2024.07.22

12 大暑 – 夏が待ち遠しいのは、万願寺とうがらしのせい。

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京都には、季節ごとの行事やならわし、風物詩がたくさん存在しています。このコラムでは、1年を春夏秋冬の4つに分け、さらにそれぞれを6つに分けた「二十四節気(にじゅうしせっき)」にあわせて、京都移住計画に関わる人たちの等身大の京都暮らしをお伝えします。

ぼくはどうして万願寺とうがらしを育てているのだろうか。別にナスでもトマトでも、大好きなトウモロコシだっていいのに。

販路や研修体制があり失敗のリスクが少ない。だから、新規就農の際に万願寺とうがらしの栽培を決めた。愛着はまったくなかった。でも、栽培5年目のいま、万願寺とうがらしへの愛に溢れまくっている。「美味しい万願寺をたくさん収穫する」ことに向き合う過程のなかでラブが少しずつ増幅していったのだろう。

農業は様々なファクターが複雑に絡み合っている。土壌、天候、水、気温。それだけではない。ぼくたちはハンディキャップを抱えた人たちと一緒に農業をしており、彼らの体調や特性、目標などに気を配りつつ農作業を進めていかなければいけない。

難しい、とことん難しい。だからこそ、1つひとつの出来事に感情がこもり、心が動く瞬間がたくさんある。

数年前、畑がすべて浸水し数百株の万願寺とうがらしが枯れたことがある。雨が止んだ後、クワを使い水路を掘り排水を試み、酸素供給剤を撒く。その対処もむなしく日が経つに連れ10株、100株、300株と涙をにじませながら株を抜いた。悔しかった。悲しかった。メンバーたちと一緒に畝をつくり万願寺とうがらしを植え、水やりや誘引などを施し、「来週には収穫だ」という矢先に起こった出来事、1本も万願寺とうがらしを収穫することなく、1円の売上も出すことなく、メンバーたちの作業が徒労になった。

1年前、約1300株の万願寺とうがらしを栽培した。出荷量は4トン弱、京田辺地域で一番の出荷量となった。農協から「すごいやん」と評価され、まわりの農家からの信頼も少しずつ得られ、今年度は新たな畑が増え、そして、農協の万願寺とうがらし部会の支部長に推薦された。その嬉しい一報をメンバーに報告すると、彼らも同じように嬉しがった。

それだけでなく、片蝶々結びができるようになった・収穫ができた・体力がついたなど個人的な変化も含めると、万願寺とうがらしは数えきれないほどの感動を運んできている。しんどいことも、嬉しいことも、メンバーたちと気持ちを分かち合っている。もうすでに万願寺とうがらしはぼくたちの日常に入り込んでいる。これが栽培を続けている理由。

そして、いままさに万願寺とうがらしの収穫が本格化しており、メンバーたちの顔つきや動き、そして心身の状態は日に日に良くなっている。みんなの体内に万願寺とうがらしの血が流れている。みんなの夏の風物詩になっている。

執筆:世古口 敦嗣
編集:藤原 朋

世古口 敦嗣

約25名の障害のあるメンバーとともに農業を展開する「三休」施設長。京都府ブランド野菜・万願寺とうがらしなどの栽培、ハーブを使用したビールやハーブティー、和菓子の商品開発、自家製ハーブを使用したドリンクを提供するカフェの運営などを通して小さな6次化産業を進めている。また三休を起点に地域の方々や大学生との協働プロジェクトも多数。2022年「ノウフクアワード」受賞。

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