2024.07.11

こどもと大人が一緒に「やりたい」を叶える場所に。制度をこえ、地域ともつながる放課後等デイサービス

京都移住計画での募集は終了いたしました

(2024/07/11公開、2025/01/12更新)

「発達障害」などの言葉が急速に広がるなか、2010年代からニーズが高まり続けている「放課後等デイサービス」。さまざまな発達特性のある小中高生が、放課後や土曜日、長期休みを少人数で過ごすための児童福祉施設で、京都市内にも多数の事業所ができています。

北区、新大宮商店街にある『そらいろチルドレン』もそのひとつです。ただ特徴的なのが、地域を巻き込んだイベントや場づくりをいくつも行っていること。“福祉制度外”のことにも積極的にかかわり、さまざまな人が混ざり合うきっかけをつくってきました。

通うこどもたちが安心できる場所をつくりながら、地域とつながり外にもひらく——なぜ、こんな事業をしているのでしょうか? そこでは、どんな人がどう働いているのでしょうか?

今回、新しく施設長を募集されるという同施設を訪ね、これまで7年に渡り代表であり施設長を務めた坂口聡さん、スタッフの並川明日香さん、松井佑介さんにお話を伺いました。

年齢を問わず「心身の発達の過程にある者」などを示すときに使われる、“こども”という表記。こちらでは、何歳になっても自分の中のこどもを大事にしてほしい、との思いを込めて使用しています

一人ひとりの思いを叶える『そらいろチルドレン』

新大宮通の一角に、三角の屋根と緑色の軒、ゴリラのぬいぐるみたちが座るソファが目をひく『そらいろチルドレン』。もともと花屋さんだったという建物の2階にあがると、天窓から差し込む光が明るい、広い空間が待っていました。

ここで、通ってくるこども一人ひとりに寄り添い、多様な遊びを提供していくのが支援スタッフの仕事です。現在、小学生低学年から高校生まで、1日あたり平均7名ほどのこどもたちが過ごしているといいます。

過ごし方の基本は、こどもが「自分のやりたいことを見つけて、思いっきり楽しむ」こと。ボードゲームをすることもあれば、料理をしたり、好きなキャラクターのグッズを製作したりすることもあります。

また、土曜や長期休暇の時は、いつも以上に時間がかかることに挑んだり、普段は行けない公園やテーマパークに行ったりすることも。その場合も、まずはこどもたちの希望をしっかりヒアリングして企画を進めるのだと、そらいろチルドレンの現代表の坂口さんは説明します。

坂口さん

日々来てくれるこどもたちが楽しめる方法を考えるなかで、ここでは『いっしょに生きる』ということを大きな目的に掲げています。それは、大人が一方的にプログラムを与えてこなしてもらうような関わりでは生まれません。僕らが応援すべきは、その子自身が取り組みたいと思っていること。それを一緒に探し、一緒に叶えていくことを大切に運営をしてきました。

現在、代表を務める坂口聡さん

放課後等デイサービスとして、利用定員が1日10名と決まっているそらいろチルドレンですが、登録しているこどもは現在35名にのぼります。その中には、発達障害や身体障害があるこどもだけでなく、診断名はついてなくても、何かしら生活や学習に困難を抱えている子も含まれます。

実際に、特別支援学校や特別支援学級に通うこどもは約半数で、残りの半数は普通学級に通っているそう。ただ学校では集中することが難しかったり、学童保育や児童館などの大きな集団で過ごすことが苦手だったりするこどもが、自分のペースでゆっくり過ごせる場所として、週1〜2回程度利用するケースが多いといいます。

坂口さん

少子化のはずなのに、こういう場に来るこどもはどんどん増えています。本当は、障害のある子もない子も混ざり合って過ごせる社会が理想だとは思うんですが、現状、学校などですごく無理をして頑張っているこどもたちも多いんですね。彼らが定期的にリラックスしながら好きなことをして、また明日への活力を養える、そういう場所が社会の中で必要とされているんだなとひしひしと感じています。

あるがままの自分でのびのびと過ごすこどもたち(提供:そらいろチルドレン)

「こどもの居場所×地域の拠点」の誕生

そらいろチルドレンの運営が始まったのは、今から7年前。そのルーツは、さらに7年前の2010年、堀川北大路にある京都復活教会の一部屋で『放課後クラブ ココ』を坂口さんが立ち上げたところにまで遡ります。

ココは、地域のこどもが誰でも来られる場です。当時児童館の職員だった坂口さんを中心に、週に1回、大人たちがボランティアとして運営を担いました。放課後等デイサービスが、まだ制度として生まれるよりも前のこと。

