募集終了2017.03.14

コミュニティと共に地域で働く。移住体験ワヅカナジカン:3ヶ月間援農プロジェクト

「将来、田舎で働きながら心豊かな暮らしをしてみたい」
「収入が少なくなっても生活できるのか不安…」

そんな希望や不安を持っている人に朗報です。

田舎で暮らしながら茶農家の仕事で収入を得る、援農プロジェクト「ワヅカナジカン」が今年も始まろうとしています。

「ワヅカナジカン」は、今年で4回目の開催。毎年、20〜30代の若者を約20名程度募集しています。茶農家の繁忙期である5月から7月までの3ヶ月間、シェアハウスで友人との交流を楽しみながら農作業を手伝い、給料をもらいながら暮らすことができる、短期移住体験プロジェクトです。

参加期間中は、和束町が保有する施設をシェアハウスとして利用し、茶農家さんの元で働きます。「ワヅカナジカン」は、単身で田舎に飛び込むのではなく、年の近い人とコミュニティを築き上げながら田舎で暮らす体験ができる貴重な機会。今回の求人情報が気になった方に対して、和束町雇用促進協議会の後援にて実施される説明会が、2017年3月22日に京都市にて開催されます。

茶農家を守ることが地域を元気にする

和束町は京都府の南東に位置し、面積の約7割を山林が占める人口約3800人の小さな集落。宇治茶の約40%を生産する全国有数の茶産地として知られています。山々を緑の波模様で覆い尽くす茶畑は、一度見たら忘れられないほど心奪われる風景で、その景観の素晴らしさから「日本で最も美しい村」連合や「日本遺産」にも認定されています。

そんな和束町のお茶の歴史は、約800年の鎌倉時代に遡るといわれています。しかし、近年では人口減少や高齢化に伴う茶農家の人手不足によって、管理が行き届かない茶畑が増え、お茶畑が減少していく危機に晒されています。「ワヅカナジカン」は、そんな茶農家の課題を解消するために、2014年に発足した援農プロジェクトです。

和束町のコミュニティスペースでもある「和束茶カフェ」にて、プロジェクト発起人である山下丈太さんに、当時のお話を伺いました。

「きっかけは、このままでは和束町は2030年には限界集落になってしまう。という新聞記事を目にしたことでした。自分に何かできることがあるのではないか。町を元気にする仕事がしたい!という思いから、Uターンすることを決意しました」

和束町で育った山下さんは大学進学とともに町を離れ、競走馬育成の仕事から、営業職、学習塾の教室長など多様なキャリアを積み重ねました。和束町を元気にしたいと思うきっかけとなった新聞記事を目にしたあと、和束町雇用促進協議会が人材募集していることを知り、2012年に和束町に戻られました。その後、観光者や移住促進のためのPR活動を行い、和束町の住人とのコミュニケーションを深める中で、町の問題点が見え始めたといいます。それがプロジェクトの始まりでした。

和束町は山に囲まれた地域。都市部から通うには、毎日山道を運転せねばならず、働き手不足に悩んでいました。茶葉の育成から加工までを一貫して行う茶農家が多いため、特に繁忙期の春から夏にかけての人材が不足するため、短期雇用できる人材が必要でした。その人材不足を解消すべく誕生したのが町の外から若者を集める地域おこしプログラム「ワヅカナジカン」でした。

「1年目は完全に手探りでしたが、そこで得たのは、1回だけで終わらせてはいけないという確かな手応えでした。せっかく築いた茶農家との関係性を繋いで町を元気にしていくために、2年目から『合同会社ゆうあんビレッジ』として独立して、ワヅカナジカンのプロジェクトをより本格的に運営していくことを決めました」

参加者とも年が近い山下さん。プロジェクト参加者を中心につながりの輪が広がり、協力者が増えてきたといいます。「そうやって小さくても良い循環を生み出すことができれば、どんな町でも輝けると思うんです」そう語る山下さんの笑顔が心に残りました。

