するなど、何年もかけて患者さんと向き合っているからこそ、経過をしっかり見ることができると言います。

先に触れた「地域班」のリーダーも務めている小今井さんは、中京エリアでの地域活動も積極的に行っています。

小今井さん

健康講座「寺子屋ゆう」の運営が落ち着いてきたので、何か新しいことをやりたいねという話になって。地域班のメンバーの一人が「こども薬剤師体験をやってみたい」と提案してくれたので、ぜひやろうとみんなで立ち上げました。

寺子屋ゆう、こども薬剤師体験といった地域活動を通して、小今井さんはどんなやりがいを感じているのでしょうか。

小今井さん

体験を楽しんでいる子どもたちや、講座で熱心に学んでいる患者さんの姿を見ると、すごくうれしいです。普段から店舗によく来られている方でも、イベントでゆっくりお話してみると、改めて人となりがわかるのが良いですね。

「こども薬剤師体験」で講師を務める小今井さん(写真提供:ゆう薬局)

患者さんをより深く知れたことが、次に店舗に来られた時の指導内容にも生かされるなど、地域活動が普段の業務にもしっかりと反映されているそうです。また、患者さんとのコミュニケーションの大切さは、普段の何気ないやり取りからも実感していると小今井さんは語ります。

小今井さん

以前、小さいお子さんのお母さんで、いつも忙しそうにされていてあまりお話する時間がなかった方に、一度ちゃんと質問してみようと思って、副作用の確認をしたんです。すると、たまたま副作用が出ていたので、医師に問い合わせてその薬は一旦中止することになって。その対応がきっかけで距離が縮まり、信頼してもらえるようになりました。

日々のやり取りやイベントでの交流を通して、地域の人たちとの関係性を着実に築いている小今井さん。今後について、笑顔でこう語ってくれました。

小今井さん

困っているのに助けを求められない方が実は結構いらっしゃって、会話の中で気づくことがたくさんあるんですよね。これからももっと信頼関係を築いていって、何か困った時に立ち寄ってもらえるような場所にしていきたいです。

地域の人たちから頼りにされる存在を目指して

つづいて、小今井さんと同じ店舗で一般職として勤務している山本有華(やまもと・ゆうか)さんにもお話を伺います。栄養士の専門学校を卒業後、新卒でゆう薬局に入社して5年目になる山本さんは、河原町丸太町ゆう薬局のほか近隣の2店舗のスタッフも兼務しています。

山本さん

患者さんとおしゃべりができる仕事がしたかったので、地域の方たちとの距離が近く、一人ひとりに寄り添うような温かい雰囲気があるゆう薬局で働いてみたいと思いました。地元である京都に根差した薬局で働きたいと思ったのも、入社を決めた理由の一つです。

受付や処方せんの入力、レセプト業務など、薬剤師をサポートするさまざまな業務を担っている山本さんは、入社時に希望していた通り、患者さんとコミュニケーションを取る機会が多いと語ります。

山本さん

受付の時に世間話をしながら体調について尋ねたり、一般用医薬品の棚を見ている方に「何かお探しですか」と声を掛けたり。レトルトパウチ食品も扱っているので、お客さまから味を聞かれて「これがおいしかったです。おすすめですよ」といった何気ない会話をするのも楽しいです。

河原町丸太町ゆう薬局は、隣のクリニックにメタボ外来があるため、低カロリーの食品なども豊富に並べているそうです。

山本さん

店舗のスタッフが自分たちで商品を仕入れて、売れ行きを見て入れ替えているので、ゆう薬局でも店舗ごとに品ぞろえは全然違います。「こういうものを探している」というお声があれば翌週には仕入れておくなど、ニーズに細かく対応しています。

山本さんは普段の店舗業務の他に、「地域班」の一員として地域活動にも携わってきました。

山本さん

オンラインで講座に参加した方が、後日店舗に来た時に「あの講座、良かったわ」と言ってくれた時はうれしかったですね。こども薬剤師体験の時も、子どもたちと保護者の方たちがすごく喜んでくださって、本当にやって良かったなと思いました。地域の方たちの反応があると、ちゃんとコミュニケーションの一環になっているんだなと実感できて、モチベーションが上がります。

自分たちでチラシ制作などもしているものの、イベントの集客はまだまだ試行錯誤中だと話す山本さん。「とりあえずやってみよう精神で、みんなで突き進んでいます」と笑います。

祇園祭でゆう薬局のうちわを配布する様子(写真提供:ゆう薬局)

常にニコニコと楽しそうに仕事について話す山本さんに、どんな時に喜びややりがいを感じているのか尋ねると、「仕事は基本的にずっと楽しいです!」と即答。うれしかった出来事として、こんなエピソードを話してくれました。

