2023.02.22

おやつを食べながら自由に工作を。亀岡に移住したデザイナーが営む「3じのアトリエ」

CHECK IN

京都のおもしろい場所を訪ねる「場を巡る」シリーズ。人が集いハブとなるような場や京都移住計画メンバーがよく立ち寄る場をご紹介する連載コラム記事です。一つの場から生まれるさまざまな物語をお届けします。

たくさんの車が行き交う亀岡市の大動脈・国道9号線の外れ、家々が軒を連ねる一角に、自宅の一部を改装した四畳半ほどの小さなアトリエスペース「3じのアトリエ」があります。オーナーは、小澤亜梨子(おざわありす)さん。3じのアトリエを運営する傍ら、ステンシルという技法を用いて、イベントや美術館などのフライヤーやポスターのデザインを手がけています。

今回は、2022年10月にオープンした「3じのアトリエ」を訪れ、ステンシルとの出会いや今後の展望、さらには亀岡の魅力や移住したきっかけについて伺いました。

子どもたちが自由に工作を楽しめるアトリエを運営

オープンは、毎週金・土・日・祝の14時から18時の間のみ。アトリエの開店時には、目を引く看板を入口に立てています。

アトリエ内の一角には、黄色く塗った有孔ボードにグルーガンやノコギリなどの工作道具のほか、絵の具、筆、布の切れ端など、たくさんの材料が用意されており、1回500円で自由に工作を楽しめる仕組みです。また、もれなく駄菓子が一つ付いてくる嬉しいプレゼントも。

「習い事ではなく、ふと思いついたことができる場所でありたいですね。友達の家で遊んでいる延長で、自由に工作ができる。それが『3じのアトリエ』です。もちろん、駄菓子を食べながらの工作も大歓迎です」

下は4歳から、上は小学6年生までの子どもたちが、親御さんと一緒に訪れているという3じのアトリエ。1日1組ほどのペースで、じんわりと広がりつつあります。

気になる名前の由来を伺うと、「子どもの頃、3時のおやつの時間に母親と『今日はこんなことがあったよ』『今日はこんなことを思ったよ』なんて、テレビを見ながらおしゃべりをしていたんです。大人と子どもの距離が曖昧になる時間というか、これから何しよう?とワクワクする時間が”おやつ”に集約されていると思ったんですね。それで、3じのアトリエと名付けました」と、当時のおやつの時間を思い出しているかのようにニコッと笑いながら教えてくれました。

一方で、オーナーの小澤さんは、3じのアトリエと並行して、ステンシルという技法を用いたデザインのお仕事もしています。

「ステンシルとは、好きな形にカットしたシートに、絵の具やインクを乗せて絵を写す技法です。それをパソコンに取り込み、自由に絵を重ねて描いていきます。手作業なので、自分が意図している絵を描いているつもりでも、完成するのは思いもよらないちょっとズレたもの。それが楽しくて、今はデザインの仕事のほとんどをステンシルで描いています」

これまで、亀岡市のみずのき美術館や亀岡市立図書館、京都移住計画のイベントなどのフライヤーやポスターのデザインを手がけてきました。どれもカラフルで、ワクワクするような可愛らしいデザインばかりです。

「カラフルな雰囲気が好きなので、楽しげなデザインができたらいいなと思って描いています。実は、亀岡の仕事では亀を描くようにしています。ちょっとしたシャレのつもりです(笑)」

福祉施設を退職し、デザインを仕事に

デザインの仕事をする前は、4年間ほど京都市内の福祉施設で働いていたという小澤さん。いつかデザインの仕事がしたいと思いつつも、放課後等デイサービスでは子どもたちとアート活動を行い、就労支援ではパッケージデザインを担当するなど、忙しくも充実した日々を過ごしていました。しかし、ちょうどコロナ禍が始まった時期に、体調を崩してしまいます。

