2022.08.01

京都の伝統を子ども達へつなぐ「こどもと行こう!祇園祭」のこれまでと、これから

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京都のおもしろい人を訪ねる「人を巡る」シリーズ。京都に移住した人の体験談や京都の企業で働く人をご紹介する連載コラム記事です。移住するに至った苦労や決め手、京都の企業ならではの魅力など、ひとりの「人」が語る物語をお届けします。

第26弾にご登場いただくのは、デザイナーの山本安佳里(やまもとあかり)さんです。AKARI DESIGNとして、個人や企業のデザインやプランニングを行いながら、2014年の京都移住と出産をきっかけに「コドモト」を立ち上げました。

今回は、コドモトのプロジェクトである「こどもと行こう!祇園祭」のワークショップを取材し、活動のきっかけや想い、今後の展望を伺いました。

(画像提供:コドモト

京都の夏のお祭りといえば祇園祭。毎年7月になると街の至る所で「コンチキチン」のお囃子が流れ、お祭りムードが漂います。

親として、子どもにもこの素晴らしいお祭りを存分に体験してほしいと思う。
その願いとは裏腹に、暑さや人混みに圧倒され、子連れで参加できずに数年が過ぎてしまったという方の声もちらほら耳にします。
そんな中で出会ったのが、コドモトが主催する「こどもと行こう!祇園祭」のプロジェクトです。

親も子も、祇園祭のことをもっと知って楽しみたい。でもどうすればいいか分からない。そんな方は、ぜひこの記事を読んでみてください。
テレビやSNSで見るだけではなく、その場で学び、体験することで広がる祇園祭の世界。そこには、目を輝かせて楽しむたくさんの親子の姿がありました。

はじまりは、子どもと行った祇園祭

「祇園祭は子連れで行くところじゃない」

京都に移住した最初の夏、山本さんが「子どもと一緒に祇園祭に行ってみたい」と口にする度に、周囲から言われた言葉です。

祇園祭、山鉾巡行の見せ場である辻回し

日本三大祭のひとつである祇園祭は、京都を代表する夏の風物詩。都に水害や疫病といった災いを引き起こす怨霊を鎮める「御霊会(ごりょうえ)」が起源とされ、その歴史は千年以上に及びます。
毎年7月17日、7月24日に行われる山鉾巡行や、その3日前から行われる宵山(よいやま)の期間が有名ですが、実は1ヶ月という長い期間、様々な神事が執り行われます。

2022年の宵山には約30万人が訪れるなど、多くの人で賑わう一方で、迷子になりやすい、ベビーカーが通りにくい、授乳やおむつ替えがすぐにできないなどの問題も。
山本さん自身も周囲から反対されますが、むしろ興味が湧いたといいます。

「『そんなに言われるなら余計に行ってみたい!』と思って(笑)、宵々山の鉾立てが終わった昼間に、生後4ヶ月だった娘を抱っこ紐に入れて行ってみたんです」

初めての祇園祭は、山本さんの目にどのように映ったのでしょうか。

「山鉾の素晴らしさと迫力にとにかく圧倒されました。王家の美術品を惜しげもなく飾り、“動く美術館”と言われるその姿は美しくて、純粋に感動しました」

山本さん、初めての祇園祭り。当時生後4ヶ月の娘さんと、函谷鉾の前で。(提供:コドモト)

さらに、千年続くお祭りを代々守り続ける保存会の方の姿にも感銘を受けたそう。

「伝統をつなぐべく奮闘する保存会の方たちの誇らしげな背中がとてもかっこよく見えたんです。だからこそ、保存会の方々の雄姿も、立派な山鉾も、“子連れで行く場所じゃない”と言って子どもたちに見せないのは勿体ないと思いました」

祇園祭の素晴らしさを子どもにきちんと伝えたい。その想いを強くする一方で、子どものおむつ交換や、授乳場所、避暑できる休憩スペースが少ないことがひとつのネックになっていると感じた山本さん。まずはその場所づくりを目標に掲げ、構想を練りはじめました。

“よそ者”だからこそ飛び込んでいけた祇園祭の世界

こうして始まった「こどもと行こう!祇園祭」の活動。いわゆる“移住者=よそ者”といわれる立場で、人脈も少ないなか、歴史深い祇園祭というフィールドにどのように踏み込んだのでしょうか。

「2016年に、『子供と一緒に祇園祭に行けるようにしたいんです』と周囲に話していたら、たまたま知り合いの方が、祇園祭山鉾連合会の理事の方と繋いでくださったんです。企画書を持参してご説明に伺ったところ、『私たちも、子どもの存在に気づきつつ何もできてなかったし、応援したい』と言ってくださって、連合会の議題として取り上げていただきました」