山本さん

私が他の店舗にヘルプで行っている時に来られた患者さんが、「いつもニコニコしている笑顔の子、今日はおらへんな」っておっしゃったらしくて。後で他のスタッフから聞いて、「そんなふうに思ってくれていたんだ」とすごくうれしかったです。「いつもここにいる笑顔のお姉さん」みたいな感じで、患者さんに頼りにしてもらえる存在になれたらいいなと思います。

食を通じて、薬局の新たな地域貢献を

ゆう薬局の特徴として、薬剤師や一般職の他に、管理栄養士も多く在籍していることが挙げられます。ここからは、管理栄養士部門の地域活動についてもお話を伺いしましょう。大学卒業後、新卒でゆう薬局に入社して5年目の平井優理子(ひらい・ゆりこ)さんは、店舗勤務を経て、現在は在宅事業部に所属しています。

平井さん

人と話してコミュニケーションを取れる仕事がしたいと思って就職活動をしていた時に、出会ったのがゆう薬局でした。当時は、ゆう薬局で管理栄養士が少しずつ地域活動を始めていた頃。面接で「今はまだ、管理栄養士の仕組みも土台も完成していない。あなたがその土台づくりをしてほしい。やりたいことはどんどんできる会社だと思うよ」と言われて、ぜひやってみたいと思って入社を決めました。

入社当時は仕事を覚えるのに必死で、店舗での一般職業務が中心だったと振り返る平井さん。患者さんから食事に関する質問があれば対応したり、近隣クリニックの糖尿病患者の栄養指導を担当したりと、少しずつ管理栄養士としての仕事も増えていったと言います。

さらに、ゆう薬局主催の健康講座で講師を担当するなど、地域活動にも携わるように。2022年10月からスタートしたイベント「ゆう薬局食堂」では、京都信用金庫が運営する共創施設「QUESTION」8階の「DAIDOKORO」で、管理栄養士たちが考案したランチを販売しました。

2022年に開催された「ゆう薬局食堂」の様子(写真提供:ゆう薬局)

平井さん

ゆう薬局食堂は「地域を元気で健康に!」をコンセプトに、2022年と2023年に2回開催しました。レシピを一から考えて前日から仕込みをするなど準備は大変ですが、50食以上用意していたランチは2回とも完売して、アンケートでも「おいしかった」との声が多くてうれしかったですね。当日実施したミニ講座も好評でした。

2023年10月には、「DAIDOKORO」のキッチン開放イベントに、ゆう薬局の管理栄養士メンバーで出店。限定20食のカレーは早々に完売しました。

平井さん

ゆう薬局食堂の時は50食以上用意したので、キッチンにいる時間がほとんどでした。キッチン開放の時は20食だったので少し余裕ができて、来てくださったお客さんとお話する時間を作ることができました。お客さんの反応を見られるのはやっぱり楽しいし、やりがいがありますね。コミュニケーションの大切さを改めて実感しました。

お客さんが自分で野菜をトッピングする際、管理栄養士が声を掛けて説明するなど、食育も意識したイベントに

2023年9月、ゆう薬局は日本栄養士会から認定を受け、「ゆう薬局 認定栄養ケア・ステーション」を設立しました。認定栄養ケア・ステーションは、地域の人たちが栄養ケアの支援・指導を受けることができる地域密着型の拠点で、平井さんはこの拠点の責任者でもあります。

平井さん

生きる上で重要な「食」の部分に介入することは、薬局の新たな地域貢献になると考えています。認定栄養ケア・ステーションの運営はまだまだこれからですが、ゆう薬局がこれまで取り組んできた地域活動をもっともっと広げていきたいです。

今回の記事で紹介したゆう薬局食堂をはじめ、以前に当サイトで取材した舞鶴のゆう薬局カフェなど、ゆう薬局の管理栄養士の皆さんは、これまでも地域の人たちの健康保持増進のために多様な取り組みを行ってきました。認定栄養ケア・ステーションの設立を機に、活動の幅はますます広がっていくことでしょう。

平井さん

私自身ももっといろいろな経験を積みながら、管理栄養士の仲間と一緒にコツコツと活動を継続していきたいです。そして、後につづく後輩にもしっかりとつなげていきたいですね。これからも地域の皆さんに「何かあったら、ゆう薬局に相談しに行こう」と気軽に思ってもらえるような薬局を目指していきたいと思います。

「何か困ったことがあったら、ゆう薬局へ」。そう思ってもらえる場所にしたいと、ゆう薬局の皆さんは口を揃えて語ります。薬剤師・一般職・管理栄養士と職種や立場は違っても、同じ志を持って働いていることがひしひしと伝わってきました。

地域の人たちと丁寧なコミュニケーションを重ね、コツコツと活動をつづけて信頼関係を築いてきたゆう薬局の皆さんが、これからもそっと寄り添うように地域医療を支えていくのだと強く感じました。

編集:北川 由依
執筆:藤原 朋
撮影:清水 泰人

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