京都移住計画での募集は終了いたしました
紅殻格子(べんがらごうし)に犬矢来(いぬやらい)、虫篭窓(むしこまど)。京都らしい風景と言えば、端正な佇まいの京町家が建ち並ぶ町並みを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。
しかし、そんな風情ある町並みは年々失われつつあります。京町家と呼ばれる、1950(昭和25)年以前に京都市内に建てられた木造家屋は、市のデータによると2010年から2017年までの7年間で5600軒以上取り壊されています。これは1日に約2軒のペースで京町家が消失しているという計算になります。
こうした厳しい現状の中で、京町家を一軒でも多く残して町並みを守ろうと尽力しているのが、今回ご紹介する株式会社アラキ工務店。京町家をはじめとする戦前の木造住宅の改修を中心に手がけている工務店です。アラキ工務店では現在、施主へのヒアリングから設計、現場管理までを一手に担う現場監督を募集しています。
京町家を一軒でも多く残していくために
「京町家は暗い、寒い、危ないとよく言われます。でも、天窓をたくさん作れば明るくできるし、断熱材を入れれば暖かくできる。段差をなくしてバリアフリーにすることも可能です。だから、古い=過ごしにくいとは思わないでほしいんです」
そう笑顔で語るのは、三代目社長を務める荒木勇(あらき・いさむ)さんです。
東京で会社員生活を送っていた荒木さんは、大正時代からつづく家業を継ぐため、2000年に京都にUターン。2003年には代表取締役に就任し、他社との差別化を図るべく、京町家の改修に特化した経営へと舵を切りました。
「よそとの違いは何か、うちにしかできないことは何なのか。それを突き詰めたら、職人の手が必要な仕事だと。今の時代、ほとんどの新築は大工さんがいなくてもできてしまいます。でも、古い木造建築の改修では、大工さんの仕事量が多い。アラキ工務店は腕の良い大工職人を社内で抱えているので、その強みを活かせるのが改修の仕事だと考えました」
荒木さんの父である先代社長が、町家再生に携わる職人集団「京町家作事組」の副理事長を務めていたこともあり、アラキ工務店では以前から京町家の改修を行っていました。そこで荒木さんは、新築も改修も広く手がけるのではなく、改修に特化した経営へと大きく方向転換したのです。
同時に荒木さんが取り組んだのは、京町家の改修に関する情報発信。関心がある人の目に留まるようにと、荒木さんが自ら更新する自社サイトをはじめ、雑誌や書籍での事例紹介、新聞への寄稿、講演活動など、あらゆる方法で地道に発信をつづけてきました。その結果、問合せが徐々に増えていき、今では改修の仕事が全体の9割以上に。着工の順番を待っているお客さまもいるほどです。それでも荒木さんは、焦らずじっくりと時間をかけて要望をヒアリングすることを大切にしています。
「問合せをいただいたら、まずはメールで数回やりとりをして、その後に直接会って、打合せを何回も重ねてから図面を引きます。初期段階で、『着工まで半年くらいは時間をください』と伝えることにしていますね。実際には2~3ヶ月の場合もあれば数年かかる方もいらっしゃいますが、やっぱり何回もお会いするうちに、お客さまがどんな家にしたいかがわかってくるんです。だからじっくりと時間をかけてお話しながら、予算とご要望が合うところを見つけていきます」
「手間がかかるでしょ。でもほとんどの人にとって一生に一回のことだからね」とにっこり笑う荒木さん。お客さまの気持ちに寄り添い、信頼関係を築いていく時間を大切にしていることが伝わってきます。
もう一つ、アラキ工務店が大切にしているのは、建物の見た目だけではなく構造から直すこと。傾いた柱は真っすぐに、下がった柱は元の高さまで上げて、構造部分から改修しています。
「普通はそこまでしないですよ。歪んでいたら歪んだまま改修するところがほとんどです。でもうちでは、いい加減なことはしない。100年先まで残せるように、建った時の状態にきちんと戻す。職人の手で直すからこそできる、うちの強みですね」
ただ見た目をきれいにするのではなく、100年先まで残るように直すことで、その家が次の世代まで受け継がれていく。そうやって京町家を一軒でも多く残していくことで、京都らしい町並みを守ることができる。そんな志を共にできる人に、ぜひ仲間に加わってほしいと荒木さんは語ります。
「京町家や古い建築が好きで、お客さまのために一生懸命直したいという気持ちを持った人に来ていただけたらと思います。京町家を一軒でも多く残すという使命のために、一緒に頑張っていけたらうれしいですね。京町家を残していくことは、町並みを守るだけでなく、住んでいる人たちの暮らしやコミュニティを守ることでもある。保存地区に指定されているような場所だけではなくて、普通の生活の中にある町並みを大切に残していきたいです」