山鉾の説明に聞き入る子どもたち

「よそ者だからこそ、空気を読まずに飛び込めたんだと思います」と笑う山本さん。
京都という街がもつ歴史や文化を、もっと子どもたちに知ってもらいたい。そして、未来へ継承していくためのバトンを渡したい。そんな山本さんの強い想いが伝わり、関係者の理解と協力を得たコドモトは、「こどもと行こう!祇園祭」の活動をスタートさせました。

良いと思ったことはやってみる

最初に取り組んだのは、子連れにやさしい場所づくりでした。

「初年度は、こどもステーションをつくりました。祇園祭の宵山期間中に、休憩・おむつ替え・授乳・避暑などで親子が使える場所で、地域のお店などに協力していただき25箇所設置しました。マップも作成・配布して、できるところから子連れの方が来やすい環境を整えたいなと思って」

提供:コドモト
子どもが安心して休憩できる、こどもステーションの様子。(提供:コドモト)

「マップがあることで、不安なく祇園祭りに行けた」「疲れたときに、ほっとひと息つけて助かった」などの声を受け、山本さんは確かな需要と手ごたえを感じながらも、本来の目的を果たすためには何か足りないと感じ、翌年から活動の幅を広げていきます。

「こどもステーションの設置だけでは、子どもたちに歴史や文化をつなぐことはできないと気づいたんです。そこで翌年からは、子ども向けの体験型ワークショップとして、保存会の方に混ざって粽(ちまき)をつくったり、おみこしの役割を学ぶツアーを企画したりしました」

2019年、粽づくりワークショップの様子(提供:コドモト)

口コミが人を呼び、参加者が増えてきた矢先の2020年。新型コロナウイルスの蔓延によって、山鉾巡行や宵山行事が中止となってしまいます。そんな中でも、山本さんは活動の視点を変えて進み続けます。

「2020年には“はること祇園祭”という物語をnoteで配信しました。このお話が配信される年は、本来の祇園祭の姿は無いけれど、せめて物語上だけでも残しておきたいと思ったんです」

かわいい挿絵とやさしい言葉で、子どもにも分かりやすい「はること祇園祭」の絵本

小学校1年生、京都在住の女の子「はるこ」を主人公にした物語は、全12話。1ヶ月に渡って開催される祇園祭の中で起こる出来事を、その日に配信するというスタイルで、子どもにも分かりやすくその世界観を伝えています。2021年には自費出版で書籍化し、京都市内の一部の小学校に寄贈しました。

広がりをみせる「こどもと行こう!祇園祭」のこれから

2022年には、3年ぶりに山鉾巡行と宵山行事が復活。祇園祭が今まで以上に盛り上がる中、「こどもと行こう!祇園祭」も転換期を迎えます。それは、志を同じくした、京都を拠点に活動する様々な団体がこの活動に参画したことでした。

2022年の活動は、天性寺、オトナリラボ、MaMan KYOTOなど複数団体と連携して運営

その背景には、「こどもと行こう!祇園祭」の今後を見据えた山本さんの想いがありました。

「実は、家庭の事情で2年ほど日本を離れるんです。その期間にも、この活動を絶やさず続けていくために、今年は実行委員会形式をとりました。以前から交友があった方々に、『今年はみんなでやりませんか』とお声がけさせていただいたんです」

“子どもたちに祇園祭を知ってもらい、未来につなげていきたい”

その想いを軸にして、活動内容を試行錯誤したり、形態を変えたりしながら、輪を広げているコドモトの活動。近い将来、誰もが「こどもと行こう!祇園祭」と言えるようになり、世代を超えて文化が継承されていくことを山本さんは願っています。

「祇園祭を長く続けていくために、“次の世代につなげたい”と思える子どもが一人でも生まれてくれたら嬉しいです。また、親子で祇園祭に行きやすくなるための活動は継続しながら、目に見えないものを子供たちに知ってもらい、自由に想像する楽しさが伝わる機会につなげていきたいなと思います」

イベントに遊びに行ってきました!

2022年7月16日に天性寺で行われた「ペーパークラフト鉾作り」のワークショップを見学しました。

紙芝居や配布資料は全てオリジナル。子どもたちに祇園祭のことを分かりやすく伝えるための工夫が随所にみられます。鉾づくりのワークショップでは、子どもたちがイマジネーションを膨らませ、自由な発想でオリジナル鉾を作成!時間を忘れて熱中する大人と子どもの姿がとても印象的でした。小学生以上の子どもたちは、お坊さんに雑巾がけの仕方を教わるなど貴重な体験の機会もありましたよ。

取材にご協力いただいた山本さん、「こどもと行こう!祇園祭り」実行委員会の皆さん、ありがとうございました。来年はどのような取り組みが行われるか、今から楽しみです!

コドモト Webサイト
こどもと行こう!祇園祭 facebookページ
こどもと行こう!祇園祭 instagram

執筆:佐藤 ちえみ
編集:北川 由依

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