2026.03.16

渋谷からはじめる、京都とつながる一歩。「京都はじめるフェス in SHIBUYA」開催レポート

2025年11月、「京都はじめるフェス in SHIBUYA」を東京・渋谷で開催しました。

今、京都では、さまざまな企業やクリエイターが拠点を構え、地域の資源や文化と掛け合わせた新しい挑戦がうまれています。

観光だけでなく、「働くまち・京都」への関心が高まる中、京都移住計画では、京都に根ざして長年培ってきたネットワークを活かし、京都で暮らし、京都から働くワークライフスタイルをサポートしています。

取り組みの中で大切にしているのが、京都と接点を持つ“最初の入り口”をどうつくるか、という視点です。

今回その入り口のひとつとして、渋谷にある「SAKURA DEEP TECH SHIBUYA」をお借りし、京都との関係を考えるイベントを実施しました。

トークセッションや個別相談を通じて、京都で活動する人たちの実践から、それぞれの“京都のはじめ方”を探る時間になりました。

当日の様子を一部ご紹介します。

「ビジネス都市・京都」の現在地

今回のイベントは、京都市が提唱するワークライフスタイル「Kyo-working(京ワーキング)」の取り組みの一環として実施しました。

会場には、首都圏の企業担当者をはじめ、京都での拠点づくりに関心を持つ人や、活動の場を広げたいクリエイターなど、幅広い参加者が集まりました。 

オープニングでは、京都市の別所弘茂さんが登壇。「距離」「コスト」「人材」という3つの視点から、ビジネス都市・京都の今を語りました。

京都市 産業観光局 企業誘致推進室(京都市東京事務所) 別所 弘茂さん

まずは距離感から。

別所

京都の中心エリアはほとんど半径4kmに収まります。東京でいうと上野や新宿に届かない距離ですが、この範囲に主要な機能がぎゅっと集まっています。任天堂や京セラ、ニデックといった大企業も近くに点在し、まちのコンパクトさが“動きやすさ”や“働きやすさ”につながっています。

続いて、コスト面の話も。

別所

中心部でも家賃は東京の1/3〜1/4くらい。オフィスや住居のコストが抑えられると、二拠点目や新規進出のハードルもぐっと下がります。これが京都の魅力のひとつです。

そして、人材についてはこのように語りました。

別所

京都には大学や専門学校がたくさんあって、特に芸術系の大学は6つもあります。アートやクリエイティブに強い若手人材が集まるまちです。学びの場と企業がほどよい距離で混ざり合う密度が、京都ならではの多様性を育んでいます。

渋谷がひらく、地域と人のつながり

「SAKURA DEEP TECH SHIBUYA」を運営する東急不動産株式会社の大西里菜さんからは、渋谷が持つ“外へひらく力”について紹介がありました。

東急不動産株式会社 大西 里菜さん

大西さんが手掛ける“人とのつながり”によって渋谷の価値を育むコミュニティアプリ「SHIBUYA MABLs(渋谷マブルス)」は、渋谷で働く人・暮らす人をゆるやかにつなぐアプリです。“つながる”と“お得”をキーワードに、現在累計10万ダウンロードを達成し、月間1万人ペースで利用者が増えています。

大西

渋谷にいる人たちが「働いてよかった」「近くに住んでよかった」と思えるような価値を届けながら、渋谷と全国の行政や地域をつなぐ取り組みも進めています。例えば、「渋谷合同入社式」では、多様な企業の新入社員を“ご近所同期“としてつなぎ、孤独になりがちなスタートアップや地方出身の若者を迎え入れています。渋谷をハブに、人や文化の新しいつながりが広がっています。

進出企業が語る京都のリアル

続くトークセッションでは、「京都進出ってどう?進出企業の本音と建前トーク」をテーマに、株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所 京都研究室の竹内 雄一郎さんと、株式会社Casieの藤本 翔さんが登壇。

聞き手を、京都移住計画の田村篤史が務め、世界的な大企業の研究機関と、アート系ベンチャーという対照的な視点から、京都進出のリアルな魅力や手応えを語りました。

左から、京都移住計画 田村篤史、株式会社Casie 藤本 翔さん、株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所 竹内 雄一郎さん

まず話題に上がったのは、「そもそも、なぜ京都だったのか」という問いです。藤本さんは、採用と事業の両面から理由を挙げます。

藤本

大阪で創業しましたが、採用と事業の両面から京都へ移転しました。美大・芸大の学生が多く、額縁屋さんや修復ができる職人さんも集まっている。世界的に見ても、京都がベストな選択だと思ったんです。

