2023.09.15

自由でしなやかなライフデザイン。料理家・酒屋店主 真野遥さんの移住という選択。

CHECK IN

京都のおもしろい人を訪ねる「人を巡る」シリーズ。京都に移住した人の体験談や京都の企業で働く人をご紹介する連載コラム記事です。移住するに至った苦労や決め手、京都の企業ならではの魅力など、ひとりの「人」が語る物語をお届けします。

第33弾にご登場いただくのは、酒屋「発酵室よはく」の店主であり、料理家の真野遥(まの・はるか)さんです。


東京育ちの真野さんは、2020年6月から東京・京都の二拠点生活をスタート。現在は京都に住まいを移し、2023年6月、京都市左京区に酒屋「発酵室よはく」をオープンしました。日本酒と発酵が好きな料理家として、雑誌やWEBなどでオリジナルレシピを考案するほか、書籍『手軽においしく発酵食のレシピ』(成美堂出版)、『いつものお酒を100倍おいしくする最強おつまみ事典』(西東社)を出版。“暮らしに余白を醸そう”をテーマに幅広く活動しています。

京都移住、はじめの一歩は二拠点生活から

--真野さんが京都を好きになったきっかけを教えてください。

学生時代、森見登美彦さんの小説にハマったのがきっかけです。『四畳半神話大系』や『夜は短し歩けよ乙女』など京都を舞台にした小説を読むうちに、京都ってどんなまちなんだろうと興味が湧き、実際に行ってみたらすごく楽しくて!気づけば年に何度も通うようになっていました。

その後もずっと東京で暮らしていましたが、京都愛は募るばかりで。いつしか「京都に住みたい」と考えるようになったんです。

--京都が好きになってから、実際に移住するまでの10年間。どのようなステップを踏まれたのでしょうか。

小さな出来事が積み重なって、足を踏み出せたという感じですね。

例えば、当時よく読んでいた「京都移住日記」というブログに、わたしも好きなミュージシャンの甲本ヒロトさんの言葉を引用しながら、“自分の人生は自分でデザインできるのだ。その力が備わっているということを思い出せ”と書いてあるのを読んで、ガツンと胸を打たれたのを覚えています。

京都府主催の移住相談会(東京開催)にも参加しましたが、限られた時間のなかで自分の想いや背景を伝え、その上でアドバイスをいただくのはなかなか難しくて……。
悶々と過ごしていたら、自分が京都にいない現実が悔しくて仕方なくなって(笑)。こうやって悩み続けるくらいなら、いい加減住もう!と、ふんぎりがついたんです。

--移住についてパートナーに相談した際の反応はいかがでしたか?

夫は「いいね!面白そうだし、やってみなよ」と背中を押してくれて、そこから具体的な移住の形を模索しはじめました。
とはいえ、料理教室やイベント登壇など、わたしの仕事の主軸は東京でした。夫も東京の会社に勤めていたので、いきなり完全に京都に移住するのは難しく、まずはわたしだけ二拠点生活することにしたんです。

個性的なお店が多く、自然豊かな左京区に手頃なシェアハウスをみつけて、2020年6月に入居しました。月の半分は東京、もう半分は京都で暮らすという暮らし方で、途中シェアハウスからは引っ越したのですが、二拠点生活自体は3年弱続けました。

ーー現在は真野さんご自身は京都で暮らし、逆にパートナーが二拠点生活しているとか。

2023年4月から、わたしは完全に京都在住になりました。夫は東京に住みながら、リモート勤務の数日間で京都に来るという二拠点生活をしてくれています。

京都のレコード屋さんを巡ったり、飼い猫とたわむれたり、夫なりに今の生活を楽しんでいるようです。移住意欲も高まってきたようですが、無理はせず、彼の良きタイミングでとは思っています。

知り合い1人からの京都暮らし。食が人を繋げてくれた

--二拠点生活を始めた当時、京都にお知り合いはいましたか?

二拠点生活が始まった当初、京都に知り合いと呼べる人は1人しかいませんでした。けれど、「発酵室よはく」のプレオープンには、約40人もの友人・知人が駆けつけてくださって、とても感慨深かったです。

プレオープン時の様子 (写真提供:真野さん)

--どのように人脈を広げていかれたのですか?

食やお酒が繋いでくれたご縁がとても多いなと思います。近所の方や友人が育てた野菜や、狩猟したジビエ、琵琶湖で釣った魚などをおすそ分けしてもらったり、それを持ち寄って料理会をしたり。その中で、誰かと誰かが知り合いだったり、SNSで繋がっている人だったり。芋づる式に人の輪が広がっていくんですよね(笑)。

料理会の様子。猪肉やクレソンも、友人たちからの持ち寄りなのだとか。 (写真提供:真野さん)

“地産地消”や“物々交換”のような、原始的な暮らしの営みが残っているのも、京都で人と繋がりやすい理由のひとつだと思います。

--真野さんのnoteを見ていると、自ら興味のある場所に赴く行動力を感じます。

フットワーク軽く、面白そうだと思ったらやってみる節はあるかもしれません。引き寄せられる感覚に従って飛び込んでみるのも、移住先で人間関係を育んでいくきっかけになると思います。

移住も暮らしも仕事も、自分らしい選択を

--今後の展望を教えてください。

百姓のような暮らしがしたいです。といっても農家になりたいわけではなくて、酒屋をやり、料理の仕事もやり、手仕事会もやり、畑もやり。ひとつに絞らず、興味があることにはどんどん挑戦していきたいです。

お店は、ここに来てくださる方にとって、何かしら良いものが生まれる場になればいいなと思っています。固定観念に縛られず、“ちょっと面白い、酒屋っぽくない酒屋”になれたらいいなと。

--最後に、移住希望者の方へのメッセージをお願いします。

現実的に移住を考えるとき、仕事やお金など、悩ましい要素は必ずあると思います。でも、今だ!と思うタイミングが来たら、逃さずに一歩踏み出してみるといいかなと思います。

自分で決断して切り開いた道って、すごく誇れるし、満足できると思うんですよね。それで万が一うまくいかなくても、自分で決めたからこそ納得できるはず。そうやって生き方や働き方をデザインしていく。京都には、そういう人を受け入れる土壌があると感じています。

編集:藤原朋
執筆:佐藤ちえみ

CHECK OUT

自分らしさは、さまざまな場面で現れます。こと移住についても、それは同じ。今すぐなのか、数年先が良いのか。二拠点でも、多拠点でもいい。1人でも、2人でも、家族でも。やっぱり違ったと思えば戻ってもいい。真野さんが10年かけて自分らしい移住の形を模索したように、この記事が、読者の皆さんの移住における自分らしさを見つけるきっかけになれば嬉しいです。

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