CHECK IN
京都のおもしろい場所を訪ねる「場を巡る」シリーズ。人が集いハブとなるような場や京都移住計画メンバーがよく立ち寄る場をご紹介する連載コラム記事です。一つの場から生まれるさまざまな物語をお届けします。
今回の舞台は、京都市南区にある「国境のないお家ULU(ウル)」です。
東寺の五重塔がそびえ立つ九条大宮交差点から南へ少し歩くと、青空に映えるブルーの看板が見えてきます。
道路に面したガラス窓から見えるのは、楽しそうな大人の笑顔や、何かに夢中に取り組む子どもの真剣な眼差し。
まちの英会話教室?イベント会場?
気になるULUを深掘りするため、代表の伊藤 裕子(いとう・ゆうこ)さんにお話を伺いました。
年齢・性別・国籍の垣根を越え、人々が集える場所を
ULUは、国際交流のための場として、2021年2月にオープンしました。
さまざまな出身国の外国人スタッフが在籍し、子どもを対象とした英語幼児教室や英語学童をはじめ、大人も気軽に参加できるプログラムも展開しています。
「ULUは、英語という共通言語を軸に、年齢・性別・国籍を問わず誰もが楽しめることを目指してつくられた場所です。外国人の方も多く訪れる京都だからこそ、もっと気軽に人が集い交流できたなら、大人も子どもも選択肢が増えて、どんどん世界が広がっていくと思うんです」
確かに京都には、外国からの移住者や観光客がたくさんいます。でも、彼らとコミュニケーションをとる機会は、決して多くはありません。子どもたちなら尚更、そのチャンスは少ないでしょう。
でももし、それが当たり前になったら、京都での暮らしはどんな風に変わるんだろう。
想像するだけでもわくわくする気持ちを胸に、取材は続きます。
10代前半。英語との出会いが、大きな世界への扉を開いてくれた
「英語との出会いは、10歳の頃でした。アメリカ暮らしをしていた隣の家のお姉ちゃんが帰国され、ご挨拶に行ったのですが、洗練されたファッションや雰囲気、なにより英語をスラスラ話す姿がすごくかっこよくて!英語を教えてほしいとお願いし、週1回通うようになったんです」
「ホイットニー・ヒューストンやマドンナなど、当時流行っていた洋楽をたくさん聴かせてもらったり、大好きだったピーターラビットの洋書を読んだり。英語のレシピで一緒にケーキをつくったこともありました。その経験全てが私にとっては刺激的で、自分の世界がどんどん広がっていったんです」
こうして英語の世界にのめり込んでいった伊藤さん。中学時代には、憧れのアメリカを初めて訪れました。
「中学2年生の冬休みに、親に頼み込んでアメリカへホームステイに行かせてもらいました。まち・人・考え方など、全てにおいてスケールが大きくて圧倒されたのを覚えています。当時、日本の学校では意地悪なことを言ってくる先輩がいたんですが、帰国後はどうでもよくなって(笑)。世界はこんなにも広いんだ!と身をもって知った経験が、自分を強くしてくれました」
その後、高校時代にも留学を経験し、外国語大学に進学。就職を機に、シンガポールに移住します。
20代。多国籍の人々が集まるシンガポール生活で味わった、初めての挫折
シンガポールでは、工業単科大学に通う学生に日本語を教えていた伊藤さん。教員用の寮で、世界各国から集まった人たちと生活を共にしていたそうです。
「すごく楽しかったのですが、同時に挫折も味わいました。世界を知っている“つもり”、英語が得意な“つもり”でいたけれど、色々な国の人が喋る英語が全然聞き取れなかったんです。文化の違いも目の当たりにし、私が知っていた世界はまだまだ小さいものだったんだと痛感しました」
英語に没頭した10代と、多様性の中で挫折を経験した20代。そのふたつの経験こそが、後にULUをつくるきっかけになります。
国際交流=多様性に触れること
日本に帰国した伊藤さんは、その数年後に起業します。
「最初は大人向けにオンラインの英会話教室をしていました。そのなかで、生徒の皆さんが外国人の方と英語で話せる機会をつくりたいと思い、2018年8月から国際交流イベントを企画・実行したんです。同年12月以降は同じ南区にオープンした九条湯さんをお借りして、月に一度のペースでイベントを開催していました」
そんな中、参加者から「子どもを連れてきていいですか?」という声が挙がります。
「もちろんOKしました。子どもたちって、大人だろうが外国人だろうが、すぐに仲良くなるんですよね。英語がペラペラ話せなくても、躊躇せずコミュニケーションをとっていくんです。そんな姿を見て、小さい頃から多様性に触れるって本当に大切だなと実感しました。そういう機会を増やしたくて、ULUをつくる決心をしたんです」
「先生」ではなく名前で呼び合う。公教育とは違う、ULUの役割とは
言語や文化の垣根を超えたコミュニケーションをとるためには、先生と生徒としてではなく、フラットな関係が大切なのだそうです。
「ULUには、スタッフのことを“先生”と呼ぶ子は誰もいません。それは、みんなが同じ目線だからです。そういう、日本の学校とちょっと違うところがあってもいいと思うんです」
「ここで時間を過ごすことで、一人ひとりが自分の新たな可能性に気づいたり、広い世界へ羽ばたいていったりするきっかけに繋がったら嬉しいです」
京都から世界へ。好奇心の芽を大切に育てよう
最後に、読者の皆さんへのメッセージを伺いました。
「海外や英語に興味あるけど、一歩踏み出す手前で躊躇している方はきっと多いと思います。ULUは子どもだけの場所ではありません、大人の方も大歓迎です。いろんな方に出入りしてもらってこそ、本当の意味での多様性が生まれると思っています」
「非日常的なことに身を置くって、わくわくしますよね。楽しそうだなと思ったら、お気軽にお越しください」
国際交流には、高い英語力が必要だと思われがちです。しかし、それ以上に大切なのは、コミュニケーションをとろうとする意思であり、相手を理解し自分を伝えようとする気持ちなのかもしれません。ULUが掲げる「ALL OK」を合言葉に、英語に自信がないという方も遠慮はご無用!京都から世界へ、その一歩をここから踏み出してみませんか?
「国境のないお家 ULU」
京都府京都市南区西九条比永城町59
営業時間:プログラムによって異なる
Instagram:https://www.instagram.com/ulukyoto/
執筆:佐藤ちえみ
編集:藤原朋
CHECK OUT
取材中、奥のキッチンからはラザニアが焼ける香ばしい匂いが漂っていました。スウェーデンのFikaという文化にならい、ランチを食べながら英語で話すというイベント「ULU Fika」(月2回開催)の準備中だったのです。「Fikaから初めて参加する方も多いですよ」と教えていただきました。
今回ご紹介しきれなかったプログラムの詳細はinstagramで配信中とのこと。気になる方はぜひチェックしてみてくださいね。