募集終了2023.06.09

コミュニケーションを大切に。京町家や古民家改修に携わる大工職人

端正な佇まいの京町家は、京都の町並みや生活文化を象徴する存在。そんな京町家を一軒でも多く残そうと尽力している会社があります。

大正14(1925)年創業、京都市右京区に本社と倉庫を構えるアラキ工務店。京町家の改修を多く手がける、京都に根ざした工務店です。

京都移住計画では昨年、現場監督として働く皆さんを取材しました。今回は、京町家をはじめとする戦前の木造住宅の改修を中心に、寺社仏閣の改修や新築住宅など、幅広い仕事に携わる大工職人の皆さんにお話を伺います。

実務経験は不問。全くの未経験からでも大工を目指せます。しかも、5年間の見習い期間を経て独り立ちしてからも社員として働きつづけられるのは、アラキ工務店ならではの環境です。

大工の仕事に集中できるからこそ、質を高められる

「ものづくりが好きで、大工を目指しました。自分の力で建てられる限界の大きさが、木造建築かなと思ったんです。ビルや橋といった大きい建造物よりも木造建築のほうが、自分が主体となって仕事ができるんじゃないかと考えて、アラキ工務店への入社を決めました」

そう語るのは、高校卒業後に入社し、以来30年近いキャリアを重ねてきた牛田秀樹(うしだ・ひでき)さんです。

アラキ工務店には、大工と大工見習をあわせて15名ほどの職人が社員として在籍しています。さらに繁忙期には、10数名の職人が外部から応援に加わるそうです。各現場ではどのように仕事を進めているのでしょうか。

「1つの現場を1~3名の職人で担当します。京町家の改修だったら、2名の大工と1名の見習い、計3名の場合が多いですね。もちろんある程度は予算を組んでスタートを切りますが、実際に現場が動き出してからもお施主さんの意見を仰いで相談しながら進めています。『この家は私が直したんだよ』って、お施主さん自身が思えるような作りにしたいですから」

お客さまとじっくり相談しながら進めるので、工期は短くても半年、長くて1年近くかかることも。他社と比べると時間がかかる上に、使う材木なども本物志向のため、価格も他社より高くなる場合があるそうです。それでもアラキ工務店がお客さまから選ばれている理由を、牛田さんはこう説明します。

「大工がお金勘定をしないところが強みだと思いますね。一般的な工務店では、見習い期間を終えたら独立して一人親方として働くので、大工も費用面を考える必要がある。でも、アラキ工務店では大工が社員として働いていて、費用面のやり取りは現場監督さんに任せているので、大工はお金のことを考えずに精いっぱい仕事をやらせてもらえるんです」

いかにきれいに仕上げるか。お客さまの要望にどうやって応えるか。そういったことだけを考えられる環境は、「大工にとって作りがいがある。うまく調整して見積もりを作ってくれる監督さんには、ほんまに感謝しかないですね」と牛田さんは笑顔で話します。

大工は自分たちの仕事に集中し、現場監督がマネジメントを担う。社内で役割分担ができているからこそ、高いクオリティが担保でき、お客さまの信頼を得ていることがよくわかります。

大工一人ひとりが、自分らしく働ける環境

アラキ工務店では、未経験で入社した人に5年間の見習い期間を設けています。この期間を終えると年明け(ねんあけ)となり、晴れて見習いから職人になることができます。修業の5年間には職務目標が具体的に設定されており、目指す姿までに必要なステップが明確になっています。

「修行している本人は、今自分がどのくらいのレベルに成長しているのか、見当がつかないですよね。基準がないと、うまくいっているかどうかもわからないので、年次ごとに職務目標を設定しています」

ただし、あくまでも基準であって、成長のスピードは人それぞれで構わないと牛田さんはつづけます。

「パズルがピタッとはまるかのように、仕事の道筋が読める瞬間が来るんですよ。それが2年目の子もいれば、5年目の子もいる。バラバラなんです。5年はただの区切り。だから、『5年経ってものにならなかったらどうしよう』とか、心配しなくてもいい。6年目でも7年目でも、前向きな姿勢さえあれば成長できるチャンスはいくらでもありますから」