坂口さん

いろんなこどもたちがココには来てくれましたし、保護者からもすごく感謝されたんですよね。小学生には学童保育もあるけれど、共働きでない家庭は入れないし、児童館の学童クラブはどんどん人数が増えて、しんどそうにする子も出ていた。地域の中に、こどもがゆったり過ごせる居場所が本当に必要なんだと気づかされました。

そんな坂口さんは2013年、現在の『コミュニティカフェ新大宮』(前『新大宮みんなの基地』)で開かれたイベントで、商店街でさまざまな活動をしていた片桐直哉さん——後に、そらいろチルドレンの運営法人『一般社団法人くじら雲』の理事長となる人と出会います。

「まちに多世代がつながる場を増やしたい」と考える片桐さんと、「こどもの居場所を継続的につくりたい」と考えていた坂口さん。話をしていくなかで、2012年に制度としてスタートしていた放課後等デイサービスの事業に、お互い関心を持っていることに気づきます。

坂口さん

こども一人ひとりのニーズに合わせながら個別支援計画を立てることで、僕らが大事にしたいものを守れるかなと。実際に放課後等デイサービスを始めたところも見学させてもらい、この事業であれば、自分たちの活動の延長でしっかり運営できそうだと思うようになりました。

一方で、片桐さんも僕もこどもたちがまちで安心して過ごせるようにすることが大事だと考えていたので、単に放課後等デイサービスだけをやるのではなく、事業所を拠点にいろんな地域の活動をしていくことも当初から想定していました。

『そらいろチルドレン』は、「日々変化していく天気のように、変わっていくこどもたちに寄り添っていきたい」という意味を込めて坂口さんが名付けました

物件探しに1年ほどかけ、陽当たりのいい“家”のような、かつ商店街に面した理想的な場所と出会った坂口さんたち。2017年3月、放課後等デイサービスを無事にスタートさせると、こどもの発達特性にあわせた関わりをしながら、実際にさまざまな居場所づくりにも乗り出しました。

例えば、乳幼児の親子が集まったり、進路に悩む中高生や卒業生が集ったりできる場所として空間を開放する。あるいは、地元のさまざまなNPOや企業とコラボして、商店街でイベントをしかける。

どれも事業所の収益になる活動ではありませんが、そこに取り組むことが、事業所のある地域を豊かにすると考えています。加えてそこに、そらいろチルドレンへ通っているこどもたちが、緩やかに関われる機会もつくってきました。

坂口さん

もちろん、こどもたちがこの場で、安心して日々の時間を過ごせることが第一です。別に地域と関わりたいと思って来ているこどもばかりではないので。まずは一人ひとりに『ここの大人は安心できる』と思ってもらえることが、僕らスタッフにとっても大事だと思っています。

それでも、そんな大人とたまに散歩に行ったり、イベントを眺めたりするなかで、『こんなお店もあるんだな』『親とも先生ともまた違う、おもしろそうな大人がいるな』と別の世界も知ってほしい気持ちがあるんですね。無理に出会わせるわけではないけれど、実はこういう地域の中で自分も生きていることに、自然と気づいてもらえたらうれしいなと考えています。

仲間を大切にしながら、新しい色を出してくれる人に来てほしい

「いっしょに生きる」。冒頭で坂口さんが口にしたそらいろチルドレンの理念は、こども同士、あるいはこどもと大人にとどまらず、地域を含め広い関係を指すことがわかります。

そしてそれは、この場で働くスタッフにとっても同様です。ココでの活動時代から「この仲間と一緒に働きたいと思った」と坂口さんが語るメンバー同士も、共に生きる大切なひとり。お互いに大事にしているものを尊重しあう関係性が今も続いているからこそ、こどもたちのケアから地域での催しまで、多岐に渡る仕事を行うことができました。

坂口さん

こどもも大人もあるがままの自分で、無理をせずに一緒に過ごしてほしいと思っているんです。1日の振り返りを含めて、日々たくさん話をしますし、定例の会議以外にも月に一度『対話の時間』を設けて、これまでの経験や感動したこと、悩みなど、お互いを知り合う時間をつくっています。

「仲間を大切に」みんなで歩んできたそらいろチルドレン。現在のスタッフ数は6人とのこと

一方で、2024年9月いっぱいで、坂口さんは現在の施設長の職を辞するとのこと。立ち上げ時から、こどもが安心できる環境づくり、組織づくりに奔走してきた坂口さんが、その決断をした理由は何なのでしょうか。

坂口さん

この春、小学校1年生から高校3年生まで、つまりココの初期から12年関わってきた子を2人送り出したんです。僕の役割としても、ひとつの区切りをつけるタイミングかなと。あとは個人としてもう一度、誰でもいつでも来られるようなこどもの場づくりに挑戦したいと思っています。放課後等デイサービスという存在が重要であることはもちろんわかったうえで、改めて、そこに登録していないようなこどもも来られる場所を増やしていきたいんです。

