2023.03.22

移住応援メディアから、移り住む先の暮らしをつくるメディアへ。サイトリニューアルの裏側

2023年3月、京都移住計画のWebサイトは、公開10周年を機に全面リニューアルしました。

デザインを一新するだけでなく、読みごたえのある特集ページやフリーワード・タグ検索など、新たなコンテンツや機能も追加し、より充実したWebサイトに生まれ変わっています。

今回は、サイトリニューアルに携わった制作チームの皆さんに、制作のプロセスや、作り手の思い、こだわりについて、詳しくお話を伺います。普段はなかなか表に出ることのない、サイトリニューアルの裏側をのぞいていただくことで、京都移住計画をもっと楽しんでもらえるとうれしいです。

京都移住計画との出会いとこれまでの関わり

今回お話を伺うのは、サイトリニューアルのディレクションを担当したHAKUTO株式会社代表取締役の中嶋恭朗(なかじま・よしろう)さん、デザインを手がけた株式会社マガザンの井上みなみ(いのうえ・みなみ)さん、実装・システム開発を担当したフリーランスWebデザイナーの鬼頭祐毅(きとう・ゆうき)さんの3人です。

左から中嶋恭朗さん、鬼頭祐毅さん、井上みなみさん

3人はどのようにして京都移住計画と出会い、これまでどう関わってきたのでしょうか。

鬼頭さん

僕は京都出身でずっと京都に住んでいるんですけど、田村さん(京都移住計画代表の田村篤史)が東京から京都に帰ってくる頃にたまたま知り合って、移住計画を立ち上げるところから一緒に携わっています。僕の周りにも田村さんの周りにも、「いつか京都に帰ってきたい」という友人がたくさんいたので、そういう人たちがつながる場所を作りたいと思ったのがスタートですね。 

鬼頭さん

例えば家業を継ぐ、事業を起こすといった目的があって移住する人もいますが、そうじゃなくて、なんとなく京都に憧れて住んでみたいとか、仕事の都合で引っ越してきて暮らしているとか、何でもない理由で住む人が実際は大半じゃないですか。そういう人たちが楽しくつながれるような場所を作りたいという思いがありました。

Webデザインを生業としていた鬼頭さんは、「移住してきた人や移住したい人たちの交流の場を作っていく上で、Webサイトがあることが安心感につながるはず」と、2012年に京都移住計画のWebサイトを制作。以降もコアメンバーの一人として活動に携わってきました。

リニューアル前のデザイン

鬼頭さん

仕事という感覚は全然なくて、気のいい仲間たちとやっているプライベートな活動として、真剣に遊んでいた結果、今までずっとつづいている感じですね。

同じく京都出身で、大学進学からは東京で暮らしてきた中嶋さんは、京都移住計画が東京で行ったイベントで田村さんと知り合ったのがきっかけだったと話します。

中嶋さん

4年ほど前に、京都出身者や大学時代を京都で過ごした人など、京都にゆかりのある人たちが集まるイベントに参加しました。実はもっと前から京都移住計画の存在は知っていたのですが、京都出身の僕には「移住」というキーワードが全然刺さらなくて。僕にとって京都はただ帰ってくる場所で、移住者っていう感覚はなかったんです。田村さんにその話をすると「確かにそうだよね」と共感してくれました。

「移住」という言葉にはピンとこなかったものの、「東京で京都にゆかりのある人と出会える、県人会のようなコミュニティを作りたい」と考えていた中嶋さん。この時に田村さんと話をしたことがきっかけで、2020年から京都移住計画と共に首都圏在住者向けにイベントを運営してきました。現在は、京都と東京で二拠点生活を送りながら、京都移住計画の活動に携わっています。

中嶋さんは、京都移住計画と共にイベントを開催する他、今までとは違った帰省を提案するWebサイト「to kyoto」のディレクターを務めてきた

中嶋さん

今後は移住計画のイベントをもっと拡張させて、相互でやり取りできるようなコミュニティにしていきたいという田村さんの思いを聞く中で、その延長としてサイトリニューアルについても話をするようになりました。また、今後の京都移住計画のあり方として、田村さん自身も京都に戻ってから当時すでに7~8年経っていたので、「移住」に関しては次の世代にバトンを渡して、京都の暮らしをもっと豊かにしたり、京都との関係をより深めたりするような活動にシフトしていきたいという話もあり、この思いもサイトリニューアルの構想へとつながっていきました。

サイトリニューアルが具体的に動きはじめたタイミングで、プロジェクトに関わったのが井上さんです。

井上さん

新サイトのデザインをマガザンに依頼したいというお話があり、私がデザイナーとして参加することになりました。京都移住計画さんとマガザンの代表の岩崎は、これまでも一緒にお仕事をしてきたのですが、今回は世代交代というテーマもあり、若手のデザイナーを起用したいとの意向があったので、社内で私に声を掛けていただいて。実は私はここまで大きな規模のWebサイトを担当するのは初めてだったのですが、私自身も京都でずっと見てきたWebサイトに携われるのは光栄なことだなと思って、「頑張ります」とお引き受けしました。

