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京都のおもしろい人を訪ねる「人を巡る」シリーズ。京都に移住した人の体験談や京都の企業で働く人をご紹介する連載コラム記事です。移住するに至った苦労や決め手、京都の企業ならではの魅力など、ひとりの「人」が語る物語をお届けします。
「おにわさん」という庭園情報メディアを知っていますか?日本全国の庭園や公園、名勝地を約2,000件掲載するウェブサイトです。
その編集者が、今回お話を伺うイトウマサトシさん。自身の足で各地の庭園を巡り、2016年に立ち上げた「おにわさん」で、現在も記事の更新を続けています。
今回は、イトウさんと交流のある東山区・岡林院(こうりんいん)にて、おにわさんとしての活動や、京都での暮らしについて伺いました。
お庭を好きになった、意外なきっかけ
全国各地の庭園を巡り、ウェブサイトやSNSに写真や概要を掲載しているイトウさん。お庭を巡るツアーを月に5〜6本開催し、ときには講演も行っています。
年間300ほどのお庭を訪れ、これまでに巡った数は2,200以上にものぼります。そんなイトウさんが庭巡りを始めたきっかけは、意外なものでした。
「きっかけはサッカーなんです。僕はジュビロ磐田のサポーターで、2008年にJ2へ降格しそうになったとき、初めて仙台に遠征したんですね。そのときに遠征の楽しさを知って。サッカーは全国各地にスタジアムがあるので、遠征のついでにお庭も巡るようになりました」

サッカー王国・静岡出身のイトウさんにとって、サッカーは幼い頃から当たり前のようにそばにある存在だったそう。一方で、お庭に惹かれるようになったのは高校生の頃。修学旅行で岡山・後楽園を訪れたことがきっかけでした。
「サッカー場でいつも芝生を見ていたので、緑はいいものだという感覚が根底にあったんだと思います。だから広いお庭が好きになったのかもしれないですね。あと日本史もわりと好きで。後楽園は広い芝生と、お城という歴史のある空間が重なっていて、『なんだここは!』と衝撃を受けました」

お庭を好きになった原点にも、サッカーがあったと振り返るイトウさん。今では庭巡りとサッカーは、切り離せない関係にあると話します。
「遠征へいく前は必ず、まだ行ったことのないお庭はないか調べています。お庭って同じものがひとつとしてないんですよ。似たようなデザインでも、高層ビル群に囲まれているか山を借景にしているかでまったく違って見える。だからもっと面白いお庭があるんじゃないかと探し続けていて、気づけば10年以上経ちました」
好きなものが重なり合うことで、楽しさはさらに広がっていく。庭巡りを続ける原動力は、そんなところにあるのかもしれません。
お庭が広げた、京都でのつながり
転職をきっかけに、東京から京都へ移住したイトウさん。住まいを選ぶ際の決め手になったのは、やはり景観でした。現在暮らしているアパートは、寺院の三重塔越しに東山が広がる景色がとても気に入っているそうです。また、京都での暮らしは、心身への負担も和らげてくれたといいます。
「東京では中央線も山手線も3分おきに来るんですが、その3分を争うように生きていました。1本逃しただけで絶望するような生活で。それがなくなったのは、本当に大きいですね」
一方で、京都ならではの大変さもあるそう。「やっぱり暑さですね。あとは虫が多いのも最初は驚きました(笑)」と言いつつも、自然の近さに心を動かされたエピソードを話してくれました。
「植え込みに何かいるなと思って、スマホのカメラでズームしたら、野生のフクロウだったんですよ。感動しました。そんな自然の近さは、京都の魅力だと思います。また、自然と都市部の近さも、京都ならでは。自転車で5分走れば、自然にも街にも行ける環境は京都しかないと思います。夏の暑さのデメリットを余裕で上回っていますね。住んでみると、やっぱり楽しいですよ」

2019年の移住以降、京都移住計画のイベントに参加したり、町家 学びテラス・西陣で開催されている「町家オープンカレッジ」でお庭の講座を行ったりと、徐々に人間関係を広げていったイトウさん。つながりが生まれたきっかけも、やはりお庭でした。
「移住計画さんとの出会いは、学びテラスのお庭を見たくて訪れたのが始まりです。そこから自然と出入りするようになりました。いろんな人が集まる場所なので、ふらっと立ち寄るだけでも寂しい気分が紛れるんですよね。そこで移住計画のタナカユウヤさんと知り合って、一緒に飲みに行くようになり、京都の地元の方と話す機会もできました」
今回、取材場所を提供してくださった岡林院の住職・青山さんとも、お庭の特別公開がきっかけで知り合ったそう。後に、同じ静岡出身でジュビロ磐田サポーターであることが分かり、今では気兼ねなく語らい合う仲に。

好きなものをきっかけに行動することで、自然と人とのつながりは広がっていくのかもしれません。
「移住計画で、サッカーファンの交流会もやってみたいですね」とにこやかに話すイトウさん。好きなものでつながる場を、今度はつくる側になっていっています。
これからも、お庭への入り口であり続けたい
京都ならではのお庭の特徴について尋ねてみると、「完全にスクラップ&ビルドしてしまうよりも、今あるものを守りながら、よりよく育てていく感じがありますね」とイトウさん。なかでもおすすめのお庭として挙げてくれたのが、岩倉にある実相院です。
「京都の歴史の中で有名な庭師、小川治兵衛の12代目・小川勝章(おがわかつあき)さんが監修し作庭されたお庭があるんですが、京都の伝統的な枯山水庭園を基調としながらも、古庭園にはない現代的なデザインが取り入れられていて。伝統とモダン、そのバランスがすごく好きで、おすすめの一つして挙げたいです」
古いものを大切にして、しっかりと知識を積み重ねているからこそ、伝統と新しさのバランスが取れるのだと、イトウさんはいいます。

最後に、これからの「おにわさん」についてイトウさんに伺いました。
「お庭に少しでも興味を持った人のために、入り口を広げ続けたいですね。僕自身、最初は後楽園のような広大な庭園から好きになり、京都の寺院のお庭は日本三名園ほど広くない点が気になっていました。
でも意味や見方を知るうちに、面白さが分かるようになっていって。お庭を見て『なんだかいい空間だけど、それはなぜだろう?』と思った人の手助けができたらいいなと思っています。それがお庭を残していくことにつながったら嬉しいですね」

おにわさん:https://oniwa.garden/
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CHECK OUT
「人と自然のあいだにあるのが、お庭だと思うんです」そう語るイトウさんの姿が印象的でした。サッカーとお庭という一見意外な組み合わせは、好きだからこそ自然につながっていったもの。好きなものが重なり合うことで生まれる力の大きさを感じました。岡林院のお庭と、イトウさんの言葉に元気を分けてもらったひとときでした。
執筆:伊賀 朝代
編集:藤原 朋



