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京都には、季節ごとの行事やならわし、風物詩がたくさん存在しています。このコラムでは、1年を春夏秋冬の4つに分け、さらにそれぞれを6つに分けた「二十四節気(にじゅうしせっき)」にあわせて、京都移住計画に関わる人たちの等身大の京都暮らしをお伝えします。
11月下旬。秋から少しずつ冬の気配を感じる季節。
京都は一年の中で最も観光客が多い、観光業の繁忙シーズンだ。
「京都の街はテーマパーク化している」って、最近よく聞く言葉だ。街中には、見えない誰かに演出された”京都っぽさ”が溢れている。京都で観光業に従事するようになってから三度目の秋、このシーズンには毎回、街と自分の関係性について向き合う必要性を感じさせられる。
京都でホテルの支配人をしていながら、私が思う京都の魅力は、神社仏閣や伝統工芸的な部分とは少し違うところにある。私が京都で過ごす休日というのは、出町座で映画を見てから鴨川に座って友人や恋人とたわいもない話をして、夜には友人が出演しているライブを観に行く。たいていこんな感じだ。だいたいの休日のどこかしらの時間で、私は鴨川で座って誰かと喋っている。
「繁華街のすぐ側に鴨川という大きな自然の塊が存在していること」。私の中での京都の魅力というのはとにかくこれに尽きる。
平日の昼間っから上裸で日向ぼっこをしているおじさん、キャッチボールをする学生、見たことのない謎の楽器の練習をする大学生、何をしていても許されて、そこにいる人全員が自分とは関係なくて、けれど緩やかな連帯感が存在する。自立と共存が両立し、24時間どんなときだってあらゆる全ての人に開かれた空間。それが鴨川だ。
鴨川のこの寛大な公共性こそが、私が好きな京都の文化を作り上げる大きな要因だと私は思っている。
京都に再び引っ越してくる前に住んでいた街では、こんな風にいつでも誰とでも、どんな風にでも座ることができる場所はなかった。疲れてひと休みしたくなっても、お金を払って何かを買わないと休む場所がない。自分は前に進んで歩くしかないと言われている気分になって、余計に精神がすり減っていた。
鴨川は、私のような「座りたい」精神性を持つ人たちが自然と集結する、都市の中にありながらも都会の喧騒から解き放たれる、オアシスのような存在なのだと思う。
私が勤めるホテルも、「最果ての旅のオアシス」というコンセプトを謳っている。
私たちが目指すのは、いわゆる京都の定番観光地からは少し離れた、静かな日常の中に突然現れるユートピアのような空間だ。画一的な京都のイメージを引き剝がして、街の空気感を宿泊体験に織り込みたい。そんな思いから、私たちはこのホテルを「最果ての旅のオアシス」と名付けている。
ホテルとその土地の関係。私がこれからこの街で実現していきたいのは、ローカルに誰かが演出した非日常を作ることではなく、この街にすでにある空気感や個性、現在進行形で続く人々の生活を編集し、体験として届けられるような、そんな旅行のあり方だ。
岸 えりな
HOTEL SHE, KYOTO / OSAKA 統括マネージャー
1994年兵庫県丹波篠山生まれ。
同志社大学文学部美学芸術学科卒業後、現在は南区にあるホテル「HOTEL SHE, KYOTO」のマネージャーを務め、詩人の最果タヒさんとコラボした「詩のホテル2024」や映画「ICE CREAM FEVER」とのコラボレーション企画などのPM・クリエイティブディレクターを担当。ホテルの可能性を広げるようなクリエイティブを実践・拡張している。グラフィックデザイナーとしても活動中。
執筆:岸 えりな
編集:藤原 朋