この景色の中で暮らしていけると想像できた3ヶ月間

第1回目の「ワヅカナジカン」プロジェクトに参加したことをきっかけに、和束町へ移住を決め、現在は和束茶カフェで働く矢守沙奈絵さんは、プログラムに参加した経緯をこう振り返ります。

「最初は、農業に少し興味があるというくらいで、将来これで食べていくぞ!というような気持ちは正直全くなかったですし、農業をしたこともありませんでした。和束町に行ったことも無く、知り合いや縁もありませんし、ましてや移住しようだなんて想像もしていなかったですよ(笑)」

プロジェクトに参加する前は、とんかつ屋さんで8年間接客業をしていたという矢守さん。そろそろ自分の好きなことを仕事にしたいと思っていたところ、知人を通してこのプロジェクトを知ったそうです。共同生活をしてみたいという思いとから、参加を決めたといいます。

「最初は、茶畑に黒いネットをかぶせる仕事をひたすら続けていました。その次は、山の斜面を行ったり来たり、お茶葉を運ぶ作業の繰り返し。単純な作業が多いので、仕事はすぐ覚えられました。慣れてきたら甜茶工場へ移動して、機械のチェックや工場の掃除などをしていました。仕事も生活も最後まで楽しかったです。農家さんともだんだん仲良くなって、休日は食事に誘ってくれたり、バーベキューをしたりしていました」

仕事は、朝から夕方ごろまで。仕事を終えて、シェアハウスに戻ると、同じような体験をした仲間が待っていてくれて、気持ち良い汗を流した楽しい時間を共有することができるといいます。

人と共に暮らす日々

とはいえ、共同生活にはトラブルは付き物。いざという時、どういうケアがあるのでしょうか?主催者である山下さんに尋ねました。

「このプロジェクトでは、特にルールを決めていません。参加者は大人の方ですし、主体的に動いてもらうことが良い結果につながると考えています。ただひとつ、夜ご飯をみんなで食べるのを習慣にしているので、なるべくその時に私も同席するようにしています。そんなふうに皆の話を聞ける中立的な立場は、大事なポジションじゃないかと思っています。もう出てこなくていいですよ、と冗談っぽく言われたこともありますが(笑)」

その時集まったメンバーの空気感によって、ルールは様々。去年までは、給食係というポジションを作り、参加者みんなのためのご飯を作ってもらっていたといいます。しかし、一緒に農業を体験できないため、時間や気持ちが噛み合わないということもあったといいます。給食係を経験した方は、その後地域おこし協力隊として和束町に移住してくれたそうですが、こういった経験を経て、今年はプロジェクト経験者である矢守さんが、その給食係を担うということです。

「その他にも、共同で使うものなどは、決められた予算で管理する会計係などを決めたりしました。1年目は完全に自炊でしたし、たまたま特別なトラブルはなかったのですが、人間同士ですから、共同生活を送っていれば何もない方がおかしいですよね。3年目は、感情のぶつけ合いはあったものの結果的には、みんな感動で涙を流して終わるような忘れられない瞬間になりました」

参加者の中には、肉体労働をしたことがない人も少なくないといいます。茶農家さんはお年寄りの男性の方が多く、突然の環境で全然動けないこともあります。そんな時は、山下さんが茶農家と参加者の架け橋となり、お互い納得してもらえる形で調整していきます。

「初めての仕事ですから、乗り越えられない人も居て当たり前です。茶農家さんの規模や人柄によっても全然やり方が違ってくるため、実際に経験してみないと自分の肌に合うかどうかなんて分かりません。その都度、その人に合った茶農家さんを調整していきます」

山下さんだけでなく、矢守さんのような過去の参加者や協力者がみんなで支え合って、参加者をバックアップしていくような体制が年々整ってきているようです。地域に住むことによって、地域の人と毎日顔を会わせるようになり、仕事に行く道すがら、参加者にフレンドリーに声をかけてくれたり、差し入れを持ってきてくれたりする空気が生まれているのだそうです。
そんなふうに一緒に試行錯誤している仲間と共に、地域に住む人との関係性を築いていく方法は、移住を見据えた時に、とても恵まれた良い環境なのではないかと感じました。

