2025.08.26

コーヒー片手に“発掘”の世界へ!「すみれ珈琲」で楽しむ埋蔵文化財

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京都の日常を彩る食を訪ねる「食を巡る」シリーズ。京都らしい食べ物や飲み物、京都移住計画メンバーのお気に入りの一品をご紹介する連載コラム記事です。食べることは生きること、京都での暮らしに彩りを与える物語をお届けします。

JR京都駅から徒歩約8分。2025年7月、京都・七条の新町通の一画に、埋蔵文化財発掘調査会社が運営するコーヒースタンド「すみれ珈琲」がオープンしました。

やさしい色合いのデザインが目を引く町家で、コーヒーと焼き菓子を提供するほか、店内には出土品や発掘調査資料などが展示されています。

京都駅からほど近いが、下町感が残る落ち着いた雰囲気のエリア。徒歩圏内には東本願寺や西本願寺も

ユニークなコンセプトのコーヒースタンド

実はこの町家は、コーヒースタンドであり埋蔵文化財発掘調査会社の事務所でもあります。町家の改修設計監修を担当したのは、京都・西陣を拠点に建築やまちづくりに励むPERISCAPE ARCHITECTS(ペリスケープ アーキテクツ)副代表の小野寺健(おのでら・たけし)さん。

小野寺健さんと妻の友佳(ゆか)さん。お二人とも京都移住者

発掘調査会社のスタッフとしても働く健さんは、「古いから改修しようということではなく、現代的な建造物として『かっこいいな』『美しいな』と思えるものを残して、気持ちいい空間に仕上げることを一番に考えました」と言います。

当初は、手狭になった事務所2つ目の拠点として考えていた物件だったそう。しかし、飲食に興味があった社長の提案で、事務所兼コーヒースタンドとして改修することに。

健さんが考案したすみれ珈琲のロゴ。屋根の上に設置された軒行燈(のきあんどん)にもロゴが入っています

店舗運営を任されたのは、「いつか夫婦2人でカフェをやりたい」と話していた小野寺さんご夫妻。2025年2月に初めてこの場所を訪れて以降、3月に解体、4月末には仮営業を行うなど、とんとん拍子で話は進んでいきました。

お店のコンセプトは「博物館未満、日常以上」。店内には発掘や土器にまつわる資料や本があるほか、解体作業中に見つかった土器も社長の解説付きで展示。まさにここが発掘場所であることから、「すみれ遺跡」とも名付けられています。

すみれ遺跡からの出土品。定期的に展示の入れ替えも行われるそう

健さん

発掘や考古学は、アカデミックでとっつきにくいと思われがちですが、全然そんなことないんです。今自分たちが使っているお茶碗も、もしかしたら1000年後には令和時代の出土品になっているかもしれないと思うと、おもしろいですよね。そんなふうに発掘は『日常の延長線上にある』ということが、もっと皆さんに伝わればいいなと思いますし、このお店が架け橋というか、入口のような場所になれたら。

自分たちの“好き”を届けたい

すみれ珈琲で提供しているコーヒー豆は、京都・西洞院にある「IOLITE COFFEE ROASTERS(アイオライト コーヒー ロースターズ)」のもの。

友佳さん

お店でどんな味のコーヒーを出したいかと思ったときに、アイオライトさんの豆は、軽めが好きな方も、深めが好きな方も、両方においしく飲んでいただける味だなと思ったんです。苦みと酸味のバランスが良く、後味がすっきりとしていて、香りが華やかなところが魅力です。

氷出しは、氷が溶けるのに合わせてじっくりとコーヒーが抽出される。山盛りの氷がちょっとずつ溶けていくのがおもしろい

お店ではハンドドリップで抽出しているアイスコーヒーや、苦みやカフェインが控えめな氷出しコーヒーなどを提供しています。

ご夫妻のお気に入りであったことはもちろん、発掘調査会社のスタッフからの「ここでアイオライトさんの豆を使ったコーヒーが飲めたらうれしい」という声も決め手の一つだったのだとか。

