2019.01.22

京田辺から羽ばたくハチドリファッションを楽しむ、チャリティーを着る

南アメリカの先住民に伝わる伝承『ハチドリのひとしずく』を知っていますか? 物語を開いてみると、次のようなお話がつづられています。

森が燃えている。

森の生き物たちは、我先にと逃げていきます。でも、「クリキンディ」という名のハチドリだけは、行ったり来たりを繰り返している。口ばしで水のしずくを一滴ずつ運んで、火の上に落としているのです。

動物たちは「そんなことをして、いったい何になるんだと」と笑います。

そこで、クリキンディはこう答えました。

私は、私にできることをしているだけ。
I AM ONLY DOING WHAT I CAN DO.

今回ご紹介するのは、JAMMIN(ジャミン)合同会社
ハチドリの物語を事業のテーマに重ねる、ファッションブランドです。

(出典:JAMMIN合同会社)

オリジナルの絵柄が描かれる、Tシャツなどのアパレル商品を販売。特徴的なのは、商品の全てが「チャリティーアイテム」だということ。売り上げの一部が、社会的課題に取り組むNGO/NPO団体に寄付されます。

Tシャツ1枚の寄付額は700円。

ほんの僅かかもしれないけれど、積み重なると大きな行動につながる。ハチドリが「ひとしずく」で山火事に立ち向かったように、JAMMINは「ファッション×チャリティー」で社会のために動いています。

(出典:JAMMIN合同会社)

お話をお聞きしたのは、創業者の西田太一さん。本社がある京田辺市出身で、東京で勤めていた企業を退職後にUターン起業しました。ファッションをきっかけとするチャリティー事業を始めた背景、そして、新しく始める事業についてお聞きします。

JAMMINの原点、独立までの軌跡

最初は、全く社会問題に関心がなかった。

意外な言葉から、JAMMIN創業までのお話が始まります。立命館大学の理工学部に通っていた西田さん。「大学時代は勉強よりもDJに明け暮れる日々。音楽とファッションが生活の中心やった」と笑いながら当時を振り返ります。

お話を伺ったのは、JAMMIN本社の1階。長いバーカウンターと椅子があり、奥の方にはDJブースやビリヤード台も。毎週金曜日の夜はBARとしても開放されています。

社会問題の現状を目の当たりにしたのは、大学4年生のとき。配属先の研究室では途上国の調査が必須でした。夏休みの1ヶ月間に滞在していたスリランカで、西田さんは衝撃を受けます。

「テレビで見た貧困が目の前にあったんです。コーヒーみたいな色の水を飲んでいるし、牛と一緒に水浴びをしているし、今にも死にそうな人たちがいっぱいいる。同時に、バケツと砂利があれば簡単に水を綺麗にできるのに……って思いました。まがりなりにも大学で環境工学を専攻していたから、オレでも100人くらい救えるわって」

そこで抱いたのが、「たった1人の小さなアクションでも、世界を変えることはできる」という直感。西田さんの原動力であり、『ハチドリのひとしずく』にも通じるJAMMINの原点です。

その後、途上国に関わる仕事がしたいと思った西田さん。大学院に進学し、卒業後には東京に上京。発展途上国のインフラ開発などを行う、大手建設コンサル会社に就職します。

開発コンサルタントとして、数億円から1兆円規模の国家プロジェクトを担当。大規模な仕事にやりがいも感じていましたが、次第に違和感も抱くようになります。

「プロジェクトが完了するまでには10年から20年もかかる。その間、オレらはどんな生活をしてたかっていうと、綺麗なホテルに滞在して、毎日接待をしてもらうっていう贅沢な暮らし。でも、外を見れば、今にも死にそうな人たちがいっぱいいる。おかしいな、目の前の貧困をどうにかしたいと思って始めたのにって、少しずつ仕事と自分の気持ちの間に溝ができてきました」

途上国の問題をどうにかしたい。
今の自分に、いったい何ができるのだろう。

仲間との勉強会などを積極的に開き、考えた末に浮かんだのが、昔から好きだった「ファッション」をきっかけに「チャリティー」を募る仕組みです。

アパレル事業を始めると決断し、西田さんは30歳を機に独立。大手企業の安定と高収入を捨てる道に迷いはなく、「もともと父親が自営業でいつかは独立すると思っていた、覚悟と準備はしていた」と当時を振り返ります。

半年後、共同創業者となる高橋佳吾さんが参加。2人ともアパレル業界については全くの素人だったため、パターン、生地、染色、裁断、縫製、プリント、Tシャツ1枚がつくられる工程を学ぶため、タダ働きで修行します。

苦難の連続の末、2013年11月に合同会社JAMMINを設立。
翌年4月にはネット販売がスタートします。

ファッションから広がる「JAM SESSION」

「Tシャツのデザイン、とってもおしゃれ!」
「その絵柄には、どんな意味があるの?」

そんな会話から、自然と社会問題やNGO/NPOの話題につながってほしい。チャリティーだから買うのではなく、おしゃれだから、品質がいいから買う。JAMMINの商品には、そんな想いが込められています。