一方、竹内さんが挙げたのは、大学との距離です。

竹内

京都や関西圏には質の高い大学が本当に多い。研究面での連携や学生さんのリクルーティングが期待できると思いました。もう一つは、伝統工芸や伝統産業が“今も残っているまち”だということ。うまく協業できれば、他ではできない研究が可能になると考えました。

竹内さん。計算機科学者。まちづくりプラットフォームdédédéの開発などに取り組む。2020年より京都在住。2024年からは築100年超の町屋に居住し、地蔵盆など地域のイベントにも積極的に参加している

2020年、コロナ禍での拠点開設となった両社。当時を振り返りつつ、進出後の実感が語られました。

竹内

インターンやアルバイトとして、優秀な学生さんにたくさん来てもらえています。関西では、研究機関は「けいはんな学研都市」(※)に作ることが多いですが、あえて京都駅近くの繁華街に拠点を置きました。その方が学生さんにとって魅力的だと思ったんです。結果、狙い通りでした。

※正式名称:関西文化学術研究都市。京都、大阪、奈良の3府県にまたがる、150を超える研究施設、大学施設、文化施設が立地するサイエンスシティ

藤本

思った通りというより、ほとんどが予想以上でした。SNSだけでアルバイト募集をかけたら、1件につき200〜300人の応募があります。今働いてくれているメンバーの7割くらいが美術系出身です。

京都の距離感が育むつながり

話が盛り上がる中、話題は京都の「距離感」へ。

竹内

東京は広いので、誰かに会おうと思うとちゃんとアポを取る必要があります。でも京都はコンパクトで、「明日行っていいですか」が成立する。この距離感がすごくいいと思います。

藤本

大阪にいた頃は、金融機関や行政の方に「絵画やアートで本当に儲かるんですか?」と言われることが多くて。京都に本社を移した瞬間、世界がちょっと変わったんです。文化庁の長官、市長、アーティストの方と一緒に対談する機会があったのですが、「ここに出るなら藤本しかおらん」と選んでいただくこともありました。京都のすごさを感じますね。

藤本さん。亡き父が生涯画家を貫いたが、作品発表の機会を満足に得ることができずに苦労した姿を、幼少期に体験。 才能ある画家が経済的理由で創作活動を断念する現在のアート業界に課題を感じ、新しいアートのエコシステムを考案。 2017年株式会社Casieを創業

地域との関わりについても、藤本さんは「清掃活動や運動会への参加など、特別なことはせず、お世話になっている場所で自然にやっている感覚」と話します。

一方、東京から来た“よそ者”だったという竹内さんは、「最初は京都に対して怖いイメージがあった」と前置きしつつも、「実際はまったくそんなことはなかった」と語りました。

「京都に進出してよかった」と口を揃えて語る2社。最後に、進出を検討する企業へのメッセージが送られました。

藤本

もし本社が京都じゃなかったら、こういう場には立っていなかったと思います。それくらい、京都には感謝しています。

竹内

リモートワークがある程度回る会社であれば、一部の拠点を京都に置く、という選択肢は十分あり得ると思います。

京都で「働く」と「暮らす」をデザインする

二つ目のトークセッションでは、「京都で働く・暮らすってどう?移住・二拠点・滞在のはじめかたトーク」をテーマに、移住、二拠点生活、長期滞在といった多様な形で京都と関わる3名が登場しました。

左から、京都移住計画 藤本和志、株式会社ロフトワーク 服部 木綿子(もめ)さん、株式会社ヒトカラメディア 影山 直毅さん、合同会社withly 金田 謙太さん

まず話題に上がったのは、「京都との最初の接点」のつくり方です。

もめ

私は関西の出身ですが、関東出身のパートナーと京都で暮らすと決めたタイミングで、パートナーは、いきなり引っ越すのではなく、まずは関東から通いながら京都でいろいろと試してみることにしました。その際、私の職場であるFabCafe Kyotoの3ヶ月間のレジデンスプログラム「COUNTER POINT」に参加したんです。この企画を通じて知り合いが一気に増えて、“住む前から関係ができている状態”で京都に来られたのは大きかったですね。

服部(もめ)さん。20-30代前半は農林業や狩猟がすぐそばにある暮らしをしながら、2軒の遊休施設をゲストハウスとして再生。30代後半から京都に拠点を移し、現職。公私の境界線を往来しながら、メディア編集、空間づくりなどさまざまなプロジェクトを行う

