CHECK IN
京都の日常を彩る食を訪ねる「食を巡る」シリーズ。京都らしい食べ物や飲み物、京都移住計画メンバーのお気に入りの一品をご紹介する連載コラム記事です。食べることは生きること、京都での暮らしに彩りを与える物語をお届けします。
今回訪れたのは、左京区・洛北エリアに位置するまち、上高野(かみたかの)。比叡山の麓、のどかな田畑や住宅が広がる、自然豊かな地域です。

上高野の玄関口、叡山電車・三宅八幡駅。そこから徒歩1分、高野川沿いに2025年10月にオープンしたのが、カフェ「コリマトセ」です。
「このまちは、私の地元。故郷の景色を見ると、やっぱりほっとするんですよね」
そう話してくれたのは、店主の奥野まりこさんです。地元・上高野にUターンし、新しい暮らしを育むまりこさんに、カフェオープンの経緯や子育て事情、暮らしのあれこれについてお話を伺いました。

家族で地元にUターン。馴染みの風景に包まれる暮らし
上高野の風景といえば、比叡山と高野川。迫力と清々しさを感じる絶景は、この地で生まれ育ったまりこさんにとっての原風景でもあります。
「子どもの頃は高野川が日常の遊び場でした。地元を離れてからも、帰省するたびにこの風景を見ると心が落ち着くんですよね」

まりこさんが、一人暮らし・結婚・出産を経て、家族で上高野にご自宅を構えたのは、2023年のことでした。
「ここに引っ越す前は一乗寺に住んでいたのですが、子どもが生まれて手狭になったので家探しを始めたんです。なかなか良い土地や物件と出会えずにいたなかで、たまたま見つけた土地がこの場所でした。大好きな地元の風景のなかで暮らせることにワクワクする私の横で、夫は当初渋っていたのですが、暮らし始めてからその良さに気づいたようで、今では私以上に気に入ってくれています」

暮らしを重ねるなかで、変わらない地元の安心感に包まれながらも、まりこさんはある変化も感じ取っていました。
「田舎あるあるかもしれませんが、昔は少し閉鎖的な空気感があったんです。でも最近は、新しい家が建ち、若い人が入ってきたことで、まち全体の空気がとてもやわらかくなった気がします。息子は5歳なのですが、同じくらいの年齢のお子さんがいるご家庭も多くて。親同士も仲良くなって、おうちで晩酌しながらおしゃべりを楽しむことも。そんなふうに、自分が安心して過ごせる土地で子育てと暮らしを楽しめているのは、本当に幸せに思いますね」
移住者たちが運んできた新しい風。まりこさん自身もまたそのひとつとなり、このまちにやわらかな活気を運んでいます。
ガレージがお店に? 予想外だったカフェの始まり
20歳の頃からずっと飲食業界で働いてきたというまりこさん。パン屋さんやカフェ、レストランなどで経験を積んできましたが、自分のカフェをオープンしたのは、意外ないきさつがあったそうです。
「私はずっと、色んなお店で働かせてもらう方が向いているタイプだと思ってきたので、自分でお店を開くのは予想外の出来事でした。でも、子どもが保育園に通うなか、かっこよく働くお母さんたちにたくさん出会ったことで、自分も働く姿を子どもに見せたいなという想いが芽生えてきたんです」

「もうひとつきっかけになったのは、近所の方からの何気ない声でした。焼き菓子の卸販売をするのに使っていた工房(現在のキッチンスペース)の小窓がお店っぽく見えるのか、『お店ができるの?』と何度も声をかけてもらって。その度に『違うんです』と答えつつも、だんだん『ここで店を開くのもいいかもしれない』という気持ちが湧いてきて。夫に相談したら背中を押してくれて、ガレージを改装しカフェを開くことになったんです」

食事もパンも焼き菓子も、欲張りに楽しめるように
キッシュやパスタ、サンドイッチなど、旬の野菜を取り入れたランチが人気で、お昼は満席になることも。メニューは季節ごとに変わるため、店頭のメニューボードを見て選ぶ楽しさも魅力です。

自家製のパンや焼き菓子をテイクアウトする人や、ご友人が営む大阪・橋本農園から届く新鮮な野菜を買いに来るご近所の方も多いのだとか。常時数種類が並ぶ焼き菓子は、ちょっとしたお土産や自分へのご褒美にぴったりです。

通常営業に加え、5月には近隣のお店や作家さんと共にマルシェを開催。秋には、近所の三宅八幡宮の秋季大祭にあわせ、一日限定でスリランカカレーの夜営業も行うなど、思い浮かんだ「やってみたい」を一つひとつ形にしています。
「私は、パンも焼き菓子も料理も全部好きなんです。居酒屋メニューや定食など、やりたいことはまだまだたくさんあります。お店を始める前は『これひとつ』に絞れないことに悩んだ時期もありましたが、今ではいっそのこと全部やってしまおうと思うようになりました。自分が美味しいと思うもの、やりたいと思ったことをこれからも重ねていけたらと思っています」
自分の「好き」や心地よいと感じる輪を、少しずつ外へと広げ、新たな取り組みへと繋げていく。そんなまりこさんの想いが地域の人にも徐々に伝わりはじめています。
このまちに帰ってきてよかった。家族と紡ぐ、これからの時間
自身でカフェを営むことで、子育てにも良い変化があったのだそう。
「飲食の現場で働いていると、どうしても週末に出勤することが多くて、子どもと一緒に過ごせない葛藤がありました。今は日曜日を定休日にしているので、家族と過ごす時間が増えてとてもうれしいです」

先日は、電車好きのお子さんと一緒に、名古屋まで鉄道カードを集める旅に行ったのだとか。好きなものやできることがめまぐるしく変化していくお子さんのそばで、その成長を見守る時間を大切にしたいと、まりこさんは語ります。
「夕飯を食べたあと、家族で近所を散歩する時間が好きです。季節の草花や、夕焼けに染まる比叡山を眺めながら、手を繋いでゆっくり歩くひとときは、本当に幸せ。豊かな自然の中で子どもと一緒にのびのび過ごせるのも、ここに帰ってきてよかったなと思う瞬間です」

「ご近所のおじいちゃん、おばあちゃんから子どもたちまで、みんながふらっと立ち寄れる場所にしたいですね」
そう語るまりこさんの周りには、自然と人が集まり、笑顔の輪が広がっていきます。
お散歩の途中に覗いていく子どもたちの声や、美味しいランチを囲んで交わされるたわいない会話。
地域の憩いの場となった「コリマトセ」には、わたしたちの日常に笑顔を運ぶ、やさしい風が吹いていました。
『コリマトセ』
京都市左京区上高野木ノ下町14-2
https://www.instagram.com/korimatose
CHECK OUT
今回は、お店の休業日にご自宅を訪ね、ゆっくりとお話を伺いました。傍らで遊んでいる息子くんが頬張っているのは、まりこさん手作りのソーセージパン。電車のおもちゃを両手に抱えて一生懸命話す息子くんの姿と、見守るまりこさんを見ていると、コリマトセに漂うやさしい空気感は、こういうところから伝わってくるのだろうと感じました。
キッシュもパスタもデザートも、訪れるたびに新しい美味しさに出会えるコリマトセ。上高野の絶景のもと、美味しくて楽しい時間を過ごしに、皆さんもぜひ足を運んでみてください。
執筆:佐藤 ちえみ
編集:藤原 朋