1年間の休職。時間はたっぷりとありました。小澤さんは「手を動かしたい。何かを作りたい」と思ったといいます。

「休職中に、たまたまやってみたのがステンシルでした」と話す小澤さんは、せっかくなら描いたイラストをInstagramに投稿しようと思い立ちます。すると驚くべきことに、投稿しはじめて約1ヶ月を過ぎた頃、亀岡市のみずのき美術館のキュレーターから、共通の友人を介して仕事依頼が舞い込んできました。

「初めての仕事の大きさに驚きました。当時の自分のイラストはまだまだ発展途上で、『本当に私がやってもいいの?』と何度も思ったほどです。でも、ラッキーだと思うことにして挑戦してみることにしたんです」

このとき京都市に住んでいた小澤さんは、電車で亀岡に通いつつ、初めての仕事に挑みました。

「やってみると思っていた以上にできたことが、私の自信に繋がっていると思います」

そう話す小澤さんは、仕事を受けた翌年に前の職場を退職し、デザインを仕事にしようと心に決めました。

ちょうどいい距離感。それが亀岡

仕事を退職するのと同じタイミングで、初めての仕事で訪れた亀岡への移住を決意した小澤さん。どうして亀岡に移住することにしたのでしょうか。

「みずのき美術館と仕事をさせていただく中で、亀岡の福祉施設などを訪れ、利用者の方とたくさんお話をする機会があったんです。施設の方もまちで出会った方たちも、みなさん温かくて、亀岡って素敵な場所だなと思いました。おまけに、京都市から意外と近い。それなのに田園風景が広がっていて、とてもいいなと感じたんですよね」

2022年7月から亀岡で暮らしている小澤さんは、まちの魅力をこんなふうに語ります。

「亀岡には何もないわけではないんです。お店もあるし、素敵な景色もある。近所の人と会ったら『こんにちは』と挨拶ができます。干渉しすぎない距離感が心地よくて、安心して暮らせるんですよね」

亀岡には豊かな田園風景が広がっています。小澤さんはそんな景色の中に飛び込み、自転車で走り抜けるのが好きだと教えてくれました。「トンボが自転車と並走してくれるんですよ。まさに、ゲームの『ぼくのなつやすみ』の世界です」

やりたいことがたくさん。まずは一歩ずつ

3じのアトリエに、夕陽が差し込んできました。そろそろお暇の時間のようです。最後に、今後の展望を伺いました。

「まずは目の前の仕事を一歩ずつ着実にこなしていきたいです。いつかは、自分の個展やアニメーション、絵本などにも挑戦してみたい。他にもたくさんやりたいことはあるけれど、自分に合ったペースを守りながら続けていきたいですね」と、ワクワクする未来を描いている小澤さん。

亀岡ではどんなことをやりたいですか?と伺うと「やはり、アトリエ活動に力を入れていきたいですね」と即答。「今は、Instagramを見て来てくれる方が100パーセント。少しずつ認知を広げて、ゆくゆくは亀岡でアトリエを開いている“変な大人”になれたら最高です」

あれもこれもと、やりたいことがたくさん湧き出ている小澤さん。ニコニコと楽しそうに話す小澤さんを見て、子どもたちも安心して工作に取り組めるのだろうなと感じた筆者でした。

「3じのアトリエ」
亀岡市大井町並河2丁目31-2
営業時間:毎週金・土・日・祝の14時から18時
(お休みの場合もあります。詳しくはInstagramをご覧ください)
Instagram
https://www.instagram.com/sanji_no_atelier/

編集:藤原朋
執筆:むなかたりょうこ

CHECK OUT

私も2022年11月に亀岡へ引っ越してきました。住んでみてびっくり!自分が思っていた以上に、どこまでも田んぼが広がっていました(笑)。私もそれが新鮮で心地よく、自転車で走り回っています。
今回お話を伺った「3じのアトリエ」は、自宅で自由に工作させてあげたいけど難しい、アートに触れてもらいたい、という親御さんにおすすめです。自宅にはない道具を使用して自由に工作を楽しむなら、ぜひ3じのアトリエへ!                            

オススメの記事

記事一覧へ