「確かに、田舎に行けば収入が減ることが多いと思います。全く見ず知らずの田舎に憧れて、単身で移住した場合、家賃は大幅に下がったとしても、食費に関しては、日本の物価はそこまで変わらないので思ったより安くない、と思うと思います。都会では考えられないかもしれませんが、田舎の食は『人=コミュニティとセット』です。お隣さんが夕食の魚をくれたりだとか、そんなふうに人と人が支え合って暮らすのが当たり前なのです」

「ワヅカナジカン」は、今までの価値観を壊せる場所であり、コミュニティと共に地域に入っていくことができる場所です。「本当に生きていくために稼がなきゃならない額が、田舎では全然違うということに気付けるかどうかが田舎暮らしを楽しめるかどうかにかかっていると考えています」と山下さんは語ります。

和束町に移住するきっかけ

実際、プロジェクト後に和束町への移住を決めた矢守さん。最初は全くそんなつもりではなかったと話してくれましたが、何が移住のきっかけになったのでしょうか?

「7月の終わりになるにつれて、この見慣れた茶畑の景色がもうすぐ終わってしまうのか…と思ったことがきっかけですね。出会った人と別れるのも寂しいですし帰りたくないと思いました。仕事は特に決めていませんでしたし、すぐに仕事に就ける感じでもなかったです。でも不思議と不安はなくて、誰かに聞けば何かしら仕事はあると思っていました。実際もその通りで、トントン拍子に友達と一緒に住むということが決まり、しばらくは町の外に仕事をしに行っていました」

矢守さんはプロジェクト参加後、山下さんと連絡を取っていなかったといいます。しかし、山下さんが独立するというタイミングで「なにか自分にもできることがあれば」という思いから和束町内での仕事を見つけ、和束茶カフェで仕事を手伝っておられます。「茶源郷」と呼ばれるほどのお茶を主産業とした地域ですが、人口が少ない地域では支え合って生きていく必要があるため、求められる仕事は、まだまだ他にもたくさんあるようです。

「私の知らないところで、プロジェクト参加者同士のつながりもありますし、地域の人とのつながりも増えてきています。なので、和束町に残って何かがやりたい!となった時にでも、何かしら高い確率で仕事は見つかると思っています。なので、そういう思いが生まれたら、すぐ相談してほしいですね!みんな経験者だから、助けられると思います」

これまで「ワヅカナジカン」プロジェクトを経て、和束町に移住した人は7人。その他のメンバーも、農繁期になると自分のふるさとのように個人的に農作業を手伝いに戻ってくることもあり、プロジェクトをきっかけに結婚したカップルも2組いるそうです。お互いの地元を行き来したり、関係性は今も続いており、みんなが家族の一員かのような関係性だと思いました。

和束町の茶農家を守ってほしい

では、実際に参加者を雇用した茶農家さんのお話を伺ってみましょう。14年前に和束町にUターンしたのち、茶農家を続けている伊吹公男さんに、「ワヅカナジカン」に参加した経緯を聞いてみました。

「お茶刈りの作業は、茶葉を刈る農具の持ち手が2人で持つように作られているので、1人じゃ作業できません。うちは母親と2人でやっている小規模な茶農家のため、1年間通じて人を雇う訳にもいかず、繁忙期でもたまに仕事が途切れてしまうこともあり、どうしたらいいかと考えていた時に、近所の茶農家さんに『ワヅカナジカン』プロジェクトのことを教えてもらいました」

「ワヅカナジカン」だと摘採できない時期には、別の茶農家に行けるようシフトを組むなどを調整してくれるので、通常のアルバイトを雇うよりも気を揉むことが少ないといいます。伊吹さんの畑では、10時半と15時に1時間半ほど休みを取っていたそうですが、茶農家さんによって、やり方は様々。それらを考慮して、山下さんが参加者の受け入れ先を調整するスタイルです。