自社内にある、Tシャツにプリントするスペース。
インクを落として・・・
オリジナル版画の版をつくって印刷する「シルクスクリーン」という技法で、1枚1枚にのTシャツやパーカーに絵柄をプリントしていきます。

チャリティー先となるNGO/NPO団体は週替わり。1週間に1団体と提携して、その都度、商品にプリントされる団体とのコラボデザインを考えています。社会問題や団体の活動内容から、インスパイアされたデザイン。問題を全面に出すのではなく、希望や可能性が表現されています。

また、商品の販売と合わせて、Webサイトでは、団体の活動内容を取材した記事も公開。NGO/NPOの情報発信の場としても活かされており、社会問題を詳しく知ることができるポータルサイト的な印象も受けます。

オフィス内の様子。NGO/NPO団体など、連携先との打ち合わせも遠隔MTGで行なっています。

JAMMINの語源は、そこで出会った人たちが、即興で奏でる「JAM SESSION」。「社会をよくしたいと思う人たちの気持ちを、少しずつ、たくさん集めて、ほんのちょっとでも社会をよくしていきたい」という願いが込められています。

学生や若者に「Beingで生きる」「自分らしく生きる」技術を提供する『NPO法人full bloom』をチャリティー。京都移住計画とも、イベントやセミナーを共同で開催しています。(出典:JAMMIN合同会社)
京都タカシマヤでの期間限定ショップ。(出典:JAMMIN合同会社)

2019年1月現在、提携した団体は240以上。
寄付総額は2800万円以上。

作り手の顔が見える国内生産にもこだわっており、品質の高さから、セレクトショップや大手百貨店でも商品を販売。JAMMINが奏でるセッションは、着実に広がっています。

都心ではなく、京田辺で旗をあげる利点

JAMMINを立ち上げるとき、最初に悩んだのが「場所」を探すこと。アパレル事業のような生産産業は、生産する場所や商品を置く倉庫など、ある程度のスペースが必要です。

ファッションの中心地である東京で立ち上げたい気持ちはあったけれど、物件を探してみるとどこも高い。「東京23区以外でやるなら関東圏にこだわる必要がない」と考え、不動産業を営むお父さんに相談したところ、地元・京田辺市に現在の本社となる物件を見つけます。

オフィスの壁に描かれた「JAMMIN」。チャリティーアイテムの絵柄も担当している、デザイナー・日高さんの作品です。(出典:JAMMIN合同会社)
オフィスのガレージでは、BBQを定期的に開催。スタッフの家族やいつもお世話になっている方をお呼びします。冬場は毎年恒例の牡蠣BBQ!(出典:JAMMIN合同会社)

帰りたくて帰ったわけではなく、偶然が重なってUターンをした西田さん。京田辺市を拠点にビジネスをはじめてみて、なにかメリットに感じることはあるのでしょうか。

「京田辺には20代~30代の若い人、特に活発に動いたり、おもしろいことをしようとする人なんておらへん。野心を持った人らは東京とか大阪に出ていくから。でも、逆にそれが狙い目やと思うんです」

「だって、敵がおらへんもん。プレイヤーがいないから、すぐにトップになれる可能性が高い。特に農業とか飲食店とか、地域土着型のスタートアップはめっちゃ可能性があると思いますよ。地元の人らがめっちゃ協力的やし。『今度、西田くんのことを紹介したい人がおるねんけど』って。行ってみたら、『この兄ちゃんやねん、この兄ちゃん、ちょっと変やねん』って紹介される」

変な人って紹介されるんですね(笑)

「そうそう(笑)でも、すぐに覚えてもらえるし、いろんな人をつないでくれる。京田辺みたいな田舎は、50、60、70代の人たちがめっちゃ多い。で、若い人らをずっと待ってる。待ってたわって感じで歓迎してくれる。そんな環境を生かしていけたらいいんとちゃうかな。若いオレらにとっても、あれもやる、これもやる、地域のいろんなことが自分ゴト化していく。逆にいえば、そこが若い人らの役割かなって思います」

これまで、ネット販売を通じて、全国の人たちとのつながりを育んできたJAMMIN。先日、自分たちのホームページ上で新たな挑戦に向けてのクラウドファンディングを実施したところ、全国500人以上から、200万円以上の寄付が集まったのだそう。あたたかなメッセージと共に。

だから、今度は身近なところから。京田辺市の地域の人たちのとつながりを育んでいきたい。それは、JAMMINが新たに挑戦する「福祉事業」にもつながります。

一休み、二休み、三休みできる場所

一休みでも、二休みでも、三休みでもいい。
それぞれのペースで、自分らしく、心地よい空間を見出してほしい。

そんな想いが込められた就労継続支援B型事業『三休-Thank You-』を、JAMMINの本社1階にオープン。障がいのある人が地域と密接に関わりながら、やりがいや居場所を見出して欲しいと「農業」をスタートします。

