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京都のおもしろい場所を訪ねる「場を巡る」シリーズ。人が集いハブとなるような場や京都移住計画メンバーがよく立ち寄る場をご紹介する連載コラム記事です。一つの場から生まれるさまざまな物語をお届けします。

鴨川デルタから高野川沿いの緑豊かな遊歩道を北に進み、御蔭通を東に行くと、白いL字型の建物が見えてきます。建物の名前は「PROTTA下鴨」。2026年秋オープン予定のシェアアトリエです。

外観からは昭和の雰囲気を感じるシンプルな2階建ての住宅ですが、一歩中に入ってみると、1階は白を基調としたパブリックスペース、2階は4つのプライベートブースという設計でリノベーションされ、中と外で大きくギャップを感じる作りになっています。

こちらのシェアアトリエの運営者は現在東京在住で、この建物で生まれ育った朝岡あゆ美さん。
なぜ東京にいながら京都でシェアアトリエをオープンするに至ったのか、そしてここでどんな未来を想像しているのか、お話を伺いました。
故郷・京都と、関わりを持ち続けたい
「この建物は自分が生まれ育った実家なんです」
そう話し始めた朝岡さん。
京都市左京区で生まれ育ち、京都大学経済学部で学業に勤しむ中、アルバイトでは予備校での指導員やそろばんの先生など、頑張る若者たちをサポートすることにやりがいを感じていたそう。

そして就職は東京へ。20年あまり過ごした京都を離れる時、どんな気持ちだったのでしょう。
「寂しさや不安もありましたが、実家が厳しかったので、門限から解放される!というワクワクが大きかったです。下鴨神社にお参りをして、出町ふたばの豆餅を食べ納めして、『よし。いくぞ』と心を整えたように思います」


飲料メーカーの社員として、東京で充実したワークライフを送る日々となった朝岡さん。京都へ帰る頻度はどのくらいあったのでしょう。
「まとまった帰省は年末年始くらいでした。正直なところ実家の居心地がよくなかったのもあります。ただ、離れてわかる京都の良さもあり、『京都に帰る』という感覚があるのは嬉しかったです。東京はどんどん再開発が進み、高層ビルだらけのダイナミックさはすごいと思うのですが、生まれ故郷の京都市左京区周辺は、東山の木々の色で季節が感じられ、神社の木漏れ日で心が潤う。こんな感覚は京都ならではだと思います」

唐突に訪れた不動産相続。「実家」をどうするか
東京で充実した日々を過ごしていた朝岡さんでしたが、2025年夏、急遽ご実家を相続することになります。
長女だった朝岡さんは家を手放すか、それとも活かすか、選択しなければならなくなりました。あえて「手放さずに活かす」ことはできるのか、それにはどうしたらいいか。
本業のマーケティングで培った経験から、実家の立地や形状を踏まえた強み・弱みの整理を行い、ご自身の中で物件活用の仮プランをまとめ始めました。

リサーチを元に企画するのは得意なものの、この時、第二子を妊娠中でフットワーク軽く動くことができなかった朝岡さん。京都の現地パートナーを探すことが必要!と早い段階で人探しに動き出します。
「調べてみたら、京都市には空き家相談員という制度があり、不動産活用について無料で相談できると知り、そのウェブサイトからRoomieの小原さんを見つけました。連絡してみると、現地確認のうえ、活用案・運営案・建築士さんの紹介など色々とサポートいただけそうなお話ができたので、自分でも何かやれそうな自信がわいてきました」
京都市内の中古住宅も人気エリアであればあるほど年々高騰している今、手放す=売却した場合、かなりまとまった額になることも予想できたはず。あえて「活かす」と決めたのはなぜだったのでしょう。
「もし手放してしまったら、『京都に帰る』という感覚もなくなってしまう気がして……。京都の縁を残しておきたいと思いました。また、会社員としてやってきた『誰かのために何かをつくる』という経験を、自分の手を動かして、自分の顔の見える範囲でやってみたらどうなるんだろう?と思ったんです。第二子の出産・育児で会社員としての時間が一旦停止する今だからこそ、試しにやってみてもいいのかな、という思いもありました」
不動産活用と聞くと、民泊・事務所・シェアハウス・アトリエ兼住居……と様々な選択肢があります。条件次第で最適解は異なりますが、収益を重視する場合、「シェアアトリエ」という選択肢は正直なところあまり上位にこないかもしれません。
そこをあえて選択したのは、朝岡さんが学生時代から「頑張る人を応援する」ことに喜びを感じていたこと、「頑張ったら報われる」という実体験がぴったりとイコールで繋がったからでした。

