2025.03.24

地域のリアルから見つける「私とローカルの関わりしろ」。続・QUESTION TALK vol.22レポート

京都ローカルという選択肢

「京都ローカルワークステイ」とは、地域企業との出会いを通して、京都での新しいライフスタイルをデザインしていくプログラムです。参加者は、地域でチャレンジする多様な人や企業と共に「プロジェクトづくり」に挑戦し、京都ローカルとの関係づくりを目指します。

2024年度は、3日間の現地フィールドワークを含む約半年間のプログラムに全国から約20名が参加。京都府北部の4組の企業がパートナーとして参加者たちを迎えました。

様々な出会いや学び、挑戦が起こったプログラムが終了。報告もかねて、2025年2月、「都市と地域のつながり」をテーマに、京都信用金庫「QUESITON」と共催で、QUESTION TALKを開催。パートナー企業をゲストにお呼びし、京都ローカルの魅力とプログラムの成果を共有してもらいました。

つながりが照らす「見えない課題」

トークセッション1社目は、道の駅 海の京都 宮津(株式会社ハマカゼプロジェクト)駅長の浜崎 希実さん、現地コーディネーターの高橋 友樹さん(株式会社ローカルフラッグ)の登壇です。

道の駅 海の京都 宮津

日本三景・天橋立に一番近い道の駅として知られる「道の駅 海の京都 宮津」。小規模施設ながらも、海産物と農産物が揃う恵まれた立地を生かした商品ラインナップで広く支持を得ています。浜崎さんは施設運営から商品開発まで幅広く担当し、手がけた「宮津カレーやきそば」「天橋立チーズケーキ」は宮津の新名物としても浸透しつつあります。

道の駅の直売所「宮津まごころ市」には、宮津オリジナルのお土産や「農家さんが交流しながら切磋琢磨」していると言う新鮮な野菜が並んでいる

高橋

宮津でのフィールドワーク開催にあたって、僕たちが最初に決めた体験の軸は「生産者とつながること」でしたね。

浜崎

地域の生産者さんたちが抱える課題は、見えにくいものが多いんです。例えば、農業体験で取り上げられることが多いのは、植え付けや収穫の工程ですが、農家さんにしてみると、本当は草取りなど表に出てこない工程こそ人手が欲しかったりするんですよね。生産者さんとつながりを持つことで、見えにくい部分の課題を発見し、次につながるプログラムにしたいと考えました。

道の駅チームには、5名が参加。「生産者の課題を解決する 道の駅発の仕掛けづくりに挑戦」というテーマに沿って、課題解決にチャレンジしました。

対話がもたらす熱量

気づけば参加者誰もが引き込まれている「熱いお話」の数々

生産者との交流を前に、道の駅を見学しつつインプットが行われた1日目。参加者を迎えた浜崎さんにはさっそく気づきがあったのだそう。

浜崎

私たちの直売所は「京都のどこでも買えるお土産は取り扱わない」というポリシーで運営していたのですが、道の駅巡りが好きな参加者から、「宮津のように商品にこだわりのある道の駅は他にない」と感想を貰ったんです。普通だと思っていた商品選びも、私たちのセールスポイントだったんだ!と嬉しくなりました。

プログラム2日目は、地域を舞台にフィールドワーク。海の京都を代表する漁業や、山間の地域での農業に携わる生産者たちの元へ足を運びました。

フィールドワーク後、参加者からは企画がいくつも提案された

浜崎

地域交流では、若手農家たちから「担い手不足」の実情が語られたり、「伝説の漁師」による名言がひとつの企画を生んだりする瞬間を目にしました。特に、生産者組合の会長さんの言葉は、誰もが駆け寄りたくなるような熱いもので、参加者のみなさんが熱心に聞き入っていたのを覚えています。また、「やりたいこと」や「自分ができること」を前向きにアピールしてくれる様子を見て、自分たちもできる限り思いに応えなければとも強く思いました。

地域での交流を経て、参加者からは地域課題にアプローチする企画が続々と発案されたそう。話し合いを重ねた結果「道の駅宮津を紹介するキャッチコピー作成」「道の駅体験型ツアー企画」の2つの企画が実行に向けて選ばれ、現在、濃密な打ち合わせが繰り返されています。