安心して任せられる仲間が揃っているので、心配はしていない。前を向いて、そうはっきりと語る坂口さん。もちろん何かあったらフォローしていけるよう、くじら雲の理事としては残りつつ、今この時代にみんなが「いっしょに生きる」ために足りていない場をつくっていくといいます。

今回、新たな施設長候補としてスタッフの募集をかけるそらいろチルドレン。次にバトンを渡す相手に対し、坂口さんはどんな思いを抱いているのでしょう。

坂口さん

とにかくこどもが好き、遊ぶことが好きな方が来てくれるとうれしいです。ここでの“遊び”には、こどもと直接何かをする時間もあれば、ゆとりを持って関わる余白の意味も含まれるので、そこを含めて柔軟に楽しめる方だといいのかな。

といっても、これまで大切にしてきた空気感や関わり方は、今いる仲間やこどもたちがもう引き継いでくれていますから。その中で、日々起こることに一緒に悩んだり笑ったりしながら、新たに来られた方の色をどんどん出していってもらえたらありがたいです。

大きな方向性は大事にしつつも、変わりゆくこども、変わりゆく大人に合わせて、場も変化し続けていくことを望まれる坂口さん。仲間一人ひとりの個性を大事にしながら、こどもが“こども時代”を思いっきり満喫できる手助けできるよう、柔軟に対応できる方を必要とされていました。

自分が好きだった居場所を、放課後等デイサービスで実現できたら

では、そんな坂口さんの思いを中で引き継ぐメンバーは、今どのように感じているのでしょうか。次に、スタッフのひとりであり、現在そらいろチルドレンの児童発達支援管理責任者を務める並川さん(2024年7月からは、期間限定で共同代表を務める予定)にもお話を伺いました。

児童発達支援管理責任者の並川明日香さん

並川さんは2019年にそらいろチルドレンに転職。もともと学生時代に福祉を学んでいるなかで、児童館のアルバイト、さらに当時京都市が行っていた「障害のある中高生のタイムケア事業」のスタッフとして就職したことから、児童福祉の世界にグッと足を踏み入れました。

並川さん

仕事をしながら、まだ児童館職員だった坂口さんが運営されていたココと出会いました。ココは年齢を問わずいろんなこどもが遊びに来て、大人も含めみんなが自由に過ごすところ。すごく心地がいい、素敵な雰囲気があって私も時々ボランティアをさせてもらうようになったんです。その坂口さんに、新しく始めた放課後等デイサービスで一緒に働かないか、と誘われたのが転職のきっかけですね。

当時、厚生労働省が放課後等デイサービスをつくったことで、並川さんが仕事にしていたタイムケア事業はその役目を終えようとしていました。ただ、それがそらいろチルドレンに移った直接の動機ではありません。放課後等デイサービスという仕組みを利用しながらも、あくまで自分が好きだった“ココみたいな”場所、みんなの居場所を増やすための事業だったことが、並川さんの背中を押しました。

実際、転職した並川さんは、放課後等デイサービスの枠組みからはみ出すような活動にも次々と関わっていきます。例えば地域のお祭りや、障害のあるこどものサポートをする学生団体と連携した、合同運動会の開催。

複数の企業や団体と共同で企画する「マチゴトアフタースクールプロジェクト」では、なぞ解きをしながら、こどもたちと西陣・紫野エリアの地域資源をつなぐような仕掛けも行ってきました。そらいろチルドレンに通う子も楽しめることを意識しながら、坂口さんも語っていたような「こどもが地域を知る」機会を少しずつつくっています。

並川さん

もちろん、通うこどもたち一人ひとりと関わるのが仕事の基本です。決まったプログラムがないので活動の自由度が高く、こどもから急な要望が出てくるなど、予測できないことも毎日たくさん起きます。

応えることが難しいケースもありますが、大事にしているのはとにかくみんなで話し合うこと。仮にその日できなくても別の日に提案するなど、日々の積み重ねの中でこどもたちと向き合うように意識しています。

児童発達支援管理責任者の資格は、そらいろチルドレンで働きながら取ったという並川さん。ただ実際には、並川さんだけが個別支援計画をつくったり家族への対応を行ったりしているわけではなく、全員がそれぞれに責任をもって分担しているため、「私だけがこれをしなきゃ、と感じることはあまりないんです」と話します。

並川さん

月に一度『対話の時間』をしっかり取るなどして、施設として目指す方向や、仲間一人ひとりの状態をみんながよくわかっているなと感じます。お互いを気遣いながら、自分に今できることを探すメンバーが揃っているというか……。

