2020.02.11

思わぬ出会いにぶつかる場所誰もが長居したくなる書店「恵文社一乗寺店」

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京都のおもしろい場所を訪ねる「場を巡る」シリーズ。人が集いハブとなるような場や京都移住計画メンバーがよく立ち寄る場をご紹介する連載コラム記事です。一つの場から生まれるさまざまな物語をお届けします。

「場を巡る」第10弾は、左京区にある恵文社一乗寺店をご紹介します。本好きなら誰もが知るこのお店は、書店・雑貨・コテージ(喫茶、イベントスペース)の3箇所に分かれている珍しいお店です。45年もの歴史あるお店を引き継いだ書店マネージャーの鎌田裕樹さんが、どんな想いで書店やイベントスペース「COTTAGE」を運営されているのか、お話を伺いました。

誰もが入って来やすい空間作り

雑貨やコンセプト別の本棚を楽しむことができる店内

ゆったりとした時間が流れる書店では、他の書店ではあまり見かけないようなおもしろそうな本がたくさん陳列されていて、書棚を眺めるたびに新しい出会いがあります。そんな魅力に惹かれ、一日中恵文社で過ごすお客さんもいるとか。そんな居心地良さの裏側には、鎌田さんの空間作りに対する想いがありました。

鎌田:ラインナップを幅広く整えたり、思わぬ出会いにぶつかるような陳列を工夫して、普段本を読まない方にも興味を持ってもらえるようなひらけた空間にすることを心がけてます。「知ってる人だけが分かればいい」っていうのは嫌なんですよね。その上で、誰が買うんだろうというマニアックな本を置いたり、京都大学が近いので京都大学出身の方の著書や哲学者の本を置いて、恵文社ならではのギャップを出しています。ギャラリーや庭があり、雑貨や喫茶との複合店であるのも書店としては珍しいですよね。そういった恵文社ならではの余白は、40年以上ある中で築いてきた伝統です。それを雑貨や通販、ギャラリーそして僕ら書店のスタッフもみんなでチームでやっていけてるのは強みだなと思います。

鎌田さんの人を線引きしない柔らかい雰囲気は、お客さんにも伝わっているようで「恵文社は線を引いてるイメージだったけれど、柔らかい方ですね」と言われることもあるようです。

鎌田:先日、雑誌『暮らしの手帖』に、ぼくの文章が載ったんですが、常連のおばあちゃんが「いつも喋ってるお兄ちゃんが、いつも買ってる雑誌に載ってる」と、とても喜んでくれました。他にも、中高生の子が探している本を徹底的に調べて、「これは上下巻あるから、まずは上だけ買うといいよ。学校の図書館で探すのもいいかも」とアドバイスをしてあげることもありました。

持ち前の柔らかい雰囲気でお客さんと接する鎌田さんですが、周りの同業者は年上でサブカルチャーを牽引してきた人も多く、京都の書店マネージャーとしてやっていくことに悩みや難しさもあったようです。

鎌田:みなさん行動力とやりきる力がすごいし、キャラが立っている。そんな方々と同時代に書店で働いているので、恵文社の顔としてやっていく以上、舐められないように「知識をつけないと」とたくさん勉強しています。京都の文化拠点的なスポットって、出町座の田中誠一さんの言葉を借りると、被るようで被らないように点在しているから、文化圏が保ててるんですよね。だから、無理に接しすぎなくて良いんだと思えるようになりました。

自分なりのやり方で無理なくやっていこうと思った一方で、助けが欲しい時にお互い助け合える外部の人との関係の大切さをここ数年で強く実感されたようです。

鎌田:書店の中だけでは、本当にやりたいことに手が回らないと感じます。それを外部の得意な人に相談したり、その代わり、他人が手が足りていなければ手伝ったりして。僕は特定のジャンルに特化してカルチャーを牽引するというより、喋ることがスタイルだったりするので、休みの日だろうがどんどん外に顔を出すようにしています。もちろん外に出るのが苦手なスタッフの方もいるし、人数も10人以上いるので、僕の一存ではできない部分もある。「人から影響を受けない」タイプの強さを持ってる人もいる。そこに僕は合わせられるタイプの人間だと思うので、世代を超えたスタッフの趣味やスタイルをそれぞれ活かしつつ、僕は僕のスタイルとしていろんな人とつながってやれたらいいなと思っています。