修業期間を終え、職人として現場を任せられるようになったら、どのように担当が決まるのでしょうか。

「うちの会社の案件は、京町家など戦前の木造住宅の改修が約9割ですが、寺社仏閣の改修や新築住宅の仕事もあります。『自分はこういうことがしたいです』とアピールできれば、やりたい仕事ができる環境だと思いますよ。僕は刃物を研いだり、木を組み合わせて作ったりする仕事が好きだから、『得意です』とアピールしますし、若い頃は『床の間をやらせてください』と直球で言いに行ったこともあります」

ものづくりが好きで大工を目指した牛田さんらしいエピソードに頷いていると、「一人ひとりが働きやすい働き方を自分でつくっていける会社だと思います」と牛田さん。中には、古い住宅にそれほど関心がなく、新築を得意としている大工さんもいるそうです。

最後に、これから大工を目指す人に伝えたいことは?と尋ねると、牛田さんはこんなふうに話してくれました。

「汚れるし手も荒れるし、大変な仕事なんですよ。でもそんなことを全部忘れるくらい、この仕事をしていて良かったと思える瞬間がある。やっぱりお客さんが喜んでくれるのが一番うれしいですね。『ありがとうございました。ありがとうございました』って何度もお礼を言ってくれて。こんなに人が喜んでくれる仕事って、医者か先生か大工くらいちゃうかな」

見習いから職人へ。少しずつ自分のスタイルを確立

つづいてお話を伺うのは、入社5年目の植松怜也(うえまつ・れいや)さんです。大工を志して工業高校に進学し、卒業後すぐにアラキ工務店に入社。今年、修業期間の最後の年を迎えています。

「父親が建築関係の仕事をしていたので、子どもの頃にときどき現場にお弁当を届けていたんです。その時に『大工さんってかっこいいな』と思って。自分が建てたものが一生残る仕事に憧れて、住宅大工を目指しました」

子どもの頃からずっと憧れていた職業。実際に働いてみてギャップはなかったのでしょうか。

「入社してから、仕事内容でギャップを感じることはありましたね。実は、大工の仕事って新築ばっかりだろうなとイメージしていたんです。でもアラキ工務店では、約9割が古家改修なので、最初は『あれ?思っていたのと違うな』って(笑)。でも改修の仕事ができるほうが良かったなと、今では思っています」

古材と新しい木材を組み合わせて加工することも。アラキ工務店の職人ならではの繊細な技が光ります

想像していた仕事とは違ったものの、今では良かったと思えている理由について、植松さんはこう語ります。

「いまどきの新築は、機械で加工されたプレカットと呼ばれる木材を使って、プラモデルみたいに組み立てて建てるものが主流。でも僕らの仕事は、自分たちで木材に墨付けをして、ノミやカンナで加工して建てるので、同じ大工でも全然違いますね」

手作業による伝統的な職人の仕事に魅力を感じているという植松さん。工業高校で道具の使い方などの基礎は学んでいたそうですが、入社後はどうやって仕事を覚えていったのでしょうか。

「1~2年目は、先輩から教えてもらったことをその通りにやる感じで。2年目の終わり頃から、押入れなど小さい部分を任せてもらえるようになって、自分で考えて仕事をするようになりました。やっぱり言われたことだけやるよりも、自分で考えるほうが記憶にも残るし、そこからどんどん仕事ができるようになっていきましたね」

修業期間の5年間は、年次ごとの職務目標が設けられているものの、個人個人の成長に合わせてさまざまな仕事を任せてもらえるのだとか。「どの大工さんも、現場で『できるな』と認めてくれたらどんどん仕事を任せてくれます」といきいきと話します。

植松さんが初めて入った現場は、牛田さんが担当する現場だったそう。「牛田さんが『最初から最後まで見とき』と言ってくれて、基礎工事から完成まで現場にいさせてもらえました」

多くの大工が在籍しているアラキ工務店。個々のやり方の違いに戸惑うこともあったと植松さんは振り返ります。

「前の現場で教わった通りにやると、『違う』と怒られたこともあります(笑)。やっぱり現場ごと、大工さんごとにやり方があるので、最初は合わせるのが大変でしたね。でも今は、それぞれの良いところを吸収して、自分のやり方を確立していこうと考えるようになりました」

一人ひとりが自分の軸を持ち、独自のスタイルをつくっていくのが職人の世界。植松さんは来年4月の年明けに向けて、着実に歩みを進めているようです。

「改修に携わった家が完成するともちろん達成感がありますし、それでお施主さんが喜んでくれるのが一番のやりがいです。お施主さんのために、少しでも良い家にしようと思って仕事をしているので、喜んでもらえるような家を建てられる大工になりたいなと思いますね」