「風」と「水」をどのように表現するか

今回のサイトリニューアルでは、「風」と「水」が重要なキーワードとなっています。移住応援メディアとしてWebサイトを立ち上げた頃は、「風」のイメージ。京都に移り住む人たちや京都と関わりを持ちたい人たちを、地域への新しい可能性=種と捉え、その種を迎え入れたり背中を押したりする「風」のような存在だと定義しました。

そして、Webサイト立ち上げから10年。移り住む先の暮らしをつくるメディアであり、ヒト・モノ・コトをゆるやかに混ぜ、関わりをつないでいく、種を育む「水」のような存在として、これからのあり方を定義しました。

この「風」と「水」のキーワードをどのようにサイト上で表現していくのか。京都移住計画のメンバーと制作チームの皆さんが集まって、ワークショップを行うところから、サイトリニューアルのプロジェクトがスタートしました。

井上さん

「水ってどういうものなのか、まずは探ってみよう」ということで、みんなで鴨川に行って、水の写真を撮ってきてもらって、その風景からどんなことを感じたのか、意見を出し合うというワークショップを行いました。一人ひとりの「水」の解釈を集めて、それをデザインに落とし込めば、みんなが思い描く移住計画の形になるんじゃないかと考えたんです。

WS時にメンバーが集めた「水」の写真 

そんなプロセスを経て、井上さんが表現したのは「風」「水」「土」のアイコン。外から可能性を運ぶ移住を表す「風」、その土地に留まりながら、ゆるやかに混ぜたり栄養を与えたりする、多様な暮らし方を表す「水」、そしてその先にいずれあるかもしれない姿として、定住を表す「土」。この3つをアイコンとして表現しました。

さらに、「風」と「水」ははっきり分かれているわけではなく、風から水へ、水から風へと、シームレスにつながっていく存在として、それぞれのカラーとグラデーションで表現しました。

井上さん

皆さんと意見交換する中で印象的だったのが、「お出汁」というキーワード。お出汁のようにやさしくて、何を入れてもおいしい、何でも受け入れてくれるような存在が移住計画らしいという言葉をヒントに、ヴィヴィッドな色ではなく、やさしく包み込んでくれるような落ち着いた色のグラデーションで表現しました。

あえて残した、境界のない「曖昧さ」

井上さんがデザインで表現したグラデーションは、実装面や運用面でも共通している部分だと、鬼頭さんと中嶋さんは話します。

鬼頭さん

境目がわからないグラデーションや、シームレスにつながっていくという表現は、実装面でも意識していました。本来、実装においては細かいところをきちっと固めていくのが大事なんですけど、今回のサイトでは、あえて曖昧さを残しているのが大きな特徴だと思います。

鬼頭さん

京都移住計画では、「居」=コミュニティやイベントの情報、「職」=求人情報、「住」=不動産情報を発信していますが、「居・職・住」の3つは本来まったく毛色の違うものなんですよね。でも移住計画のサイトでは、暮らしに関するものとして全部一緒に扱っていて、あえて境界も曖昧にしています。だから、求人を探していても、気づいたら関連記事で出てきた物件情報やコラムを読んでいて、いつの間にか自分が京都で働いた先の暮らしまで想像している。そんなことが起こるサイトだと思うんです。各コンテンツがゆるやかに交わる、回遊性の高さが特徴ですね。

中嶋さん

今回のリニューアルでは、フリーワード検索とタグ検索の機能を追加したことで、さらに回遊性が高まりました。サイトを訪れた人が思いがけないものに出会えるような偶発性を生むために、検索すると「居・職・住」のどのコンテンツも一緒に表示されるようになっています。

さらに、デザインが細部まで考え尽くされているからこそ、「居・職・住」のどのコンテンツを見ても、サイトの世界観が統一されていると鬼頭さんは話します。

鬼頭さん

一つひとつの細かい調整によって、サイト全体の雰囲気が作られていると思います。井上さんが1ページずつすごく丁寧に作っているので、それをなるべく再現できるように微調整しながら実装を進めていきました。僕が自分でデザインしていたら、たぶんしないだろうなっていう細かい調整がすごく多いんですよ。例えば、Webの記事ではだいたい横幅が決まっているんですけど、今回のデザインでは、画像と文章の横幅が微妙に違っていたりして。井上さんがこれまで大きいサイトを制作した経験がなかったことが、すごく良い方向に出ていると思いました。