設計も現場も担うことで、ものづくりの面白さを実感
ここからは、アラキ工務店で現場監督を務める社員の皆さんにお話を伺います。1人目は、現場監督として20年近いキャリアを持つ、工務部取締役部長の米沢和也(よねざわ・かずや)さん。米沢さんが入社したのは、アラキ工務店が京町家の改修に特化しようと動きはじめていた頃でした。
「働きながら夜間の専門学校で建築を学び、別の工務店で2年ほど働いた後、アラキ工務店に入社しました。以前から木を使った建築に興味があったので、この会社なら自分が関心のある分野に携われそうだと思い、入社を決めました」
入社したばかりの頃は、職人さんたちとのコミュニケーションに苦労したこともあると、米沢さんは振り返ります。
「当時はまだ20代。現場の職人さんはみんな先輩ですし、入ったばかりの新人が指示なんてできないですよ(笑)。『こんな図面では何がしたいかわからん』と現場で怒られて、『すみません、描き直します』と持ち帰ったことも何度もありました。そんなことを繰り返しながら、少しずつ関係をつくっていきましたね。最近の現場では、自分のほうが先輩で年上という場面が多くなりましたが、みんなが対等な立場で意見交換できるように心がけています」
職人それぞれに専門分野があり、一人ひとりが自分の仕事に誇りを持っているため、お互いを尊重する姿勢が大切だと語る米沢さん。
「こうしたほうがもっと良くなるとか、メンテナンスがしやすくなるとか、職人さんが提案してくれることも多いです。私が描いた図面よりももっと良いものができていくわけですから、こんなにうれしいことはないですね」
大手メーカーでは、営業・設計・現場監督と担当が分かれている場合がほとんど。アラキ工務店では設計者が現場監督も兼ねているため、現場で実感できるものづくりの面白さややりがいもより大きいのでしょう。
「私たちの仕事は、いろいろな業者さんとやりとりをしたり、調べ物をしたりといった細かい作業が多いんです。たくさんの下準備を積み重ねて、自分が設計したものが形になっていくので、何とも言えない面白さがありますね。竣工の時にお客さまから『米沢さんに頼んで良かった』と言ってもらえると本当にうれしいですし、頑張って良かったなと思います」
一人ですべての工程を担当するからこそ、現場監督同士の横のつながりやコミュニケーションも大切にしたいと米沢さんは語ります。
「現場監督は経験を積めば積むほど自分一人ですべて完結できるので、『一人工務店』になりがちなんです。そうなってしまわないように、アラキ工務店では各現場を他の監督が見に行って評価する社内検査や、定期的にミーティングをする場を設けています。普段から気軽に相談し合える雰囲気作りも心がけているので、そういったコミュニケーションを積極的に取っていける人に仲間に加わってもらえたらいいですね」
一番大切なのは、誠実に向き合う姿勢
つづいてお話を伺うのは、入社5年目の長崎道(ながさき・みち)さんです。鉄鋼メーカーの建築部門や設計事務所、ゼネコンなど、建築に関わるさまざまな企業で働いた経験を持つ長崎さんですが、現場監督という職種に就くのははじめてだったと言います。
「自分はどちらかというと設計かなと思っていて、現場監督という職種は全く視野に入れていませんでした。でも、古い建物の改修は何十年も前からずっとやりたかった仕事なので、アラキ工務店の求人を見て、職種にこだわらずチャレンジしてみようと思いました」
実は、以前からアラキ工務店の存在を知っていたという長崎さん。2006年に実家の改修を自ら設計した際、京町家作事組が発行している冊子を読んで参考にしていたため、当時からアラキ工務店の取り組みに関心を持っていたそうです。
その後、求人を見たことがきっかけでアラキ工務店に再会し、縁あって入社することになった長崎さんですが、はじめての現場監督職に戸惑うことはなかったのでしょうか。
「古い建物や京町家に携われる仕事だったら何でもやりたいと思っていましたし、大変なこともあるだろうと想像していたので、特に戸惑うことはなかったです。何でも覚えます、何でも勉強しますという気持ちでしたね」
ヒアリングから設計、現場監理まで、すべての工程を自分で担当するからこそ感じられるやりがいがあると、長崎さんはつづけます。
「一から十まで現場監督が担当することは、大変さでもあり面白さでもありますね。お客さまとお話して、要望を汲んだ上で設計して、大工さんにお客さまの思いを直接伝えて、完成まで見守れる。お客さまとのやりとりをつづけながら、お引き渡しまですべて担当できるところは、やっぱり大きなやりがいだと感じます」