なので今度来ていただく方も、みんなで対話しながら一緒に考えていきたい、という思いでいてくださるとうれしいですよね。もちろんスピードが遅くなってしまうこともあるんですが、それでも全員で納得しながら進めていくことは今後も大事にしたいなって。その上で、また一人ひとりが新しいことにどんどん興味を持って、たくさんの提案をしていけたらと思っています。

うまくいく日もいかない日も、仲間に支えられながら

もうひとり、創設時からそらいろチルドレンで働く松井さんにもお話を聞きました。

松井さんも坂口さんとココで知り合い、ボランティアを経て、新卒でそのままそらいろチルドレンに就職。「さまざまなこどもに出会いたい」との思いから、当初は別の放課後等デイサービスと掛け持ちをしていましたが、2年前からそらいろチルドレンに一本化して現在に至ります。

スタッフの松井佑介さん

松井さん

ココは、こどもだけじゃなくて、関わる大人である自分も受け入れてもらえる感じがすごくありました。みんなにとっての居場所をみんなでつくる……みたいな考え方を、そらいろチルドレンでも大切にして来たと感じています。

そう語る松井さんが日々大事にしているのは、坂口さんや並川さんも重要だと話す“遊び”の幅。何気ない会話の中で、一人ひとりのこどもの好きなこと、今ハマっていることをヒアリングしながら、それを一緒になって実現していきます。

例えば、人気ゲームで出てくるアイテムをブロックで再現したり、好きなキャラクターのぬいぐるみや衣装を自作したりするのも、松井さんの仕事のひとつ。

製作途中の、某人気ゲームのキャラクター。何だかわかりますか?
これまでにつくった衣装やアイテムを身にまとってくれた松井さん

松井さん

バスがものすごく好きなこどもと、市バスを見に行って、紙の立体工作をやったり、案内板をプラバンで再現したりしたこともあります。

製作に使ったデータ。多くの作品はこどもが持ち帰るため、実物はあまり手元に残っていないのだそう

最初は一人でできなかったこどもが、次第に大人の手を借りずにできるようになるなど、成長を感じることも多いと話す松井さん。こどもがのめり込む遊びを見つけるために、動画サイトや雑貨店などさまざまな場所で情報収集をしながらも、一人ひとりの様子を日々気にかけています。

松井さん

毎週見ていたら、その日の調子もなんとなくわかるので、しんどそうなときは声をかけたり保護者の方のお話を聞いたり。それでも、うまくいかないときはたくさんあります。どれだけ探しても、うまく遊びが見つからないときもありますし。

プログラムがないところがおもしろさでもあり、難しさでもある。そんな毎日の中で、松井さんの支えになっているのは、やはり共にそらいろチルドレンで働く仲間たちでした。

松井さん

僕は言葉にするのがあんまり得意じゃないんです。でも、そこも含めてみんな待って聞いてくれる。一緒に考えてくれる。それがありがたいです。坂口さんがいなくなっても、この雰囲気を残しながら、日々変わるこどもたちと新しいことをやっていけたらと思っています。

大人も「自分のやりたい」に素直な気持ちで

こども一人ひとりの「やりたい」を叶えながら、地域の中で、大人も含めて一緒に生きていることを実感できるように。放課後等デイサービスという制度を活用しながら7年に渡り、そらいろチルドレンは誰もがその人らしくいられる居場所を育んできました。

長く行けなかった学校に、登校できるようになった喜びを分かち合う側面もあれば、それまで出会うことのなかった人同士が関わりあう瞬間に、立ち会う側面もありました。「仕事だけれど、仕事を超えた何かが生まれるのが一番の醍醐味」と坂口さんが表現するように、特定の枠組みに収まらないことは、ここで働く確かな魅力なのでしょう。

こどもたちといっしょに、公園などいろいろなところへお出かけしています(提供:そらいろチルドレン)

新たな施設長候補を……というこの取材中、応募資格を十分に満たす並川さんに、ふと「このまま引き継ぐことはないんですか?」と尋ねてみました。すると返ってきたのは、「自分も坂口さんのように、いろんな場に関われる人でいたくて」との率直な言葉。

並川さん

今まで卒業したスタッフの中にも、坂口さんのように、いろんなところに目を向けている方がたくさんいたんです。私はそこにもすごく刺激を受けてて。自分のやりたいことを応援してくれる場でもある、それもまたそらいろチルドレンの良さだよな……とは思っているから、役職にはこだわりがないんですよね。

枠組みを軽やかに超えていく人の姿を見てきたからこそ、それに続きたいと思う自分のままでいる。もちろんそれは、責任を誰かに押し付けることではなく、実際の仕事は特定の誰かが代表しない仕組みにすでになっています。それらを含め、この環境で働いてみたい、という方をお待ちしています。

執筆:佐々木 将史
撮影:小黒 恵太朗
編集:北川 由依

京都移住計画での募集は終了いたしました

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