CHECK IN
京都の日常を彩る食を訪ねる「食を巡る」シリーズ。京都らしい食べ物や飲み物、京都移住計画メンバーのお気に入りの一品をご紹介する連載コラム記事です。食べることは生きること、京都での暮らしに彩りを与える物語をお届けします。
グローバルチェーンの日本1号店
昭和初期には時代劇の撮影所が立ち並び、現在も「映画のまち」として知られる太秦。この地で共に歴史を刻んできた大映通り商店街の一角に、黄色い花型の看板が目印の「The Yellow Deli」があります。

「The Yellow Deliは海外にもたくさん店舗があるカフェベーカリーなんです。ここは唯一の日本支店で、オープンから丸8年が経ちました」
教えてくれたのは、2017年10月のオープン直後から働いているBasmat(バスマ)さん。
「大学生の時、ワーキングホリデーで滞在していたオーストラリアのカトゥーンバにあるThe Yellow Deliに立ち寄って、お店の雰囲気にとても惹かれたんです。働いている人の接客が、みんな昔からの友達みたいに優しくて、あったかくて。私もここで働きたい!と思い、現地でメンバーに加わったのが約9年前。そのあと日本1号店が京都にできると決まって、ここで働くことになったんです」

ここで働くスタッフの大半は聖書の教えに基づくコミュニティに属していて、生活を共にしています。メンバーは各国の店舗同士で定期的に入れ替わり、長期滞在のために移住してくる場合や、短期間の応援でやってくる場合など様々です。
お店のある場所柄、海外からの観光客の来店が多いことも相まって、店内ではそこかしこで英語が飛び交います。レジ横のゲストブックには、英語以外にもフランス語、ドイツ語、タガログ語、韓国語……と多言語で書かれたコメントがずらり。
「お客さんは、地元の人と海外の人で半々くらい。年配の方から、小さなお子さん連れのお母さん、学生さんも。映画の撮影所が近くにあるので、知っている俳優さんがふらりと来ることもあるんですよ」
フードメニューは50種類以上
お店の扉を引いて店内に入ると、まずはカウンターに並ぶたくさんの自家製の惣菜パン・菓子パン・食パンなどが目に飛び込んできます。
「カウンターに並ぶものはすべて日本店のオリジナルメニューなんです。最近、スタッフが舞鶴で釣ってきた魚を使うフィッシュバーガーが新しくメニューに加わりました」

世界中の店舗でレシピを共有しているサンドイッチは、注文を受けてから作る人気メニューのひとつ。アメリカでの開業当初から引き継がれるサンドウィッチ「ルーベン」や、ベジタリアン向けに豆腐を用いた「ガーデンバーガー」には、サイドメニューにポテトチップスとピクルスが添えられてボリューム満点。
午後からはキャロットケーキやクッキーなどの軽食で一息つくお客さんが増えてきます。ドリンクも、コーヒー、紅茶、ラテ、マテ茶、ジュース、スムージー……と30種類以上。コンパクトな店の外観と豊富なメニューとのギャップに驚かされます。
Basmatさんのおすすめはクリームチーズパイとハイビスカスティー。
「ひとつをカットして一緒に来たお友達とシェアしたり、食べきれなかった分をお持ち帰りしたりするのもOK。気軽に声をかけてくださいね」

忙しくても「会話」を大切に
店内にはカントリー調のBGMが流れ、ちょっとした海外旅行気分が味わえます。温かみのある大きな木製テーブルやベンチ、りんごの樽でできたランプシェード、壁に飾られた絵画など、インテリアはそのほとんどをDIYで仕上げたそう。
接客も、大手カフェチェーンとは少し異なる様相です。
「味はどうですか?ゆっくり過ごしていってくださいね」
「ここははじめてですか?コーヒーはおかわりできるので言ってくださいね」
「おいしかったですか?ぜひまた来てください」
Basmatさんをはじめ、フードやドリンクをサーブするスタッフが、席に着いて注文を済ませたお客さんにもきさくに声をかけます。
テイクアウト利用で訪れた人ともカウンター越しに会話が弾み、店内が混み合っていても、どこか時間がゆっくり流れているような空気感です。

「実は、日本に初めてお店を出すことが決まったときは『太秦でやっていけるの?』と少し心配していました。メンバーの中には、東京や大阪などもっとたくさんの集客が見込める都市部や、京都市内の観光名所近くを推す人もいました。でもお店が忙しくなると、どうしても、注文を受けて、提供して、それでおしまいになってしまう。少しでもお客さんと話せるゆとりを作りたくて、商店街の中のこの場所に決まったんです」
太秦の人たちに支えられて
通常の店舗運営と並行して、定期的にファーマーズマーケットを開催したり、東寺の骨董市に出店したりと、京都に住む人々とのつながりを大切にしてきた同店。商店街の住民から「楽器の演奏ができる人はいない?」と持ちかけられ、2025年8月に開催された「夜店祭妖怪行列」では、スタッフがバイオリンやギターの生演奏で参加しました。
インタビュー中に来店した常連客のあやこさんは、最近は週に一度、ボランティアで皿洗いをしに来ているそうです。
「あるときお客さんとして来たらすごく忙しそうだったので、洗い物でも手伝おうか?と言ったら『いいの?ありがとう!』って(笑)。お給料が出るわけじゃないけど、ここは居心地がいいから応援したくって」

オープン当初こそ、周囲は「昔ながらの商店街に海外風ベーカリー?」と不思議に思ったものの、次第に足を運ぶ人が増え、いつしか大映通り商店街の人気店に。観光客が激減したコロナ禍も、近隣住民のテイクアウト利用に支えられて乗り越えることができたそう。
「今はスタッフみんなこの場所がとても気に入っています。これからも、誰でもリラックスできる場所であることはキープしつつ、また日本オリジナルの新メニューを開発したり、今は仕入れている材料もゆくゆくはすべて自家製のものにしたりするなど、もっとたくさんの人に知ってもらえるようにやってみたいことがたくさんあります。違う街にもお店を出したいし、海外の店舗のように24時間運営にもチャレンジしたいです」(Basmatさん)
種類豊富でおいしいメニューと、明るくフレンドリーな接客に、お腹も心も満たされるお店。ここでつながる人の輪は、これからもっと大きくなっていくでしょう。
『The Yellow Deli』
住所:京都市右京区太秦多藪14−11
営業時間:10:00~20:00(金曜は~15:00)
定休日:土曜
https://yellowdeli.com/kyoto
CHECK OUT
食事だけ・ドリンクだけ・おしゃべりだけでもOK、一見さんのボランティアも大歓迎という全方位へのウェルカム姿勢が魅力です。友達や子供を連れてワイワイしたいときにも、ちょっと一人で癒されたいときにも真っ先に思い出すお店で、何度も通う常連さんの気持ち、よくわかります。
執筆:眞板 響子
編集:藤原 朋



