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京都には、季節ごとの行事やならわし、風物詩がたくさん存在しています。このコラムでは、1年を春夏秋冬の4つに分け、さらにそれぞれを6つに分けた「二十四節気(にじゅうしせっき)」にあわせて、京都移住計画に関わる人たちの等身大の京都暮らしをお伝えします。
大学院進学で京都に来てから4年が経つが、元来寒いのが好きな私も、京都の寒の入りには毎年身構える。
実家のある岩手よりも寒いと周囲に豪語していたが、最近冬の岩手を体験した妻も同じことを言っていたので多分正しい。
でもまちを歩くには悪くない季節だと思う。
どんなに寒くたってたくさん歩けば次第に体も暖かくなるし、疲れたら近くのカフェでコーヒーでも飲めばいい。
そんなまちあるきのお供にぴったりな『SCENE』というプロジェクトを、私たちPERISCAPE ARCHITECTSでは展開している。
『SCENE』とは、自分の好きなまちの風景や出来事を一枚の写真に切り取り、その瞬間の思いを600字程度のテキストにのせることでつくられる作品である。誰かにとっての特別な瞬間や風景を互いに共有できれば、それまで無意識のうちに通り過ぎていた日常が違って見えてくるのではないかという期待を込めた試みだ。
これまでは私たちの拠点である東京と京都で展開してきたが、今回は新たに『西陣』をテーマにプロジェクトを進めてみることにした。西陣で展開するにあたっては一般公募で寄せられたSCENEを1冊の冊子にまとめてみたのだが、今になって冷静になって考えてみると、600字の文章を書くというのは公募の条件にしては少々ハードルが高い。おまけに写真も自分で用意しなければならない。2024年、世間はSNS時代真っ只中、写真にもそれなりのクオリティが求められる。もし自分だったら途中で面倒になって投げ出したかもしれない。
しかしいざ募集してみると、そんな心配をよそにたくさんの方々がこのプロジェクトへの応援と素敵な『SCENE』を投稿してくれた。結果として、17名から合計20の『SCENE』が寄せられた。力作揃いのおかげで編集していた私自身が一番このプロジェクトを楽しんでいたように思う。
とはいえ、冊子の表紙を選ぶのには難儀した。
どんなに調べても、写真1枚でこれぞ「西陣」という場所がなかなか見つからない。ありもしない「西陣」を求めてカメラ片手に西陣界隈を徘徊する日々に辟易しだした頃、投稿していただいた写真を改めて見返して気が付いた。場所も時間帯も季節もバラバラだけれど、どれもが間違いなく誰かの「西陣」であり、それらが集まることで「西陣」という場所が多面的に映し出されるのではないか、と。
結局、当初の計画を変え、投稿していただいた写真をたくさん使うことにした。表紙も含め、投稿者が切り取ったそれぞれのシーンをまとめる方がこのプロジェクトのコンセプトにも合っているし、何よりも「西陣らしい一枚」を無理に探し回るよりずっと自然に仕上がると感じたからである。
こうして、書籍『SCENE -西陣- ありふれた景色が変わる、誰かの記憶への招待』は完成した。素晴らしいSCENEを投稿していただいた皆様はもちろん、応募のチラシを心よく置かせてくれた西陣界隈のお店の方々、SNSや口コミでこのプロジェクトの情報を拡散してくれた皆様に感謝申し上げたい。
書籍は西陣界隈のお店に置かせていただく予定であり、また「文学フリマ」など各種イベントへの出展も予定している。
この本を手に取っていただいた皆様の日常の景色が、少しだけ違って見えるきっかけになれば幸いである。
小野寺 健
PERISCAPE ARCHITECTS / 副代表
岩手県一関市出身。大学院進学のため千葉県浦安市から京都市へ移住。現在は意匠設計を担当する代表と共に、東京/清澄白河と京都/西陣の2拠点で建築・まちづくり活動に励む。京都市では東山区のまちづくりプロジェクトなどに参画。建築構造設計のほか、歴史的建造物の保存・再生・活用に関する活動をおこなっている。趣味は映画鑑賞。京都の映画館はアップリンク京都がお気に入り。
執筆:小野寺 健
編集:藤原 朋