近鉄京都線「新田辺駅」の近くに4つの畑を借りています。(出典:JAMMIN合同会社)

立ち上げのきっかけとなったのは、2017年。Tシャツの縫製をお願いしている会社の社長さんから、娘さんがダウン症であることを告げられます。仕事でも私生活でも、とてもお世話になっている人生の大先輩。ある日、相談を持ちかけられました。

「『西田くん、うちの長女がな、来年に高校を卒業するねん。仕事を探してるけど、ひどいな。働ける場所もないし、あったとしても給与が低い。今は障がい者年金をもらってるけど、オレのほうが先に死ぬやん。こいつどうすんの。こいつ、生きていかれへんで。こいつが生きていけるような場所を作っておきたいねん。なんか一緒にやってくれへんか』って、相談してもらったのがはじまりです」

障がい者支援を行う団体とのつながりがあったこと、また、経営者として仕事を提供することはできると考えた西田さん。福祉事業の立ち上げに乗り出します。一度は計画が頓挫しますが、福祉業界で働いていた新しい仲間との出会いをきっかけに、再び事業開発が動き出しました。

「いろいろと調べているなかで、京田辺の実情が見えてきたんです。就労登録をしている障がい者が500人以上いるのに、市内の就労支援施設の定員は140人ほど。じゃあ、残りの300人はどうしているのかっていうと、市外に働きに出ているか、行き場もなく家に引きこもっている。障がいのある人たちが、自分の生まれ育った京田辺で働ける、地域の人たちと交流できる場所をつくろうって方向性が決まりました」

ゆくゆくは、JAMMINの商品を梱包したり、発送したりする仕事に携わってもらいたい。でも、今すぐにアパレルの方でそれだけの仕事を用意するのは難しい。

そこで、まずは農業分野で、障がいのある人たちの働く場所を創出する「農福連携」に取り組むことに。京田辺市で農福連携を先駆的に行なっている事業所『さんさん山城』との出会いもあり、現在は4つの田畑を耕すところから始めています。

農家さんから農業のノウハウを教わります。(出典:JAMMIN合同会社)

福祉施設『三休-Thank You-』は、2019年の春から本格的にスタートする予定。障がいのある人たちが集まって仕事ができる、生きがいを感じられる場所にしたいという気持ちがあるなかで、西田さんは「福祉らしさを前面に押し出すつもりはない」とも話します。

「オレらは普通に楽しいことをしたいだけ。みんながワイワイ、ガヤガヤ楽しんで農業をしたり、施設を利用したりするなかで、たまたま障がいのある人もおるっていうくらい。障がいのある人もない人も、地元の人もそうでない人も、みんなが気軽に集まれる、そんな場所にしていきたいかな」

『三休-Thank You-』の施設入口にて、西田さんと施設を運営する世古口さん。(出典:JAMMIN合同会社)

チャリティーをするためにTシャツを買うのではない。
品質が良くて、おしゃれで、楽しいから買う。

障がいのある人のために集まって、何かをするのではない。
楽しい場所だから、みんなが集まる。

JAMMINとしての姿勢は変わりません。

2019年で創業5周年目を迎えるJAMMIN。
次のステップに向けて、新しいハチドリが羽ばたこうとしています。

JAMMINのスタッフ。左から、日高さん(デザイナー)、伊藤さん(生産担当)、西田さん、山本さん(ディレクター・ライター)、高橋さん(共同創業者)。

日々、うまい酒が飲みたい

最後に、西田さん自身の目標についても伺ってみました。

「ゆくゆくは井戸を掘りたいって思っています。大学時代に途上国で調査していたとき、井戸を掘って、水が出た瞬間、住民はどんちゃん騒ぎ。むっちゃ楽しいイベントなんです。あの感覚は気持ちええな。いずれビジネスとしてできたら最高。今はそのためのコネクションをつくったり、状況を聞いたりしている段階かな。勝手に井戸掘ったら怒られるから(笑)」

「あと、JAMMINとしては、チャリティーの仕組みを横展開していきたい。社会問題や団体の活動を表現できるなら、ファッションにこだわる必要はないと思っていて。音楽イベントとか、フットサル大会とか、負担のないチャリティー、楽しいチャリティーみたいなのを目指していて、仕組みを考えているところです」

西田さんのお話のなかで、「おもしろい」「楽しい」という言葉が何度も出てきたことが印象に残っています。

「うん、そこが軸。個人的には、『うまい酒が飲みたい』っていう信念がある。頑張ったから、汗をかいたから、楽しいことをしたから酒がうまい。しかも、ひとりで飲むんじゃなくて、みんなで飲むのがいい。ただの酒はいらん。うまい酒が飲めるように、これからも生きていきたいね」

※本記事は、公益財団法人京都産業21が実施する「京都次世代ものづくり産業雇用創出プロジェクト」の一環で取材・執筆しております。

執筆:山本英貴
写真:もろこし

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