観光列車はまちの魅力と改革を背負って

2組目にお話ししてくださったのは、京都丹後鉄道 (WILLER TRAINS)荒川直人さん。地域コーディネーターは引き続き高橋さんが登壇します。

京都丹後鉄道

福知山、西舞鶴、豊岡と宮津をつなぐ3路線からなる鉄道会社。観光地と人を結ぶ「観光列車」の運行によって地域の経済効果を担う存在です。高い評価を受ける「レストラン列車 丹後くろまつ号」は、予約が取れないほどの人気。

カフェ列車「丹後あかまつ号」も、レストラン列車と並ぶ人気

荒川

WILLER TRAINSは京都丹後鉄道の運行に関わり10年になります。私たちの会社はもともと旅行業・バス運行・マーケティングの会社。鉄道の運営会社としては異例の異業種参入です。

「既存の鉄道会社にはないチャレンジを期待されての選定だったと理解している」と続ける荒川さん。類を見ない魅力的な企画の実行と共に、時に「やりづらい」提案や改革を行ってきた自負もあると語ります。

そんな京都丹後鉄道が今回のプロジェクトでテーマに選んだのは「100周年を盛り上げる観光コンテンツの考案」でした。

荒川

京都丹後鉄道は、1924年の宮津線(西舞鶴~宮津間)開業から100年のメモリアルイヤーを迎えました。ただ、PRが足りていなかったのか、あまり知られていないようで……。私たちの強みの「観光列車の企画」と組み合わせてコンテンツを企画すべく、フィールドワークで参加者と共に地域を見てまわりました。

「地域の色」が人を呼ぶ鍵

高橋

京都丹後鉄道チームには7名が参加しました。西舞鶴駅から本社のある宮津駅まで、綺麗な景色を見ながらみんなで電車に揺られたのは良い思い出です。1日目に本社で行われたインプットでは、宮津市の担当者を招いて行われたディスカッションが特に印象的でした。行政の温度感がとても高いのだなと。

荒川

宮津市役所には、京都丹後鉄道利用促進会の事務局をやっていただいているんです。企画の窓口になってもらうことも多いですね。ディスカッションでは、100周年事業に限らず、私たちにはまだまだ多くの課題があることを確認しあえたのも良かったと思っています。

酒蔵で話を伺う参加者。実際に多彩な「食」を味わうのも現地体験の楽しみのひとつ

高橋

2日目は地域の企業を巡りました。観光列車で魅せる京都丹後鉄道の「色」を探すべく、丹後のばら寿司を手がける食品業者をはじめ、酒蔵、缶詰生産者など、地域の企業のみなさんと一緒に地域の魅力を探しましたね。地域企業や参加者と話をしてみていかがでしたか。

荒川

鉄道の魅力だけで、鉄道会社が人を呼ぶには限界がありますが、鉄道の持つ移動の役割や、京丹後の美しい景色という魅力に「地域の価値」を上乗せすることで、効果的なPRや集客が可能になるなと思いました。この視点に注目したことで、多くの議論が生まれたことも嬉しかったです。

「パワフルな参加者たちによる熱量たっぷりの時間だった」と二人が振り返る現地プログラムを経て、プロジェクト参加者からは、中期滞在型観光を促進する「北近畿まるごとホテル企画」、季節ごとに海産物を楽しむ「マルシェ列車」、地域に伝わる伝説になぞらえた「大江山鬼伝説列車」など、様々な企画が提案されているそう。

一部のアイデアは具体的な企画として動き始めているという京都丹後鉄道のプロジェクト。つながりから生まれた気づきが、どのように課題を解決していくのか、これからさらに楽しみです。

文化を縫い合わせて価値をつくる「都市縫製」

続いての登壇は福井センイ有限会社・SEW事業プロデューサーの菅原 一輝さんです。

福井センイ

舞鶴で75年続く縫製工場。従来のアパレル縫製や自社ブランドの生産を行う「縫製」部門と、3代目の菅原さんが手がける「都市縫製」をコンセプトに活動する「SEW」部門、企画やスペース提供を行う「スペース」部門の3つを軸に事業を展開しています。

テーマは「地域の未来を拓く新ブランドの立案にチャレンジ」。菅原さんが提唱する「都市縫製」という新たな概念を通して、アパレル業界が古くから抱える問題や地方社会の課題に挑みました。