井上さん

わからないから無邪気に作ってしまって……(笑)。

鬼頭さん

大変なんですよ(笑)。でもデザインの意図はよくわかるので、「いや、わかるけど!」って100回くらい画面に向かってつっこみながら作りました。

そんな2人のやりとりに、一同大笑い。制作メンバーのチームワークの良さが伝わってきます。 

京都移住計画が持つ、やわらかさと強さ

今回のサイトリニューアルを通して、制作チームの皆さんはどんな「京都移住計画らしさ」を感じて、それをどのようにこだわって表現したのでしょうか。

鬼頭さん

例えば、先ほどお話したデザインの調整も、一つひとつは取るに足りないことなんです。でもそれが合わさって、サイト全体の世界観を形づくっている。京都移住計画の活動も、大きな派手なものではないかもしれませんが、地に足の着いた取り組みを一つずつ積み重ねて今があるので、「京都移住計画らしさ」とすごく合っていると思いますね。今回、僕が実装者として最後の工程に携わる意味を考えた時に、立ち上げからずっと関わってきたからこそわかる「らしさ」や空気感を大切にすることではないかと思い、特に意識しながら取り組んでいました。

井上さん

私は今回初めて移住計画に関わったので、ある意味、一番お客さん目線に近かったと思います。私が感じることは、たぶんサイトに訪れる人たちの目線に近いし、年齢的にも同世代だと思うので、自分が感じ取った「らしさ」を素直に表現しようと思いました。

井上さん

「らしさ」をデザインに落とし込むためにこだわったポイントは、移住計画の人たちのほわっとした空気感や、やさしく温かいイメージを、カラーやグラデーション、写真の角を丸くするといったあしらいで表現したところ。今回の重要なキーワードである「水」を感じさせるように、ゆらゆらと波打つような動きなどのアニメーションも使っています。文字についても、京都の会社が出しているフォントを利用するなど、一つひとつの背景にあるストーリーを大切にして制作しました。

立ち上げからずっと関わってきた鬼頭さんと、今回初めて関わった井上さん。デザイナーと実装者がそれぞれの視点から「らしさ」を表現したからこそ、「いい塩梅」のバランスが成り立っているのかもしれません。

一方、中嶋さんは、普段のクライアントワークとは異なるアプローチに苦労しつつも、「らしさ」を表現したと語ります。

中嶋さん

普段Webサイトを制作する時は、ターゲットやペルソナを明確にして、そこにサービスを当てはめていきます。でも、今回はそれらを曖昧にしているところが「京都移住計画らしさ」だなと思っています。明確に決めて振り切ってしまったほうが伝わりやすい部分はもちろんあるんですけど、あえてそうせず、運営側が何を大切にしたいか、という価値観をしっかりと表現しているからこそ、サイトの世界観が担保されているのではないかと思いますね。

そんな中嶋さんの言葉に、井上さんと鬼頭さんがこう付け加えます。

井上さん

移住計画の皆さんがやりたいことを曲げずに、ここまでたどり着いたなと思います。それが「らしさ」にもきっとつながっているし、「やりたい」を貫いて作ったものはやっぱり強いですよね。

鬼頭さん

曖昧っていうのは「何でもいい」ではなくて、曖昧さを隠れ蓑にせずに、ユーザー目線も大事にしながら細かいところまでしっかりと考えた結果としてしか表現できないニュアンスだったと思いますね。関わった皆さんがすごく真摯に向き合った結果だと感じています。

3人のお話から、やわらかさと強さを併せ持つ、京都移住計画の「らしさ」が浮かび上がってきます。 

人や場と出会う、拡張性のあるメディアへ

最後に、京都移住計画のこれからについて、3人の思いを伺いました。

井上さん

既存の記事をベースにデザインを進めていったので、これから作られていく新しい記事が良いものになりますようにという気持ちを込めて制作していました。だから、実際に今から記事がどんどんアップされていくのを見るのがすごく楽しみですね。

中嶋さん

新しい機能を使ってサイト内を回遊してもらって、人や場と出会うツールになっていくとうれしいです。記事を読んで実際にイベントに足を運んでみるなど、リアルに出会えるのも京都移住計画の強みだと思うので、どんどん新しい出会いが生まれるような、拡張性があるメディアになっていくといいですね。

鬼頭さん

やっぱり最終的には、リアルにつながっていくと良いですよね。なんとなく「京都っていいな」と思っている人の手助けができたり、少しでも背中を押したりできるようなサイトになっていれば、制作に携わった皆さんの大変さも報われると思います(笑)。

京都移住計画のメンバーと制作チームの皆さんの思いが詰まった新サイト。デザインを細部まで見てみたり、記事をじっくり読んだり、検索機能を試してみたりして、思わぬ出会いをぜひ体験してください。サイトを訪れた人の暮らしが、より楽しく豊かなものになりますように。

編集:北川由依
執筆:藤原朋
撮影:進士三紗

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