現場監督の仕事は、ほとんどが人とのコミュニケーション。お客さまや職人さんたちとコミュニケーションを取る際に心がけていることは、相手に対して誠実であることだと言います。
「一生懸命に向き合おうとしているかどうかは相手から必ず見られているし、長い期間をかけて一つの案件に携わるので、取り繕ってもきっとわかってしまうと思うんです。だから常に誠実であることを一番大切にしています」
長崎さんは仕事以外のプライベートな時間でも、古い建物に携わる活動に取り組んでいます。その一つとして、京都市文化財マネージャーの講習を先日修了したばかりだと話してくれました。
「文化財マネージャーは、都道府県や市町村が、歴史的建造物の保存・活用のために活動する人材を育成する制度です。講習を受けたことで、古い建物に関する知識が深まってすごく楽しかったですね。今後も活動をつづけていきたいですし、学んだことは仕事にもきっと活かせると思っています」
仕事に関連する知識を深めることは、会社としても推奨しサポートしているため、長崎さんの他にもさまざまな講習を受講している人がいるそうです。アラキ工務店の皆さんにとって、京町家や伝統的な建築に携わることは単なる仕事ではなく、自分自身の興味関心を深めていくライフワークでもあるのでしょう。
現場で経験を積み、見る目や感覚を養う
最後にお話を伺うのは、長崎さんと同期入社の大久保朋彦(おおくぼ・ともひこ)さん。大久保さんは高校卒業後、建築の専門学校に進学し、新卒でアラキ工務店に入社しました。
「もともと古い建物が好きで、なんでこんなに惹かれるのかな、構造はどんなふうになっているのかなと興味を持って、木造や伝統建築について学べる専門学校に進学しました。その学校の校長先生の紹介でアラキ工務店に出会って、入社することになりました」
入社した頃は先輩の現場に同行していましたが、数ヶ月後には現場監督として担当物件を受け持つことに。アラキ工務店では、学校を卒業したばかりの20代前半の現場監督は珍しかったそうですが、不安や戸惑いはなかったのでしょうか。
「打合せには社長が同席してくださったのですが、お客さまに説明するのも図面を引くのも、現場を監理するのも自分という状況で、任せてもらうのがうれしい反面、戸惑いもありましたね。アラキ工務店では、大工さんたちも同じ会社のメンバーとして一緒に仕事をしているので、皆さんがフォローして育ててくださって、すごく感謝しています」
「わからないなりにも、もがきながら取り組んでいたら、いつの間にか4年経っていました」と笑う大久保さん。入社3年目に初めて担当した、町家一軒の全面改修の仕事が印象に残っていると振り返ります。
「竣工から半年ほど経って、メンテナンスのために訪問した時に、『改修して過ごしやすくなりました』とか『この部分が便利で使いやすいです』と喜んでくださる姿を見て、良かったなとしみじみ感動しました。もちろん竣工の時の喜びもありましたが、やっぱり実際に住んでから良かったと言ってもらえると、『よっしゃ!』とうれしくなりますね」
新卒で入社して4年が経ち、自身の成長についてはどのように感じているのでしょうか。
「大工さんや現場監督の先輩は、この柱が何センチ傾いているとか、この部分が図面と少し違うとか、現場でひと目見たらすぐに気づくんですよね。僕はまだまだですが、最近は少しずつ『ここが歪んでいるかも』といった違和感を持てるようになってきました。そういった見る目や感覚が身に付いてきたのは、これまでいろいろな現場を担当させてもらってきたからだと思います」
最後に、伝統建築にかける思いや今後の目標について、大久保さんはこんなふうに語ってくれました。
「これからも伝統建築に携わって、一軒でも多く残していきたいという思いがあります。最近は京町家に関心がある若い人も増えていると感じるので、もっとたくさんの人に知ってもらえたら、京都だけでなく全国的にも、より多くの伝統建築を残していけるのではないかと思います。古いものの良いところを残しながら、新しいものも取り入れて、自分なりの建築を模索していけたらいいですね」
これまでのキャリアは三者三様ですが、アラキ工務店の現場監督のみなさんに共通しているのは、建築が好きというまっすぐな気持ちと、伝統的な建築を守りたいという強い思い。そして、お客さまが喜ぶ姿にやりがいを見出しているところだと感じました。彼らの思いに共感し、同じ志を持ってチャレンジしていきたいと思った方は、ぜひ仲間に加わってみませんか。
編集:北川 由依
執筆:藤原 朋
撮影:清水 泰人
京都移住計画での募集は終了いたしました