「説明会に参加してくれる受け入れ先候補の茶農家さんは、若者の受け入れ可能人数に対し、1.5〜2倍ほど。それほど、このまま自分たちだけで農家を続けていくのが難しいと感じている人が毎年増えています。最初は、お金を貰って働くのは当たり前だ、と思っている茶農家さんも単なる短期雇用ではなく、参加者に和束町を好きになってもらって町に関わっていくための入り口だということを理解してくれるようになり、だんだん良い関係を築けています」

去年、伊吹さんの元で働いていた参加者は、東京からやってきた女性で、茶農家の基本である力仕事も快く働いてくれていたといいます。朝7時半に参加者が共同生活を送る施設まで迎えに行き、軽トラに自転車を乗せて、仕事が終わったらその自転車で帰っていくというような毎日を過ごしていたそうで、今もLINEで近況を報告し合うなど、関係は続いているといいます。

「ちゃんと帰れるかどうか不安でみていたら、案の定道に迷っていたり、田んぼに落ちて泥まみれになったりしたことがあって、家のシャワーを浴びて帰ってもらったりしました(笑)。休憩時間には、おやつを一緒に買いにいったり、縁側でお昼寝をしたりもしていましたよ」

和束町では、後継者が見つからないまま設備投資が可能な大きな茶農家さんに淘汰されていく農家さんも珍しく無いそうです。畑を放っておくと木がどんどん大きくなるため、そのままにしておく訳にもいかず、根元から切るか、隣の茶農家さんに頼んで作ってもらうしかないのだといいます。

「茶農家の仕事は、茶葉が入った重い袋を持って、急な斜面を登ったり降りたりしなければならない体力仕事。体力に自信がある人に来てもらえると嬉しいですが、若い人は高齢者に比べたら体力があると思うので、特別な条件はありません。宇治茶というブランドがある以上、お茶産業は守る働きかけはありますが、実際それに携わる茶農家を守ろうとする動きは少ないです。だからこそ、このプロジェクトを通じて働きに来てくれることが、本当にありがたいと思います」

和束の魅力を伝えるための海外拠点

和束町をはじめ、日本の地方には素晴らしい魅力がたくさんあります。しかし、ローカルな魅力を伝えるために単発のイベントを開催しても、その後も効果が続いていくような成果は無いというのが現実です。

「私がワヅカナジカンで学んだことは、地域の魅力を伝えるには「交流」を続けるのが大事だということです。今後は、和束町やお茶の魅力を直接伝えていくために、ベトナムにコワーキングスペースを作りたいと考えています。その場所は現地の学生さんに自分の夢のために勉強してもらいながらも、ある時は日本のローカル文化に触れてもらえるような拠点にしようと思っています。それができれば、“本当の豊かさ”の価値観を国境を越えて共有することができ、新しい何かが生まれる未来が期待できるのではないかと考えています」

本当の意味で地域の魅力を伝えていきたいと考えている山下さん。リアルな場所が持つ力はネット上のコミュニケーションを凌駕できると信じ、和束町の魅力や文化を発信し続けられる場所を海外に作る挑戦を始めようとしています。

ワヅカナジカンに興味を持った方へ

ワヅカナジカンの参加に興味を持たれている方、2017年5月よりワヅカナジカン第4期が始まります。
4月20日まで、ワヅカナジカン公式ページよりお申込みが可能です。

お申込みにあたっては事前に運営事務局がプログラムの説明を行い、現地も見ていただいた上でご参加頂くことになりますので、不安点も事前に確認することが可能です。ご興味がある方は是非下記リンクよりエントリーをお願い致します。
ワヅカナジカン公式ページ

※3月22日に京都にて開催されましたワヅカナジカン募集説明会は和束町雇用促進協議会の主催により実施されました。
和束町雇用促進協議会

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