コミュニケーションを重ね、チームで作り上げる喜び

最後にお話を伺ったのは、入社16年目の斎藤優介(さいとう・ゆうすけ)さん。実家が工務店だったことから自然に大工の道に進んだといいます。

「実は入社時は、6年くらいで会社を辞めて家業に入るつもりだったんです。でも数年働くうちに、アラキ工務店の仕事にどんどん魅了されていって。実家の工務店では主に新築を手がけていたので、建売住宅をどんどん建てていくのが大工の仕事だと思っていたんですよね。でもアラキ工務店で伝統的な木造建築に携わって、これが本当の大工の仕事だと気づかされました。親にも相談すると、僕の進みたい道を応援してくれました」

「辞めるつもりだったのに10数年いるくらい、居心地の良い会社」と笑う斎藤さん。会社の魅力について、こう語ります。

「ほとんどの工務店では、修業期間を終えた大工は独立して個人事業主になります。そうなると、技術を磨くだけじゃなくて、自分で営業もしないといけないんです。でもアラキ工務店では、本来の大工の仕事だけに集中できます。しかも、監督さんに何か提案すると、大工の意見をかなり優先してくれる。たとえ社長であっても僕らの意見を聞くんですから、不思議な会社ですよね(笑)」

斎藤さんの言葉から、社長をはじめとする現場監督の皆さんが、大工の考えを尊重していることが伝わってきます。

「ただ、意見を言える分、責任も伴います。『こうしたほうが良くなる』と提案したのに、元の案のほうが良かったと思われるわけにはいかないので、これまでの経験を踏まえるだけでなく、他の事例などもかなり調べてから提案するようにしています」

積み重ねてきた経験を生かしつつ、新しいことも取り入れながらチャレンジしていくのが楽しいと、斎藤さんはつづけます。

「5年の修業期間を経て、6年目からは現場を任せてもらえるようになって、やっとこれまでの経験が実ってくるのが10年目くらい。以降は、意欲があればあるほど、また新しいことにチャレンジできる。仕事がどんどん面白くなってきていますし、チャレンジできる環境だからこそ居心地が良いんでしょうね」

「居心地の良さ」を何度も口にする斎藤さんに、どんなところに「アラキ工務店らしさ」を感じるのか尋ねてみると、こんな答えが返ってきました。

「大工の仕事って、本来は一人で黙々とできるような仕事なんですよ。でもアラキ工務店では、毎日出社して顔を合わせて、大工同士も監督とも、頻繁にコミュニケーションを取っています。コミュニケーションがうまく取れて、みんなで家一軒を直せた時のやりがいはとても大きいですね。チームで作り上げる感覚がすごく好きだし、それがアラキ工務店らしさかなと感じています」

だからこそ、これから新しく仲間に加わる人にも、コミュニケーションを大切にしてほしいと斎藤さんはつづけます。

「同じ現場を担当すると、作業時間はもちろん、行き帰りの車でも一緒ですし、毎日家族より長い時間を過ごします。だから、挨拶がきちんとできる、人の話をしっかり聞く、笑顔で接するとか、そういう基本的なコミュニケーションが大事だなと思いますね。技術は後からついてきますから」

斎藤さんは、仕事中のコミュニケーションはもちろん、時には休日にフットサルやスケボー、サーフィンに後輩たちを誘って、一緒に気分転換をしたり、職場では話せないような不安や悩みを聞いたりしているそうです。大工という未知の世界に飛び込んで、日々奮闘する見習い職人にとって、自分たちの気持ちに寄り添ってくれる先輩は心強い存在なのでしょう。

今回お話を伺った大工の皆さんから共通して感じられたのは、ものづくりへの思いや、お客さまに喜んでもらいたいという真摯な姿勢。そして、気持ちの良いコミュニケーションでした。

大工さんと聞くと、「寡黙な職人気質」を想像してしまいます。でも、常に笑顔で気さくに接してくれるアラキ工務店の大工の皆さんは、そんなイメージを軽やかに覆してくれました。

アラキ工務店の社風に共感し、ここで一緒に大工を目指してみたいと思った方は、ぜひ一歩踏み出してみてください。

編集:北川由依
執筆:藤原朋
撮影:清水泰人

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