2021.01.12

自慢の焼き芋・かき氷と、西へ東へ人とつながり地域に根ざす、「移動する竹村商店」

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京都のおもしろい人を訪ねる「人を巡る」シリーズ。京都に移住した人の体験談や京都の企業で働く人をご紹介する連載コラム記事です。移住するに至った苦労や決め手、京都の企業ならではの魅力など、ひとりの「人」が語る物語をお届けします。

第18弾にご登場いただくのは、竹村知紘(たけむらともひろ)さん。「移動する竹村商店」の名前を掲げ、冬は焼き芋屋、夏はかき氷屋として、京都中を駆け巡っています。一体どのような経緯で、現在の活動をはじめたのでしょうか?お話を伺いました。

当時は、キラキラした路線に乗りかかっていました

――竹村さんは、いつから京都に来たのですか?

僕は、滋賀県の大津市出身。京都に住んだのは、大学に進学してからです。最初の半年間は実家から通い、その後友人と一緒に、西大路御池駅のあたりで暮らし始めました。

大学では教職課程をとっていたのですが、最短で先生になるのは面白くないなと思いまして(笑) 卒業したら1回就職したり海外に住んだり、新しいチャレンジをしたいなとぼんやり考えていました。その頃、東日本大震災が起こり、社会になにか貢献したいと、起業に興味を持つようになりました。

――当時は、どんな事業をする予定だったんですか?

最初は「自転車タクシー」をやろうと思っていました。人力車の自転車版のようなイメージですね。

京都には県外からたくさんの学生がやってきているのに、家と学校との往復で、近所の方々の顔が分からない……という方は少なくありません。せっかくの機会なのに、自分が住んでいる土地のことを何も知らずに卒業していくのは、ちょっともったいないですよね。

それに地域には、話し相手がいなかったり、移動手段を必要としたりしている高齢の方がいらっしゃいます。そんな地域の方々と学生たちとの架け橋になり、公共性のある取り組みがしたいなあと。今と比べたら、当時は随分とキラキラした路線に乗りかかっていましたね(笑)

ただ色々あって、この事業ができなくなってしまったんです。

偶然の出会いが、僕を大きく変えてくれた

――その後、なぜ焼き芋屋を始めようと思ったのですか?

自転車タクシーは、乗り物を使った商売です。同じようなかたちの商売って何があるのかなと調べている中で、焼き芋屋に行き着きました。

飲食店は、店舗を構えるお店がほとんど。その点焼き芋屋は、ひとつの場所に留まらず、移動しながら営業していくスタイルです。そこに面白さを感じましたし、高齢化で焼き芋屋の数が減っている状況でもあったので、僕が取り組んでみたいなと思いました。

――はじめようと思ってから、準備は順調でしたか?
その頃は、資金に余裕がなくて……。車なんて到底手が届かず、オークションサイトでドラム缶とリアカーを購入し、はじめるつもりでした。

ある日、当時管理していたシェアハウスに、住人のお友達が遊びに来ていたので話してみました。そしたらなんと、その子のおじいさんが焼き芋屋をされていたんです!ぜひお話だけでも聞かせてほしいと、大阪の茨木市まで何度も通いました。「師匠」とお呼びして販売しているところを原付で追走したり、売るときの心構えや火の強弱を教えていただいたり。4ヶ月くらいかけて、焼き芋屋としての技術や知識をたくさん吸収させていただきました。

当時、師匠は70歳半ばで、もう引退を考えられていたんです。そんな中、軽トラックや機材一式を破格で譲ってあげようかと声をかけていただきました。もともと仕事道具を譲ることは考えていなかったそうなのですが、僕が毎週のように追いかけてくるので、提案してくださったんです。偶然の出会いが、僕を大きく変えてくれました。

――かき氷屋は、どんな経緯ではじめられたのでしょう?

焼き芋屋は寒い時期にしかできないので、夏は別の商売をしなければいけないという課題があります。そこで目をつけたのが、かき氷でした。

北区の新大宮商店街で、ほとんど使っていないかき氷機があり、それを快く貸し出していただいたんです。せっかくやるんだから面白いシロップを作りたいと、神宮丸太町のカフェの方にご協力いただいたり、知り合いになった野菜の通販サイトの方からブルーベリーを仕入れたりしながら、試行錯誤しつつ頑張りました。出町柳のシェアスペース「Deまち」の入り口でも、よく出店させていただいていましたね。

例え効率が悪くても、地域に貢献していきたい

――竹村さんのお店の「売り」はありますか?

焼き芋も、かき氷も、どちらも素材を大事にしています。僕の焼き芋は、そこそこ値段が張るので、ちょっと高いなあと思うお客さんもいて当然だと思います。ただ、僕が仕入れている芋は、供給量があまりにも少なくて。それこそ何十年もやってきた師匠だからこそたどり着けたような、貴重な芋なんですよ。

あと他のお店と比べて珍しいのは、今いる場所をSNSで投稿している、ということでしょうか。SNSを始めたての頃は、投稿内容は出店するイベント情報がほとんどで、細かい道の経路は発信していませんでした。ただ、1年2年と続けていると、常連さんが段々と投稿を見て追いかけてくださるようになりました。中にはルートを予測して、先回りされるようなベテランの方もいらっしゃるんですよ(笑)今では、どこでいつまで営業しているのか、細かく発信するようにしています。お客さんとのリアルでの触れ合いはもちろん、SNSでのつながりも大事にしていますね。

――面白い取り組みを、たくさんされているんですね!

小さな子どもたちからおじいさんおばあさんまで、本当に幅広いお客さんが来てくださっています。商売の定石だけを考えたら、年齢層や趣味などを絞って、ターゲットを設定した方が正解なのだと思います。SNSでプレゼント企画をすれば、もっと拡散できるし、フォロワーも増やせるのかもしれません。

ただ僕は、地域にしっかり根づいたお店としてやっていきたいと考えています。買って終わりだけの関係ではなく、たまには世間話をしながら、お客さんにほっとしていただけるような。そして美味しいな、もう一回食べたいなとSNSをフォローしてもらえるような。例え少しくらい効率が悪くても、地域や皆さんに貢献し、楽しんでいただけるようにしたい。そういうところは、自転車タクシーを考えた頃から、なにも変わっていないのかもしれませんね。

――最後に、これから取り組みたいことを教えてください。

僕は今まで、本当にたくさんの方々に助けていただきました。なのでこれからは、何かチャレンジをしたい若い世代の人たちに、ちゃんとパスを出せる側になりたいと思っています。

僕の取り組みに面白さを感じてくれたなら、その人の知識や技術、経験を生かせるよう、どんどん連携していきたい。地域や人を大切にしながら、新しい焼き芋屋と、かき氷屋のかたちをつくっていけたなら嬉しいですね。

▼移動する竹村商店
夏はかき氷屋、冬は焼き芋屋として営業しています。
最近は「つぼ焼き芋」も始めたそうですよ。
https://twitter.com/take_yakiimo

執筆:小黒 恵太朗

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