リサーチを進める中で、芸術系大学を卒業した20代~30代の若者たちが制作を続けられる場所が見つからない、ということもわかってきました。京都に芸術系の大学が多いのも、歴史・文化・自然が五感を刺激し、あらゆる芸や職人が育ち発展してきた学びの多い環境だからこそ。
不動産活用を単に損得で決めるのではなく、若い作家やクリエイターの方たちがイキイキと活動を続けられる場所を提供することは、ニッチな需要であったとしても、朝岡さんの中で1番納得感のある選択となりました。
「でも正直迷いもありました。私自身にアートの経験がないので、本当に使っていただける場所になるのかなと心配で……。だからこそ社内の若手デザイナーにヒアリングしたり、実際にシェアアトリエを訪ねたりして、リサーチには時間を費やしました」
プロジェクト名は「PROTTA下鴨」に
シェアアトリエをつくることが決まってから、朝岡さん自身がプロジェクトリーダーとなり、育児の合間を縫って建築・不動産分野の京都メンバーと共にオンラインで打ち合わせを重ねていきました。
場の名前を決めた方がより愛着をもって取り組めそう、ということで名づけられたのは「PROTTA下鴨」。
PROTTAという名前は、Prototyping(試作)やProcess(過程)からつくられた名前で、関わる人も場自体も、つくりながら育ち、変化していく、という気持ちが込められています。


朝岡さん自身が感じていた「子育てしながらのキャリア形成」「でも何か挑戦してみたい」というモヤモヤとワクワクがこのプロジェクトの原動力なのだと感じますが、実際にPROTTA下鴨のプロジェクトリーダーをやってみてどんな気づきがあったのでしょう。
「建築図面を見るのも初めてですし、WEBサイトやパンフレット作成なども触れたことのない領域でしたが、やってみると『意外とできた!』と思えたり、試行錯誤のプロセスでやっぱりプロってすごいな、と気づいたり。あとは契約書や規約作りに関しては『会社』という組織はいかに恵まれているか、多方面にありがたみを感じる機会になりましたね」
どんなことでもトライしてみたから見える景色がある。朝岡さん自身も試行錯誤の真っ最中だからこそ、シェアアトリエを利用してくれる人とも「運営者」「入居者」という画一的な関係性ではなく、コミュニティとして一緒に場を作っていきたいと考えています。

制作環境はできるだけ広く・快適な空間に
さて実際にPROTTA下鴨はどんなシェアアトリエになったのでしょうか。
「シェアアトリエの利用を検討している方をリサーチしたところ、総じて若手作家さんは『とにかく賃料が安く、そして広い方が助かる』『多少建物が古くても自分たちでDIYできる余白があった方が嬉しい』という意見が多かったです。実際に複数のシェアアトリエを見学に行って見えてきた課題を、PROTTA下鴨ではできる限りクリアしようと考えました」

例えば、1、2階ともにエアコン完備にする、水回りを新調する、駐輪場を備える。これらは一般的な住居用の賃貸物件だと当たり前の条件かもしれませんが、シェアアトリエとして賃料をなるべく抑えるには、設備を削ることも考えないとなりません。それでも、朝岡さんが優先したのは、「アーティストさんたちがのびのびと制作に取り組め、それぞれの素敵な活動を応援する」という想い。
「京都の夏は暑く、冬は寒いのを知っていますから、エアコンはやっぱり必須だな、と思いました。私自身もそうでしたが、京都で暮らす上で自転車も欠かせない足なので、駐輪場も欲しいな、とか。あとは意外と御蔭通の人の往来が多いので、制作したものを展示できる場所があったら面白いのでは、と思ったり」

2026年秋。ご近所さんや地域に愛されるシェアアトリエへ
リノベーションプランや予算が確定したタイミングで、ご近所さんへの説明をしに朝岡さんは東京から京都へ向かった時のこと。実家である現場に着くと、家のポストには「買い取り強化!」「高額買取!」という不動産系のチラシが多数投函されていたよう。
「空き家ということで、チラシやDMだけでなく色々と電話などもありました。ご近所さんにこのプロジェクトの説明に行った時も『民泊にしはらへんかと心配した』というお声もありましたし、ここがどうなるか皆さん気になっていたようです。幸いご近所さんがまだ私のことを覚えてくれていて、挨拶をしに行った際も第一声が『あゆみちゃんか?』と言われてほっとしました」

京都に限らず、地域で何かを始める際、長らく住んでこられたご近所さんへの配慮は欠かせません。朝岡さん自身も今回のプロジェクトのことを事前にご近所さんとお話され、温かいご理解もいただけたということで、PROTTA下鴨は、満を持して2026年秋に稼働し始めます。


これからPROTTA下鴨を利用する入居者の方々の挑戦の場として、様々な人と関わり、対話をしながら、そして時には助け合いながら、お互いに誰かの1歩を軽やかに応援しあえる場になっていけたらいいですね。
『PROTTA下鴨』
京都市左京区高野蓼原町42
Instagram:@protta_shimogamo
HP:https://protta-shimogamo.studio.site/
CHECK OUT
運営者となる朝岡さん自身も試行錯誤しながら挑戦している姿がとても印象的でした。おおがかりな改装工事自体は完了し、「場」そのものは完成しましたが、これからこの場がどう育っていくのか、とても楽しみです。
御蔭通沿いにはギャラリーが併設されるので、「今日はどんな展示があるのかな」と気軽に立ち寄れるスポットになったら素敵ですね。アートに携わる人もそうでない人も、きっとあなたの暮らしに小さな彩りを添えてくれる存在になるでしょう。ぜひ鴨川サイクリングなどの道中にお立ち寄りください。
執筆:小原 亜紗子
編集:北川 由依