フィールドワークを行った東吉原は、運河に漁船が並ぶ漁業の町。近年「東洋のベネチア」とも呼ばれている

菅原

妻の父が経営する福井センイに入社し、改めて実感したのはアパレル業界の課題の多さです。解決するためには自分で事業を始める必要がある、と立ち上げたのが「SEW」というラグジュアリーブランドでした。「服を作る会社」の価値とは何だろうと悩んだ結果、培ってきた技術がある縫製事業からはやはり離れたくありませんでした。アパレル事業は布と布を縫って価値を作りますよね。ならば人や都市、カルチャー、音楽など分野が違うものも縫い合わせていったら、もっと面白い価値が生まれるのではないかと考えたんです。

縫製の際に出る残布を再利用して作られる「SEW FABRIC」のスツール(中央)とカーテン(奥)

藤本

「SEW」が手がける事業は、オリジナルのファブリック製品ブランドから、宿泊施設、イベント運営と多岐に渡っていますが、製品づくりに限らず、「機会をつくる」という文脈で事業をしているのは特徴的ですね。

菅原

大量生産・大量消費で成り立つ業界の様子をずっと見てきたことで「ものは簡単に作っちゃいけない」「作ったものが簡単に捨てられないようにしなくちゃ」とずっと考え続けていた結果でもあります。私たちのものづくりを知ってもらうために、まずは舞鶴に人を呼びたいと思いました。会社の近くはロケーションも良いので、舞鶴の空気を感じてもらえるんじゃないかって。
宿泊施設へ足を運んでもらった上で、私たちの製品や考え方を遠くへ届ける役割を担うのが、オリジナル製品の役割である、という考え方をしています。

悩みを共有する仲間がいる心強さ

生地に手作業でプリントをしてオリジナル製品づくりにも挑戦した

藤本

福井センイのプロジェクト参加者は、アパレル業への興味だけでなく「まちとのつながりを編集する」という考えに共感して参加された方も多かった印象です。一緒に参加していかがでしたか?

菅原

舞鶴は地域のプレイヤーも多く、場所の魅力もあるエリアだと思います。高校生が積極的に場づくりを行っているし、美味しい水産加工品も野菜もある地域ですから。ただ、それらを周囲とつなぐ仕組みづくりまでは、僕は手をつけられていなかった。ずっと悩んでいるこの課題を参加者のみなさんが一緒に考えてくれたことがとても心強かったです。

プリント体験もした

プログラム最終日には、舞鶴エリアと福井センイの強みを活かすアイデアを発表しました。

菅原

参加者の皆さんからアイデアをもらって、舞鶴を知ってもらうための都市縫製の本を制作しています。ゆくゆくは、その本をもとに、SEWでイベントも行いたいです。

若手農家がローカルで挑む「改革」

最後の登壇者は、「京丹波 食のまちプロジェクト」の野村 幸司さん(京の丹波野村家 代表)と岸本 大地さん(株式会社岸本畜産 代表取締役)。京丹波町コーディネーターは川邉 弘太さんです。

京の丹波 野村家

野村さんが祖父の家業を引き継いで2021年に創業。若手スタッフと共に、京丹波ラディッシュ・黒枝豆・京野菜などの生産をしています。「日本一大きなラディッシュ」京丹波ラディッシュの開発と特産物化を進めるなど、「ニッチ野菜のブランド化と伝統野菜のリブランディング」をキーワードに課題へのアプローチを実施中です。

岸本畜産

ブランド豚「京丹波ぽーく」「京都ぽーく」の生産と販売を行う岸本畜産は、「地産地消」と「ブランド化」を掲げ、養豚に取り組む企業です。岸本さんは、父から畜産の仕事を継業後、地方の小さな事業者が知名度をあげるには「ブランド化が必須」として6次化に注力。従来の精肉卸や小売に加えて、自社の直売施設「ピグレッツ」での畜産加工品の販売や、イートインスペースも展開しています。

テーマは「食資源を生かした持続可能な地域づくり」。京丹波で継業した若手農家で、日頃から協働の機会も多いという二人と共に参加者たちは地域課題に挑みました。

岸本畜産で豚肉の加工工程を体験した後は、全員で食卓を囲んでブランド豚に舌鼓

トークの序盤、川邉さんは、課題の一つは「京丹波が食や農業に長けたまちであることが知られていないことではないか」と問いかけました。「他の地域に比べて、町名もまだまだ認知されていないのかもしれないと感じることがある」と悔しい表情をにじませます。

