CHECK IN
京都の日常を彩る食を訪ねる「食を巡る」シリーズ。京都らしい食べ物や飲み物、京都移住計画メンバーのお気に入りの一品をご紹介する連載コラム記事です。食べることは生きること、京都での暮らしに彩りを与える物語をお届けします。
JR二条駅からほど近い住宅街にある「ハイ・どうぞ ふしみや食堂」。
前川博基(ひろき)さん・経子(きょうこ)さん夫妻が営む街の食堂です。引き戸を開けると、「はい、いらっしゃい」という元気な声と、2人の明るい笑顔に迎えられます。
ここで提供されるのは、メインに副菜、ごはんと味噌汁がそろった定食。副菜は日によって少しずつ変わりますが、どれも野菜を中心にした素朴なものばかり。実家で食べるごはんのような安心感があります。

家では作らないけど、ここなら食べたい
定食は7種類。どれも食べたくて選べないという方にはミックス定食がおすすめです。主菜を2品選べるスタイルで、もやしのナムル、パスタサラダ、茹でキャベツにコーンやブロッコリーが添えられています。
料理は特に揚げ物のラインナップが豊富。「揚げ物って、家やと面倒やろ」と経子さんは笑います。
確かに、家ではなかなか作れない。でも、ここなら食べたい。そんな理由で通う人が多いのもうなずけます。

38年間続いた学食と、その終わり
ふしみや食堂の前身は、京都府立鴨沂(おうき)高校の学食でした。38年間、生徒や先生たちのお腹を満たし続けてきた場所です。全日制の学食としてだけでなく、夜は定時制の給食も担いながら、生徒たちの食と日常を支えてきました。
しかし、校舎の改築に伴い、新しい建物には厨房が作られませんでした。学食は閉められ、代わりに入ったのはコンビニ。「やめた」というより「やめざるを得なかった」。そんな終わり方でした。
それでも、多くの人が声を上げました。署名活動が行われ、現役生も卒業生もたくさんのメッセージを寄せてくれたそうです。前川さん夫妻は、当時のメッセージボードを大切そうに見せてくれました。

「ほんまに嬉しかったんよ」
「こんなありがたいことはないね」
そんな2人の言葉には、長年続けてきた時間の重みが滲んでいました。
学食の営業最終日は、終わることのない行列。学校側に許可を取り、学食では異例の夜まで提供を続けたそうです。
もう一度、食堂を続けるという選択
学食の営業を終えたあと、前川さん夫妻はもう一度、食堂を続けたいと考えました。調理を通して地域に関われる場所を探す中で出会ったのが、月に一度、子ども食堂を開いていた「ハイ・どうぞ」でした。
ここは、二条エリアで地域の居場所づくりに取り組んできたNPO法人「ふれあいほうむどうぞ」が大切に使ってきた場所でもあります。代表の小林敬子さんと話を重ね、食堂をしながら、第三土曜日には子ども食堂を開く形が生まれました。
そうして2019年、「ハイ・どうぞ」という場所に、かつて使っていた屋号「ふしみや」を重ね、「ハイ・どうぞ ふしみや食堂」がスタートしました。

変わらない味、変えない理由
「全部、学食のときから変わってへんよ」と博基さんが話すように、定食のメイン料理は、もともとは職員向けに作っていたお弁当のおかず。新しいレシピを考えたわけではありません。
「レシピ? もう全部、頭に入ってる」
長年、毎日作ってきたからこそ出てくる言葉です。特別なことをしている感覚はなく、ただ続いてきた日常の延長に今の食堂があります。
お客さんからは「ここ、あたたかいですね」と言われることが多いそうです。でも経子さんは、少し笑いながらこう言います。
「正直、よう分からへん」
気取らず、構えず、あっけらかん。その距離感こそが、ここに人が集まる理由なのかもしれません。
海外からのお客さんも多く、韓国やヨーロッパ圏の人の姿もよく見かけます。英語が完璧でなくても、単語と身振りで楽しそうに会話する前川さん夫妻の姿が印象的でした。
取材中には、鴨沂高校の卒業生がふらりと来店。「ここは、みんなが集まれる憩いの場やね」と話してくれました。
子ども食堂と「縁食」
第三土曜日には「子ども食堂」を開いています。でも、前川さん夫妻の口から出るのは、こんな言葉です。
「“元子ども”も来ていいんやで」
子どもだけじゃない。大人も、お年寄りも、誰でもいい。300円で一食、食べて、気持ちよく過ごせたら、それでいい。
食堂をしてきたから、大量に作るのも慣れたもの。100人分、150人分のお弁当も珍しくありません。

「京大の先生が言ってはったけど、孤食でも共食でもない“縁食(えんしょく)”っていう考え方があるらしい。ここは縁と縁がつながっていく“縁食”やね」
野菜やお米を差し入れてくれる人がいる。「これ使って」と、そっと置いていかれることもあるそうです。
食べる人、作る人、支える人。役割が固定されない、ゆるやかなつながり。縁と縁が、食を通してつながっていきます。
続けるということ
長年続けてきて、辞めたいと思ったことはなかったのかと尋ねると、前川さん夫妻は少し考えてから、こう答えました。
「しんどいことはあるよ。歳も取るし。でもな、できる限り楽しく続けられたら、それでいいかなって」
壁いっぱいに貼られた活動の記録やメッセージ、絵本や地域のお知らせが並ぶ店内は、これまで積み重なってきた時間そのもののようでした。


『ハイ・どうぞ ふしみや食堂』
住所:京都府京都市中京区西ノ京小倉町22-10
Instagram:https://www.instagram.com/hi_douzo/
CHECK OUT
京都に移住して間もない頃、なんとなく入ったのが、ふしみや食堂でした。
初めてでも、特別な理由がなくても、自然に声をかけてくれて、子ども食堂のことも教えてくれる。その距離感に、少しほっとしたのを覚えています。
取材のお願いをした日も、取材の日も、私はただ定食を食べに来ました。それが、この食堂では一番自然な関わり方だったからです。
また行きたい。また食べたい。また、少しお話したい。そう思わせてくれるあたたかさが、ここにはあります。京都で暮らす中で、こんなふうに「また行きたい場所」が、増えていったらいいなと思います。
執筆:嵐田 女依
編集:藤原 朋