商売や場の根底にある、損得を超えたつながり

コテージの様子

書店の奥には、喫茶やイベントに使われるキッチン付きの素敵なコテージがあります。その場所が賑わいはじめたストーリーにも、人のつながりを大切にする鎌田さんらしさが反映されてるように感じました。

鎌田:コテージはもともとあまり利用されていなくて。賑わってる感が演出できればと思ったのと、もっと出版社の方やお客さんとゆっくり喋れる場があったらいいなという気持ちで、週3回はイベントや日替わり喫茶をオープンするようにしました。

2019年5月頃から、今の体制が整い、賑わいはじめたコテージ。場を作る上で何が大事だと感じているかを尋ねてみました。

鎌田:関わる人を増やすことが大切だと感じます。たとえ参加者でも、告知をしてくれる仲間を増やす。関わる人数が5人いたら、それぞれが文化圏を持っているので、被っている部分があれば、その文化圏の人が来る。そうやって参加してくれる人が自然と告知してくれるのはありがたいですね。その分自分も返したいと思っています。商売はそういうことが根底にあるのではないでしょうか。

人のつながりを重視した考え方は、千葉県の山間部で育ってきた幼少期の環境も影響していると鎌田さんは語ります。

鎌田:「組内」という町内会の人たちで助け合うという文化があって、週1、2回は家じゃないところでご飯食べて寝るみたいなことがよくある暮らしでしたね。他にも、村で唯一の商店が実家だったこともあって、なんとなくおじいちゃんおばあちゃんと集まって喋る場所があったり、誰も得しないけど伝統としてみんなでお祭りの準備をしていたりと、お金とか損得を超えた動きをしないと、人って集まらないんだなと感じました。商売って、そういう持ちつ持たれつみたいな部分があるし、場を作るときも同じようなことが言えると思います。

外部とのつながりをどんどん引き寄せている鎌田さん。「実はおもしろい企画がありまして」と動き出している企画の話をしてくださいました。

鎌田:デザイナーや香水専門店、大工、編集者の方と「混ぜるな危険」というユニットも組んでいます。第1弾としてちょうど今、香りから本を選ぶ「読香文庫」という企画を、期間限定で恵文社でやっています。今後は尖った企画も力をいれつつ、書店らしい作家さんを呼んだ企画もペースを上げて開催していきたいですね。

取材時に開催中だった「読香文庫」。鎌田さんが小説5冊を選書し、作品の要素を香水屋さんに伝えてそれに合った香りを選んでもらい、本に香りを付け、中身の見えないブラインドブックとして販売するという企画。
さまざまな世界で活躍するゲストをお招きし、「3冊の本」から、その人自身や仕事、生き方を読み解くブックトークイベント『3BOOKS』の様子。

目的なくふらっと立ち寄れて新しい本や雑貨、人との出会いがある。そんなあたたかい場所があると思うと、改めて何度も通いたい場所だと実感しました。

伝統ある老舗書店としての顔を大事にしつつも、これまで築かれてきた余白を存分に活かすことで、鎌田さんを中心にスタッフの方の生き方や興味がお店に反映されて、恵文社はこれからも時代に合わせて変わっていくのでしょう。

恵文社一乗寺店

住所:京都市左京区一乗寺払殿町10
Tel:075-711-5919 / FAX: 075-706-2868
営業時間: 10:00 – 21:00(年末年始を除く)
営業日: 年中無休(元日を除く)

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