一方、金田さんはとにかく会いに行くことを重ねたと言います。

金田

紹介してもらったら、とにかく会いに行く。 会社名や肩書きよりも、「金田です」って名乗る感じの方が、京都ではしっくりきました。

そして、京都で働くにあたって切り離すことのできない、「京都で暮らす」ことについて、3名はそれぞれの視点から魅力を語りました。

もめ

住んでいて飽きないんですよね。常に何かが更新され続けている感じがします。私が住んでいるエリアは特に、外から来た人も挑戦しやすい雰囲気で、新しいことに自然に取り組めるのも魅力です。

金田さんは、京都で過ごす時間を「泊まりながら進むまち」と表現します。 

金田

東京みたいに情報の渦に流される感じとは違って、日常の中に考えるきっかけがある。思考のスピードが、少し変わる感覚があります。

金田さん。フロリダ大学卒業後、新卒で株式会社DeNAに入社。2018年にwithlyを創業し、国内外で累計80社以上のブランド戦略・新規事業開発に携わる。ニューヨークでの活動を経て、現在はビジネスデザインと日本の織物業に着目したクリエイティブワークに取り組む

影山

一度東京に出たからこそわかるんですけど、顔見知りが増えるほど居心地がよくなるまちです。お店に入るたびに少し会話がうまれて、その積み重ねで関係が育っていく。

仕事や移住といった選択の手前にある、“人としての関係”が自然と育つ。そうした土壌が、京都らしさの一端なのかもしれません。

京都での仕事の作り方・見つけ方

こうして京都での関わりの中でうまれるつながりは、仕事や活動にも広がっているそう。

もめ

東京の人から見た京都はすごく魅力的だそうで、住んでいるだけで「行きたい」という声が届きます。訪ねてきた人と話す中で、仕事につながる関係や、その一歩手前のつながりが自然にうまれることもあります。暮らすこと自体が、京都での活動の第一歩になると思います。

影山

僕は東京と京都を行き来しながら仕事をしています。京都で知り合った方を通じて東京の仕事につながることも多く、京都での人とのつながりが、そのまま仕事の幅を広げるきっかけになっています。

影山さん。2021年にヒトカラメディア参画後、下北沢のワークプレイス「SYCL by KEIO」の立ち上げ・運営をはじめ、東京都が主催する「Tokyo Innovation Base」の立ち上げなど、コワーキングスペースやインキュベーション施設の企画や運営構築などのディレクション・推進に携わる

金田

土台は人としての関係をしっかり築くことです。その上で、僕の場合は海外経験など、それぞれの“ハッシュタグ”のような特徴を持つと、関係を思い出してもらうきっかけになると思います。

最後に、これから京都との関わりを考える人・企業へ向けた言葉が送られました。

もめ

まずは住んでみる、でもいいと思います。 関係はあとから自然についてきます。

金田

京都の常連になりたかったら、最初は連続で通うことですね。「昨日も来ました」と。それで一気に覚えてもらえました。東京の人から見て京都はちょっと“いけず”な印象かもしれませんが、個人的には紹介を通じて多くの機会に恵まれました。基本は、真心をもって人と向き合うことだと思います。

影山

京都って、最初から居場所を用意してくれるまちじゃないと思うんです。でも関わり続けていると、気づいたら“自分の場所”が増えている。その感じが、すごく京都らしいですね。

それぞれの京都のはじめ方

トークセッション終了後、参加者からは「東京での経験を活かして京都でどう挑戦できるか、具体的なイメージが持てた」「自分のやりたいことを形にするには、まず小さな一歩から始めるのが大事だと気づいた」といった声が聞かれました。

なかには「実家が京都で、家業を継ぐことや地元との関わりを考えるきっかけになった」という方も。また、「都市をまたいだ経験が、自分の可能性を広げるヒントになった」といった感想もあり、都市間でのつながりや経験の共有が印象に残った方も多かったようです。

その後の交流会では、京都のお菓子やドリンクを手に、名刺交換や情報共有をしながら、「自分なら京都でどんな一歩を踏み出せるか」と話し合う姿があちこちで見られました。

京都を「いつかの選択肢」ではなく、もう少し近い場所として捉えてみる。
今回のイベントは、それぞれが京都のはじめ方に触れるきっかけになりました。

京都移住計画では、起業や拠点づくりの相談、京都市内の案内、企業向けの進出支援などを通じて、“最初の一歩”を具体的な動きにつなげるサポートを行っています。 

京都との関わりをもう少し具体的に考えてみたいという方は、ぜひ「京都進出計画」のページも覗いてみてください。

執筆:荒木 祐美
撮影:もろこし
編集:北川 由依

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