また、同時に課題として挙げられるのが、地域の食を支える農業の担い手不足です。

地域の重要な資源であり魅力であるはずの「農業」。しかし、旧来のイメージが邪魔をして、若い世代にとっての就労の選択肢に入りにくくなっている現実に二人は危機感を抱いています。

岸本

農業は「3K」と言われ若者には敬遠されがちです。私たちは働く環境が若い世代にとっての魅力になるように、仕事や職場作りをしています。

野村

農家の業務は多岐に渡るので、実際には一般企業と変わらない部分も多いのですが、まだまだ大変なイメージがありますよね。野村家では、地方ではまだ珍しいフレックス勤務体制を導入し、スタッフのキャリアにあわせて得意な仕事を生かせる環境づくりを行っています。現在20〜70代のスタッフに働いてもらっていますが、中でも子育て世代の割合は多く、一定の成果は出ているかなと思っています。

「新鮮」という眼差しから「あたりまえ」の価値を知る

野村家や岸本畜産のある京丹波町の景色

フィールドワークでは、京丹波の地域特性と食について学んだ後、農業や食品加工を体験しました。身体を動かし、一緒に食事を味わう時間を過ごすうち、受け入れ企業側にも新たな発見があふれてきたと二人は振り返ります。

川邉

枝豆の収穫体験中、誰も一言もしゃべらないほど没頭している時間があったことが印象に残っています。僕らの「当たり前」も外部の人には「新鮮」な魅力があるのだと気づかされました。

野村

地域の外からやってきた参加者が、地元の住人と交わることで起こったそれぞれの反応も新鮮でしたね。うちのスタッフも「農業はこんなに楽しんでもらえるコンテンツなんだ」と、とても嬉しそうにしていて、参加してよかったなと思いました。

野村家では枝豆の収穫を体験

プログラム終了後、参加者からは「食のまち京丹波町の未来の担い手を育てる  須知高校チャレンジファンド」 「『関係人口』に変わるキャッチコピー作成」 「著名料理人による京丹波食材を活用する料理企画」など、地域づくりのためのアイデアが続々提出されたそう。一部は、すでに行政と協力し企画を進め始めており、他の企画も、まもなく実行に向けた話し合いがはじまる予定です。

トークセッションを終えて

トークセッション後、グループに分かれ、トークを聞いての感想や「興味を持ったこと」「やってみたいこと」のシェアをしあいました。

いくつもの派生プロジェクトが動き始めている様子や、現地体験から生まれたリアルな会話を目の当たりにしたことで、どんどん上昇してゆく会場の熱量。「トークで取り上げられた地域の食材を食べてみたい」「実はやってみたいプロジェクトがある」「自分の能力がこの企画で役に立つかもしれない」などのセリフが、会場のあちこちから聞こえ、あっという間にQUESTION TALKは終了の時間を迎えました。

ローカルのめぐみを囲んで

終了後は会場をQUESTION 1Fのカフェ・バーに移して、希望者による交流会を開催しました。

「岸本畜産の京丹波ポーク」を使った豚の角煮、「京丹波野村家の京丹波ラディッシュ」のピクルス、宮津産の「黒ちくわ」や「ほうれん草」を使用した温かいおでんなど、この日のために用意された特別メニューが並べられ、交流会のスタートです。

テーブルの周りではゲストを交えて話に花が咲きます。

料理の感想をきっかけに、地域企業の話題から企画中の取り組みの話題、自分のチャレンジの話題へと話が弾んでゆく様子も交流会ならでは。それぞれの視点で地域への思いが深まった時間となりました。

京都北部のリアルな事例を知ると、地域で活躍する人と歩くローカルには、今までとは少し違った景色が広がっていることに気が付きます。今回、現地プログラムの報告を聞きながら、思わず「自分ならどんなシーンで協力できるだろう」と、自分とローカルとの関わりしろを想像した参加者も多かったのではないでしょうか。

交流会であちこちから聞こえてきたのは「遊びに行きたい」「食べてみたい」「もっと知りたい」の声。ローカルとの新しいつながりは、すでにはじまっているのかも知れません。

▼京都ローカルワークステイ2024 振り返り記事こちら
https://kyoto-iju.com/column/kyotolocalworkstay2024-report

執筆・撮影:蓮田 美純
編集:北川 由依

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