ハニワと土偶の形をしたクッキー。かわいい

店頭のショーケースに並ぶのは、自家製クッキーとスコーン。パリッとした食感のクッキーは友佳さんが小さな頃から作り続けているもの、スコーンは健さんが普段作っていたものをお店用に改良したオリジナルレシピだと言います。

腹の割れ目がしっかりと入ったバターミルクスコーン

前職はデザイン会社でデザイナーとして働いていた友佳さんは、カフェでのアルバイト経験はあるものの、コーヒーの仕事をするのはこれが初めて。

友佳さん

コーヒーを淹れるって、職人技みたいなものだと思うんです。私はコーヒーをずっとやってきたわけではないので、まだまだそういう部分では勝負できない。でも、いつ来ても同じ味が楽しめるようにしたいという思いでレシピ通りにきちんと作ることにはこだわっています。

そう話す友佳さんが淹れるコーヒーやお菓子からは、どこかほっとするような安心感を覚えます。

ご縁をいただいたこの場所を大切に

取材にお伺いしたのは、オープンして1週間ほど経ったころ。朝早くから営業していることもあり、近隣にお住まいの方が通勤や通学の途中にふらっと立ち寄ってくれるほか、近くのゲストハウスやホテルに宿泊している海外観光客の方の来店もあるそう。近所の八百屋さんの野菜や果物を使ったサンドイッチやスムージーも提供しています。

オープンして間もないにもかかわらず、しっかりと地域の人たちとコミュニケーションが取れている様子に少し驚きます。どのようにして関係を築いていったのでしょうか。

普段から人通りある新町通。特に朝の通勤・通学、夕方から夜にかけての帰宅時間は多くの人が行き交う

友佳さん

オープンしたのは最近ですが、ゴールデンウィークのあたりに一回仮営業をしているんです。というのも、工事を避けた方がいいと言われる土用期間というものがありまして、その期間を利用して仮営業をしたんです。そのときからご近所さんが結構来てくださって、本オープン後も「どんな感じ?」とすごく気にかけていただいています。

「できるだけ自分たちの手で」と小野寺さんご夫妻も解体改修工事に加わっていたため、「お店をするのが私たちであると、オープン前から認識してもらっていたことも大きいかもしれません」とも言います。

建物の顔となるファサード

友佳さん

ファサードの珪藻土の仕上げは、ご近所さんにも声をかけて手伝ってもらいました。やっぱり自分たちの手が入ると、みんなすごく愛着を持ってくれるのかなとは思います。

すみれ珈琲のある場所は、観光客の来店も見込める立地でありながら、住宅街として地元密着な雰囲気も漂う、非常にバランスのいいエリア。それだけになかなか空き物件も出回らないと言います。

健さん

カフェがやりたいとは考えていましたが、まさかこんな好立地でできるとは思っていませんでした。今後はもう少し発掘や考古学を掘り下げたサロンや、割れた土器を修復するようなワークショップなどを開催してみたいです。

友佳さんの友人である刺繍作家の田口ナツミさんが作ってくれた作品

友佳さん

自分1人の力ではここまではできなかったですし、もしやっていたとしてもうまくいかなかったと思います。本当にいいご縁に恵まれながらここまでやってこられたので、これからも頑張っていきたいです。

『すみれ珈琲』
住所:京都市下京区新町通七条上ル辰巳町747-8
Instagram:https://www.instagram.com/sumire.coffee/

CHECK OUT

「町内会の回覧板を回してもらえるようになったんです〜!」とうれしそうに話すお二人の姿がとても印象に残った今回の取材。サッとテイクアウトするのはもちろん、コーヒー片手に店内でひと休みしながら発掘の展示を楽しむこともできます。お近くにお立ち寄りの際には、ぜひ足を運んでみてください。

執筆:佐々木 早貴
編集:藤原 朋

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